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15 困った子
こっそり見ようと思っていた人物に見つかり、呂佳はギシリと固まった。
麒麟の力を見誤ったとも言える。
麒麟は獣の王、黒狐の呂佳の存在を見落とすわけが無かった。
「………………。」
黙り込む呂佳に、那々瓊は無表情に問い掛けた。
顔が美しいだけに、月の光を背負う那々瓊は造り物めいて見える。
「喋らないの?………久しぶりだね。三年ぶりだ。」
話し方はとても穏やかで優しい。
珀奥の生まれ変わりである呂佳にとって、那々瓊は大事に温め神力を注いで育てた我が子。何よりも味方なのだが、そんな事は知らない那々瓊にとっては敵と思われているかもしれないのだ。
朝露には嫌われているのだろうと思う。
その朝露にもしゲームの通りに攻略されていれば、呂佳は敵、もしくは良くて嫌われている存在。
らしくなく緊張しながら呂佳は口を開いた。
神獣の王である天凪にさえ臆さなかったのに、我が子には敵と思われたく無い。
「………月が、綺麗だったので散歩して迷いました。」
呂佳はまだ成人していない自分の年齢を使って、必死に言い訳を考えた。
那々瓊は空を見上げて月をジッと観察し、また呂佳を見下ろした。
呂佳の頭は那々瓊の胸にすっぽりと入ってしまっている。
那々瓊の金の髪がサラサラと降り、呂佳を閉じ込める檻の様に閉じ込めてしまう。
しかも何故か体重を徐々に掛けられている所為で、呂佳は足を踏ん張っている。
プルプルと足を震わせながら、どうしようと焦った。
「そうだね。今日の月は明るい。夜の散歩にはうってつけだね。」
ふわりと笑う那々瓊の笑顔は、とても綺麗だった。
こんな近距離で我が子の笑顔を見れて、呂佳は思わず力が抜けてしまった。
「あっ……!?」
ガクリと足が折れ、膝をつきそうになったが、那々瓊が脇腹と腰を支えてくれたのでギリギリ持ち堪えた。
ふう、と息を吐くが那々瓊の身体が引いてくれない所為で、今度は中腰から立ち上がれなくなった。
那々瓊に至っては背が高いので膝立ちになってしまっている。
「………あの?」
何故こんなにくっついているのか分からない。
支えてくれたのは助かるが、いつまでもこの態勢は困る。
呂佳は身を捻って那々瓊の正面を見た。
「……………??」
無言の那々瓊を見上げたのだが、瑠璃色の瞳が爛々と輝いている。若干見開き気味で怖い。
頬が少し赤く染まり、興奮しているように感じるが、何故だか分からなかった。
「……ぃい………。」
「え?」
「いい、におい…………。」
におい?ほんの少し天凪が神力を流したが、あの程度は残らない筈だけど……。
呂佳は自分の中に他者の神力が残るのが嫌いだった。だから神力も匂いもついてないと断言できる。
じゃあ、何の匂い?
疑問符だらけの呂佳の頭に、那々瓊の顔が近付いてきた。
呂佳の頭、黒い耳の辺りの匂いをスンスンと嗅がれる。
?????!?
「ま、待ちなさい!何故臭いを嗅いでいるのです!?」
呂佳は慌てて那々瓊の頭を手で押さえ遠ざけようとした。
しかし何故かその行為に那々瓊の顔がうっとりと緩む。
「あぁ…………。」
特に何も語らずはぁはぁと息が荒くなる那々瓊に、呂佳は困惑した。
神力を込めて倒す事も出来るが、果たして麒麟の那々瓊に効くかどうかも分からない。
実質的な力の差は歴然。
上に被さる那々瓊が重たくて、ドンドン腰が落ちていく。
呂佳の細腕で体格に勝る那々瓊を押し遣る事も出来ずに、とうとう地に寝そべる形になってしまった。
クンクンと耳の根本を嗅がれてペロリと舐められる。
ゾワゾワと背筋が震え、呂佳の黒耳がペショリと閉じた。
「…や、や、や、やめ、なさいっ!み、耳っ………んむぅっ!」
どーした事だろう!?
何故那々瓊が耳を舐め出したのか理解出来なかった。
獣人にとって耳や尻尾は急所であり性感帯にもなる。
家族や恋人でも無いと触らないし、触らせない。
なのに那々瓊は伏した耳を舌で無理矢理押し退け、中まで舐めて来る。
これはっ!
これではまるで恋人にやる事では!?
「あっ……ひゃあぁ~~~っ!やめ、やめてっ、ななっやめなさいっっ!」
耳の中の奥深くまで舌を突っ込まれ、ペチャペチャという音が頭の中に響いて来る。
「………ん、はぁ~~~~……。もっと那々と呼んで……。」
水音と那々瓊の欲を孕む声に、呂佳の尻尾がぴーんと伸びる。
その尻尾を那々瓊の大きな手が撫でて、呂佳の腰が抜けてしまった。
力が、出ない………。
那々瓊はどうしてしまったのでしょう…。
珀奥の時から人と触れ合うのが苦手な所為か、どう対処したらいいのか分からなかった。
舐められた耳は唾液でじっとりと濡れてしまい、夜風が吹くとひんやりとする。
ペチャペチャという音と、お互いの荒い息が生々しかった。
那々瓊の頭を押し除けようと掴んでいた手は、力を無くしてパタリと落ちる。
視界がグラグラと揺らぎ、金の髪が顔に掛かって息苦しかった。
まさか那々瓊に耳を舐められるとは思ってもいなかった。
既にもう舐めるというよりしゃぶられている気がする。
耳をしゃぶられた事が無かったので、こんなに力が抜ける行為なのだと初めて知った。
どうやって抜け出せばいいのか考えるが思考が纏まらない。
「あ、あっ、も、もう、やめっ。」
ベローと耳の内側を舐められ、呂佳はブルリと大きる震える。
耳の形が変わるのでは無いかというくらい舐められた気がする。
「ごめんね?嬉しすぎてやり過ぎちゃった。」
何が嬉しかったのかさっぱり分からない。
な、なんで……?なに???
漸く那々瓊は止まってくれたが、不覚にも呂佳の意識は朦朧として、意識を失くす寸前だった。
本当は会議の時も走り寄りたかった。
流石にあの場では思い止まったし、呂佳は青龍に付き従っているのだ。仕事の邪魔はするべきでは無いと思った。
後で空凪に呂佳を貸してもらおう。
そしてまた手を繋いでもらい、あわよくば頭を撫でてみて欲しかった。
あの日霊廟で頭を撫でてくれた感触と同じかどうか確認したかった。
朝露の身体は確かに珀奥様の神力が感じられる。珀奥様なのだと思うが、どうしても納得が出来ない。
あれから朝露から誘われて何度も会ってはいるのだが、応龍のように寵愛とまでは考えられない。
那々瓊の大切な霊廟に朝露が来た時は、死ぬ程驚いた。
穢して欲しくなくて、結界を張り誰も入れないようにした。
ここが麒麟の大切な場所と知る兵士や宮仕の者達は、誰もこの一画には入って来なかったのだから油断した。
あの金狐は私の事を何故か勝手に「なな」と呼ぶ。
私のなな、と呼ばれるたびに、違うと言いそうになる。
何故その呼び名を知っているのか、たまたま那々瓊という名前から省略して言っているだけなのだろうか?
それともやっぱり朝露は珀奥様なのか?
卵に入っていたから、勝手に理想を高めていただけで、本来の性格はこうだったのだろうか。
朝露は甘え上手で可愛いとは思う。
でも、珀奥様の性格ではないと感じてしまう。珀奥様は静かで優しくて、何よりも那々瓊に愛情を注いでくれる存在だった。
決して甘えてくる存在ではない。
朝露の輝く神気は確かに珀奥様なのだと主張するのに、那々瓊は納得出来ないでいた。
もう一度、呂佳に会って確かめたかった。
手を握って、頭を撫でて、那々と呼んでくれないだろうか。
そう思いながら夜を過ごしている時、麒麟の城内に呂佳の気配を感じた。
「!」
急いで向かった。どうやら此方に近付いてきている。
が、何か思い悩むように立ち止まっている姿を発見した。
背後に周り抱き締める。
呂佳の神力はその黒い毛からは想像できない程に多い。
まだ子供とはいえ、その気になれば神獣である自分からでも逃げ仰せそうな気がした。
驚いた黒い目が視界に飛び込む。
黒い瞳の中に深い漆黒の瞳孔が、月の光に照らされてハッキリと見えた。
黒い髪は艶やかで、濡れたようにしっとりとしている。
抱き締めた瞬間に香る匂いに興奮した。
甘く瑞々しい、果物のようだ。
スンスンと臭いを嗅ぎ耳を舐め回すと、やめなさいと頭を掴まれたが、その感触にゾワリと歓喜した。
頭を撫でている!
決して呂佳は撫でたわけでなく、押し除けようとしただけなのだが、興奮した那々瓊は色々と衝動を抑えられなくなった。
耳を舐めしゃぶると小さな身体が腕の中で震えている。
黒い尻尾を掴んで毛並みに沿って撫でると、腰が抜けたのか入っていた力が抜けていくのが分かった。
ななと呼ばれ、麒麟に対して止めなさいと言う黒狐が、愛おしく感じる。
この感覚だと那々瓊は震えた。
決して朝露から得られない感覚に、無心に耳を喰み口の中でその匂いと味を堪能する。
震えながら力無く頭に添えられていた小さな手が落ちた。
やり過ぎたと思いぐっしょりになった耳から顔を離す。
那々瓊の下で震えて顔を赤らめ、目に涙を溜める呂佳を見た瞬間、那々瓊の中で欲望が膨れ上がった。
持ち帰ろう………。
持ち帰って大事に大事に仕舞い込もう。
ガシッと那々瓊は頭を掴まれた。
「おい、何をしている。」
声の主は空凪だった。
青緑の髪は濡れており、風呂に入った後のようだった。同色の瞳は呆れを含んでいる。
「………………持ち帰ろうかな?」
色々と説明も面倒で単刀直入についさっき閃いた事を伝えた。
「呂佳は俺の部下だ。」
すかさず却下され、那々瓊は眉を情けなく垂らした。
「だめか?」
「ダメだ!」
空凪は呂佳がいないと騒ぐ雪代を宥めて、もしかしたら戻って来るかもしれないからと説得して部屋に残し、呂佳の神力を辿って此処まで来た。
そしてなんと親友に襲われる呂佳を見つけた。
何をしているんだコイツは。
「少しだけでも……。」
「何が少しになるのかさっぱり分からん!」
しょぼーと小さくなる那々瓊の下から、性感帯を舐め回されピクピクと力無く倒れる呂佳を救い出した。
こんな小さいのに対して何をしているんだと、呆れを通り越してやや怒りが湧く。
また明日話そうと言って呂佳を抱っこしたまま空凪は立ち去った。
背後から、え~~~~~と言う那々瓊の非難めいた悲鳴が聞こえたが、知らんっ。
部屋で待ち構えていた雪代が、誰が襲ったと騒いだが、流石に獣の王が襲ったとは言えず、なんとか宥めて呂佳を預けた。
呂佳は気絶してしまった為、お風呂は断念してお湯で拭いてもらった。
明日は那々瓊を説教だっ!
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