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番外編
64 新しい卵
聖苺によって玄武の地に降ろされた比翔は、荒れ果て氷の吹雪く大地を見回した。
手に持つ枯れた枝をギュッと握り締める。
黒に変わりかかった髪がバラバラと乱雑に巻き上がった。その髪が頬を叩き、視界を塞ぐ。
これは比翔が望んだ事だ。
望まれるがまま進んだから、こうなった。
美しかった花畑も、凪いだ水も、光のカーテンも、全て消えてしまった。
比翔が望んだから。
壊すのは一瞬だ。
簡単だ。
比翔は何も言わず進み出した。
ゴウゴウと吹雪く音が全てをかき消している。
幾日もかけて進み、目の前に闇が見えてきた。
大気が澱み、暗闇の中に妖魔が蠢く。
神浄外は元々丸い円だった。最近は弱体化した玄武と朱雀の所為で、北と南が弱まり、横長に広がる長丸になっていたが、比翔の所為で闇が内側へと侵略してお椀型になってしまった。
これを元に戻せと神は言っているのだろう。
比翔は一番内側のへこんだ所へやってきた。
闇は目と鼻の先だ。
比翔はもう玄武じゃないが、まだ玄武としての役割を課されている。
神核なしにどこまでやれるか分からないが、次の玄武が生まれて役目を熟せるくらいに育つまでは、比翔がやれという事だろう。
玄武の領地には誰もいない。皆逃げてしまったから。だから、単純に闇の進行を防げはいいのだと思う。
比翔は手に持つ枯れた枝を地面に刺した。
固く凍った地面にはなかなか刺さらず、ガリガリと削って無理やり刺す。
目を瞑れば美しい玄武領が見える。
過去の麗しき記憶。
この命を差し出して、元に戻そう。
それでもダメだったら、もう比翔には無理だ。
壊すのは簡単でも、再生するのは難しい。
びゅうびゅうと風が唸る。
「お前は僕の兄弟だろう?だから、もう一度、根を生やそう。僕と一緒に。」
ここに………。
比翔は地面に刺して、立てた枝を握り締め、神力を流し込んだ。
枯れる前に気付ければこの枝にも卵がなった。
この世に出してあげれずに申し訳ない。
代わりに、ここに、一緒に根づこう。
ミチミチと根が生え大地に緑が増えていく。吹雪の中に暖かな風が吹く。
比翔の脳裏には群青色の空と水。
緑の草原と色とりどりの花達。
雲の切れ間からさす光は温かく、そこには生きとし生ける小さな生き物達がいた。
鳥が飛んで虫が鳴く。
風が吹き花びらが舞う。
比翔の身体に根が絡まり締め付けても、比翔は夢見るように穏やかに目を瞑り続けた。
サクサクと草を踏んで、二人の人物がやって来た。
一人は黒と金の二色の天狐呂佳。もう一人は金の髪に瑠璃色の瞳の麒麟那々瓊だ。
目の前には立派に根を張り枝を伸ばした生命樹が一本。
呂佳が細い指をそっと伸ばして根本近くの幹に触れた。
そこには一人の人物が幹に埋まるように眠っている。肌は死んだように白く息もしていない。だが、魂はそこにある。
「………これは、仮死状態というものでしょうか?」
鼻の辺りに人差し指を当て、息をしていない事を確認してから頬に触れた。
かつての元玄武、比翔が眠っていた。
「永然様がここにちゃんと比翔の魂があると言っていたから、そうなんだろうね。そしてこれは生命樹なんだ。」
那々瓊の言葉に呂佳は頷いた。
ここに比翔の生命樹があると教えたのは天凪だ。
天凪は比翔の動きを監視していた。
そして未来視で比翔が取る行動を予測していた永然は、タイミングを計っていた。
比翔の生命が消えるギリギリの時。次の玄武が育つ時。比翔の生命樹が現れる時。
「良かったです。比翔が僕達の呼び掛けに応えてくれて。」
「そこは永然様がしっかりと視ただろうからね。」
比翔は我が身を生命樹に変え、根を生やし神山となる事で闇を押し留めていた。
神の山になれば、神の力により神力が溢れ、これ以上闇が広がってくる事を防げると考えたのだろう。
だからって自分を生命樹に変えるなんてと、呂佳は悲しくなった。
もっと誰にでもいいから、一緒に闇を抑える手助けを求めればいいのに、比翔の取る行動は一人でやる事だった。
一人で出来るのならそれでいい、誰かが手伝ってくれる事なんて無いとでも言いたげな、そんな孤独。
なんて不器用な心だろう。
「さあ、卵を成しましょう。」
呂佳は那々瓊へ手を伸ばした。
これは生命樹。呂佳と那々瓊という伴侶が、子を成すために望み呼び出した神山の樹だ。
那々瓊は呂佳の手を握り指を絡めた。
グイと引っ張り身体を押し付けて、眠る比翔の隣に呂佳を押さえつける。
「ちょっ…、何するつもりですか?」
「ふふーん。」
ご機嫌な那々瓊が顔を近付けてきた。
呂佳の顎に指を添え、口の中に親指を入れてくる。
「んむぅ!」
琥珀色の瞳が避難がましく那々瓊を睨むが、その威力はほぼ無いに等しい。近距離で覗き込んでくる瑠璃色に、呂佳は瞳を潤ませた。
「舐めて?」
短い懇願に、呂佳はフルっと震える。
那々瓊の空いた方の片手は腰に伸ばされ、九本の尾の付け根を掴んで指で撫でていた。
ジッとお互い視線を合わせたままチュッと指を舐める。
「んん……。」
指を入れたまま口付けてきた。舌がヌルッと入り口の中を舐めていく。那々瓊の親指が入っている所為で涎が垂れて顎を流れていった。
「呂佳、色っぽいね。」
涎を垂らしているのに何を言っているのか…。でも呂佳の下半身は熱を持ってしまった。そして密着した身体から、那々瓊のモノもゴリっと固く押し付けられている。
「………まさか、こんな所でやりませんよね?」
那々瓊がクスクスと笑う。
服の中に手が忍び込み、呂佳のお尻の間を撫でていた。
「呂佳も期待してるでしょ?」
ツプンと指が後孔に入ってしまう。
昨日の夜も愛し合った所為だ。
ここは外で神山だ。神山で生命樹を見つけて枝を授かり持ち帰る人はいても、その場で性行為をする人はいるのだろうか。
「………一回だけですよ?卵が成ったら終わりですよ?」
「いいよ。呂佳も期待してるって事で嬉しいな。」
那々瓊が艶然と笑う。
呂佳はすっかり快楽に弱くなってしまったなと顔を顰めた。自分でも止められないのだ。
那々瓊は呂佳の服を緩めて下半身を出す。でも下着もズボンも中途半端に足に掛かったままだ。
片足だけ脱がされて抱え上げられた。
入れていた指を抜かれて、代わりに熱くて太いモノが入ってくる。
「ああぁぁぁっ……!」
いつもと違う角度にゾクゾクと背中が震えた。
思いっきり奥まで一気に入ってくる。ピリピリとした刺激は那々瓊の神力特有の刺激だ。そんなものまで気持ち良く感じ、呂佳のそこはすっかり那々瓊を覚えてしまった。だから抵抗なく根元まで入ってしまう。
昨夜広げられた奥の奥も、クプウと通ってしまった。
「…はっ………、気持ち…い……はぁ……。」
那々瓊の低い喘ぎ声が聞こえて、堪らなく嬉しくなる。
「ぁ………あ、…ん、ん……あっ、あんっ…あっはぁぁんんーーー!」
グチュんグチュんと回されて、呂佳は堪らずビュビューと射精してしまった。
上げられた片足は那々瓊の片腕に抱えられている。凄く苦しい体勢なのに気持ち良い。
「あっ、那々っ、ななっ!きもちいい…っ!」
「んっ、わた、しも……いいよ……ろっか、呂佳っ。」
那々瓊の精液が腹の中に放たれる。神力が流し込まれ、呂佳の中をパチパチと弾きながら回って混ざり合った。
「…ぁ、ひっ………。」
混ざり合った神力は、呂佳から生命樹に渡り枝に集まった。
呂佳の上にあった一枝に、プクリと蕾のようなモノが出てくる。
ぷくうと膨れて一つの緑色の卵が実った。
「…わ………、那々、見て下さい………。」
「ん、実ったね。」
呂佳が手を伸ばすと、その枝はポキリと折れて呂佳の手の中に収まった。
那々瓊がズルゥとまだ入ったままだった陰茎を引き抜くと、快感で呂佳の身体が震えて慌てて枝を抱き締める。
「ふふ。」
「んもう、わざとですね。」
呂佳が避難がましく文句を言っても、那々瓊は反省しない。いつもの事だ。
那々瓊が適当に帯の一つを使って呂佳と自分を綺麗に拭いて服を整えている間に、あったはずの生命樹は消えてしまった。
枝が落ちる前に卵を成したのには意味があった。
比翔の魂を卵に宿す。
その為にも、枝が落ちる前に生命樹の中にある比翔の魂を卵に移す必要があった。
生命樹が消えると神山も消えていく。
那々瓊が呂佳の手を引いて歩き出すと、景色は普通の森になり、ただの平原に変わった。
「上手く行ったようだな。」
そこには石に座る永然と、一人の少年が待っていた。
「その人が比翔さん?」
少年は焦茶の髪に深い緑の瞳を持っていた。
顔は美しく、少女と見間違える程だが、声は低い。
「ええ、僕の子になりますね。」
呂佳が嬉しそうに笑うと、永然も安心したように笑い返した。
「じゃあ、玄武領を綺麗にしましょうか。」
少年は歌うように微笑んで両手を広げる。
神力が溢れ、大気に玄武の力が満ちてくる。
十分に成長する時間をくれたのは比翔だ。
新しい玄武は比翔に感謝していた。
比翔のお陰で玄武の地は消えずに済んだ。お椀型だった大地は、いま平になっている。
これを丸くする。大気に大地に神力を満たして広げて行った。
「すまないな、呂佳、那々瓊。比翔を大切に育ててやってくれ。」
「勿論ですよ。」
呂佳はニコリと微笑む。
「あと、ここで卵を成すのは神力を混ぜ合わせるだけで良かったんだが?」
どうやら永然には生命樹の下でやっていた事がバレているらしい。
呂佳はえっとぉ~と言いながら視線を外す。
手に持つ緑色の小さな卵を大切に撫でながら、那々瓊を見上げた。
瑠璃色の瞳が嬉しそうに笑うので、開き直ることにした。
「申し訳ありません。もう自分でも止め方が分からないのです。」
開き直る呂佳に、永然は呆れた溜息を吐いた。
すっかり那々瓊に毒されてしまった。
呂佳だって愛する伴侶に夢中なのだ。
那々瓊が腰を抱いてくるので、呂佳は黒耳をスリッと那々瓊に擦り付けて甘えた。
「どんな子が生まれるでしょうね。」
慈しみを込めて卵を撫でる。
過去に麒麟の卵にそうした様に。
「きっと呂佳に似た金色の子が出てくるよ。」
「ふふ、それは那々瓊の希望でしょう?」
僕達は笑い合う。
群青色の空と湖が広がり、後方の霊亀領から鳥が羽ばたいてくる気配がする。
到着するまではまだまだかかる。
でも、ここが比翔の望む美しい花畑と森と水と光のカーテンが流れる景色になるまで、そう遠い未来じゃない。
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