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第二章
ゲーム開始2
しおりを挟む馬車はゴトゴト進み、私たちは学校へ着いた。いよいよね、私は少し身構えて馬車を降りる。他の生徒達の馬車が並ぶ中、私はアリスを見つけた。
「エミリーさん、ごきげんよう!」
アリスの元へ行こうとして、後ろから他の令嬢に呼び止められた。この声は…
「ごきげんよう、マリー様」
彼女はマリー=カスリーヌ公爵令嬢。この国の第二王子の婚約者であり、ゲーム内でアリスをいじめる令嬢だ。マリーは、このゲーム内でいわゆる悪役令嬢と呼ばれる令嬢で、ものすごく美人なのに違いはないのだがつり上がった瞳がなんとも意地悪そうな女性だ。縦ロールにしてある桃色の髪の毛は、殺傷能力が強そうだと毎回思う。
「あら、あなたがエミリーさんの従者ね。たしかアルフレッドと言ったかしら、ごきげんよう」
その言葉にアルはぺこりと頭を下げた。その様子をみて、私はふっと笑う。アルには今まで学校であったことや、マリーの話をよくしていたのだが、アルはマリーが苦手らしい。
「エミリーさんはご存知?この学校に元庶民が通ってくるそうなのよ」
来たわね、マリー。私はアリスを守るために、この5年あらゆる手を尽くしてきた。その一つがこのマリーだ。
「マリー様、そのことなのですが…」
「どうかなさったの?何かあれば言ってちょうだい!私とエミリーさんはお友達なのだから!」
「ふふ、ありがとうございます。とても心強いですわ」
私はマリーの手をとる。マリーは嬉しそうに私をみてにっこりと笑った。
「…実は、アリスさんは私の友人なのです」
「あら、そうでしたの?」
「はい、彼女が庶民のころからの友人なのです」
「まあどうして庶民と友人なの?」
マリーが首を傾げる。確かにそうだろう、普通貴族は庶民と仲良くなったりしない。
「アリスさんには、ある時助けていただいたことがあるのです。わたくしはアリスさんに感謝しているのですわ」
隣にいるアルの視線が痛い。分かってるわ、そんなことなかっただろうと言いたいのよね。ええ、ないわ。なかったけれど、精神的に助けていただいたことはあるのよ。だから嘘ではないわ。
「マリー様ならお分かりになりますわよね。ええ、マリー様は、義理と人情を大切にする方ですもの…」
そう、マリーはゲームの公式で義理と人情を大切にするという謎設定があるのだ。ゲームのエンディングでは、義理と人情の女、マリーと仲良くなって終わるマリーエンドまであるほどだ。マリーエンドを迎えるには、全ての攻略者とのフラグをへし折りマリーと仲良くなる必要がある。
このエンディングがあることを思い出した時、私はこれだ!と思った。アリスが誰を選ぶのか分からない以上今の私にできるのはマリーエンドを目指すことだけだ。アリスのお助けキャラである私が、マリーと仲良くなっていればアリスとの仲も最初からよくなるのでは?と思った結果がこれである。
「まあ、大切よね義理と人情!」
「そうですわよね、だから良ければ…。わたくしの仲良しなお友達とマリー様が仲良くなっていただけたら、と思うのですわ」
マリーはその言葉に苦い顔をした。
「エミリーさんのお気持ちも分かるわ。でも私は公爵令嬢。仲良くできるかどうかは、その庶民が侯爵家の人間として相応しいかどうかによるわね。だから善処する、とだけ言っておくわね」
私が思っていた以上に、マリーは公爵令嬢として立派な淑女であった。このような女性が悪役令嬢になるのか、どんだけ態度が悪かったんだアリス…。
「マリー様、わたくしの我儘を聞いてくださってありがとうございます」
「エミリー様~!」
鈴が鳴るような澄んだ声が私を呼ぶ。その声を聞いて私は気が抜けてしまった。
「アリスさん…」
私がその人物の名前を呼ぶと、マリーの雰囲気がガラッと変わる。さきほどまでの人懐っこそうな雰囲気はもうない。彼女は今、公爵令嬢として新しくやってきた令嬢を見極めようとしている。
「エミリー様、今日から私も学校に通うことになったんです!エミリー様と学校に通うことが出来て嬉しいです!」
駆け寄ってきたアリスは、私ににっこり笑いかけた。そして、私の前に佇むマリーをみてぴたりと固まった。
「…お、お話中でした?ごめんなさい」
「いいのよ、アリスさん」
さてどうしたものか、爵位が上の方には自分から話しかけてはならないルールがある。紹介などで知り合いになればそれは別なのだが、私もそれがあるせいでマリーと仲良くなるのは本当に大変だった。あの時はマリーの幼なじみだという伯爵家の令嬢にマリーを紹介してもらったのだったな、懐かしい。
だから、私がアリスを紹介してもいいのだけれど、一度紹介すればアリスはマリーに話しかけてもいいことになる。マリーはそれを許すだろうか。
アリスは、黙って私とマリーを交互にチラチラ見た。一応自分より爵位が上の方の顔と名前は覚えさせたから、ちゃんとマリーがどの爵位の人間か分かっているのだろう。
「はじめまして、ですわよね?」
口火を切ったのは、マリーだった。
「は、はい」
「私はカスリーヌ公爵家令嬢、マリーと申しますわ」
「は、はい。わた、私はアンダルシア侯爵家令嬢の、アリスです!よ、よろしくお願いします!」
「…貴女、エミリーさんとお友達でいたいのなら身分や態度はわきまえることね。気をつけなさい」
「は、はい!」
マリーは私をみて、口元にこっそり微笑を浮かべた。一応、認めてはくれた、ということだろうか。
「それではごきげんよう」
くるりと振り返り、マリーは歩き始めた。しばらくして、マリーの後ろをマリーより少し小柄な少年がついていく姿をみた。あの少年がマリーの従者だという少年だろうか?私は萌えを感じる予感がした。
「はあ~っドキドキしました!公爵令嬢って本当に綺麗な方ですね~!!」
アイドルでも見たかのようにはしゃぐアリスをみて、私はこっそり安堵のため息をついた。とりあえずマリーと知り合うっていう第一段階はクリアしたみたい。
私は、マリーとアルを連れて学校の扉をくぐる。まだマリーに会っただけだ。なのにこの心労具合。これから攻略者と会おうかというのに、私はすでにぐったりしていた。まだ、先は長い。
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