転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!

黄金 

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36悪役令息に金色の尻尾を


 雪代は霊亀永然に呼び出された。
 呼ばれて行った先には、金色の狐獣人が待っていた。朝露だ。
 久しぶりにその姿を見たけれど、以前とは違い酷く弱々しく見えた。
 今日は晴天で外は明るい。
 灯りのない室内は微妙に薄青く、開け放たれた窓の外は対照的に白く明るく感じた。

「ふふ、本当に雪代っぽく無い。」

「あ?」

 俺はずっと雪代だ。
 朝露もだいぶ大人びていた。
 子供っぽく喚き散らす印象があったのに、一皮剥けた感じがする。

「最後に悪役令息とちゃんと話がしたかったんだ。」

 雪代と朝露は同じ里の生まれながら、ちゃんと面と向かって話した事はない。
 いつも朝露が上から雪代を見下ろしていた。五つも年下のくせに、朝露は里では長達よりも発言力があった。
 そんな朝露の所為で俺は里を出た。
 
「ふーん。なに話したいわけ?」

 朝露の今の状況を知ってる身としては、あまり無碍にも出来ず、何故俺を呼んだのか聞く事にした。
 
 朝露は昔の話だよ、と言う。
 
 



 朝露の前の名前は愛希。
 一人っ子で割と良い家で、可愛がられて育った。
 自分の好きな事が罷り通るもんだから、我儘だったと思う。
 だから友達が出来なかった。

 クラスの中に目立つ子供がいた。
 背が高くて、頭が良くて、運動神経のいい伊織。
 顔もかっこよくて、愛希には縁のない子供だった。
 そんな子が周りの子供達に虐められていた。愛希じゃなく、伊織が。上にいた子が自分と同じ位置に降りて来たのだ。
 仲良くなれるかも知れないと思った。
 でも伊織と話してて、もしまた自分が虐められるようになったら?クラスの大半の男子は今、伊織の方に夢中だ。それがもしまた、愛希の方に戻ってきたら?
 そう思うと怖かった。
 愛希は男だけど小さかった。
 女みたいだとよく言われた。
 伊織みたいに暴力とかは無かったけど、言葉の暴力は酷かった。
 同じ位置にいる仲間として、仲良くしたい。一緒にいたら虐めも減るかも知れない。だって伊織は頭が良くて、身長も高い。
 守ってくれるかもしれない。
 そう思ってもなかなか勇気が出なくて近付けなかった。
 そうこうして日が経つうちに、伊織と望和が仲良くなっていた。
 伊織があんなに楽しそうにしているのを初めて見た。
 いつもは大人びて見えて、先生にだって頼られる子供なのに、望和の前では普通の子だった。

 早く話しかけたら良かった。
 一緒に虐められる事になっても、僕が先に気付いてたんだから、先に仲良くなれたかもしれないのに!

 僕はそれから一生懸命伊織達に引っ付いた。班行動とかも一緒にしようって頑張って声を掛けて、二人からは友達だと思われる様になった。
 我儘ばっかりで怒られてばっかりだったけど、二人は基本優しいから、必ず助けてくれる様になった。

 伊織はどんなにモテても、彼女が出来ても、一番優先しているのは望和だった。
 神浄外に来ても、最初は僕に騙されたけど、途中で気付かれて、やっぱり望和の方に行ってしまった。
 望和が羨ましくて、妬ましくて、意地悪ばかりしたのに、望和には全然効かなかった。
 望和は最初、薄汚い黒狐だったくせに、青龍隊に入って暫くして会うと綺麗になったように感じた。
 名前も黒から呂佳って、いつの間にか変わってるし、悪役の雪代が近くにいて、神獣達と仲良くしてて、僕が仲良くするのと全然違う。
 特に麒麟のべたつき方が酷い。
 達玖李に言われてずるいやり方で引き剥がしても、拒否されるし、達玖李はやられちゃって、何でかまた綺麗に成長した呂佳に那々はくっついてるし、僕が悪役になってしまった。
 
 じゃあ万歩はきっと呂佳の一番になれてないはずだって思っても、万歩は万歩で雪代と仲良くなっていた。
 僕が引き篭ってて万歩が心配して話し掛けに来ても、雪代がよく迎えに来てた。
 雪代は青龍の領地に戻っても、万歩と手紙のやり取りをしてた。
 万歩の、伊織の一番には、神浄外ここでもなれなかった。
 ゲームみたいに主人公にもなれなかった。
 神獣達にも相手にされなかった。
 僕は何処に行ってもどーでもいい配役なんだ。
 モブだよ。そして退場だ。
 

 万歩が神殿で聖剣月聖げっしょうを授かったから、近々神浄外の外に出て妖魔討伐するんだって報告に来た。
 その前に異界に帰った方がいいって、永然に言われた。
 この身体はどーなるの?って聞いたら、死体として土に還すって言われた。
 この身体の神力を、神浄外に戻すんだって。
 元々は呂佳の身体だったんだって。
 確かに僕邪魔したしね。望和があのまま金の枝を受け取ってたら、どうなってたんだろうね。
 でも呂佳は今の身体があるから、この身体は土葬するって。
 だったら雪代呼んで下さいってお願いした。
 ちゃんと永然の許可をもらった。
 僕達の近くで見ている。
 多分、僕の希望通りにしたら、直ぐに異界に送らなきゃになるからって。

 伊織にも望和にも、さよならは言わない。
 惨めで悲しくなるから。
 でもこれは有効利用した方がいいかなって思ったんだ。




 朝露はいつもは垂らしている長い金髪を、キッチリと横に結んでいた。
 雪代を見て微笑む。
 
「?おい、大丈夫か?」

「………何が?」

「……いや、わかんねーけど……。」

 その存在が儚く感じる。
 あの朝露が。我儘で、主張が激しくて、人の都合を考えない朝露が。

「雪代って…………、万歩の事、好きでしょ?」

「へぁ!?」

 雪代の顔が赤く染まる。尻尾を忙しなく振ってしまう。
 雪代は肌が白いので直ぐに赤くなる顔が好きじゃ無かった。だから万歩の前では特に心を動かされない様にしていた。耳も尻尾も揺れない様に気を付けていた。

「急に指摘されると出ちゃうよね。」

 笑いながら朝露は自分の金の尻尾を無造作に掴んだ。
 手には小振りの剣。
 ザクン、と鈍い音がした。
 朝露が小さく呻いて膝をつく。

「いったぁ~~~~!誰だよ!?尻尾は痛みが少ないって言ったの!」

 朝露らしく文句を叫んだ。

「お、おい!?何で尻尾切ってんだよ!」

 朝露はフラフラと立ち上がり、近付いた雪代へ無造作に金の尻尾を渡した。

「はい、これ。」

 雪代の腕の中に狐の金の尻尾が収まる。

「へ?え?なんで、お前の尻尾!?」

「あ、これも。」

 ザクっと横に纏めていた金の髪も根本ギリギリから切ってしまった。
 その為に横に流してばらけない様にキッチリ紐で纏めて結んであった。

「土に還すなんて勿体無いから、雪代にあげる。」

「………なん、で、俺?」

 朝露は笑顔を浮かべた。
 俺の心底驚く顔を見て、嬉しそうにしてやったりと笑っていた。

「だって、この世界は神力が一番じゃん。土にやるくらいなら、万歩を助ける為に雪代が使ってよ。…………好きなんでしょ?ついていくんでしょう?万歩は残って欲しいって言ってたけど、雪代は心配だからついて行くでしょ?」

 僕は何処に行っても一人で、僕を選ぶ人はいない。
 万歩は雪代を選んでる。
 雪代も万歩を選んでる。
 さっさとくっつけよ、ばーーーーか。
 と言うのは言わないけどね。

 意識がフラフラする。
 神力がゴッソリと抜けたのだ。
 身体が維持出来なくなってきた。
 元々もうこの金狐の身体に宿るにはギリギリだった。
 だから神力を全部尻尾と髪に入れて、切り離した。

 永然が朝露の手を繋ぐ。
 綺麗なコーヒーみたいな色。
 底が見えない濃い茶色。なのに透明で綺麗なんだ。

 朝露は笑って目を閉じた。
 何度も雪代が名前を呼ぶけど、もう目は開けないよ。開けれないし。
 悪役のくせに優しいとか、あの未来視全然当たってないじゃん。
 嘘つきゲームに騙された。

 永然の声だけがハッキリと聞こえる。

「行くぞ。」

 うん、よろしく。
 
 僕は、これから未知の世界に行く気分だよ。
 さようなら、伊織、望和。









 僕は目を開けた。
 いや、開いていた。
 目の前には桜の花が見えていた。
 風は少し冷たくて、不思議な気分だった。
 だって予想では寝たきりで、起きたらベットの上で、ずっと寝てたから身体は動けないかもとか、痩せこけてるかもとか予想してたのだ。
 手を上げると自分の手のひらが見える。
 横から聞こえる女性の声に聞き覚えがあった。覚えていたのはもう少し高くて若かった声だけど、お母さんの声だ。

「………愛希?」

 少し、じゃないか……、かなり老けたお母さんが泣いていた。

「お母さん?」

 愛希!愛希っと何度も泣いて名前を呼ばれた。
 僕はずっと起きてはいても意識が無いような、ぼんやりした状態だったらしい。
 身体は動くけど、呼んでも返事しなくて、少しでも刺激になればって、両親は外に連れ出していたんだって。

 凄く迷惑をかけていたし、心配もかけていた。
 

『とりあえずさ、高卒にはなってた方がよくね?確か、通信制の学校ってあるんだよな?もしくは定時制?親がどうなってるかなんて分かんないしさ、自分で学費も稼がなきゃかもしんねーよな。』

 
 ホントにね。
 万歩の言う通りだ。
 予想よりは両親も元気で、僕の身体も寝たきりじゃ無かったから、まだマシだけど、これからを考えなきゃだよね。

 僕の年齢三十歳超えてたよ。
 泣けてくる。
 僕、頑張るよ。
 何したらいいか分かんないから、万歩の助言通りやってみるよ。
 まずはアルバイト探して、通信制の高校が何処にあるのか調べるよ。
 お父さんもお母さんも、そう言ったら凄く喜んでくれたよ。

 とりあえず、やんなきゃだよね?

 目の前にある薄桃色の桜を見るたびに思い出しそうだ。
 永遠の別れって、悲しいね。
 








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