転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

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23永然の目覚め


 霊亀永然の住む家には何度か来た事がある。
 永然は巨城に住むのを嫌う。
 巨城の北側は霧が立ち込め、空気には常に湿気が混じっている。
 同じ岩山に建つ城なのに、東西南北で様子がかなり違う。
 永然は巨城から更に北に進み、巨城を取り囲む都を抜け、人気のなくなった森の中に住んでいる。
 神浄外の北側は兎に角、雨や霧が多い。
 神浄外にとって水は神聖なもので、水がある場所には妖魔はいないと信じられているので、湿気を好む種族や弱い種族は永然が治める霊亀領に住む事が多い。
 実際神の祝いで人々が捧げた石は神力に満ちており、応龍の力によって神浄外中を巡り、特に水気の多い霊亀領はその神力が集まっているとも言える。


 ここまで来るのに十日かかる。湿気と雨で地面は泥濘ぬかるみ、鬱蒼と茂る草木で進めないので、普通の速度の倍はかかる。
 過去珀奥の時に来た事のある呂佳でも歩き辛いのに、万歩と雪代はよくついて来れたものだと感心する。

「もう直ぐ永然の住む池に着きます。」

「はぁ、はぁ、霊亀って池に住んでんの?」

 呂佳は頷いて説明した。

「霊亀は銀狼の召喚で神力を使い果たして眠りに着きます。ですので無防備な状態になってしまう為、応龍がその間守護しています。応龍天凪の力は水です。その水で守っているから、ここの湿気は特に酷いです。」

「あーーー、この水全部天凪様のか……。どうりでなんか知ってるなぁ感じたわ。」

 疲れた声で雪代は納得した。
 雪代は以前天凪から報酬代わりに神力を貰った事があった。今は青龍空凪を通して報告しているので直接神力を貰うことはないが、あの時の酒に酔うような酩酊感を思い出した。

「いや、守るっつっても酷くね?全身ぐっしょり。」

 呂佳について来ながら、二人はグチグチと文句を言う。

 程なく池に到着した。
 万歩の予想では池に着けば景色は開けると思っていたのに、相変わらず森の中だった。

「すげー。」

 池は程よく広いのに、上も横も対岸も、森の緑だらけ。水の中にも樹が生え空を覆っているのだ。
 池の真ん中にはポツンと浮島があり、家が一軒建っていた。木材は腐るからか、切り出した石を積み上げて作られた家だった。窓枠と出入り口となる扉だけは木で出来ていたが、ボロボロで古ぼけて見える。
 緑に苔むし蔦や草が覆い、長年この状態である事が一目で分かる家だった。
 今だ降る雨は池の水を揺らし、しっとりと全てを濡らしていた。
 あそこです、と呂佳は指差した。

「樹を伝って渡ります。来れますか?」

 二人が頷いたので、呂佳は躊躇いなく近くの樹に飛び移った。
 身軽に呂佳が渡って行くのを見て、万歩と雪代も見よう見まねで飛んでいく。
 なんとか落ちる事なく二人が渡り切ったのを確認して、外で待つよう待機させ、呂佳は家の中に無断で入った。
 腐りかけの扉は傾きながらもなんとか開く。

 しんと静まり返った部屋の中は、一つの部屋が仕切りでベットとキッチンを仕切っただけの、一間しかない家だ。後は奥にお風呂とトイレがある。

 大きめのベットにはモコっと布団が盛り上がり、緑色の髪が少し見えるだけだった。
 近寄ってユスユスと揺する。
 布団はかなり湿気っている。
 よくこんな所で寝れるものですね、亀だからでしょうか、などと妙に感心する。

「永然。」

 覗き込むと少しだけ永然のスヤスヤと眠る顔が見えた。
 
「んーーー。やはり亀は甲羅に入るのが気持ちいいのでしょうか。」

 甲羅ではなく布団ですが。
 などと呟きながら、どうやって起こそうかと思案する。永然は寝たらなかなか起きないのだ。
 ここら一体は応龍天凪の神力が立ち込めている。
 呂佳の黒髪も滴る程に濡れていた。一房掴みぎゅうと絞ると、ポタポタと雫が流れる。
 床に小さな水溜りが出来た。
 呂佳はその出来た水たまりに話しかける。

「見てますよね?」

 空気が震えた。
 
「黙ってないで返事して下さい。」

 水溜りに細波が起こる。
 薄暗い室内に空色の光が浮かび上がった。

「…………なんだ?」

「永然を起こして下さい。僕の神力じゃ足りません。」

 水溜りがドプンと跳ねた。
 呂佳はキョロキョロと辺りを見回し、テーブルの上の器を見つける。埃を被っているが、気にせずそれを持った。
 持ってきた器を水溜りの隣に置くと、トプントプンと揺れていた水が器の中に移動した。
 水色の光を放つ水が器の中になみなみと入っている。

「ありがとうございます。」

 水を零さないよう持ち上げ、永然の元へ持っていく。
 器の中の埃は綺麗になくなっていた。
 永然は横を向いて丸まっていたので、肩を押して上向かせる。
 スヤスヤと眠って全く起きる気配はない。
 永然の頭の下に腕を通し持ち上げて、口に器の縁をあて、中の水を少しずつ流した。
 開いた口から水が溢れるが、気にせずどんどん流していく。
 
 こぽこぽこぽ…………。

「……………………ぐっ…………う゛っ、っっぐふっ!ゲホッ!ごほごほごほっ!!!」

 永然が咳き込みながら水を吐いて起き上がった。

「おはようございます。」

 淡々と起床の挨拶をする呂佳へ、永然はキッと睨みつける。咳き込みすぎて声が出ないようなので、呂佳は落ち着くまで静かに待った。

「………だっ誰だ!?」

 永然は目付きが悪い。睨めば大概の者は霊亀の神力と相待って恐れるのだが、呂佳は平然としていた。
 目付きが悪いが攻撃性が全く無いのを知っているからだ。
 呂佳がじっと見つめると、永然もじっと見つめ返した。

「………………はぁ!?珀奥、か?何故?なんだその姿は!俺が渡した金の枝はどうしたんだ!?」

 永然は魂が見える。
 なので一目で呂佳が珀奥だと見抜けるが、予想した昔の姿とは似ても似つかない姿に愕然とした。

「今の名前は呂佳と言います。金の枝は貴方が落とすから盗られてしまいました。」

「はぁ!?」

 呂佳は永然が眠りについてから今まで自分にあった事を説明した。

「…という訳で、今僕の那々瓊を操ろうとしている者がいます。」

 永然は未来視は出来るが過去と現在は見れない。なので今の話をじっくりと考えた。
 金の枝を渡そうとした時、永然を邪魔した者は二人だ。
 何も無いあの空間に来れる者と、風を吹かせた者。

「………分かった。つまり白虎と玄武が関わってるんだな?」

 あの空間に来れる者は同じ系列の力を持つ玄武比翔だ。そして風を操った白虎達玖李と共に、永然が珀奥を転生させようとした行為を邪魔した事になる。
 
「那々瓊に関しては主に白虎です。比翔と紅麗は少し力を貸した程度でしょうか。」

「紅麗もか。…………那々瓊には自分が珀奥だと教えたのか?」

 先程の説明で那々瓊とは会って話したとは言ったが、耳や尻尾を舐められた事は言わなかった。詳しく話さなかったので、永然は気になり質問してきた。

「………いえ、言えません。」

 色々な意味で。

「何故、顔が赤くなる。」

「いえ、なんでも無いのです。」

 那々瓊からは謎に懐かれているが、珀奥だとは言えずにいた。

「那々瓊には昔の僕の事を何か話しましたか?」

「まぁ、昔話程度に……。普通に何やったとか話したとかだが?」

 そうですか…、と顔を赤らめたままの呂佳に、永然は首を傾げる。
 那々瓊はこの黒毛について何も言わなかった。
 嫌われるよりはいいが、どう思っているのか分からない。
 
「僕は、その………、永然が用意してくれた金の枝を無駄にしたばかりか他人に使用されて申し訳無いとは思っています。」

 永然は自分も落とした責任があるので文句を言うつもりは無かった。まだ話し出しそうな呂佳の気配に、黙って続きを待つ。

「ただ、今の僕はこの姿です。とても貴方の親ですよとは言えずに……。」

 嫌われてはいないと思うが、親として認めてくれるか自信がなかった。
 呂佳は家族愛がどういったものか理解していない。だけど那々瓊には親として認めて欲しかった。
 
「…気持ちは分かるが、言っても構わないと思うぞ?」

 永然は那々瓊の教育者としての自負がある。
 小さい頃から珀奥がどんなに美しく気高く強い神獣だったか教え込んだのは永然だ。
 永然にとって珀奥は唯一無二の親友だった。
 だから分かる。
 那々瓊は喜ぶだけだと。

「そ、そうでしょうか?いえ、黒いからと嫌悪はしなかったのですよ?耳を舐められたし、尻尾も触られたし、匂いも嗅がれて、若干恥ずかしかったのですが……。普通に接してくれて。」

「は?いや、それはほぼ……。」
 
 求愛行動じゃ……………。
 言いかけて口を紡ぐ。
 呂佳は那々瓊の事を我が子と思っている。しかし那々瓊の行動は親にするには逸脱している。それ普通じゃない。
 言っていいものだろうか?
 永然だって誰よりも長く生きているが、恋愛経験は皆無だった。
 珀奥も千年以上生きているが、家族も恋人も作らずずっと一人で生きていたような狐だ。
 普段の那々瓊は落ち着いていて思慮深い筈だったのに、どうも呂佳に対して態度がおかしい気がする。

「何ですか?」

「いや、俺はその黒毛は綺麗だと思う。艶があって今の呂佳の静かな神力によく合っている。だから那々瓊もそう感じているんじゃないか?」

 そうでしょうか、と呂佳は自分の髪を摘んでしげしげと見ていた。

「それよりも、無理矢理俺を起こしたからには、何か聞きたい事があったんじゃないか?」

 呂佳はハッと顔を上げた。
 
「そうです!その那々瓊が朝露の神力に侵されているので、上書きしたいんですが、今の僕では神力が足りませんので、永然の知恵を借りようと思って。」

 永然は入っていた布団からのそのそと這い出て、床に足をつけた。

「ふむ、だろうな。いい案がある。」

 呂佳は流石、永然だ!と顔を輝かせた。















 
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