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5-5 ハッピー・ライフ・ゴースト

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 バベルがこっそりと耳打ちしてくる。
「こいつ、何か企んでるんじゃないか?」
「た、例えば?」
「……エルとリズがどこかに潜んでて、ぼくたちをからかうための、ドッキリを仕掛けようとしてるとか」
「ド、ドッキリですか……。そんなユーチューバーみたいなこと、しますかね……」
 そうはいいつつも、なきにしもあらずなバベルの読みに、ククルにも緊張感が走る。
「うちが四谷にあんなことをしちゃったのも、エルとリズに逆らえなかったからなんだ」
 トロンが、ぽつぽつと懺悔するように続きをしゃべりはじめる。
「エルとリズに〝四谷に悪夢サンプルを飲ませろ〟って言われて、断れなくてさ。四谷は、夜寝る前にいつもホットミルクを飲むことを知ってたから……うちのバク……アロマに頼んで、夢の力で四谷のホットミルクに悪夢サンプルを仕込んだんだ」
「なっ……バクの夢の力を、そんなことに使ったんですか!」
 怒りと驚きで、思いのほか大きい声が出てしまう、ククル。
 トロンの肩がビクリ、と震えたが、それでも言葉は止まらない。
「いや、私たちも夜、悪夢被害者の家に侵入するときに鍵を開けることはありますけど、それは正義の執行のため! 消防士と同じですよ。悪夢は月からおとずれる災害ですから。でも、他人への悪影響のために夢の力を使うなんて、夢見士としてあるまじき行為です。授業で習う、以前の問題ですよ」
 トロンの肩の震えが止まらない。
 泣いているのだ。
 トロンの頬からぽろぽろとこぼれ落ちた涙が、地面に丸い染みを作っていく。
「……わかってる。わかってるよ……。だからうち、もうこれ以上自分の気持ちに嘘をつけなかったんだ。四谷に謝りたい。エルとリズの言いなりなんて、もう嫌だから!」
「……これ、本当にドッキリ?」
「そんなわけないでしょう」
 バベルののほほんとした声に、ククルは静かに答えた。
「しかし、今まさにふたりから嫌がらせを受けている私に相談されても……グループからうまく抜けるアイデアが浮かぶとは思えませんよ」
「いいんだ。今日はとにかく、四谷のことを誰かに話したかった。四谷には近いうちに謝るつもり。まだ、どうやって謝ったらいいのか、わからないんだ」
「その答えは簡単です。今、私に言ったことをそのまま伝えればいいんです。悪夢サンプルを使って悪夢を見せてしまったことを……」
「えっ! 悪夢サンプルッ? 今、そう言ったッ?」
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