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13 妖魔の樹
神浄外の外側を守護する四神の内の一人、青龍空凪は東側を守護する神獣だ。
神浄外の東側は龍の生息地でもある。
岩山と荒野が広がり、他の獣人では住みにくい地だが、空を飛び空に近い場所に住みたがる龍族には住みやすい地だ。
龍は長命で強いが個体数は少ない。
応龍や青龍はそんな龍族から生まれてくる。
青龍空凪はまだ生まれて五百年程度しか経っていない。青龍より少し前に生まれた麒麟那々瓊とは、同じ年代に生まれた者同士仲良くなった。
お互い真面目な性格があったのもある。
空凪にとって兄の応龍天凪とは両親が同じわけではない。なのに兄と言うのは、同じ生命樹から落ちた枝から生まれたので、兄弟と言っているのだ。
生命樹とは不思議なもので、決して同じ樹は存在しないと言われている。
同じ種族の応龍と青龍も本来はそうなるのだが、神の言葉を聞いた天凪が、同じ生命樹から枝を持ち帰り青龍とする様お告げがあった。
天凪は言われた通りの場所へ行き、鱗の生える青い枝を持ち帰った。
神力を注ぎ、卵から孵った青龍に、空凪と名付けたのは天凪だ。
それなら天凪は空凪の親ではないのかと周りは言ったが、伴侶を得だわけでもないし、同じ生命樹から生まれたので兄弟だと天凪は言った。
こうして天凪と空凪は兄弟な訳である。
今、神浄外の外側では今までにない現象に悩まされていた。
まだ神浄外の中にまで入ってきてはいないが、見える位置に黒い樹が生え出したのだ。
枝からはポロポロと卵がなり、まるで生命樹の様である。
生まれてくるのは妖魔の子供。
今まで妖魔がどうやって発生するのか判明していなかったが、妖魔にも妖魔の生命樹があるのだと皆理解した。
「東側の殲滅はほぼ済んだな。」
白い金茶混じりの耳をピクピクとさせながら、雪代は疲れて呟いた。
妖魔の樹は場所に関係なくあちこちに育っていた。それこそ神浄外の周り全てにだ。
四神が東西南北それぞれ黒い生命樹を内側から弓矢で攻撃して焼き払って行ったのだが、その年月に三年も費やす事になった。
東側は龍の棲家が多いが、全てを網羅している訳ではない。
放っておけば妖魔が生まれるので、しらみ潰しに青龍隊は駆け回る羽目になった。
「お疲れ様です。慣れない弓矢で大変でしたね。」
何故か五つも年下の呂佳に労われ、雪代は顰めっ面を作った。
二人は今、岩と砂の続く荒野にいた。遠くには薄暗い暗闇が続き、横を見れば遥か彼方まで真っ直ぐ漆黒が続いている。
所々に赤い炎が揺らめき周りを照らしているが、漆黒の暗闇の方が濃い為か、炎の灯りはチラチラと薄い。
あちらこちらでも、黒い生命樹が残っていないか確認の声が上がっていた。
雪代は最初こそ神殿で手に入れた長剣を持ち歩いていたが、邪魔になるので持ち歩くのを諦めていた。今回の黒い生命樹討伐に役に立たなかったのだ。
長剣が出たと言う事は近接戦が得意ということでもある。弓矢を使った事が無かった雪代は、何故か呂佳に手解きを受ける羽目になってしまった。
しかも呂佳は小柄ながらどんな強弓も引いて見せるので、雪代はついて行くのが精一杯だった。
側にいるうちに気付いたが、呂佳は神力の操作が格段に上手かった。
身の内から溢れる神力は枯れる事なく密やかに溢れている。
これで黒色でなければ、呂佳こそが天狐に相応しいのではないかと思える程だった。
「お前ホントに年下かよ!?くあーーーっ!なんでそんなケロッとしてんのか分かんねぇ~~~~~!」
雪代は毎日こうやって呂佳に毒付いていた。
神力を使えば誰しも疲労するのだ。それこそ龍族でさえ例外ではない。
一日中弓を引いて樹を燃やす作業に、疲労困憊する中、呂佳は百発百中で矢を当て火をつける。しかもその火力も尋常じゃない。
「僕の得意な属性がたまたま火だっただけですよ。」
とても子供とは思えない態度に、雪代は思う。だから応龍から監視するように言われたのかと。
青龍の地に着いて早々、実は天凪とは知り合いなのだと呂佳から教えられた。
その時は嘘だろう!?と信じきれなかったが、今ならそうかもなと思ってしまう。
そう思ってしまうくらい、呂佳は戦い慣れていたし、知識が豊富だった。
「さ、恐らく今回で一旦終息しますよ。漸く本拠地に帰れます。」
本拠地とは青龍領の首都にある青龍隊の本拠地の事だ。
だが何故これで終わりだと分かるのか?
この三年、燃やしては生えてを繰り返していたのだ。普通に考えればまだまだ生えてくる筈だ。
「え?なんで終わりって分かんの?」
雪代の当然の質問に、呂佳はやんわりと笑った。
この笑顔であからさまに話を濁すやり方にはもう慣れた。どんなに問いただしても答えが返ってこないのだ。
「まぁーた話をはぐらかそうとしてんな!?くそーっ!歳上を舐めてやがる!」
「ははははは。」
雪代の叫び声と呂佳の笑い声が、乾いた大地に響いた。
先程燃えた黒い生命樹がボロリと崩れる。
その先は真っ暗な妖魔の棲む暗闇が続いていた。
呂佳が言う通り、黒い生命樹の侵食が停止した。原因は分からないが、その束の間の平安に人々は安堵した。
「久しぶりに神の祝いをやるらしいぜー。」
雪代が青龍空凪に呼び出されて、一緒に来るように言われたと言ってきた。雪代は呂佳の世話役でもある為、呂佳も連れて行く様に空凪から言われたらしい。
「いいんですか?」
本来なら見習い中の呂佳はお留守番だ。
「お前置いてって問題起きても困るしな。」
呂佳の黒毛はどこに行っても絡まれた。
拠点から離れれば雪代と離されて、置いていかれる事も数え切れない程ある。
呂佳は他者の神力を読めるので、神力の塊を見つければ帰れるのだが、流石に黒い生命樹が生えるあたりで置き去りは面倒臭かった。
最初は注意していた空凪だが、途中からは雪代と呂佳を直近の部下としてずっと側に置いてくれた事で漸く止んだ。
食事や部屋等は雪代が一緒にいるので、ちゃんと呂佳の分も用意されていたし、何かと二人には世話になってしまった。
雪代は粗野な話し方だが、黙っていれば女性とも思える程に綺麗な顔をしている。
龍族にしろ他の種族にしろ、雪代がモテてくれるお陰で、雪代が擁護しまくる呂佳に、あからさまに意地悪をする者は少なくなっていった。
都行きへ一緒に行けるならそちらの方が良い。
呂佳はこの生命樹の存在を最初から知っていた。
何故ならゲームで出て来ていたからだ。
黒い生命樹は主人公が学舎に入ってから三年間生え続けた。
それによって東西南北を守護する四神、青龍、朱雀、白虎、玄武は都に行く事が出来なくなる。
まずはその三年の間に、主人公は応龍、鳳凰、麒麟と仲良くなって行くのだ。
そして四年目からは一応の終息により一息ついた四神達が、神の祝いの為に都にやってくる。
そこから四神との仲を深めて行く。
四神と出会いイベントを繰り返すうちに、最後に霊亀永然が目覚め、永然とはそこからのスタートになっていた。
十歳から十五歳になるまでの五年間で八体の神獣と仲を深め、恋人的存在が決まって行くのだが、都に行けなかったこの三年、銀狼の勇者である万歩がどうなったか、全く分からなかった。
以前朝露が主人公のセリフを吐いていたので、同じ事をやっていないか心配でもある。朝露の中身は愛希なのだ。ゲームをやっていた節もあるし、本当に気掛かりだった。
万歩の中身である伊織はゲーム内容を知らないのだ。
そもそも伊織は同性愛者では無かった。
彼女は常に切れることなくいたし、男が好きだと言う感じもなかった。若干望和にだけ過干渉ではあったが、幼馴染だしそんなものかと思っている。
それよりも何故あのゲームが恋愛ものだったのかが気になる。
あのゲームは霊亀の未来視から作られているので、可能性のある未来だ。
黒い妖魔の生命樹はどのストーリーでも存在したし、最終的に聖剣月浄を手に入れた銀狼が、妖魔の地の奥で巨大な黒い生命樹を見つけ、そこから生まれた妖魔の主を退治する流れは一緒だった。
その過程で一番仲良くなった神獣と力を合わせて妖魔を退治する。そして必ず伴侶になる。
それがハッピーエンドになっていた。
バッドエンドは誰とも仲良くならないし妖魔も退治出来ない。
銀狼の主人公は妖魔に殺され、傷付いた神獣達が最終的に退治するのだが、妖魔の地の奥深くの為、皆力尽きて死んでしまう。
妖魔の地に足を踏み入れる事が出来るのは、召喚された銀狼だけなのだ。銀狼の加護の力無しでは、神獣といえども生きていけない。
その後の神浄外の事は何も載っていなかった。
多分永然も死んでしまうので、その先が未来視出来なかったんだと思う。
神浄外が消滅したのか、新たな神獣達が生まれて存続したのかさえ分からないのだ。
伊織の生まれ変わりである万歩と、麒麟那々瓊を死なせるわけにはいかない。
その為には銀狼の勇者万歩に妖魔を退治させなければならないのだが、何故恋愛要素があるのか………。
恋仲にならないと退治出来ないとか?
あの伊織に出来るだろうか…。
それも心配だ。
聖剣月浄を手に入れるまで後二年ある。
青龍について行って巨城に入れるのは好都合だった。
もしかしたら応龍天凪がそれとなく話を通して、呂佳が巨城に行けるようにしてくれた可能性がある。
現時点では珀奥の生まれ変わりが呂佳だと知るのは天凪だけだ。
天凪は神の使いであり、現世に関与する事が出来ない存在の為、いつも傍観しているという印象がある神獣だが、流石に自分と神浄外の存続の為には動いたのかもしれない。
それでも神の目があるから、天凪が出来る事は限られるだろうが…。
天凪にもまた会ってみた方が良いですね。
そう結論付けた。
本当は永然が起きて再度未来視をしてもらうのが良いのだろうが、ゲームに登場していない朝露と、自分の存在も気掛かりなので出来るだけのことはしておこうというのが、今のところの呂佳の考えだった。
そして信じられない光景を目にする。
そこは巨城の中央、全ての神獣が一堂に会する場所として使われる部屋。
広い広間の中央には、大理石の丸い円を描く机に十脚の重厚な布貼りの椅子。
既に他の神獣は勢揃いし、銀狼の勇者万歩と金弧朝露の姿もあった。
しかも朝露は何故か天凪の膝の上に乗っている。
「…………。」
「…………。」
思わず雪代と目を合わせてしまった。
最後にやってきた空凪に、皆が挨拶をし、空凪も何事も無いかのように返事をしている。
雪代が空凪の椅子を引き、空凪は静かに着席した。
現在の状況と今後の方針が話し合われる中、呂佳は其々の神獣をそっと観察する。
天凪、那々瓊は変わらず穏やかに話していた。
そして今回呂佳として初めて会ったのは、四霊鳳凰聖苺、四神朱雀紅麗、同じく四神白虎 達玖李、四神玄武比翔だった。
この四人は昔からいる神獣だ。
聖苺の姿は幼い子供の姿で止まっている。肩から背中にかけて羽根が生えているので、背中が大きく開いた薄い服を着ている。朱色の髪は燃えた炎の様にふわりと舞い、翡翠の瞳は宝石の様だ。鳳凰は吉報を呼ぶ神獣として人々から愛される神獣だ。
紅麗はこの中で唯一の紅一点、肉感的な女性で燃えるような真紅の髪と瞳の美人。神浄外の南外側を守護する神獣。
達玖李は褐色の肌、白い髪、黄色い瞳の大柄な男性の姿で、神獣の中では一番背も高く全体的に大きいのだが、むさ苦しさはなく、姿は凛々しく男らしい。神浄外の西外側を守護する神獣だ。
比翔は焦茶の髪、濃緑の瞳の細身の男性だったが、今は長い長衣にゆったりとしたフードを被っている所為でどんな姿をしているのか分からない。元々知略を巡らせるタイプで、神浄外の北外側を守っている。
特に以前と変わったところは無い。
永然は現在まだ眠りについているのでいない。
万歩は神獣と一緒の席に座るのが落ち着かないのか、モゾモゾとしていた。
突然死んでこんな所に生まれ変わって、勇者だと言われて育てられているのだ。
伊織は見た目は派手だったが、実際は表に立つのか嫌なタイプだった。騒がしく遊んでも中心的な立場を嫌がる。
今はさぞかし落ち着かない事だろう。
まぁ、問題は今だに話し合いの中、天凪にベッタリとくっ付いている朝露だった。
…………これは本気で主人公になろうとしているのでしょうか?
実は天凪と仲良くなると、銀狼をとても可愛がるようになる。
座れば膝に乗せ、食事も一緒に食べていた。
ゲーム上はだけど。
しかしゲームとはいえ、あれは永然の未来視。現実になる可能性もあった。
そんな事は朝露は知らないだろうが、天凪は知っている筈だ。
何を考えているのでしょうねぇ?
天凪にチラリと視線をやると、気付いたのか呂佳を見て少し笑った。
天凪は何を考えているのか分からない。
今夜にでも忍び込んでみる事にした。
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