じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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番外編

78 守られるのはどっち?①


 カシャンとデザート皿にスプーンが戻される。今日のデザートはゼリーだった。
 今回は一つも溢さずに食べさせることが出来たからか、ルヌジュ様はホッと安堵の息を吐いていた。

「ありがとう、ルヌジュ様。」

 ニコリと微笑んでお礼を言うと、ほんのり赤くなった顔でルヌジュ様はうなずく。

「う、うん。リュハナにはいつもお世話になってるんだもん。これくらい、当たり前だよ。」

 急に態度を変えた僕に、少し距離を取ろうとしていたルヌジュ様だったが、怪我の功名と言うべきか、介護する為にルヌジュ様は常に僕のそばにいた。
 多少無茶な要求も必死に叶えようとするルヌジュ様は可愛い。
 王宮主催の舞踏会終了後、すぐに起きた王都の火災には驚かされたけど、巻き込まれたヨフミィ様は無事目を覚まし、公爵邸は落ち着きを取り戻そうとしていた。
 ルヌジュ様が好意を寄せていたと思っていたソヴィーシャは、ヘミィネ様と婚約する運びになった。
 ルヌジュ様はそんな二人を祝福し、普通に喜んでいる。その姿に自分の勘違いだったんだなと安心した。
 ずっとルヌジュ様はソヴィーシャのことが好きなんだと思っていた。ルヌジュ様が剣を習い出した頃からそう言っていたから、疑いすらしなかった。
 それが憧れの延長線上で、恋愛とは程遠い好意なのだと知ったのはつい最近だ。
 よく考えてみれば、ルヌジュ様はどこか幼い性格をしているから、あり得ない話ではなかった。
 ルヌジュ様のことが気になりすぎて、僕はよく見えていなかったらしい。

「片付けてくるね。」

「うん、気をつけて。」

 食器を下げにルヌジュ様は部屋から出て行った。

 僕はルヌジュ様が幼い頃から専属侍従をしている。小さなルヌジュ様はとにかく可愛くて、一生懸命お世話をしてきた。
 僕がアルファと判定を受けてもそれは変わらず、幼い主人が可愛くて、最初の頃は弟のように接していた。
 ヘミィネ様付きとなったラニラルが、厳しくヘミィネ様に教育するのを見て、もう少し優しく接したらいいのにと思っていたくらいだ。
 どちらの教育方針が正しかったのかはわからない。
 公爵夫人は僕達に双子の教育も任せてくれたから、各々の考えでやっていた。
 僕はルヌジュ様には自由に生きて欲しいと思った。勿論勉強も大切だけど、やりたいことをやって欲しかったからだ。
 ルヌジュ様とヘミィネ様、どちらが公爵位を継ぐかは、十歳の性別判定やその後の公爵家の内情で決まっていくだろう。
 ヨフミィ様がいない現状で、そのまま見つからなければどちらかが公爵位を継ぐ。
 もしかしたらルヌジュ様がアルファと言われるかもしれないのだし、そうなったら自動的にルヌジュ様が継承者だった。公爵夫人似のヘミィネ様のことはなんとなく全員がオメガだろうなという認識でいた。ずっとそう思っていた。
 しかし、双子はどちらもオメガという判定だった。
 続々と届く釣書に、王家からの打診まで。
 それを見て焦りが生まれてくる。
 釣書だけじゃない。ルヌジュ様はソヴィーシャが好きだと言っている。公爵家に入らず騎士の道を進んでたまにくるソヴィーシャに、ルヌジュ様を盗られるのだろうか。
 そんな気持ちが芽生えてきた。
 まさか自分にこんな独占欲があるなんてと驚いた。
 九歳下の主人に対してこれは正常だろうか。ラニラルやソヴィーシャのような忠誠めいた執着ではなく、完全に男のアルファとしてルヌジュ様を捉えているのだ。
 今まで僕の恋人はアルファ女性かベータ女性が多かった。同時に複数というのも当たり前だったし、彼女達もそんな僕が当たり前だという認識でいるようだった。
 オメガは避けていた。
 特定の誰かを作ったこともない。
 そんな自分が選んだのが幼いルヌジュ様だったなんて。
 ルヌジュ様がオメガと分かり、すぐにこの恋愛感情を意識してからは、ルヌジュ様との必要以上の接触を避けるようになった。
 ルヌジュ様はソヴィーシャのことが好きなのだから、育ての親同然の自分から好意を向けられ迫られても困惑するだろうと思ったからだ。
 もし嫌がられでもしたら立ち直れない。
 自分の方から誰かに迫ったことがない経験のせいで、完全に拗らせてしまったという自覚はあったが、どうすることもできなかった。
 そんな状態が五年ほど続き、ある日転機が訪れた。
 完全にヨフミィだよね…? という存在が現れた。
 そしてやはりヨフミィ様だなぁと思った。
 こんな変な人はなかなかいない。
 そして僕に勇気をくれるのはやはりヨフミィ様なのだ。
 僕は決意が揺らがないように、ヨフミィ様に宣言した。
 僕は自分に正直になると。だからヨフミィ様も自分自身を見てほしいと。
 そしてルヌジュ様との距離を縮めようと努力を始めた。
 まずは褒めた。
 やはり可愛いとか綺麗とか言われるのは誰でも嬉しいんじゃないかなと思った。
 
「ルヌジュ様、少し髪を整えよう?」

「うん、わかった!」

 チョキチョキ切って、可愛いねと褒めた。
 ルヌジュ様は目を見開き固まった。
 こんなことを繰り返していた。一日最低でも二十回は褒めることにした。
 どうも意識してもらえない。
 ヨフが公爵邸へ遊びに来た。一緒に二階の窓からルヌジュ様とフヒィル副隊長が戦うのを見たが、今回は珍しくヘミィネ様もいた。
 ルヌジュ様がフヒィルと戦っている理由はなんとなくわかる。フヒィルがオメガだと聞いて、同じオメガとしてどのくらい強くなれるのかルヌジュ様は知りたいのだろう。
 見ているとフヒィルは確かに強かった。後で怪我の治療が必要だと思いながら、ヨフと一緒に眺めていた。そして近くで観戦しているソヴィーシャとヘミィネ様の様子が気になる。いや、気にさわる。
 何を楽しそうに二人でイチャついているんだ。
 ソヴィーシャは隠しているけど、ソヴィーシャはルヌジュ様よりヘミィネ様の方を構う。それが同情か好意かはわからないけど、ルヌジュ様が一生懸命戦っている時はちゃんと見ていてやって欲しい!
 僕のルヌジュ様があんなに頑張っているのに!
 お前はルヌジュ様の剣術の教師だろうが!
 イライラしながら見ていると、隣のヨフが僕をガン見していた。ついついイラつきが顔に出てしまっていた。
 しまったと笑顔で誤魔化す。

「ルヌジュ様、この美容液使おう?怪我したところの傷痕が残りにくくなると思うよ。」

「別に気にしないけど…。」

 僕が気にする。
 いい薬を使ってなんとか傷痕が残らないようにしているのだ。消毒液や傷薬もルヌジュ様用に良い物を開発し続けている。
 この美容液も保湿効果を高めるよう作った新作だ。
 お風呂場について行くとルヌジュ様は驚いていた。
 それもそうかもしれない。今までルヌジュ様のお風呂はメイドに任せていたから。
 
「脇の下だよね?裸じゃないと塗れないからね。」

「……え、ええ、だ、ダメだよ!」

 バタン!……と浴室の扉は閉められてしまった。
 とても残念だったけど、そのうち一緒に入らなきゃね。
 
 幸か不幸か、僕はルヌジュ様を庇って怪我をした。しばらく起き上がれないくらいの大怪我だったけど、ルヌジュ様が自分がお世話したいと申し出てくれた。
 これで一緒にいられる時間が増える。
 しかもルヌジュ様が強くなろうとする理由を知ることができた。
 てっきりソヴィーシャのことが好きだから、近づきたくて騎士を目指そうとしているのかと思っていたら、戦えない僕の為に鍛えていたのだと言った。
 僕のため…?
 こんな嬉しいことはないんじゃないかな。
 これはもうもっと押していかなきゃ。
 怪我してからひと月経つが、まだベッドから降りれない。
 こんなに可愛いルヌジュ様がずっとそばにいるのに手も出せないとは…。
 
「はあ……、つらい。」
 
「何がつらいの?」

 考え事をしている間にルヌジュ様が戻ってきて、僕の独り言を聞かれてしまった。
 榛色の瞳が心配そうに揺れている。僕の怪我が痛んでいるのだと思っているのだろう。素直で優しいルヌジュ様は、僕が不埒な妄想をしているなんて考えてもいないのだろうね。

「んーん、なんでもないよ。」

「ほんとうに?」

 心配そうだ。
 僕は寝直す為にズリズリと身体を下げると、慣れたもので、ルヌジュ様は背もたれにしていた枕を外してくれる。

「ルヌジュ様も一緒に寝よう?」

「う、うん。」

 最初の頃こそ、ルヌジュ様は心配だからと同じ部屋のソファで寝ていたのだが、公爵家の子息をソファで寝かせられないと隣に寝て欲しいとお願いした。
 公爵夫人からは「ちょっと図々しいね。」と笑顔で言われてしまった。でも止められなかったのでルヌジュ様には隣で寝てもらっている。
 ルヌジュ様は身体を鍛えてはいても、アルファである自分より線が細い。本人は気にしているので言わないが、私はルヌジュ様の細いのに程よく筋肉のついたしなやかな身体を結構気に入っている。
 早く僕の下に組み敷きたい。
 横になって枕に頭を乗せて、榛色の瞳が僕を真っ直ぐに見ていた。
 素直で無垢なルヌジュ様は本当に美しい。
 ルヌジュ様にはいつまでも無邪気に綺麗でいてほしくて、本人がやりたいことを自由にさせつつ情報をセーブした。俗な貴族の人間社会なんてルヌジュ様には似合わない。
 ヨフミィ様が見つかれば間違いなくヨフミィ様が公爵家を継ぐだろうし、見つからなければヘミィネ様が継ぐと思っていた。それでいい。
 無垢なルヌジュ様の将来は、僕が安全な場所を見つけてあげるつもりだった。その候補としてソヴィーシャは入ってはいたけど、ルヌジュ様が好きな相手がソヴィーシャではないのなら問題外だ。
 しかも僕のために強くなろうとしたってことは、ルヌジュ様の中で大切なのは僕ということになる。
 可愛いルヌジュ様を安全な場所で守るのは僕だ。
 折れていない方の腕でルヌジュ様の頬にかかった髪を掬い取ると、ルヌジュ様は僕の手を見つめて頬を染めた。
 恥ずかしそうなこの顔がたまらない。
 見つめていると不思議そうに見返している。

「もう寝る?」

「ん、そろそろ寝ようかな。」

 僕の返事にルヌジュ様はベッドに潜り込んできた。そしてくっついてくる。
 僕が頼んでくっついて寝てもらうようにしたのだ。寒くなってきたから、暖かくして寝たいとお願いすると、ルヌジュ様は素直に信じた。こういう時、ルヌジュ様は特に疑問にも思わず従ってくれる。だから今日も当然のように一緒に寝てくれようとしている。
 眠たいのか、すぐに腕の中でウトウトと眠り始めた。

「おやすみ。」

「……うん。」

 すぐに寝てしまった。
 ルヌジュ様は可愛い。無垢で無邪気で、だからこそ手を出すタイミングに困っていた。
 キスもオデコや頬止まり。
 恋愛方面には強みがあると自負していたが、本気で好きになった人にはなんの強みにもならないのだなと、自分自身に呆れ実感していた。
 もうこうなると、自分で蒔いた種で、忍耐力を試されているようなものだ。
 怪我はまだまだ完治しないが、傷はほぼ治り骨折部分は固定しているので痛みはない。動けるようにはなってきた。
 焦りばかりが募っていく。
 うんうんと悩みながらも腕の中の温もりが気持ちよくて、いつしか眠りに落ちていた。







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