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10 青龍隊選別試験
青龍隊希望者のみが集められた広場に来た。雪代について来て貰って正解だった。
雪代は自分の容姿には無頓着の様だが、呂佳には大変助かっている。
じろじろと気味悪そうな目で見られはするが、美しい雪代の前では狐の村にいた時の様に突っかかって来る猛者はいなかった。
受付順で対戦になり、勝ち残った方が目出たく隊に入れるという簡単な選抜方式だった。
青龍隊は最も激戦区になり、死傷者も毎年多く出るので不人気らしいのだが、それでも募集人数の二倍は集まっている。
少しのんびり出て来てしまった所為で、ほぼ最後の方の番号になってしまった。
番号は2045番。
「そーいや呂佳は戦闘経験とかはあんの?」
「はい、問題ないと思います。」
雪代の目が本当に?と疑わしそうに見ている。
雪代から見れば呂佳は実年齢よりも小さい。力も無く、とても戦える様には見えなかった。
呂佳としてはほぼ狐の集落にいたので戦闘はしなかったが、珀奥の時の経験値ならかなりある。後は子供の身体でどこまで動けるかだ。
「あ、ほらあそこの壇上で見下ろしてるのが青龍空凪様だぞ。」
雪代が指差して教えてくれた。
少し遠いが、それでもハッキリと目立つ人影が立っていた。
この神浄外の東外側を守護する神獣、四神のうちの一人青龍空凪は、応龍天凪の弟だ。
応龍も青龍も龍の一族から生まれてくる。
神獣によって生まれ方は様々だ。
空凪の容姿は天凪に似ているが、色味が違う。青緑色の髪と瞳、真面目そうな凛々しい表情をしているので、言われなければ兄弟とは気付かない。
龍は獣人の中でも最も長寿な為、天凪は遥か昔に生まれその素質から応龍になったが、空凪は最近生まれて神獣として神格化し青龍となっている。
前青龍は実は生前呪いに侵され妖魔となった珀奥が殺している。が、あまり記憶にない。こちらに再度転生して知った事だった。
前青龍は青い髪黄色い瞳の青年で宙重という龍だった。そこそこ仲も良かったのだが、自分が殺してしまうとは罪悪感が積もる。
「厳しそうな人に見えます。」
「あー、うん、訓練は厳しいけど、厳しくされないと生き残れないしな?」
雪代は青龍空凪に対して好感がある様だ。
試合はどんどん進み、昼過ぎに漸く順番が回って来た。
「頑張れよっ!」
雪代が柵の外で応援してくれているが、殆どの人間が呂佳以外を応援していた。
黒いというだけで敵認定だ。
位置に着けと言われ、引かれた線に並ぶと、ザワリと人が騒ぐ気配が大きくなった。
何事かと柵の外を見ると、なんと空凪が見に来ていた。
……………これは、天凪が何か言っているかも知れませんね…。
出来ればそっとしていて欲しかった。
無駄に目立ちそうだ。
何故青龍様がと人々がどよめいている。
雪代もなんとも言えない顔をしている。
雪代には実は天凪と顔見知りなのだと言っておいた方がいいかもしれない。
審判の青年が少し迷いつつ、空凪から目配せされて開始の合図を送った。
対戦相手は四倍くらい体格のありそうな豚っぽい青年だった。
同じ歳には思えない。
別に十歳しか志願出来ないというわけではなく、十歳以上なら誰でもいいので、歳はかなり上だろうと思われる。
小柄などう見ても子供の呂佳を見て、対戦相手の豚獣人はニヤリと笑っていた。
楽勝だと思っているのだろう。
金槌の様な鈍器を持っている。だが普通の金槌よりかなり大きい。当たればペシャンコだ。
雪代が青い顔をして見ている。
対して呂佳が持っているのは単なる木刀である。
呂佳は気にせず小首を傾げた。
何故戦闘を開始しないのか。
「…………どうぞ、いつでも良いですよ?」
親切で声を掛けてみたのだが、豚獣人の顔が引き攣った。
「おいおい、先に降参させてやろうっていう親切を無視すんのか?」
おお、豚獣人は降参待ちしていたのですね!
呂佳は目を輝かせた。
見た目で判断されたのは業腹ですが、弱者に情けを掛けたのですね!ですが、妖魔にそれは不必要。今後この様に柔な性格では直ぐに死んでしまいますね。
急に黒い目をキラキラと輝かせた狐の子に、豚獣人は訝しげに眉を上げる。
「降参は無しです。さあ、始めましょう。」
「じゃあ、死ねや!」
大きな武器がうなりを上げて呂佳に振り下ろされる。
周りから小さな悲鳴が上がった。
呂佳は身体を捻って避けると、避けた金槌は地面にズシリと地響きを立ててめり込んだ。
捻った状態で地面を蹴って豚獣人の足元に肉薄した。
木刀に殺傷能力はない。だが神力を通し少しばかり切れ味を追加する。
シュインと音を響かせて、豚獣人のアキレス腱を切った。
地響きを立てて豚獣人が尻餅をついたので、喉に木刀の先っぽをめり込ませる。
たらっと血が一筋落ち、青褪めた豚獣人が耳をブルブルと揺らしていた。
「しょ…、勝者っ、呂佳!」
審判が一拍遅れて勝敗を宣言した。
その時には既に空凪は背を向けて立ち去っていた。
「ろっかぁ~~っ!すげーじゃん!」
安心した顔で雪代が走って抱き付いてくる。
あまりベタベタするのが好きではない呂佳は、グイグイと雪代を引き剥がしたが、雪代はあまり気にした様子が無かった。
「豚が弱かっただけです。」
その豚獣人は抱えられて救護室に連れられて行った。
この勝利によって、呂佳は無事に青龍隊に入る事となった。
朝露は銀狼の勇者万歩とずっと一緒にいた。
万歩はゲームストーリー通り応龍の所有地、巨城の西側に住んでいた。
朝露は本来ならまだ宮仕に志願しただけの者なので巨城で暮らすことなど出来ないのだが、勇者たっての頼みだった為、年も同じという事で側仕えの友人として一緒に暮らす事になった。
側仕えとは言っても朝露は何もやっていない。
愛希の時も一人っ子で甘やかされていたし、金狐として生まれた朝露は、更に甘やかされて育っていた。
人に奉仕するという事など出来なかったのだが、友人に側にいて欲しいだけの万歩はそれで良かった。
お互い今までどうやって生きて来たのかを教え合っていたが、望和のフリをする朝露は、前世の記憶はあまり無いという事にしていた。
その代わりゲームの内容は覚えているので、自分に任せて欲しいと言っていた。
万歩は前世伊織の時、あまりゲームに興味がなく、内容を全く知らなかった。
なので銀狼の勇者……、要は男性として生まれ変わった場合、内容がBLになると知らなかった。
それは困るとガタガタ震える万歩に、朝露は良き相談役として万歩に頼られる事となった。
志願書受付から入隊式まで、約一週間掛かると言われ、二人はのんびりと過ごしていたのだが、ある日麒麟那々瓊から面会の申し込みがあった。
銀狼の勇者は応龍天凪が後継人になっているので、神獣と言えども勝手に呼び出せない。
銀狼の勇者が会いに行くのは構わないが、神獣側から会うには先に断りが入る様になっていた。
朝露はそのシステムを知っていた。
勇者はゲームでも自分で行動パターンを選べたのだ。誰に会いに行くかを主人公が選択し好感度を上げていくのだ。
「那々瓊様とは会ったは事あるのですか?」
愛希の時は敬語で話す事は全く無かったが、朝露は常に丁寧に話すよう教養を受けていた。なので望和のフリをして話すのは割と簡単だった。
「あーたまに?優しい人だよ。穏やかって言うか。でも会うのはたまたま外に出てて会うくらいで、こうやって断りが入ったの初めて。」
万歩が不思議そうに首を傾げていた。
とりあえず会ってみると言うので、朝露は当たり前の様について行った。
部屋ではなく、庭園にある大きな東屋に通された。
中には木で出来た机の上に、お菓子とお茶が用意され、既に麒麟那々瓊が待ちかまえていた。
建物の中から現れた二人の子供に、那々瓊は目を見開いた。
銀狼の勇者にまず面会して、金狐に会う約束を取り付けようと思っていたからだ。
金狐は現在、勇者の側付きになっていると聞いた。ならば先に勇者に断りを入れた方が会い易いと考えたのだが、運良く一緒に来てくれた。
金弧の身体から珀奥の神力が感じ取れる。
間違いなく、那々瓊と永然が珀奥の遺品である金の尻尾を元にして作った、金の枝から生まれた金狐だった。
駆け寄りたい気持ちを抑えて二人を待ち受けた。
先日頭を撫でてくれた人物の声は、高く澄んだ優しい声だった。
年齢的にも合う。
「お招きありがとうございます、那々瓊様。」
最初の頃こそやんちゃだった万歩も、最近はちゃんと挨拶が出来るようになってきた。
礼儀正しく隣に着いて来た金狐の少年を紹介する。
名前は朝露と言って、可愛らしく笑って挨拶をした。
話し方はゆっくりと柔らかく礼儀正しい。
似ているのかもしれない…。ただ、那々瓊には子供の声はどれも高く、同じ様にしか聞こえないので、同じ声だと言い切れなかった。
私はずっと卵の中で意識があった。
珀奥様の声はもう成人男性の落ち着いた声だった。甘く優しく、私を「なな」と呼んだ。
会いたかった。
会って抱き付いて離れたく無かった。
ただ、何故かは知らないが卵から孵ればいなくなると知っていたから、可能な限り殻を破らなかっただけだ。
会いたいけど、会えない。
だったらずっと生まれなければ良いと思っていた。
金色の瞳が煌めきながら私を見ている。
珀奥の容姿は妖魔となった黒髪の死んだ姿しか知らないが、それでも美しい人だったのだと予想がつく。
朝露の容姿は愛らしく綺麗だった。
きっとあの水晶の中の珀奥が、幼くなればこうなのだろうと思える容姿だ。
椅子に座り三人で談笑する。
二人の子供はこの神浄外が不思議な世界だと笑って話していた。
朝露に珀奥だった頃の記憶は無さそうだった。
だったら何故霊廟で頭を撫でたのだろう?
朝露の身体は確かに金の枝から生まれている。
永然は珀奥の魂に渡すと言っていたのに。
神浄外で生まれ変われば、呪われた身体では無いので、一度神格化した珀奥ならば記憶が有る可能性が高いと言っていたのに……。
霊廟で頭を撫でてくれた存在と、今の朝露では話が繋がらなかった。
考えに耽っていて、目の前の朝露が立ち上がったのに気付かなかった。
小さな白い手が目の前に来て、漸く朝露が私の頭に手を伸ばしているのだと知る。
「わたしのなな。」
それは、珀奥様の言葉だ。
私の金の髪に触れようとして来て、思わず後ろに仰け反った。
「え?」
朝露が不思議そうな顔をした。
何故お前がそんな顔をする?
私を「なな」と呼び、頭を撫でて良いのは珀奥様だけだ。
私の機嫌が悪くなった事を悟った万歩が、慌てて朝露を引っ張った。
「………ばっ!お前、何やってんだよ!?」
「え?でもこうやったら好感度上がるのに…。」
尚も不思議そうに朝露は首を傾げている。
私も自分が何故朝露の手から逃れたのか分からなかった。
朝露は珀奥様の生まれ変わりである可能性が高い。いや、ほぼ確定している筈で、その手で撫でて欲しいのに、何故か身体が拒否してしまった。
身体は珀奥様なのに、何故かその声に、手に納得が出来なかったのだ。
「すまないが、今日はここまでにしよう。銀狼の勇者よ、ありがとう。」
なんとか笑顔を作り、ここで解散にした。
那々瓊自身、自分の行動が理解出来なかった。
万歩はひたすら朝露の代わりに謝ってくれたが、当の朝露は終始不思議がっていた。
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