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32 比翔の想い
『ねえ、比翔。天凪様は、あたしの事、どう思ってるのかな?」
銀色の髪に紫色の瞳の少女が、そう比翔に尋ねた。
銀の耳はピコピコと動き、尻尾は機嫌良く上にあがっているので、機嫌は良いが不安が少々といったところだろうか。
自分はいつも「側におくくらいだから好きなんじゃない?」と返事をしていた。
本当の事は言えなかった。
天凪はお前の事これっぽっちも好きじゃない、なんて。
比翔は知っていた。
青龍宙重から聞いた事があったのだ。
龍は龍同士、誰に執着しているのか分かるのだと。龍は個体数が少ない。そして寿命も長いので、お互い伴侶にしたいと思う程の人物を被らせないよう注意しているのだと言っていた。しかも龍人は一生に一度だけしか伴侶をつくらない。
応龍の執着は誰にあるのか知っているか?と聞かれて、最近誕生した天狐では無いのかと返すと、違うと言った。
霊亀永然だよ。
永然と天凪は親と子の関係だ。
単なる親子だろうと思っていたのに、違うと宙重は笑っていた。
龍は相手が今どこに居るのか、何をしているのか、常に知りたがる。その矛先がどこに向かっているのか見ていれば分かると宙重は言った。
そう言われて見ていれば、確かに永然の周りには雨が多かった。
霊亀領には大気に水分が多い。
雨は降り霧が立ち込める。
成程、と思った。
だから銀狼が入り込める隙は無いのだ。
銀狼の寿命は短い。
その理由は魂が異界の存在だからだ。
無理矢理こちらに連れて来ているので、神力は高いが魂の疲弊が激しく直ぐに死んでしまう。
もって五十年。
何度、諦めた方がいいと言いそうになったか。
誰かと一緒にいたいなら、僕が一緒にいてあげるのに。
恋人にも、伴侶にもなってあげるのに。
銀狼が神浄外で長く生きる為には、こちらの存在と伴侶になればいい。
魂が結び付き、伴侶と同じ寿命を生きられるようになる。
僕なら神獣だから、ずっと一緒にいられるのに……。
ねぇ美晴、あんな龍のことなんか諦めたらいいのに。
美晴はずっと死ぬまで天凪の事を想っていた。
最後あたりは好きだと、伴侶にしてと泣きついていた。
天凪はやんわりと笑って交わすばかり。
肉体が死んで、魂を異界に戻す役割は僕の仕事だ。
いつもそうだ。
銀狼と一生を生きようという存在は意外と少ない。
何かが相容れないのだ。
きっと魂が異界と神浄外のものとして、繋ぎ合わされないのだと思う。
だから銀狼を親とする霊亀と玄武の代替わりは、なかなか成されない。霊亀に至っては神獣八体が片親になるので、それこそほぼ無いと言ってもいいくらいだ。
『憎い……!悔しいよ……………。あたし、なんで神浄外に来たのかなぁ……。』
銀狼を選ぶのは霊亀だ。何故きたのかなんて僕にも分からない。
君が僕を選んでいれば、君はずっと神浄外にいて、僕の伴侶として次の霊亀を育て、永然は霊亀の役目から降りていなくなる筈だったんだ。
選んだのは君だよ。
『でも、あたしは天凪が好きだったの。』
そうだね………。
応龍は銀狼を育てる役割がある。だからか銀狼の最初の初恋は天凪が多い。
男だろうが女だろうが、皆揃いも揃って天凪だ。
そして皆んな天凪に捨てられるように寿命が尽きていく。
そんな銀狼の魂達を、僕は異界に帰して行く。
僕はあまり人付き合いは好きじゃ無い。
そんな僕に、美晴は何故か優しかった。
だから今までのどの銀狼よりも、美晴には生きてて欲しかった。
悲しいよ。
僕も悲しい。
さようなら、向こうに帰れば君は新たに転生して、神浄外の事は全て忘れる。
だから大丈夫だよ。
異界の不思議な世界へ、僕は美晴を連れて行く。
『ねぇ、比翔………。もし、あたしが……。』
僕は美晴の言葉をこの時聞いてはいけなかったのかもしれない。
あれからどのくらい経つだろう?
永然が銀狼の魂を探しに異界に行ったのを感じた。
いつもは直ぐに探してくるのに、今回はやけに長かった。
足りない神力を天凪に貰ってまで何度も往復している。
異界と神浄外の間にある、何も無い空間に、永然が魂を二つ持って来た。
一つは本当に異界の魂。
そしてもう一つは光り輝く神浄外の魂。
比翔は知っていた。
霊亀と玄武は繋がっている。
今何をしているのか、何となく分かる。
永然はよく珀奥の暮らす山に行っていた。
珀奥の神力が妖力に変わり、永然がよく嘆いていたのも知っている。
助けたいと、どうやって助けるかを考えていたのも知っている。
永然が大切な応龍は、過去の銀狼の事なんかこれっぽっちも思い出さない。
応龍の思考は良く分からない。
神の言葉を伝え、まるで神の人形のように微笑み続ける。
そんな応龍が唯一大切にしている永然が、嘆き悲しんでいるので、応龍は手を貸すのを躊躇わない。
いいな、お前らは。
そこにどんな感情があるのか知らないけど、思い思われているのは事実だ。
永然が天狐の魂を異界に流し、連れ戻そうとしているのも知っている。
神の神託により銀狼が迎えられる。
討伐対象が誰かお前らは知っているのか?
応龍が全てを見れるのは神浄外の中だけ。
霊亀が見れる未来も神浄外の中だけ。異界ではほんの少しだけ大量の神力を使えば見れるだけ。
神の流した未来視には、妖魔の生命樹から大きな妖魔の卵がなり、その卵から凶悪な妖魔が生まれるというモノだった筈だ。
僕にも同じモノが見えるから、知っている。
でもその卵の中から出てくる妖魔が、誰か知っているか?
お前達を呪った存在だぞ?
いや、知っているのかもな。
きっと天凪は見た筈だ。僕が執った行動を。
僕はもう神に従わない。
だって未来視なんて神が敷いた道筋なだけだ。従う必要なんてない。
だから、後悔はない。
神は新たなる霊亀の誕生を望んでいる。
でも神は分かっていない。
永然が死んだら天凪も死ぬ。
それはそれで僕の望む形ではあるけど、どうせならもっとかき混ぜたい。
神の用意した未来視なんてぶっ壊す程の未来にしたい。
永然は金の枝を用意している。
あの枝を折る?
いや、それはダメだ。神の未来視には珀奥の存在はいなかった。いなかったと言う事は、神は珀奥の存在を認めていない。
永然が連れ戻そうとする事実は認められていないのだ。
と言う事は、自分がここで邪魔をしたらダメだ。本来は同じ未来視をみた僕が止めるべき事柄だろうけど、ここは敢えて珀奥に蘇って貰おう。
でも僕は永然と天凪が嫌いだらから、思い通りにもなって欲しくない。
誰がこの流れをかき混ぜてくれる?
…………白虎達玖李はどうだろう?
あまり永然と天凪には関係ないけど、珀奥には少々思うところがある筈だ。
だって巻き込んだ宙重を一番気にかけているのは達玖李だ。
何かしてくるかも。
そうして巻き込んだ達玖李は、珀奥に黒の枝を渡すと言う。
だったら珀奥が金の枝で間違って生まれないように、違う魂にちゃんと持たせないとね。
そうしてもう一つ適当に彷徨っていた魂を提示した。まだ身体に魂の尾がついてるけど、珀奥が金の枝を手放せばいいだけだから、どちらでも構わない。代わりに金狐として生まれてくれればいいだけだ。
今や神の用意した未来視は外れまくりだ。
ざまぁみろ。
さあ、未来は見えなくなったよ。
そのうち銀狼の勇者万歩が、君の所に辿り着く。
その時、一緒に復讐しよう。
君の悲しみを、分からせないと。
銀狼の君を蔑ろにした罰を与えよう。
ね?
美晴。
比翔はいつも被っているフードをとった。
焦茶の髪に濃緑の瞳は永然と逆だが、神力の違いから、永然程煌めいてはいない。
比翔としてもあんなにキラキラするのは御免被る。
ここは巨城の一角。
天凪に呼ばれて応龍の地にやってきた。
広々とした広間にはゆったりと応龍が座り、その後ろの窓辺に霊亀永然が腕を組んで佇んでいた。
「何故、異界から生きている魂を持って来た?」
天凪が問いかけてきた。
何故って、お前にムカついたから?
「………比翔、このままでは玄武としてもいられなくなるぞ。」
永然の表情は暗い。
僕がフードをとったからだろう。
現れた髪の一部と片目が黒くなっているので、僕の身体が妖魔に変わろうとしている事が一目で分かる。
「いいよ。そうしたら僕はもう銀狼を異界に戻す必要が無くなる。」
皆んな悲しい目をして帰っていく。
誰か一人でも晴々と帰ってくれたら良いのに、心残りだらけで寂しそうに遠くを見てる。
「比翔、今回の銀狼は神獣八体が伴侶になる。万歩は異界に戻らない。」
「永然っ!」
珍しく天凪が焦った声を出す。
昔、宙重が教えてくれた通り、天凪は永然が大切なんだなと納得出来た。
「ははっ、天凪がそんな風に慌てる姿なんて、初めて見た。そんなに嫌なんだ?」
僕の揶揄いに天凪は目を細める。
神力が溢れ、僕に圧力を掛けてきた。
「万歩には伴侶は必要ない。選ぶ事もない。」
「ふぅん、そお?でも最初の未来視では銀狼が神獣から伴侶を選ばないと、全滅だよね?」
妖魔の卵は銀狼の勇者とその伴侶の手によって討伐される。銀狼が伴侶を選ばなければ全滅。ただの暗闇が広がり終了だ。その後がどうなるのかは分からなかった。
それは永然も僕も同じものを見た。
僕達はどちらも暗闇の中で息絶えるのだという事だと思っている。
だから永然は銀狼が誰か神獣と伴侶になる事を望む。
天凪は例え神から全滅だと示唆されていても、それでも新たなる霊亀の誕生が許せないのだろう。
「ま、どっちでも良いよ。」
銀狼が伴侶を選ぶとしよう。永然の役目は次の霊亀に移って、永然はいなくなる。
そして天凪もいなくなる。
龍人はコイツと決めた存在としか伴侶にならない。伴侶が死んだら一緒に死んじゃうくらい繋がりが強い。絶対、永然がいなくなったらお前もいなくなる。
仮に銀狼が伴侶を選ばないとしても、全滅するだけだ。
それはそれで望み通りでもある。
「比翔、何を考えている?」
永然が尋ねたが、僕はそれに答えるつもりはない。
僕はお前達を妖魔の生命樹の下に連れて行きたいだけだ。
そう、約束したからね。
僕はニコリと笑って自分の領地に飛んだ。
獣人も、獣も、生きている存在の少ない北の地へ。
風が吹き荒び、氷の降る何もない大地へ。
そんなに心配しなくても、大丈夫さ。
どっちに転んでも、僕と美晴の望む世界が待っているだけだ。
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