アポロ・ファーマシー

丸玉庭園

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5-1 翡翠の目薬

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 通学団と別れた下校中、ワカバはどうしても喉が渇いてしまった。
 しかし、今日は水筒を忘れた。
 喉はカラカラだが、家まではまだまだ歩かなければならない。
「ああ、もう。マラソン中継の時みたいに、通学路の途中で給水ポイントがあればなあ」
「お困りですか」
 突然上から降ってきた声に、ワカバはぎょっとする。
 見上げると、そこには黒いシャツに黒いズボン、黒い腰巻きエプロンというまるでカラスのような黒一色を身にまとった、薬局『アポロファーマシー』の店主が立っていた。
 そう。〝カラスのような店主〟なのである。
「玉野さん……」
「おや、僕をご存じで」
(いや、知らない人はいないと思いますよ。そんな〝かぶりもの〟してるんですし)
 その言葉を一生懸命に飲み込み、ワカバはほほ笑んだ。
 近所では有名な〝カラスのかぶりものをかぶった変わり者〟。
 本物のようなカラスのかぶりものをこの店ができた時からしている。まるで熱帯のような夏の日も。わかっているのは若々しい声や肌から察するに老人ではないということ。そして、身長はなんと少女と同じくらいの小柄である。
 今日は日差しが強いにも関わらず、相変わらずかぶりものをかぶっている玉野。そして全身真っ黒の服装。
 見るだけで、暑苦しいのだが。
「アポロファーマシーの玉野さんでしょう。薬局、一回行ってみたいと思ってたんです」
「そうだったんですか。……では、まずはこれをどうぞ」
 言いながら、玉野はスッとワカバに、封の切られていない水のペットボトルを差し出した。
「えっ」
「どうぞ。喉がカラカラだったんでしょう」
「どうして、わかったんですか」
「見ればわかりますよ。僕は薬局の店主ですから」
 その怪しい見た目に反した、優しい穏やかな口調。
 ワカバはペットボトルを受け取ると、小さく会釈をする。
「ありがとうございます」
「いえいえ。お越しの際は、ぜひお話しをお聞かせください。アポロファーマシーには万能薬しかありませんから」
 そう言い残すと、玉野はその場を去った。
 まさか、薬局の宣伝に水を配ってたのか。
 ワカバは一瞬そう思ったが、確かに自分は喉がカラカラだったことを思い出す。ペットボトルの封を切りながら、ふと思い立つ。
「行ってみようかな。アポロファーマシー」
 その時、ふっと視界が暗くなり、目の前が真っ暗になってしまった。
 まだ、ペットボトルの水を飲んでないのに。
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