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3 銀の枝、金の枝、黒の枝
ゆさゆさゆさ、揺らされて起きる。
ぽやーと目を開けると、覗き込む二人の存在。
一人はいつも見慣れた伊織だけど、もう一人は知らない人物だった。いや、正確には最近ずっと見た顔ではある。
「望和、大丈夫か?起きれるか?」
頷くと、伊織はゆっくりと起き上がらせてくれた。相変わらず世話好きだなと思う。
伊織に支えられながら立ち上がると、もう一人いた人は変わった格好をしていた。
まず髪の毛が凄い。明るいキラキラとした緑色の髪なのだ。木漏れ日を浴びた新緑に近い。瞳の色は茶色だけど、こちらもコーヒー色の鉱石を思わせる輝く様な瞳をしている。
目は大きいけど三白眼で、目つきは悪いけど、雰囲気は優しい中学生くらいの少年だった。
服は着物のような襟を前で合わせる服で、腰に紐を巻いていた。下に履いているのは足にピタッとフィットした足首までのズボンで、サンダルっぽいのを履いている。
まだ寒い季節なのに薄着だなーと思った。
この髪や瞳、服装も見た事があった。
「大丈夫そうだな。時間が無いので手短に説明する。」
少年は神獣霊亀、名を永然と名乗った。
望和はその名前に聞き覚えがあった。
ゲームに登場した霊亀永然と同じだったからだ。容姿も着ている服も同じだ。実物の方が髪も瞳もキラキラと綺麗だなと思う。
「お前がやったゲームとやらは、神浄外と繋がるための媒体だ。お前を……天狐珀奥を探すためにばら撒いた物だ。迎えに来たぞ、珀奥。」
ゲームの中の永然は滅多に笑わない寡黙な少年だった。攻略していくと徐々に笑顔を見せ、最後はヒロインと笑って幸せになった。
その永然が親愛のこもった目で見つめて来る。しかも僕の事を珀奥と言って。
「え………珀奥?」
ゲームには出てこなかった名前だ。
天狐というのも何の事だろう?
「………そうか……。神の呪いの所為で記憶が飛んでしまったのか………。仕方ない。まずは此方の世界に来てもらう。」
永然は手に二本の枝を持っていた。
銀の枝と金の枝。
銀の枝を伊織に渡した。
「君には申し訳ないが一緒に勇者として来てもらう。」
永然は無表情に伊織にそう言った。
伊織はよく分からないと戸惑った顔をしていたが、銀の枝を受け取った瞬間から身体が透け出し慌てていた。
僕としてはゲームの召喚シーンと同じだなと驚く。
ゲームの始まりが主人公の死から、今いるような何も無い場所に移り、霊亀永然から銀の枝を受け取るところら始まるのだ。
受け取ると神浄外に渡り、応龍天凪の手助けを経て卵から孵る。
生まれた主人公は銀の狼獣人の子供として、成長するところから開始する。
成長し、力をつけ、その間に神獣達と仲良くなり、妖魔討伐に出て、一番好感度の高い攻略対象者と恋人になる。
という事は、伊織が主人公??男だから勇者?え、BLモードだけど、伊織は大丈夫だろうか。
「………身体がっ!望和っ!」
僕を抱き締めていた伊織が消えてしまった。
「よし、じゃあ次は珀奥。」
よし、って作業確認みたいに永然は頷いているけど、突然死んで銀の枝を渡されて消えた伊織は、説明も無かったので驚いた顔のままだった。
後で会えたらゲーム知識しかないけど教えてあげないと。
「この金の枝を受け取り神浄外に生まれ変わって欲しい。君のななが会いたいと言っている。」
「……私のなな?」
「覚えてるいるのか?」
永然は少し嬉しそうに期待した顔になった。
「あんまり………。でも、夢で卵を温めていて『私のなな。』っていつも言ってるんです。」
「そうか………他には?俺は友人だったんだが。」
永然については出て来ていない。最後の妖魔になって殺される時も、いたかどうかすら分からなかった。
首を振ると少しがっかりしたようだが、それでもいいと笑ってくれた。
「あの、本当に僕は珀奥という人ですか?あの夢は本当の事でしょうか?」
永然は頷いた。新緑色の髪がサラサラと揺れて、眩しくて目を細める。
「ああ、本当だ。俺は異界に渡る力がある。だから魂の色も見える。間違いなく珀奥だ。………会いたかった。」
最後の一言に熱が籠る。
とても親しかったのだろう。
なんだかその熱が、優しい眼差しが嬉しかった。
永然が僕の枝だと言って、金の枝を差し出してきた。
僕は受け取る為に手を伸ばす。
ーーーーゴオオゥゥ!!!ーーーー
突然の突風が僕達を襲った。
「………くぅ!?誰だ!!?珀奥っ!早く枝を!!」
永然がまるで風に攻撃されたかのようによろめいた。腕を押さえている。
永然の手から金の枝が落ちた。
顔を庇った状態で永然が消えてしまう。
ゴウゴウと唸る風の中、誰かが望和の前にやって来た。
「……この金の枝は僕が貰うからね。」
愛希だった。
何故、ここに愛希が?愛希も死んだのか?
そう尋ねたいが、風が強すぎて言葉が出ない。
こっちは立てないほどの強風に煽られているというのに、愛希には全く風を感じていないようだった。
僕の前にしゃがんで金の枝を愛希が拾う。
「…………………っ、あ、き?」
愛希は手に金の枝と黒の枝を持っていた。
「望和にはこれをあげる。」
無理矢理手に黒い枝を握らされる。
愛希は大事そうに金の枝を抱き締めて、消えていった。
「…………………愛希………、伊織…………。」
僕の意識も薄れ出した。身体が透け、神浄外と言うところに行くのだろう。
銀狼の勇者は銀の枝。
夢の中の私は金の狐だったから金の枝?
だったらこの黒い枝は…………。
そこまで考えて、暗闇の中に落ちていった。
僕が生まれ変わったのは神浄外という世界。
神獣八体が治める獣人の世界。
四霊は生物の統治者。
一体目の応龍天凪は全ての生物、全ての神獣の王として君臨する。
数多の神々が住む世界と信じられている神界と、応龍は唯一意思を交わす事が出来るとされている。
二体目は鳳凰聖苺。羽を持つ生物の王。側にいれば吉報を呼び込む幸運の象徴とされ、民の間でも人気が高い。
三体目は麒麟那々瓊。獣の王。獣人達を統べる王だが、温和で優しい。必要ならば戦う力があり強く、獣人の世界である神浄外の民を守る王になる。
四体目は霊亀永然。予知能力があり異界へと通じる力がある。度々数百年おきに起きる妖魔増殖時に、異界より聖女か勇者を召喚する役割がある。召喚すると力を使い果たし暫く眠りにつく。
四神と言われる四体の神獣は、四方を守る武将。神浄外の土地に妖魔が入らないように守護している。
一体目は青龍空凪、応龍天凪の弟。東方武将。
二体目は朱雀紅麗。南方武将。
三体目は白虎 達玖李。西方武将。
四体目は玄武比翔。北方武将。
この八体の神獣がそれぞれの役割に則って神浄外を守護している。
神浄化を囲むのは妖魔が蔓延る闇の世界。
そんな世界に僕は生まれた。
神浄外では子供は卵から生まれる。
子供を授かりたい夫婦は神山に登り、生命樹を探し、祈りを捧げて枝を一振り貰う。神が許可しない夫婦には枝は落ちないとされている。
持ち帰った枝を枕元に置き、夜の営みを過ごすと枝に卵が生る。卵の色がその子の毛色になる事が多い。両親の神力を注がれ卵は大きくなり、卵に充分に神力が満ちれば孵るのだが、神力の大きさや卵が孵る日数は、その子の生まれ持った神力に比例する為、一定ではない。
子供を授かる方法がコレな為、結婚は異性同士でも同姓同士でも可能だ。
僕は黒い枝が不気味だと、屋敷の一番隅に置かれていた。
枝に黒い卵が生ると、両親は益々不気味そうに卵を見ていた。
本来なら親が与えなければならない神力を、僕は使用人達からほんの少しずつ貰って育った。
両親は一緒に持ち帰った金の枝に生る金の卵を育てるのに夢中だった。
神山から持ち帰った生命樹の枝は、神からの授かり物なので、枝を折ったり卵を割ったりすると天罰が降る。呪いを受け、黒く染まり、神力が妖力に変化して妖魔に堕ちるのだ。だから両親は一応黒い枝も持ち帰り、卵を孵らせなければならなかった。
とりあえず孵ればいい、そんな程度で僕は育って行った。
少ない使用人達の神力ではなかぬか卵は成長せず、僕は生まれるのに三年かかった。
金の卵から生まれた子供は、両親からたっぷりと神力を貰い、一年で孵ったというのに。
パキパキ……、パキッ……。
「ふわあぁ~。」
漸く内側から殻を破る事が出来た。
身体は小さめだが、大体二歳程度に育っていた。黒い髪、黒い瞳、大きな狐の三角耳もフサフサの尻尾も真っ黒だ。
三年卵の中にいたので、身体は成長している。生まれて直ぐに歩けるし、言葉も理解した。
ずっと黒い枝が置かれていた部屋は狭く、まるで望和の時の物置きの自室の様だと感じた。
小さな窓から外が見え、パラパラと小雨が降って寒い。
生まれたばかりで何も着ていなかった。
ああ、戻ってきたのだ……。
沸き立つ心に、僕はブルリと震えた。
望和として死んで、永然と会った時は思い出していなかったが、神浄外の空気に触れると、過去の思い出が蘇ってくる。
重く垂れ込めた雲の所為で、部屋の中は薄暗い。
だけど僕の瞳はキラキラと輝いていた。
望和としては死んでしまったけど、またこの世界に生まれ変われたのだ。
僕の望みは一つしかない。
「私の、なな。」
幼い子供の声で、辿々しく呟いた。
元気にしているだろうか。
幸せだろうか。
一目、確認出来たら……。
永然からもっと話しを聞きたかった。
しかしあの時邪魔が入った。
永然をあの空間から吹き飛ばし、愛希を寄越した存在がいるはずだ。
僕は卵の中でずっと使用人達の会話を聞いていた。
金の卵から孵ったのは愛希だろう。
僕の枝を奪い、久しぶりに狐一族から生まれた金狐として大事に育てられている。
まぁ、それは別にいいでしょう。
黒い卵から生まれるもう一人の子供を、まるで自然に死ぬのを待つかの様に、この小さな部屋に押し込んで、放置する様な両親に愛情は湧かない。
放置される事は慣れている。
同じ家にいて育てられてはいるけれど、愛情を感じる事は出来ない。
それは望和の時とどこか同じだった。
結局今世も一人で生きる事を選びそうだ。
ただ身体がある程度成長するまで、一人で外に出るのは危険だ。
「暫くは、ここにいるしかありませんね。」
とりあえず卵の下に敷かれていた布を、身体に巻きつけた。
一日一回は様子見と神力を分ける為に、当番制で誰かが来る事になっていた。
パラパラと小さな雨音を聞きながら、カビ臭く湿った部屋の中で、望和は静かにそれを待っていた。
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