スプーキージャッジメント!

丸玉庭園

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1 逢魔が時の学校

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『閻魔ゲーム 裁判開始

 氏名 等々力万里
 罪名 何でも盗む窃盗犯
 判決 有罪』

 さすがの等々力からも、息をのむ音が聞こえた。
 いつもは人懐っこい笑みを浮かべている口元も、今は引きつっている。
「なんだよ。コレ……」
「制限時間は、三分だよ。無罪にできなかったら、地獄へ連行されちゃうからね」
 まるで「今からコンビニ行ってくる」とでもいうような、何でもないいい方に、感情がおかしくなりそうだ。
 ぶつぶつと、状況をまとめてみる。
「ゲームに使用されるのは、このコピーパッド一機だけ。『有罪』を『無罪』にすれば、ゲームクリア……。どう考えても、謎解き要素のあるゲームだ」
 謎解きなら、なんとかできそうなゲームだが……三分って、短すぎないか。
 まだ、コピータブレットの機能すら把握してないのに。
 気持ちがあせる。
 どうすればいいんだ?
 おそらく、等々力の無罪を主張する何かをすればいいんだろうが。
「万里くんが、何でも盗む窃盗犯なんて、ありえないよ!」
 恵麻が納得いかなさそうに、宙に浮かぶウシトラを見あげた。
 そうだ。
 たしかに、等々力はやんちゃなところもあるやつだが、窃盗なんて、そんなことをするようなやつじゃない。
 クラス全員と友達のような明るいやつが、誰かを傷つけるようなことをするとは思えない。
 しかし、おれたちの思いとは逆に、等々力は顔をうつむかせた。
「窃盗、かー。うーん……」
「あんた……したのッ?」
 白金が、責めるようにいう。
 すると、等々力は「いやー……」と髪をぐしゃりとすると、観念したように告白しはじめた。
「今日……青波が……萩原先生に、スマホを没収されてさ」
 南風立青波は、等々力の幼なじみの女子だ。
 たしかに、スマホは学校には持って来ちゃいけないことになっている。
 でも、いつもまじめな南風立が、どうしてスマホなんて持ってきたんだ?
「ここ何年か、青波のばあさんの体調がよくなかったんだけどさ。先週くらいからずっと、青波のやつ、元気なくて。そしたら今日、学校にスマホ持って来て、没収されてるじゃん。ぜったいに何かあったんだろうと思って、話聞いたら……今朝、ばあさんの体調が悪化したらしくて……。心配で心配で、気が気じゃないからって、つい学校にスマホを持ってきたんだってさ。でも、スマホを見てるところを萩原先生に見つかって、没収だよ」
 萩原先生はおれたちの担任で、いつもは明るく元気な女性の先生だが、怒るとかなり怖い。
「先生にスマホを取られてからの青波、見ていられなくてさ。それで……スマホを、職員室から取り返したんだ」
「あーらら。やっちゃったんだ」
 白金が、くちびるを引きつらせながら、万里を指さした。
 恵麻が「そんなふうにいわなくても」とフォローするが、白金は聞く耳を持たない。
 等々力は、両腕を頭の上に組んで、自嘲ぎみに笑った。
「先生が学校の風紀を乱さないようにって、あえて厳しい態度を取ってるのは、わかってるよ。でも、おれはばあさんを心配して、泣きそうになっている青波を見ていられなかった。だから、先生からスマホを取ったんだ。何いわれても、おれ、自分がしたこと、後悔してない」
 それを聞いて、恵麻がグッとくちびるを噛みしめた。
「青波の両親が……火事で亡くなってからは、ばあさんがたったひとりの青波の家族だったんだよ。だから、なんとかしてやりたくてさー」
 それを聞いて、おれはドキッとした。
 等々力が消防士になりたかった理由は――。
 恵麻を見ると、小さくうなずいた。
 そうか、そんなこと、おれはちっとも知らなかった。
 いつも明るい等々力が、こんなに強い思いを抱いて、不老不死になろうとしていたことも……。
「たしかに、万里くんがしたのは、閻魔さま裁判的には間違ってるのかもしれない。でも……学校の先生たちが、わたしたちのものを没収する権利だって、本当はないはずだよ。だって、スマホの持ち主は、青波ちゃんなんだもん! こんなふうに『有罪』なんていわれるのはおかしいと思う! ――ねえ、千弥」
 恵麻はいつも、自分よりも誰かのために、必死になる。
 そして。
「なんとかしてあげてよ」
 その手助けをするのが、おれだ。
 昔から、変わんないな。このやりとり。
「ああ、なんとかする」
 恵麻にいわれたら、断れない。
 等々力みたいに、人を救いたいなんて大それたことは、おれにはいえない。
 おれに出来るのは、謎解きだけだ。
 だが……もう制限時間三分の、残り二分を切っている。
 どうすれば、『有罪』を『無罪』にできるのか、いまだにわかっていないのは、マズい。
「警察に逮捕されてもいないのに、無罪もなにもないだろ……」
 樗木が、納得いかないとばかりにいう。
 すると、ウシトラが大笑いしだした。
「警察なんてのは、人間が勝手に決めた法律だよ。からだに魂が宿っているものは、運命の鎖に繋がれているのは知ってるかな。警察が裁かなくても、わるい行いをした魂はいずれ裁かれるんだ。魂そのものを裁くもの、それが『閻魔大王』なんだよ。……でもね、喜んでいいよ」
 ウシトラが、ファスナーのような歯をキシリ、と鳴らした。
「今回は、おれがじきじきに、裁きをくだしてあげるからさ。あはは」
 こいつ、まじに鬼なんだな。考えかたも、行動も、何もかも……さいあくだ。
 いよいよ、カウントダウンがせまってる。残り一分だ、くそ。
 コピーパッドを何度も操作するが、上下左右、どこをタップしても、ヒントも何も出てこない。
 待てよ――そういえば、ここはタップしていたっけ。 

『閻魔ゲーム 裁判開始

 氏名 等々力万里
 罪名 何でも盗む窃盗犯
 判決 有罪』

 文章をタップしても、何もならないだろう、と無意識にスルーしていた。
 もう、半場あきらめ気味に、一文字ずつタップとばかりに、叩いていく。
 すると、罪名の『何でも盗む窃盗犯』の部分が自動的に選択され、『文字の入れ替え』という表示が出た。
「これは……」
 まさか、『文字を入れ替えて、無罪にしろ』って意味、なんじゃないか……?
「つまり、この『閻魔ゲーム』は、『アナグラム』を使って、仲間を無罪にするゲームということか……!」
 アナグラム。文字を入れ替え、まったく別の意味の単語にする、いわゆる、言葉のパズルだな。
 例えば、『ゲームクリア』。
 これをアナグラムで、別の意味のものを作ってみる。
 すると『げーむくりあ』を入れ替えると、『むりげー、あく』。
『無理ゲー、悪』、となる。無理ゲーっていうのは、あまりにもむずかしすぎて、ほぼクリアがむりのゲームのことだ。
 悪、っていうのはいいすぎだが。
 アナグラムというのは、こういうおもしろさがある。

 やっぱりこれは――謎解きゲームで確定だ。

 このゲーム……勝てるぞ。
 おれはさっそく、目の前の謎へと集中する。
 まずは罪名の『なんでもぬすむせっとうはん』から、単語になりそうなものを拾っていく。
『なっとう』
『むすんで』
『はん』を拾いあげた。
 これらの単語を使って、等々力を『無罪』できそうな文章に仕あげなければならない。
 だが、残り時間はもう三十秒を切っている。
 間に合うのか……?
『なんでもぬすむせっとうはん』を『はんなっとう、むすんでもせぬ』と、並び替えた。
『半納豆、結んでもせぬ』と変換する。
 すると、画面上に『罪状の説明』という入力画面が現れた。
 そうか、文字を入れ替えられても、わけのわからない言葉じゃ意味がない。
 入れ替えた文章にカンペキな意味を持たせて、相手を納得させれば、勝ちってことだな。
 あと、十秒。
 おれは、急いで文字を打ちこんでいく。
『二歳のころ、親が納豆を半分にわけていた。納豆の糸が伸びてきたので、それを結ぼうとしたができなかった』
 緊張しながら、エンターキーを叩く。
 すると、判決が『無罪』に変わった。残り、一秒。
 ぎりぎりセーフ。
 心臓が、口から飛び出そうなほどに、バクバクいっている。
 でも、これで等々力を助けられたんだよな……?
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