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27 恋人になろう
外からはまだ残っている生徒達がいるのか喧騒が聞こえてくるが、パソコン室は静かだった。
人がいればまだ誤魔化せる。だけど二人きりは緊張した。
「なあ、何で男の娘やってるんだ?」
以前は可愛いものが好きだからと言っていた。好きな可愛いアニメの女の子の真似をしているのだろうとは思うが、最近の郁磨は普段着でも私服の時は化粧をしていたりする。
学校では流石にしてこないが、学校以外で会う時は可愛い。
最初は可愛い格好で、女の子みたいだから気になるのかと思っていたが、どうも違うなと思うようになった。
普通に学校の制服の時でも、私服が男でも、無意識に構っている自分がいる。
オタクで、エロいアニメが好きで、男の娘になるのが好きで、時々変な言動が多い野波郁磨を放っておけない。
中学の時の同級生に揶揄われて、暗い顔をして俯いた時、助けてあげなければと思ったのが決定的だったかもしれない。
小さくて可愛くて守ってあげなければならない。
自分の好みなのだろうと思うのだが、そこに性別がなかったのだ。聡生を好きだった時点で分かりきっていたことだ。
今和壱の横に座って、質問を真剣に考えている郁磨は、和壱が何を考えているのか分かっていないだろう。
「僕が男の娘になる理由?うーん、可愛いからとしか…。それに自己満足というか、承認欲求というか?」
「承認欲求…?」
うん、と郁磨は頷き立ち上がった。クルッと回って見せると、膝上のスカートが動きに合わせてフワッと回り細い腿に纏わりつく。
「上手く言えないけど…。」
郁磨はスカートの裾を両手で摘んだ。少し持ち上げると太腿が見える。
「こういうカッコしてると人の視線を感じる。同じ男からでも…。嫌な顔じゃなくて、なんだろう……、視線が優しいっていうか。」
「……………男からそう見られてもいいってことか?つまり郁磨はゲイなのか?」
郁磨はキョトンとした。
「んん?そー言われるとそうなのか!」
今更!?
まぁ女装が趣味になってる時点でその可能性は高いと思っていたが、郁磨自身が気付いていなかったのか。
「そーかぁ、ま、それでもいいやっ!どうせ僕が恋愛出来ると思ってないし。男でも女でも一緒だよな。」
「なんで?」
和壱も立ち上がった。
「…ど、どした?」
すぐ目の前で和壱に立ち上がられると、背の低い郁磨では圧迫感を感じてしまう。ズイッと身体を近付けてきた為困惑して後ろに下がった。
パソコンが並んで乗っている机に、郁磨のお尻がトンと当たる。
もう下がれなくなった郁磨の身体を塞ぐように、和壱の腕が伸びて、郁磨を挟んで机に手が乗った。
スッポリと腕の中に入り込み、漸く郁磨は少しだけ危機感を覚えた。
「女の格好した郁磨は可愛いよ。さっき自分でも言っただろ?男の視線感じるって。なら男相手なら恋愛出来るだろ?」
「…は?いや、でもそれは僕が女の格好をしてるってだけで、僕のこと知らない奴は僕が男だって知らないわけだから見てるわけで、知ってたら恋愛対象にすらならねーよ。」
そもそもたった今男の方が好きかもと認識したばかりなのに、いきなり恋愛なんて考えきれない。
「なる。」
「いや、なんねーって!」
グイッと和壱は自分の顔を郁磨の顔に近付けた。コツンとオデコにオデコを乗せる。
郁磨は顔を真っ赤にしていた。
目は潤み困惑している。
「俺と恋人になろう。」
「え……?」
「俺、男もいける。」
「えぇ…?いやいや、お前女としか付き合ったことねーよな?」
「何言ってんだよ。本気の恋は聡生だけだったんだぞ?女もまぁ可能ってだけで…。」
「うわ、不純だ。」
和壱はゔ…と声を詰まらせた。
郁磨は和壱の腕の中で目を伏せてうーんと悩んでいるようだ。今日の午前中には和壱に彼女はいないと言えばいいと言っていたくらいなので、全く予想外の展開なのだろう。
だが和壱は今回こそは真っ直ぐに自分の気持ちを伝えて、想いを成就させたいと考えていた。
「……僕の素顔って別に可愛くないけど。」
「ごめん、普段から可愛いと思って構ってる。」
郁磨の目が見開かれた。口がポカンと開いている。郁磨は自分の素顔にコンプレックスがあるんだろうか。
「本当はもっと一緒にいたい。」
困惑顔で彷徨っていた郁磨の瞳が止まった。
無闇矢鱈と外で可愛くなるからいつも心配だった。
男の娘姿の郁磨は可愛い。
可愛い恋人は自慢かも知れないが、あんなに男の視線を引き寄せては心配になる。
「もっともっと近付いて、誰も入り込めないようにしたい。俺の前だけで可愛くいて欲しい。」
郁磨は赤い顔で俯いた。
「何てこったっ。近くにこんな危険生物がいたなんて!」
「誰が危険生物だ。」
郁磨の悪い癖でこの場から逃げようとふざけだしている。
だけど逃がさない。
「うにゅにゅにゅにゅう~~~!あ、ヤバい~僕ホントに女の子になったのかな!?和壱が男に見える~~~。」
「はいはい、俺は元から男だよ。言っとくが俺の本心を打ち明けたからには手加減なしでいくな。」
「……っ!?何を!?なんか怖いんですけど!?」
「よーし、よしよし。」
ガラッ!
「こらーっ!早く帰らんかーーー!」
どうやら戸締りの時間だったらしい。見回りに来た先生に見つかった。郁磨が叫んで騒いだ所為で飛んできたのだろう。
和壱がチッと舌打ちしたのに気付き、郁磨はホッと安堵した。
えーん、えんえん、と美術準備室に逃げ込んできた郁磨を、聡生は困った顔で慰めた。
「えっと、和壱が女の子に乱暴したって話は聞いたことないから大丈夫だよ。」
二人で椅子に並んで喋っていた。
そろそろ高総体が始まる為、和壱も稜流も部活で忙しい。運動部は三年生の高総体が引退試合になる為、どこの部活も熱が入る。高総体で優勝なり準優勝なりすれば更にその上の大会に進むのだろうが、和壱のバスケ部も稜流の弓道部も優勝するほどではないので、実質高総体で引退だ。
二人は単なる美術部員なのでここで待っている状態だった。
「…うう、そうか?確かに聞いたことはないけど……。」
でもそれはどうでもいい彼女達だったからで、どちらかというと元カノ達の方が積極的だったからかもしれないのだ。
元カノにその気がなければ清い交際で終わっていたのだということを郁磨は知っていた。聡生が誰と良い仲になるか家庭科部部長と賭けをした時に知った情報なのだが、今ではその情報を自分の為に活用するしかない。
郁磨は同性から告白されるという体験に動揺し、同じ立場であろう聡生に相談に来ていた。しかしのんびりとした聡生にはイマイチ郁磨の悩みが伝わらない。
「えっと、それで二人は付き合ってるの?」
郁磨を慰めていた聡生が、遠慮がちに尋ねてきた。
「…………どーなんだろ?」
恋人になろうとは言われたけど、驚きすぎて郁磨からは何も言っていない気がする。
「うーん、郁磨は和壱のことどう思ってるのか次第じゃないかな?」
どうって……。嫌いじゃない。一緒にいると楽しいし、何より男の娘姿で一緒にお出掛けをまたしたいと思っている。
なんというか、安心感があるというか。
迷う郁磨に聡生は諭すように微笑みかけた。
「最近の二人を見てると楽しそうに見えるよ。」
だから付き合えと言わないのは聡生らしいなと思う。重要なことだからよく考えて答えを出したらいいと思っていそうだ。
「聡生、こっちに郁磨来てるか?」
タッタッタッと足音がしたと思ったら、和壱がヒョイと現れた。
「来てるよ~。」
「郁磨、帰るぞ。」
「僕は久しぶりに聡生と楽しい時間を過ごしてたのに~。」
「すぐ千々石が来るからどっちにしろ終わりだって。」
なんだよ~と文句を言いながらも郁磨は立ち上がった。
そして和壱が言う通りすぐに千々石が現れた。
「野波が来るなんて珍しいな。」
美術準備室に入って来ながら郁磨に話しかけてくる。それに和壱は嫌な顔をした。和壱が嫌がると知ってて態と千々石は嫌がらせをしてくる。
「稜流って基本誰にでも平等なのに和壱には冷たいなって思ってたけど、実は仲が良い証拠だったんだねぇ。」
のんびりと聡生が二人の様子を眺めて言った。稜流と和壱は一緒に嫌そうな顔になった。
「そんなことはないよ。さ、俺達も帰ろう。」
サラリと流して千々石は聡生の荷物を持った。自分で持つよと言いながら、聡生は千々石と仲良く並んで準備室から出るので、郁磨と和壱も一緒に廊下に出てしまう。聡生が鍵を閉めて四人で生徒玄関に向かった。
聡生は郁磨の隣に並んでコソッと耳打ちする。
「俺さ、和壱が郁磨のこと好きになってくれてなんか安心した。」
「うえぇぇぇ~?でも何で僕なんだよ。」
郁磨には好かれる理由が理解できない。
「和壱は郁磨のこと可愛いって言ったんだよね?そのままだと思うよ。俺も郁磨は可愛いと思う。」
郁磨は目を見開き聡生を見た。
「ほんと?聡生が言うなら信じる…!」
和壱は郁磨の目を手で塞いだ。
「なんで聡生の言うことなら素直に聞くんだよ!?」
「ダメだよ和壱、郁磨は小さいんだからもっと優しくしないと。」
聡生にとって郁磨は弟分だった。また郁磨に顔を近付け耳打ちする。
「……怖がる必要はないと思うよ。」
聡生の言葉に郁磨は固まった。
「帰るぞっ!」
郁磨は和壱に引っ張られ連れて行かれてしまう。
「あの二人いい感じだね。」
笑って言う稜流に、聡生も嬉しそうに笑い返す。
「うん、あの二人が付き合ってくれたらなんだか嬉しいよねぇ。」
稜流としても紫垣和壱というライバルが完全にいなくなることになるので、そうだねと肯定した。
ズルズルと引っ張られながら郁磨は和壱を見上げた。あまり気にしていなかったが、和壱は背が高い。顔がいい上に背が高いとか神様は不公平だと心の中で罵りつつ、ゆるーりと周りを見渡した。
今現在まだ学校の敷地内なのだが、同じ学校の生徒なので見慣れているはずなのに、通り過ぎる生徒達は和壱にいちいち見惚れている。
郁磨も和壱の容姿には一目置いていた。だがそれはあくまで観賞用という見方が強かった。郁磨が恋愛対象になるはずのない高みの人物。それが紫垣和壱だ。
次の恋人が男になるのか女のなるのか分からないが、きっと和壱の隣に立っても見劣りしないくらい綺麗なやつと付き合うのだろうと思っていた。
それなのに………、僕?
男の娘姿には少しばかり自信があるが、中身はちゃんと男だ。しかも貧相な男だ。
どうした?紫垣和壱!血迷ったのか?優しい幼馴染に振られて頭が壊れた!?
「おい、駅まで行くぞ。」
「うぬぅ~~。」
いつの間にか郁磨の荷物も和壱が持ってくれていた。いつの間に!?そのさりげなさがコイツやっぱタラシだなぁと感心した。
ヘラヘラと笑った郁磨を和壱はジッと見下ろしている。
「変なこと考えてるだろ?」
「僕の思考はいつも一定値を保ってるから変ではない。」
いつも変なんだなと和壱は頷いた。
「……最近、帰りの時間バラバラにしてるだろ?」
和壱は郁磨の手を引きながら尋ねた。郁磨の手がピクリと動く。
元々郁磨が電車に乗る時間は遅かったのだが、もっと遅い時間に帰る日があることに最近気付いた。
三年になり駅周辺の塾に通う生徒から、郁磨がコンビニや駅の構内で時間を潰しているのを見かけると聞いたのだ。
そんなに待つほど電車の本数が少ないわけがない。周りの生徒に聞いた話から考えると、電車の時間に統一性がない。ということは帰る時間を態とバラバラにしているのかもしれないと思った。
「家に帰りたくないのか?」
重ねて尋ねると、郁磨は言いにくそうにモゴモゴしている。違うと首を振る郁磨を見て、また尋ねた。
「親じゃないってことは……、会いたくない人間がいるってことか?こっちの駅で時間潰すってことは、途中の駅から乗る奴か地元の人間か?」
郁磨は恐る恐る顔を上げた。
「………えへへ、前にバーガー屋で絡んできた奴いただろ?なんか電車の中で会ったり駅によくいたりするんだ~。」
「それで会えば絡んでくるから乗る時間を変えたりしてるんだな?次に同じ時間の電車に乗ったらまた会うからずらすようにしたんだな?」
「な?変だよなぁ。でもあんまり続くから同じにならないよう時間をバラバラにすることにしたんだよ。」
「ばかっ!ストーカーされてんじゃねぇか!」
くわっと和壱に怒られて、郁磨はギャっと目を瞑った。
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