61 / 90
5-12 ハッピー・ライフ・ゴースト
しおりを挟む
「作れるよ。ほら」
キッチンに立った母親は、水切りかごに置いてあった包丁を手に持った。
確かに、幽霊なのに握れている。
包丁に母親の手の影は、映っていないけれど。
「えーと。材料は……冷蔵庫、何か入ってる?」
「あっ、ごめん。カットされたカレーの具材しか買ってない。あとは、カレー粉と牛肉だけ……」
「あらら。まったく。しょうがないんだから」
すると、母親は魔法使いのような手つきでパチン、と指を鳴らした。
冷蔵庫の扉が、ゆっくりと開いていく。
なかには入っているはずのない野菜や果物が、いろとりどりにつまっている。
魚まるまる一匹に、牛肉のかたまり、小麦粉にバターに、チーズ。
牛乳にオレンジジュースに調味料、のりの佃煮のビンに、福神漬け。
「うそ。こ、これ、本当に私の冷蔵庫?」
「あはは、入れすぎちゃったか。あとで、いろいろ作り置きしておいてあげる」
そう言うと、母親はどこからかひらっとエプロンを取り出し、つけ始めた。
グレーの生地にポケットがいっぱいついた、エプロン。
懐かしいと、思った。
母親が生前、お気に入りだったものだ。
小学生の時の私が、母親の誕生日にプレゼントしたものだ。
その日から料理をするときは、いつも身につけてくれていた。
「オレンジジュース好きだったよね。飲みながら、テレビでも見て待ってなよ」
「……あのさ」
私は母親の隣に立つと、ぼそりとつぶやくように言った。
「見てる。ここで。母さんが、料理するの」
「えっ。だって、いつもご飯作ってるときはテレビ見てたじゃん。急にどうしたの」
「急にどうしたのは、お母さんじゃん」
「ユミル?」
「急に、いなくなったっ」
キッチンに立った母親は、水切りかごに置いてあった包丁を手に持った。
確かに、幽霊なのに握れている。
包丁に母親の手の影は、映っていないけれど。
「えーと。材料は……冷蔵庫、何か入ってる?」
「あっ、ごめん。カットされたカレーの具材しか買ってない。あとは、カレー粉と牛肉だけ……」
「あらら。まったく。しょうがないんだから」
すると、母親は魔法使いのような手つきでパチン、と指を鳴らした。
冷蔵庫の扉が、ゆっくりと開いていく。
なかには入っているはずのない野菜や果物が、いろとりどりにつまっている。
魚まるまる一匹に、牛肉のかたまり、小麦粉にバターに、チーズ。
牛乳にオレンジジュースに調味料、のりの佃煮のビンに、福神漬け。
「うそ。こ、これ、本当に私の冷蔵庫?」
「あはは、入れすぎちゃったか。あとで、いろいろ作り置きしておいてあげる」
そう言うと、母親はどこからかひらっとエプロンを取り出し、つけ始めた。
グレーの生地にポケットがいっぱいついた、エプロン。
懐かしいと、思った。
母親が生前、お気に入りだったものだ。
小学生の時の私が、母親の誕生日にプレゼントしたものだ。
その日から料理をするときは、いつも身につけてくれていた。
「オレンジジュース好きだったよね。飲みながら、テレビでも見て待ってなよ」
「……あのさ」
私は母親の隣に立つと、ぼそりとつぶやくように言った。
「見てる。ここで。母さんが、料理するの」
「えっ。だって、いつもご飯作ってるときはテレビ見てたじゃん。急にどうしたの」
「急にどうしたのは、お母さんじゃん」
「ユミル?」
「急に、いなくなったっ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる