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8 湖の神殿
翌日、朝から雪代と二人で巨城の下に広がる湖に来ていた。
浅く広がる湖の中に、ポツンと神殿が建っている。遠目だから小さく見えるが、近寄ればかなり大きな神殿だ。石造りの神殿は建物の敷地も広いし高さもある。
水の中を伸びる道を歩きながら、神殿を目指していた。
「あ、僕の名前変わりました。」
朝ごはんも食べ、ここまで歩いて来て、そういえばと呂佳が思い出した様に名前を教えた。
「え!?どうやって!?」
雪代の驚愕も当然だ。一晩で何があったのかと問い質されるが、何と答えようもなく笑って流した。
「うーん、朝起きたら名前が変更されていたというか……。」
言いにくそうに呂佳が口籠もり、雪代はハッとした。
呂佳は何故か応龍天凪に監視されている。
その関係だろうか?
名前を変える意図は分からないが、一晩で役所に届けている名前を変えれる存在など早々いない。
「ああ、うん、分かった!これからは呂佳って呼ぶから!」
意外とあっさり質問を引っ込めてくれたので、呂佳はホッと安堵した。
そこそこ時間をかけて神殿に辿り着いた。
ここの湖は巨城から流れ落ちる滝の水が広がって出来た物だ。そのまま街の中の水路に流れて生活用水となる。
なので水は透明度が高く綺麗だった。
水草がチラホラと浮き、魚の影が見える。
懐かしい景色だった。
珀奥の時はよく巨城に遊びに来ていた。
だいたいは応龍天凪か霊亀永然、たまに鳳凰聖苺に会いに来ていた。
当時の麒麟は不在だった。妖魔の大軍を討伐する際、仲間を庇って傷を負い亡くなってしまったのだ。
神獣が死ねば次の神獣が新たに生まれる。
なのに直ぐに次の麒麟の枝が生る生命樹が生える筈が、神山の何処にも見つからなかった。
数百年待って漸く見つかった麒麟の生命樹は、無知な狐の夫婦が知らずに持ち帰ってしまった。
それ程に麒麟の生命樹は美しかったのだと言う。真珠色に輝く枝は神秘的で、持ち帰れば美しい狐の子の卵がなると思い込んでいた。
枝を折られた真珠色の生命樹は消えてしまい、狐の夫婦の手には美しい枝が一振り残った。
麒麟の卵は本来ならそのまま生命樹から神力を与えられながら、卵が孵るまで枝にぶら下がっているものだ。
それを折った事によって、狐の一族に神罰が降った。
狐の長達にこのままでは一族全て神の呪いによって絶滅すると泣きつかれた。
だから同じ狐として、その呪いを全て一人で請け負った。
そして真珠色の枝になる小さな麒麟の卵を持って山の中に行き、一人で暮らしながら麒麟の卵に神力を与え続けた。
神力は減っていき、神の呪いは増していく中、百年も頑張った。
最初は狐の一族を滅ぼしたくなくて、呪いを引き受け卵に神力を与えていたが、その内だんだん真珠色の卵が可愛くなってきた。
誰とも伴侶も得ず、卵も授かったことはない。
だから初めての事だった。
いつもどこか自分でも冷めている性格だと思っていたのに、毎日話し掛けては愛情を注ぐ様になっていた。
『私のなな、今日はいい天気だよ。』
他愛の無い事ばかり話し掛けた。
愛してるよ、君が大切だ、私のなな……。
身体が神の呪いに負けて黒く変色しても、最後の最後まで続けた。
今、麒麟那々瓊はあの巨大な城の東側に住んでいる。
「おーい、どーしたぁ~?」
ヒョイ、と綺麗な顔が覗き込んできた。
流石悪役令息、顔面が良い。
いつの間にかボンヤリとしていたらしい。
「すみません、何でもありません………。あ、そうだ、雪代は銀狼の勇者に会った事ありますか?」
二人で神殿の中に入りながら尋ねる。
「んにゃ、無い。確か万歩様だろ?」
今初めて名前を知った。素知らぬふりをして頷く。
神殿の手前には、胴体分部だけ木板で隠せる程度の半個室型洗い場がある。神殿の奥に入る者はそこで先に禊をする決まりなので、二人で一つずつ入り身体を洗う。
用意されていた白い着物を着て外に出ると、他に来ていた獣人達が嫌な顔をしていた。
黒が来るなとか、黒い毛を落とすなとか言っているのが聞こえて雪代が睨みつけていた。
「どこかでその万歩様に会えませんかね?」
「え~?うーん………。」
雪代は根が世話好きなのか本気で考え始める。
「あ、それは後でも大丈夫です。先に神具を取りましょう。」
それもそうだなと雪代も頷き奥へ進んだ。
奥は何本も大きな柱で天井を支える広間になっているのだが、そこには床ではなく水が溜まっている。
雪代と二人でジャブジャブと入り、どんどん奥に行くと水嵩が増してくる。
「ないなぁ?行ったら自分の神具は分かるって言われてんだけど。」
神具は人によって感じ方が違う。光ったり影であったり、風が渦巻いてたとか言う人もいる。
「人それぞれですからね。何か感じるものはありませんか?」
雪代はキョロキョロと辺りを見回していたが、あっ!と叫んで奥へ進んで行った。
僕は既に腰まで浸かっているので、ここで待機しておく。
雪代は水の中に潜ってしまった。
泡がコポコポと立ち、ほんの少し雪代らしき白い影が底の方に見える。
かなり奥まで行ってしまったので深いようだ。
ゲーム通り扇を授かるのだろうか?
ブクブクと大きな泡が上がってきて、雪代の白い頭がザブンと出てきた。
「ぷはぁ~っっ!すっげぇ~深いとこにあった!」
近付いてきて徐々に雪代が手に持つ物が現れる。
「……………長剣?」
かなり長い剣だった。刃は白く、鏡の様に周りを写している。
「武器で良かったぁ~。これで戦闘に関係無い神具だったら扱いに困るとこだった。」
良かったですねと返事しながら、扇じゃなかった事にびっくりする。
あのゲームは永然の未来視に沿って作られていた筈だ。霊亀の未来視は必ずでは無いが、かなりの確率で当たる。
どの攻略者ルートで進んでも雪代の神具は扇だったのに、確実にこれは未来視が外れていた。
そう言う事もあるのか、それとも自分や朝露という存在の所為でかなりズレたのか。永然が目覚めたら尋ねたい。
びしょ濡れで上がってきた雪代は髪を掻き上げながら歩き出したので、一緒について行く。
他にも神具を取りにきたらしき獣人達がいたのだが、皆雪代に注目していた。
頬を染め、ゴクリと喉を鳴らす者もいる。
ここに来ているという事は成人したばかりの同年代が多いという事だ。
今の雪代は全身びしょ濡れで白い衣が肌に張り付いて透け透けだった。
下着も着てこれないので、下の方もバッチリ透けている。濡れて肌寒いのか、胸の突起も目立っていた。
皆の視線が雪代の身体に集まっているのだが、当の本人は今手にしたばかりの長剣に夢中で気付いていない。
「寒いので早く着替えましょう。やばいです。」
「何が?」
先を急ぐ様声を掛けると、雪代も不思議そうにそーだなと言いながら歩き出した。
永然の未来視を少し当てにしていたのだが、これは完全に違う物語になりそうである。
帰り道、雪代が思い出した様に教えてくれた。
銀狼の勇者は、最後に行われる入隊式に出てくるんじゃ無いかと言うのだ。
兵士にしろ宮仕にしろ、十歳からしか志願出来ないので、今年志願してるかもしれないらしい。
そう言われれば、ゲームでも入隊式があったなと思う。
そこで主人公と悪役令息雪代が最初に衝突するイベントがあった。
でも今の雪代が主人公に突っかかって行く様には見えない。
本当は雪代の家はなかなか大きな家で、雪代も綺麗に着飾り、神具の扇を持ち歩いて、優雅に笑っている感じだったのだが。
「俺もついてって一緒に探してやるからなっ!」
にぱぁ~と笑う今の雪代から、優雅美麗という文句は一切感じられない。美人である事は変わらないけど。
よろしくお願いしますと頼んだ。
神殿の中でも思ったけど、この黒い毛はなかなか嫌われている。だが雪代が一緒にいると直接的な攻撃が減る事に気付いた。
宿も雪代がいなかったら泊めてくれなかったかもしれない。
天凪はそこまで考えてくれたのだろうか?
昨日礼を言っておくべきだった。
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