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5-12 ハッピー・ライフ・ゴースト

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「作れるよ。ほら」
 キッチンに立った母親は、水切りかごに置いてあった包丁を手に持った。
 確かに、幽霊なのに握れている。
 包丁に母親の手の影は、映っていないけれど。
「えーと。材料は……冷蔵庫、何か入ってる?」
「あっ、ごめん。カットされたカレーの具材しか買ってない。あとは、カレー粉と牛肉だけ……」
「あらら。まったく。しょうがないんだから」
 すると、母親は魔法使いのような手つきでパチン、と指を鳴らした。
 冷蔵庫の扉が、ゆっくりと開いていく。
 なかには入っているはずのない野菜や果物が、いろとりどりにつまっている。
 魚まるまる一匹に、牛肉のかたまり、小麦粉にバターに、チーズ。
 牛乳にオレンジジュースに調味料、のりの佃煮のビンに、福神漬け。
「うそ。こ、これ、本当に私の冷蔵庫?」
「あはは、入れすぎちゃったか。あとで、いろいろ作り置きしておいてあげる」
 そう言うと、母親はどこからかひらっとエプロンを取り出し、つけ始めた。
 グレーの生地にポケットがいっぱいついた、エプロン。
 懐かしいと、思った。
 母親が生前、お気に入りだったものだ。
 小学生の時の私が、母親の誕生日にプレゼントしたものだ。
 その日から料理をするときは、いつも身につけてくれていた。
「オレンジジュース好きだったよね。飲みながら、テレビでも見て待ってなよ」
「……あのさ」
 私は母親の隣に立つと、ぼそりとつぶやくように言った。
「見てる。ここで。母さんが、料理するの」
「えっ。だって、いつもご飯作ってるときはテレビ見てたじゃん。急にどうしたの」
「急にどうしたのは、お母さんじゃん」
「ユミル?」
「急に、いなくなったっ」
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