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第一章
これからのこと
しおりを挟むあの日から、1ヶ月後アルは私の従者になった。
執事見習いとしてうちへ来た彼がすぐに従者になることは厳しいようで、急遽従者になるため執事の元で修行をしたようだ。
何度かアルと廊下ですれ違った。一度だけアルに、なぜ自分を従者にしたのか聞かれたことがある。
『もちろん、総受けのアルを側においたら美味しいシチュエーションがたくさん見れるじゃないの!』
なんてことは言えるはずもなく、特に理由はないの、と返すとアルは困った顔をしてへらっと笑った。
そんなこんなで私の従者となったアルだが、私が思っている以上にしっかり仕事をこなすため正直驚きを隠せないでいる。
元々カーチス家は代々優秀な執事を輩出している家庭で、アルはその家の次男坊にあたる。だから、優秀であっても間違いはないのだが、ちがう、ちがうのだ。
…私の知っているアルフレッド=カーチスは、総受けとも言われる理由であるドジでおっちょこちょいな面をもつ男なのだ。ゲーム内でのアルは、確かにフォンテーヌ家に勤めてはいたが、『あまりにも仕事ができない』ため従者はおろか、執事見習いとしてもダメ出しをくらい、下僕にすらなれず掃除婦まがいなことをしている男だった。なのに、どういうことだ。今のところダメ出しをする要素がない。
「エミリーお嬢様、どうかなさいましたか?」
食い入るようにアルの顔をみていたため、アルが困ったように笑いながら私に問いかけた。
「…いいえ、なんでもないわ」
まあ、いいのよ。それよりも私には大切なことがあるの。そう、
これからどうするのか、よ。
ドレスが皺にならないように丁寧に椅子に腰掛け、私は物思いにふける。そんな私をみて、アルが紅茶を入れてくれた。それはミルクティーだった。一口含み、ホッと一息ついた。まろやかな味が口いっぱいに広がった。
「アルの作るミルクティーは、本当に美味しいわね」
「カーチス家直伝の味でございます。何かお考えになるご様子でしたので、糖分を、と思いまして」
「そうなのね、ありがとう」
もう一口口に含み、目を閉じ、私は物思いふけった。
____________________
ここは、あのゲームの世界に似ている。恐らく、あのゲームではなく似ている世界なのだろうと私は考えた。似ている、と思った理由はゲームにもアルは存在するが、アルが思った以上に優秀だったこと、それが理由だ。まだアルにしか出会っていないため、断言することはできないのだが…。
それでも、ゲームの世界に似ているのだ。これから主人公の攻略対象者がわんさか出てくるのだろう。私はこれからの自分の身の振り方を考えなければならない。
ちなみに言えば、私は主人公ではない。
もっと言えば、アルは攻略対象者ではないのだ。
わたくしこと、エミリー=フォンテーヌは、主人公の友人にあたる女の子だ。常に主人公の側にいて、時には褒め時には叱咤し、主人公を攻略者に見合う女性にしていく役目がある。
要するにお助けキャラなのだ。
このゲームは、ミッションごとに主人公がそのお題に合わせた着せ替えをし、ミッション成功で次のシナリオに進むことができる、というタイプのゲームでエミリーは、デフォルトのキャラになって助言をしていたが、私もそんなことしなければならないのか?
…しなければならないのだろうな。
実は主人公、元平民なのだ。
ゲームのシナリオでは、エミリーはお忍びで平民の住む下町に行くのが好きでそこで出会った主人公と仲良くなる。だが、お忍びで遊んでいることが父親にばれ、私は下町に行くことがなくなる。
それから、15歳の年、私の通う学校に元平民で、実はある侯爵の隠し子であるという女の子が編入してくる。それが主人公なのだ。
元々仲が良かったことに加え、同じ階級の家柄。エミリーと主人公は仲良くならないわけがなかった。別に仲良くなるのは構わないのだが、シナリオの進行上でライバルになってしまうエンドもあって正直かなりめんどくさい。加えて、元平民の主人公はあまり貴族社会のルールを分かっておらずそれも私が教えなければならない。めんどくさい。
幸い、まだ私は下町で主人公に出会っていない。恐ろしいことに記憶を取り戻すまで私は本当にお忍びで下町に通っていた。毎日だ。
怪我をした日も、メイドに隠れて下町に向かっていて、急にめまいがして倒れて運悪く石に頭をぶつけたのだった。お嬢様の物とは思えないほどの石頭で、怪我も1週間ほどですぐ治ったのだが、これでは私の下町通いがばれるのもすぐのことだろう。
さて、本当にどうするべきか。
ゲームの流れにそって、主人公と仲良くなるべきか、それともアルを従者にした時のようにゲームの流れにあらがってみるか。
「ふう…あと5年だものね」
そう呟いて、目を開く。たまたま冷めたミルクティーを入れ替えていたアルと目が合い、にこりとアルが微笑んだ。
「何が5年なのでありますか?」
「わたくし、今10歳でしょう?15歳まであと5年もあるのだわと思ってね」
「左様でございましたか。ところでなぜ15歳なのでしょうか?」
アルが入れ替えてくれたミルクティーに口をつけながら、アルの顔を見つめる。きょとんと私を見返すアルの顔にふっと微笑み、アルに質問をすることにした。
「アルなら、どうするかしら?決められた道があるのを知っていて、その道を進むのかしら?それともそれにあらがってみるのかしら?」
「…決められた道でございますか」
緑色の瞳がきらきらと輝いた。私の青色とは違う綺麗な緑を見つめる。悩ましげに伏せたまつげが長い。よく見るとアルってイケメンの部類に入るのね。私とアルは同じ金髪なのだが、私は白に近いいわゆるプラチナブロンドで、アルは私よりも少しだけ青みがかったアッシュのブロンドヘアだ。色でいえば、私はアルのもつ金髪の方が好きだった。
アルを観察するように、しばらくまじまじとアルをみていた。
「あくまで、私ならという話なのですが…」
あまりにアルを観察しすぎて一瞬何の話かわからず、眉をひそめ直後自分が質問をしたことを思い出した。
「いいのよ、続けて」
「はい、私なら決められた道だと分かっていても、その道を進むように思います」
「それは、どうして?」
「カーチス家の人間である私も、執事になるという決められた道を歩んでいます。それを嫌だと思うことはありましたし、けれどそれを嫌だといい逃げることのできない私を、私は嫌っていました」
「…今もそうだから、歩んでいるから進むというの?」
いいえ、とアルは首を振り、膝をつきしゃがみこんでから私の手を握る。
「嫌々ながら進んだその道で、私はエミリーお嬢様に拾っていただきました。そこで私は初めて執事という道から離れることができたのです。私は執事になりたくありませんでした。ずっと、主人のお側でお供することのできる従者になりたかったのです」
そこまで言ってから、アルは私の手を離し、立ち上がった。
「決められていると分かっていても、進むことでその先に何かいいことがあるかもしれません。少しずつ未来は変わるかもしれません。実際私も変わりましたから。………エミリーお嬢様、私はまだ半人前でお嬢様にご迷惑をおかけすることもあるかと思います。ですが、必ずお嬢様をお支えすることのできる立派な従者になります。これからもどうぞ、よろしくお願い致します」
深々と頭を下げたアルを見つめる。
アルは、そんなことを考えていたのか。アル、執事になりたくなかったんだ。
「そうなのね、ありがとう。話してくれて。これからもよろしくお願いしますわ」
そう返事をし、私はまたミルクティーを一口飲んだ。少しだけ冷めたミルクティーのはずなのに、なんだか温かいような不思議な気持ちになった。というよりも、また入れ替えたのだな。恐らく私がまじまじとアルを見ていた時に入れ替えたのであろう。
よし、決めた。
主人公と友達になろう。
こうなれば私も、決められた道を進んでやろう。未来は変わるかもしれないとアルも言ってるし。
そうと決めたら善は急げ。
…いつばれるかも分からないし、さっそく明日からまたお忍びで下町に行くしかないわね。
私はにやりと微笑んで、どのルートで下町に忍び込むかを考えることにした。
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