お嬢様は萌えが欲しい。

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第一章

下町へ行こう2

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「やあ、エミリー久しぶりだな」

 下町に行けなかった騒動から何日かして、そいつはやってきた。何故かいつも玄関からではなく、私の部屋の窓(2階)からいきなり入ってくるため、私は毎回驚かされる。何度やめるよう言い聞かせてもこいつは聞きもしない。私も諦めてしまった。
 そいつはやけに整った顔をしていて爽やかな笑顔、この国では珍しい黒髪に青い瞳を持っている。そいつ、こと、ラルク=フォン=ジートフォルテは、何ヶ月かぶりに私の前へ現れた。

「お久しぶりですわね、ラルク様。貴方今まで何してらしたの」
「父上と用があって隣国にな。怪我したんだって?大丈夫だったか?」

 ラルクはそっと私の額に手を当てる。くしゃくしゃと髪を乱暴に撫でられ、私は少し頬を膨らませた。

「もう、大丈夫ですわ。あまり子供扱いしないでくださいませ」
「相変わらずだな、エミリー。それでも俺より年下なのは紛れもない真実だろ?婚約者殿?」

 そう、ラルクは私の婚約者様だ。ちなみに年はひとつ上で、現在11歳。私が産まれてすぐに婚約をしたそうだ。
 ラルクは伯爵家の人間だ。爵位はうちよりも低い。だが、私は侯爵家の三女。実は姉が二人いるのだが、どちらの姉もうちの家よりも爵位が上の家に嫁いでしまった。私までどこかに嫁いでしまうと、養子をとるなりしなければ侯爵家はなくなってしまう。そこで、父は婿養子をとることにしたのだ。
 ジートフォルテ伯爵家とは、父同士が知り合いだったようで、その家の次男として産まれたラルクを婿養子として迎えることになったようだ。

 そして実はラルク、なんと攻略対象者なのである。
 これが私と主人公がライバルになってしまうエンディングへと繋がるわけだ。貴族になったばかりの主人公を見捨てず、側でずっと支えてきたのにも関わらず、主人公はラルクを選び、終いにはラルクもエミリーを捨て主人公と生きる道を選ぶ。あのシナリオには私もエミリーに対し、罪悪感を覚えたし、恨まれても仕方ないなと思う。
 私としても、そんな未来は避けたいところだ。

「そういえば、従者ができたんだってな」

 ラルクの視線が私を外れ、私の後ろへと向けられる。いつからいたのだろう、そこにはアルが立っていた。私は最近、アルが忍者なのではないかと疑い始めている。

「彼はね、アルフレッド=カーチス。カーチス家は貴方もご存知でしょ?執事見習いとしてうちに来たから、従者にさせてもらったのよ」
「ジートフォルテ家のラルク様でございますね。以後お見知りおきを」

 ラルクはへぇと感心しながらアルを見ていた。アルはといえば、そんなラルクの視線に困ったような微笑を浮かべていた。
 …きた、きたきたきたきたわ!私ずっとこれを待ってたの!

 ラルクは攻略対象者。そしてアルは総受け。ホモ要因!なんのために私がアルを従者にしたと思ってんのよ。全ては萌えのためよ!
 総受けのアルをそばにおいて置いたら、私が萌え萌えできるはずだもの。

「すげーな、アル。お前、めっちゃ綺麗な顔してんじゃん」

 キターーーー!!!!!!これ、ゲームでもあったのよね。ゲーム内のアルはあまりにグズグズすぎて、『何も出来ないんだったら、他の貴族の従者でも見てこい!』て私と同じ学校に通わせられている。その学校でラルクと初めて出会うんだけど、初めて会った時のラルクのセリフだわ、これ。やっぱりゲームの世界に似てるのねー!
 私は興奮し鼻を膨らませ、目を見開き二人の様子を見た。

「え?左様でございますか?」

 その返答に私はあんぐり口を開いた。何言ってんのよアル、あんたそこは『やっ…そんなことはございません…っ』て顔をぽっと赤らめるんだろうが。

「ああ、男でこんなに綺麗なのも珍しいもんなぁ。俺、お前なら抱けるわ」

 そのセリフに思わず私は顎が外れそうになった。なんてことだ、ラルク、貴方様は私にどこまで萌えを提供してくださるのだ。

「はぁ…」

 それに比べお前はなんだ、アル!その気の抜けた返事はなんだ、アル!ゲーム内のアルだったら、『ラルク様、からかうのはそこまでにしてください…っ』とか言いつつぽ~っとラルクを見るんでしょ!
 なんだろう、ほんとに全然アルはゲームとキャラ違うんだなぁ。

「ところでラルク様」
「んぁ?」
「ラルク様はどちらからいらっしゃったのでしょうか?」
「窓からだけど?」
「窓から、でございますか」

 アルがにっこりと笑う。だが、やはりその目は笑っていなかった。それを見たラルクの頬がヒクッと引きついた。
 今のラルクの気持ちわかる。綺麗な顔にあれされるとほんと怖いのよね。私はぼんやりと2人の様子を眺めていた。

「例え婚約者といえど、淑女のお部屋に、しかも窓からあがるなど言語道断でございます。その辺りはご理解頂けましたか?」
「でも玄関からはめんどくさいだろう」
「ラルク様?それでは動物と一緒ではありませんか」
「な、動物…?」
「そうではありませんよね?ラルク様」
「あ、ああ…」
「でしたら次回からは玄関から、お入りください」

 はい、と小さくラルクは呟きしょんぼりと俯いた。こんなに素直なラルクは初めて見た。11歳といえどまだ子供だ。さすがに動物扱いはショックだったのだろうな。それにしてもアル、言う時は言うんだよな。私も怒られないようにしないと。
 私は、あまりに落ち込むラルクが少し可哀想になって、ぽんぽんと肩を叩いた。ラルクの綺麗な線を描いた眉が見事に垂れ下がっている。

「ラルク様、今日は何か御用があったんではないですの?」
「あ、ああ…そうだ」

 ゴソゴソとラルクがポケットをあさる。そして出てきたのは2枚のチケット。

「これな、父上からもらったんだよ。エミリーの領地に今度サーカスが来るらしくてな」

 手渡されたチケットを見る。本当だわ、うちの領地。しかもこれ、私がいつもお忍びでいく下町のものじゃない。

「もらったのはいいんだが、あいにく俺はその日忙しくてな。で、最近従者ができたと聞いたから、従者とでも見に行くかと思ってな」
「いえ、私は…」
「行く!行くわ!さ、サーカス好きなのよね!ね、いいでしょ?アル!行きましょ!」

 下町に行けるチャンスだ!これは絶対に行かなければならない!青い瞳をきらきらさせ、祈るようなポーズをとりアルにお願いする。

「ですが…」
「お願いよ、アル!」
「…分かりました。今回だけですよ?」

 渋々と、といった風だがアルは了承してくれた。やったー!これで主人公に会える!

「エミリーお前、そんなにサーカス好きなのよ」
「え、ええ、好きよ、とっても好き!」
「なら良かったよ、じゃあ俺用もそれだけだし、帰るな」

 ラウルは私に背を向け、窓から出ようと窓枠に足をかけた。と、急に背後から寒気がし、私もラウルもバッと振り返る。表現しがたい表情をしたアルが、ラウルを見ていた。あえて表現するのならそれは、『鬼の形相』だろうか。

「ち、ちちちちがったな。お、俺、玄関から帰るんだもんな、そうだな、うん、そうだよな、うんうん、じゃあな!エミリー!まままた来るよ!」

 ダーッと一目散にラウルは走っていってしまった。
 私もお忍びで下町に行く時、窓から飛び出すことあったっけな…。ほんとにやめよ…。

 とにもかくにも私、下町に行けるんだ。
 待ってろよ、主人公。今すぐ仲良くなりに行くからね!!!






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