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番外編
56 桜は毎年咲くから①
あの日、こっちに戻った日、桜を見たら思い出すだろうとか考えてしまったから、悲しくなるんだろう。
目の前に散らばるピンク色の絨毯も、写真撮ってる人達も、酔っ払いも、カップルも、一つの風景として僕の中にインプットされてしまった。
この景色を見たら涙が出るんだって。
「伊織、望和…………。」
だからこの涙はしょうがない。
勝手に落ちるんだから。
うーん、どれだろう?
愛希はキョロキョロと見回したが、目的の物が見つからない。
ここは某所にある寺所有の墓地だった。
愛希が神浄外からこちらに戻って一年が経った。
戻った時の愛希の年齢は三十二歳。
そこから両親に手伝ってもらいながら生活環境に慣れ、同時に九月から入学できる通信制の学校に入る事にした。
一年が経ち生活や学校にも慣れ出したので、そろそろアルバイトをしてみたい…。という思いもあるが、怖くて動けない。
両親はまだまだ家でゆっくりしていたらいいと言ってくれるけど、流石にこの年齢では親に甘えた生活も駄目な気がしてくる。
万歩の学校に行って高卒資格取って仕事する、という言葉に従って頑張ってはいるのだが、元々愛希は頭が良くない。
これが伊織だったら楽勝だろうになぁと思いながら、気晴らしに外に出てみる事にした。
それが御墓参りだった。
まず伊織の実家に連絡してお墓の場所を聞いたら、是非来てくれと言われて尋ねた。
高校の時はよく泊まりに行っていたので、おばさんは覚えていて歓迎してくれた。
ああ、伊織の両親も老けたなぁと思いながら、少し仏壇の前で談笑してお墓の場所をメモで貰った。
仏壇には高校生の笑っている伊織の写真が飾られていて、じんわりと涙が出てしまった。
伊織と万歩の顔は全然違うがどっちもイケメンなのに変わりはない。
もう会えないんだなぁと思うとまた悲しくなった。
場所はそう遠くなかったので花を買って御墓参りは無事終了した。
次に望和の家に電話したのだが…。
なんとも言い難かった。
一応両親兄弟みんないて、実家には両親とお兄さん夫婦がいた。しかも一番下の弟もまだ結婚せずに一緒に住んでいた。望和にとっては甥っ子姪っ子になるお兄さんの子供が四人もいて騒がしく、多めに買って行った菓子折りが一瞬で無くなった。
愛希の家より小さな家に九人家族。
凄いと思った。またどの子か分からないけど、望和みたいに物置き部屋を私室にして住んでいそうだなと思った。
過去に死んだ望和の事は、彼等にとっては遠い昔の事のようで、態々どうも、という感じだった。
お墓は割と遠い場所にあるお寺だったので、次の日に行く事にした。
そしてそのお墓を探しているのだが…。
「最近の墓って変わってる…。」
愛希のイメージでは、お墓とは長方形の縦長の石に何々家と苗字が彫られている物だった。なのに、ところどころに変な墓石がある。
丸とか?花とか?動物とか?
アート?
門柱っぽいのに苗字があったりするので、それで確認したりして手間が掛かる。
どーしよう…。お寺の方に戻って場所を聞く?
結構広い墓地なのでそれはそれで面倒臭さを感じるけど、見つからないので聞くしかない。
案内しますよーという住職さん?の言葉を有り難く受けとけば良かった。
うーん、うーんと唸る愛希の後ろから、あのー…という声が掛かった。
「え?…あ、はい。僕ですか?」
後ろには短く整った黒髪に、塩顔の青年がいた。歳は同じくらいだが、身なりがいい。イメージ、スーツを着たサラリーマンが似合いそうだけど、今は生成りのシャツに綿パンの爽やかそうな私服だった。
「もしかして、兄の…望和の友人の愛希さんですか?」
落ち着いた話し方と声にハッとする。
「あ、はい。そうですが。」
良かったと少し笑った表情に見覚えがあった。とてもよく似ていた。
「俺は望和の直ぐ下の弟の杜和です。」
ああ、やっぱり、と思った。
雰囲気がよく似ていた。
杜和が案内したのは丸い墓石が置かれた場所だった。さっきから目の前を何度もウロウロしていた。
ぜんっぜん分からん!
「分からなかったでしょう?元々は角が欠けた古い墓石だったんですけど、使用料も払ってないし放置してたしで、俺が働き出してから作り変えたんですよね。だから管理してるの俺なんです。最近入ったのも望和兄ちゃんだけで、両親は関心なさそうだし、入れたら終わりって人達なんで。」
「あー、なんかわかる。」
家にお邪魔した時も、なんで行くんですか?と聞かれたくらいだ。わけわからん。
「良かったです。兄にもし誰か御墓参り行く人がいたら教えてって言ってたので。一応覚えてたみたいですね。どうせなら連絡先も交換しててくれたら良かったんですけど、ちょうど会えて良かったです。」
「本当にね。全然分からなかったよ。」
そうやって説明しながらも、杜和は手早く線香を用意してくれた。
ベンチみたいに置かれた石の椅子の下が蓋になっていて、そこにあるらしい。
態々火をつけて渡してくれる気の利き方。
あー望和だわ~と思った。
手をあわせて無事お参りが出来た事にホッとする。
中には望和の身体が入っているんだろうけど、魂は神浄外にある。それでも一度はちゃんとお参りしたかった。
もう会えない二人に、何か繋がりが欲しいのかもしれない。
未練たらしいよなぁ。
今でもアレは、二人に生きていて欲しいと願った自分が作った空想の世界なんじゃないかって、思ってしまう日がある。
何もないのだ。
記憶しか。
「愛希さん、目が覚めてたんですね。」
丸い墓石を見ながら考え込んでいると、静かに待っていてくれた杜和が話し掛けてきた。
「……あ、ごめん。ぼーとして。うん、そう、一年前にね目が覚めたんだ。」
そこから線香の火が消えるまで二人で喋っていた。
両親と暮らしている事、通信制の学校に通っている事、アルバイトを探したいけど尻込みしてる事。
杜和の静かな雰囲気は話しやすかった。
「へぇ、通信制。毎日通うんですか?」
「んにゃ、行きたい人は行っていいけど、僕はこの年齢だしね。平均年齢十八歳って聞いて、オンライン授業希望した。流石に恥ずかしくって~。」
へぇ~と何やら感心して聞いてくれるので、ついついいろんな事を喋ってしまう。
「アルバイト、紹介しましょうか?接客業ですけど。」
「へ?」
柔らかく申し出てくれた杜和によって、僕のアルバイト先が決定した。
僕のアルバイトはコーヒーショップだった。大きなビルの一階がちょっとしたテナントになっていて、そこに小さなコーヒーショップが入っている。
杜和はここの常連さんでよく利用しているのだと言っていた。
マスターとは顔見知りでアルバイトが長続きしないと愚痴をこぼすのをよく聞いていたらしく、ちょうど良いのではと思ったらしい。
僕も学校のレポートを提出さえ出来ればいいので、昼間は思う存分出勤出来る。
なのでヨロシクオネガイシマスと頭を下げた。
コーヒーショップはデリバリーが多かった。ホットサンドやランチ弁当、日替わりのデザートもあるので、テナントで入っているビルだけでなく近くの会社なんかからも配達依頼が入る。
確かに美味しいので人気があるのも頷けた。
空いた時間に勉強してもいいと言われているので、割と自由に過ごせる。
会社員の仕事時間に合わせたショップなので土日祝日がお休みというのも楽だった。
逆に土日祝日にショップを開けていても、客が少なくて売り上げが上がらないらしい。
主力はランチ弁当とミーティングなどで大量注文されるコーヒーだった。
マスターはちょっと太めな女性だ。真由さんと言って、歳は三十歳ちょうどの歳下なのに、恰幅が良くて肝っ玉母ちゃんという感じ。シングルマザーで子供が一人いるのだが、仕事中は真由さんのお母さんが見てくれているのらしい。
「ふう、そろそろ店じまいしよっか。」
閉店は十八時。
ここはオフィス街なのであんまり遅くまで開けていても人がまばらになりすぎて、これまた売上にならない。
残業する人はいるだろうが、そういう人達が態々コーヒーを注文してくる事も少ないらしく、十八時閉店がいい時間なのだと言っていた。
「はい、お疲れ様でした。」
マスター以外は皆んなアルバイトだ。
こんじんまりとしたこのコーヒーショップは居心地が良かった。
杜和君に良い所を紹介してもらえて良かったなぁ。
愛希はずっと起きてはいても意識のない状態でいた為、履歴書は真っ白だ。
訳ありなのにこんなにすんなり採用してくれたのは、杜和の紹介のお陰だった。
「はい、これ。今日昼間に杜和さん来た時残業って言ってたよ。余ったから持ってって。」
真由さんがカップに入ったコーヒーを二つ渡して来た。
「良いんですか?」
「ん、いーよいーよぉ。」
お礼を言って受け取る。真由さんはこの後少し帳簿付けして帰るので、先に挨拶をして出た。
今日は小雨が降って湿り気のある空気だった。今は降っていないけど、陽が落ちるのが遅くなったとは言っても、曇り空で外はもう薄暗い。
今は十八時半。
どのくらい人が残ってるか分からないが、愛希はエレベーターに向かって歩き出した。
愛希がいるコーヒーショップは裏口から出るとビルの中に直通になっていた。
社員ではないがちゃんと社員証が発行されていて、注文が入ると急いで持っていける仕組みになっている。
なので社員証が渡されるショップの人間はかなり厳選されている。
愛希は杜和の口利きでこの社員証をゲットする事が出来た。本来は一年以上働いて信用性を得ないとダメなものだった。
「いるかなぁ。」
金曜日の夕方。人はかなり減っていた。
裏口付近の守衛室で入る旨を告げて、エレベーターで上へ上がる。
杜和のいる階へ上がってくると、ガラス張りのドアの前までやってくる。
社員証を翳してピピっと軽い電子音が鳴ると、カシャンと軽く開く音がした。
両手にコーヒーカップがあるので、肩でドアを押して開ける。
カップには蓋がしてあるが、溢せば一大事だ。コーヒーの染みはなかなか取れない。
えっと、確か前に配達に来た時は……。
と思って見たが、杜和のデスクには誰もいなかった。
パソコンは点けっぱなしだし、書類やペンも出ていた。
いるのだとは思うが、休憩中?
とりあえず杜和のデスクにコーヒーを一つ置いた。
ショップのロゴが入っているので、どこのものかわかるはずだが、一応と転がっているペンを借りて自分の名前をカップの側面に書いておいた。
残念、帰ろう。
折角なら少し話をしたかった。杜和の丁寧で穏やかな話し方は落ち着く。
望和と一緒なのだ。
こちらが歳上と知っているからか、敬語で話し掛けてくるので特に似ていた。
あんなに心の中で嫌っていたのに、今はあの落ち着いた雰囲気が懐かしかった。
杜和と話していると、神浄外にいた呂佳はちゃんと実在していたのだと思える。
自分が幻を追い求めているわけではないと、思う事が出来た。
元来たドアを開けて外に出る。
エレベーターに向かっていると、小さく話し声が聞こえた。
あ、自販機の方かな?
廊下の端には自販機と休憩スペースがある。もしかしたらそこにいるのかもと思い愛希はそちらに近寄った。
「……………っあ、だっ……!………ぅっ!」
何か人の呻き声?叫び声?のようなものが聞こえる。
喧嘩かなと思いつつも少しだけと近寄ってみる。
警備員を呼んだ方がいいのかなと思ったのだ。
「!」
近寄って、柱の影からチョコッと覗いて愛希は驚いた。
そこには杜和と背の高い男性が抱き合っていた。
…というよりも………。
え?
ええ?
こんな所でセックスしてる!?
驚いて固まっていると、杜和の潤んだ瞳がこちらに気付いた。
目があってびっくりして身体を反転させた。
もう一人の男性は気付いていない。なるべく足音を消してエレベーターに走って帰った。
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