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第一章
下町日和4
しおりを挟む「ご、ごめんなさい!そのりんご私のモノなんです!」
黄色いワンピースをなびかせながら、その少女は私に駆け寄ってくる。主人公だ、主人公だ、主人公だ…!とうとう現れた!
その少女は私の前で立ち止まり、人懐っこい笑顔を見せた。
「拾ってくれてありがとう!…というか、ごめんなさい!貴族の方ですよね!ごめんなさい!」
私の服装や、私の側にいるアルをみて貴族だと気づいた少女はりんごを受け取るよりも先に深々と頭を下げた。そんな彼女の肩を掴み、顔をあげさせる。
「いいえ、いいのよ。りんごは少し砂が付いてたけど、無事よ」
「わぁありがとうございます~っ!」
「貴女、お名前は?」
「あっ、私アリスです!アリス=ステューシーと言います」
やはり、彼女は主人公、アリスで間違いない。私は学校に通い始めてからのアリスしか知らないから、ステューシーという名前があったことを初めて知った。
「そう、アリスというのですね。わたくしはエミリー=フォンテーヌですわ。これも何かの縁ですから、またこちらに来たら仲良くしてくださいませ」
アリスにりんごを手渡し、私はアルを連れ立ち去った。後ろでアリスがありがとうと言っている声が聞こえる。我ながらカッコいい去り方だったんじゃない?
私の後ろを歩くアルに視線を送る。アルは、困惑とも怒りともとれないよく分からない顔で私を見ていた。
「ね、やっぱり水色の髪の子、いたでしょう?」
「まあ、そうですね」
「すごく可愛らしい方でしたわね」
「まあ、そうですね」
「…?ちょっと、アル、何を怒っていらっしゃるの?」
「怒ってません」
「…そう?ならいいのだけれど」
アルは、たまによく分からないところで怒り出す。まあ考えたところで、結局私にはよく分からないのだから私は考えることを放棄する。
まあ目的も達成した訳だし、あとは屋台で食べ物食べて楽しむとしますか。
「エミリーお嬢様」
アルが少しまだ怒った声音で、私の名前を呼ぶ。私は振り返らずなに?と答えた。
「お嬢様は、庶民と貴族の垣根がない方でいらっしゃるのですね」
「もしかして、アルはアリスさんの話し方について怒ってらしたのかしら」
その問いに、アルは何も答えない。図星なのだろう。まあアルからしたら不思議だよね、普通貴族は庶民と仲良くなろうだなんて思わないもの。
「アリスさんは、それを知らないだけよ」
「え?」
「わたくしや貴方は、貴族であったり執事であったり、道を決められて生きてきた。だから、貴族としての話し方も接し方も知ってる。庶民が貴族に対してどういう態度でいなければならないのかも分かってるわ。けれど、あの子にはまだそれがないの。そんな子にわたくしたちの道を押し付けちゃいけない」
それは真っ当な貴族としての誇りもなく、形だけは庶民ではない私が考えたこと。あの子が知りたいと思わない限り、きっとそれを私は教えなくてもいい。
「あの子にはいずれそういう日がやってくる。知りたくなくても、知らなければならない日が。わたくしはその時に全力でフォローに回るだけだわ。だから、今はあれでいいのよ」
「あなたは、ーーーー…」
その時急に風が吹き、私のドレスがめくれそうになる。私は一生懸命ドレスを抑えていて、アルが何か言ったのだが、聞こえなかった。
「え?アル、なんて…」
「なんでもありません。お嬢様、今日は私が出させてください」
怒りモードからコロッと機嫌が良くなったアルが、ゴソゴソと胸ポケットから小さなお財布を出す。その行動に私はギョッと目を剥いた。
「えっ、いいわよ、従者にそんなことさせられないわよっ」
「何言ってるんですかお嬢様。今日はみんなが楽しい日ではなかったのですか?」
「それとこれとは話が別でしょう!?」
アルに手を引かれ、私は屋台の中を小走りした。言質をとられた、感がそれはもうすごくて私はごにょごにょ口ごもりながら、文句を言わずアルについていく。もう、こんなことならひらひらドレスなんて着てくるんじゃなかった!走りにくいったらないわ!
でもまあ、いいか。なんかアルすごい楽しそうだし…。笑顔がキラキラ眩しすぎるわ…。
そうして、私とアルは土だらけのボロボロになって家に帰ってきて、執事に2人でお叱りを受けたのだった。でもお叱りを受けている最中もなぜかアルが楽しそうで、私は諦めて素直にお叱りを聞くことにしたのだった。
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