転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

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1 これは昔の走馬灯




 これは夢だ。
 そして、走馬灯だ。
 夢の中の私はいつも死ぬ間際で、同じ走馬灯を見る。



 真珠色の滑らかな光を放つ大きな卵を抱き締め温めている。
 いつも愛おしく撫でて、「私のなな。」と話し掛けていた。
 ありったけの神力を注ぎ込み、健やかに生まれておいでと願っていた。
 例え顔を見る事は叶わなくても、無事に生まれてくれるなら、それで良かった。
 
 長く生きた人生の思い出よりも、卵を温め育てた期間の方が大切だった。

 神の呪いですっかり忘れ去ってしまっていたけれど、聖女の剣に貫かれた瞬間に、そこだけ思い出した。

 聖女の聖剣月浄げっしょうには浄化の力がある。だから妖魔へと堕ちた私は、少しだけ正気に戻ったのだと思う。
 聖剣月浄に貫かれる前に、私に致命傷を与えたのは、私が大事に卵から孵した神獣麒麟だ。
 数多の雷の槍が私を傷付けた。
 私にはもう身体の痛みなどなかったから、手が千切れようと腹に穴が開こうと倒れやしない。
 そんな事よりも、金の髪を揺らし瑠璃色の瞳をした凛々しい少年に、私は動きを止めた。
 だから聖女如きに貫かれた訳だが、一瞬蘇った正気に、これで良いのだと私は笑った。
 私は一目で良いから、私のななを見たかった。
 実際は違う名を与えられただろうが、私はずっと真珠色の卵に「なな。」と呼び掛けていた。
 だから生まれた麒麟の子は、私にとっては「私のなな。」なのだ。

 伸ばしているのか、金の髪は長くサラサラで綺麗だと思った。瑠璃色の瞳は紫とも濃い青ともつかない透明で、澄んだ色合いに輝いていた。
 まだまだ成長途中の少年の姿。
 きっとこの容姿なら青年の姿まで成長しそうだと思った。
 神獣は長く生きる。
 適齢期に達すると成長は止まり、その姿で生き続けていく。
 凛々しく美しい麒麟の子の姿を、私は嬉しくなって見つめ続けた。
 
 
 私のなな。
 私が孵した愛しい卵。

 最後に会えただけでも、幸せだ…。







 

 アラームの音にふと意識が覚醒する。
 薄っすらと目を開けて、ぼー……と自分の部屋の天井を見つめた。
 部屋と言っても二階にある三畳の物置き部屋を、無理矢理子供部屋にした様な部屋だ。
 勉強机なんて置けないし、そもそも持ってないし、折り畳み机と小さな棚、布団を敷いて、それだけの部屋だ。
 エアコンなんて付いていないので、小さな窓で調節するしかない。冬は寒いし夏は暑い。
 なんでこんな部屋かというと兄弟が多いからだ。
 五人兄弟の真ん中。高校一年生。
 家に対して子供が多すぎて部屋が足りないのだ。
 上二人がそれぞれ子供部屋。物置き部屋に僕。下二人は一階の座敷に二人で共同。
 長男が就職して出ていけば、スライドして二階の子供部屋が僕の部屋になる筈だったのに、なんでか進学して出ていかなかった長男の所為で、そのまま物置き部屋のままになってしまった。ガッカリだ。

「…………寒い……。」

 暖房器具なんて無いこの部屋では、厚着をして布団に包まるしか無い。
 
 まだ眠い目を擦りながら無理矢理身体を起こす。この部屋の天井は低いので、座ったまま高校の制服に着替えて部屋から出た。
 父親は既に出勤済み。バタバタと家事をこなす母親を避けながら、パンを齧り麦茶を飲む。
 長男はまだ寝ていて、高校三年生の次兄は学校が遠いので既に家を出ている。
 下の中学生二人はギャーギャーと喧嘩しながら何かやっていた。

 高校は近場の公立校にした。
 長男と次男が私立の割と良いところに行ったから遠慮してしまった。私立はやっぱりお高い。五人も子供を抱える両親の負担を減らした方がいいかと思い、徒歩で交通費も掛からず学費も安い公立校にした。最初の頃は三男は優しい子だと周りに自慢していた親も、やっぱりそこそこ頭の良い私立に行った兄達の方が自慢になるらしく、僕の話はしなくなった。
 三男は何かと忘れられがちだ。
 存在が薄いのだろう。
 上と下がいるので遠慮もあって、何も我儘を言わない自分の所為もあるかもしれない。
 大学は無理だろうなと思っている。
 せめて高卒で就職して、一人暮らしがしたかった。
 両親と五人兄弟の家にプライバシーは少ない。何をやるにもバレバレだ。
 ま、何かやっても無視か馬鹿にされるかどちらかが多い。
 家族仲は悪くない家庭なのに、何故か自分はいつも少し皆んなから離れている存在だった。

 自分で買った携帯をポケットに入れて、鞄を持って行ってきまーすと呟いて玄関を出た。
 特に誰かが返事をしてくれるわけじゃない。

 朝の我が家は戦場なのでさっさと出るに限る。

望和みわっ!」

 僕の名前を少し前の方から幼馴染が呼んでいた。
 僕の名前は望和と書いて「みわ」と読む。大概の人は読めない。しかも何となく女の子の名前っぽい。
 僕を呼んだのは幼馴染の伊織いおだ。
 そしてその隣には伊織の彼女と、もう一人の幼馴染愛希あきがいた。愛希は女の子みたいに可愛いけど、男の子だ。
 望和、伊織、愛希と三人とも女の子っぽい名前で仲良くなった。小学校の頃からの腐れ縁だ。
 僕は背も体型も平均的で、平凡な両親に似て平凡な顔立ちだ。
 伊織は背が高く睫毛の長いイケメン。よく気が利いて社交性があるので友達も多いし、彼女が途絶えた事もない。
 愛希は小柄で可愛らしい感じ。ただ少し性格がネガティブかなと思う事もある。人付き合いも苦手で、僕達といる事が殆どだ。

「おはようございます。」

 のんびりと追いつくと、伊織が少し屈んで顔を覗き込んだ。
 目の前に整った顔が近付き、思わず仰反る。

「おいおい、顔色悪いから見ただけだろ!あからさまに避けるなよ!」

「あ~ごめんなさい。つい……。顔色悪いのは夢見が悪かったからかもです。」

 僕は基本話し方が敬語混じりだ。
 子供の頃からの癖の様なもので、家族からもおかしいから直せと言われたが、直らなかった。自分でも何でこんな話し方になるのか分からないのだ。

「またあの変な夢?」

 愛希が首を傾げながら聞いてきた。
 幼馴染二人にはたまに見るあの夢の内容を教えている。
 死ぬ間際の走馬灯。
 卵を大切に温めて、生まれた子に攻撃されて、それでも会えた事を喜んでいる変な夢。

「えー?なになに~?何の話~?」

 伊織の彼女が割り込んできた。
 流石に他の人間には教えた事がない。
 変な奴って思われそうだからだ。

「お前は関係ねーの。ほら、行こうぜ。望和も具合悪かったら保健室使わせてもらえよ。」

 軽く笑って大丈夫と返事をする。
 四人で歩きながら、伊織は彼女と何か話しながら歩き出したので、僕は自然と愛希と並んで歩き出した。

「伊織はいつも望和の事心配するよね。」

 愛希はいつもこれを言う。

「愛希の事もよく心配してると思いますよー?伊織はしっかりしてるから少しでも気になる事があったら声を掛けてるだけでしょう。」

 伊織が気付いてるかどうかは知らないけど、愛希は伊織の事が好きだ。
 だから伊織の彼女や同じ幼馴染の僕に対しても、嫉妬してチクチクと攻撃してくる。
 男が男に、と言うつもりもないし、伊織の恋愛対象は異性なので、僕にまで嫉妬してもどうしようもないだろうに、とは思うが、下手に色々諭そうとしても余計に苛つかせるだけだ。以前試しに言ってみて逆上した愛希にビンタされた事がある。

「僕にはあまり優しく声を掛けてくれない。」

 それは愛希が伊織の歴代彼女達に嫌がらせをするからじゃ………とは思ったが、そこは黙っておいた。
 そのそこら辺の女の子よりも可愛らしい顔を有効に使えば良いのに。
 そこからは伊織の彼女の悪口を延々と聞かされて、朝から疲れて学校に行く羽目になった。





 今朝見たあの夢は、年に何回かしか見ない夢だ。だけど、物心ついた頃からずっと見ている夢。
 卵を抱える私は、大きな三角の狐の耳と九つの尻尾を持つ天狐と呼ばれる神獣だった。
 金の豊かな毛並みと、長い髪、金色の瞳の太陽の様な美しい獣人。
 真珠色の卵をとても大切にしていた。
 
 夢の中身は死ぬ間際に見る走馬灯だから、とても断片的で、何故金の九尾を持つ狐獣人の姿が死ぬ時は耳も尾もない真っ黒な髪の姿だったのかとか、何故大事に孵した麒麟の子に殺されなければならなかったのかとか、全く分からない。
 ただ一貫して分かるのは、真珠色の卵から孵った麒麟の子が愛しいという事だけ。

 夢と言うにはあまりにもリアルで、起きた時の焦燥感と麒麟の子を見る事が出来たと言う喜びで心が膨れ上がり、ただの夢とは思えずにいた。
 この掻き毟るような心の疼きは、何度経験しても落ち着かない。
 

「私のなな。」

 
 ポツリと呟くと、それは夢の中の私と同じ熱を持って吐き出される。
 
 今朝この夢を見てしまったのは、きっとこのゲームの所為だ。
 伊織の彼女がフレンド登録してくれと言って、無理矢理落とさせられたアプリ。
 『あなたと救う神獣の世界』という恋愛バトルゲームだ。
 攻略対象者は神獣の八体。応龍おうりゅう鳳凰ほうおう麒麟きりん霊亀れいき四霊しれい四体と、青龍、朱雀、白虎、玄武の四神ししん四体になる。
 朱雀だけ性別が女性で、後は全員男性。
 そしてヒロインは何故か性別が選べて、女性にも男性にもなれる仕様だった。
 女性ヒロインを選び女性の朱雀を狙うと百合も楽しめるし、男性ヒロインを選んでBLまで楽しめるのだと伊織の彼女は興奮していた。
 普通なら一応アプリを落としたら直ぐにゴミ箱行きなのだが、麒麟と言う単語が気になり何気なく人物紹介を見てしまった。
 麒麟きりん那々瓊ななけいという名前と、二十代前半の美丈夫の絵に目が留まる。

「………私のなな。」

 金の長い髪を後ろに三つ編みにした、瑠璃色の瞳の美しい男性だった。穏やかに笑うその姿と、夢の中の麒麟の子がダブる。

 麒麟という言葉はあちこちで聞く。
 決して珍しい言葉では無い。
 だけど、たまたまたいうには、既視感が強い。

 気になってそのままアプリを始めてしまった。迷った挙句に男性主人公で。だって夢の中の私は男性だったのだ。
 とても綺麗な金色の狐の男性獣人だ。

 増えた妖魔を討伐する為に、異世界から召喚される主人公。
 主人公は元の世界で死亡し、異世界に召喚されるのだが、そこは『神浄外しんじょうげ』という世界で、四霊応龍を筆頭に、八体の神獣が納める世界だった。
 主人公が女性ならば聖女と言われ、男性ならば勇者と言い方は変わるが、基本やる事は一緒だ。
 銀の枝に銀の卵が宿り、応龍がまず銀の卵を孵すところから始まる。神力を与え温めた期間は一年だが、それはゲーム上サラッと説明だけで終わる。
 銀の卵から孵った主人公は、銀色の毛並みの狼獣人として生まれ変わる。
 そして聖剣月浄を武器にレベルを上げて、最後は攻略対象者の中から一番好感度が高い神獣と一緒に妖魔のボスを倒してハッピーエンドになる。
 大まかな流れはこうなのだが、僕が知りたいのは麒麟の部分だけ。
 毎日夜に少しずつ進めているのだが、やった事の無いジャンルに最初は妖魔討伐すら成功しなかった。
 成功しないと普通に主人公は妖魔にやられて死亡エンドだ。
 あれこれと選択を変え、レベル上げをやり、攻略対象者の好感度も考えてあげるという流れがスムーズに出来るようになるのに、結構時間がかかった。
 お陰で最近寝不足だ。
 これで分かったのは、麒麟那々瓊が真面目で優しくて穏やかな人格だという事だ。だけど戦闘に入ると人が変わったように強い。
 夢の中の麒麟のななは、最後雷の槍を降らせた時、氷のように無表情に技を行使していたので、その通りだなと思った。

「でも、よくよく考えると聖女に最後やられたんですよねぇ。それに聖女の技に光と水が混じってたって事は、攻略者は応龍か青龍?それに夢で討伐されたのは僕だけど、ゲームでは違いますしね。関係ないのかな……。」

 今夜からは主人公を女性にして、応龍か青龍の好感度上げを行うべきかと思案する。
 このゲームを進めたからと言って夢の内容が分かるわけでは無いと思うのに、どうしても気になりゲームを続けていた。
 ただのゲームなのに、全部攻略したら何か分かるかもしれない、という希望を持ってしまっている。

 あまりにも小さい頃から何回も見る夢に、望和自身「私のなな。」が気になっていた。
 私が死んだ後、ななが幸せになれたかどうかだけでも分かれば、僕の心も安心出来る。
 そう思えるくらいに、夢の私に引きずられている。
 「なな」とゲームの麒麟那々瓊が同じとは思っていないが、最近ずっとこのゲームをやっていた。











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