Doubts beget doubts

朔月

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自分という名の悪魔

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 僕には兄弟が二人いる。
兄は医者になり、弟は教師になった。
兄弟の中で最も落ちこぼれだった僕は、地方企業に勤務していた。
だからといって、特に嫉妬心があったわけでもなく、憎しみがあったわけでもなかった。
兄弟仲も良く、今から一緒に飲みに行くところだ。

「久々に集まれたし、今日は俺の奢りだ!」

兄が楽しそうに言った。

「さすがひろにい!太っ腹!」

弟が嬉しそうにはしゃいだ。

「太っ腹を身体でも体現してるしな」

僕は笑いながらそう言った。

「そんなこと言ってると、今日のお前の分の飯が無くなることになるぞぉ」

兄が大笑いしながら言った。
その後しばらく世間話をした後に、僕らは居酒屋に入って長いこと飲んだ。

ーーーーーーーーーーーーーー

次の日、僕は出勤日だったので勤め先の会社に出勤した。
今日は取引先との会談があったので、昨日飲んだとはいえしっかりと準備をして行った。
そのおかげもあって会談は円滑に進んで、良い1日を送ることができた。
だが、兄弟達と比べたらさほどの業績でもないのでべつに誇れることではない。
それでも自分に褒美を与えたかったので、僕は一人で行きつけのバーに飲みに行った。

ーーーーーーーーーーーーーー

僕がいつもの席でカクテルを飲んでいると、突然マスターが話しかけてきた。

「あちらのお客様からです」

マスターは、僕に一枚の紙とガラス球を差し出した。
僕はその時、へぇ~こんなこともあるんだなぁとしか思わなかった。
差し出し主は全身喪服のような黒スーツで頭はスキンヘッドだった。
手紙には、

《家に帰ってからもう一度この手紙を開けて下さい》

とだけ書いてあった。
ただの悪ふざけかと思ったが、一応帰ったら見てみようと思い、店を後にした。

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家に着いて、もう一度手紙を開いた。
すると、驚くことに新たに一文が増えていた。

《ガラス球を覗いて下さい。》

僕は指示通りガラス球をみた。
なんと、ガラス球の中には閉じ込められた何かがいた。
何かの風貌は正に悪魔と言ったところだ。
以降、何かは悪魔としてよんでいく事にする。
悪魔は、僕に問いかけた。

「望むものは何か?」

僕は、数秒間唖然としていたが

「兄弟達に劣らない地位や名誉だ」

と答えた。

「了解した。しかし、代償は大きいぞ?いいのか?」

「叶えてくれるんだったら…」

僕は、兄弟達と肩を並べて一緒に笑いたかった。
だから、僕は兄弟達の足を引っ張らないように地位と名誉を望んだ。
どうせ、叶わない事だし…口にしても何も問題がないはずだ。
と、僕は思った。

ーーーーーーーーーーーーーー

次の日、僕は起きてからテレビをつけ、朝のニュースを見ていた。







『次のニュースです。今朝未明、切断された兄弟の遺体が○○川岸で発見されました。』







その事件の被害者の名前として映っていたのは、僕の兄弟二人の名前だった。

「うっうわぁぁぁぁあぁあぁぁあああああああぁあああぁぁぁぁががががががががかがががががが」

僕は思わず吐き出した。

「このクソ悪魔!お前のせいだろ!!」

「お前が望んだことだ。これで、お前の職業は兄弟に見劣りしないし、一番親孝行だ。良かったな」

「ふざけんな!僕は僕の地位を望んだんだ!こんなことがあってたまるか!」

「そうだよなぁ。でも、直接あいつらになんかしたのは俺だけじゃないぜ。」

「なんだよそれ…ふざけんなよ!」

「やったのは俺であり、お前なんだ。お前は自分の手を見て何も思い出さないのか?」

僕は自分の両手をみた。
赤い。
あかい。
アカイ。



そうだよなぁ…
元から悪魔なんていないんだよ。
全部俺が都合のいいように作った嘘。
虚偽。
幻想。
幻覚。
俺は、兄弟が憎かった。
嫉妬した。
仲の良い兄弟像も幻覚なのさ。
俺は、兄弟が大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで大っ嫌いで
一刻も早く殺したかった。
でも、俺自身の自制心は強すぎて、殺害欲が勝つことはできなかった。
だから、俺は僕と悪魔の二つの人格を作り出した。
そして、自分の行動を正当化した。
いや、俺の行動は正しいよなぁ!?
そうだよなぁ!!



僕は悪魔で悪魔は俺だ。
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