お嬢様は萌えが欲しい。

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第二章

休日のこと5

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 キュリーが用意してくれたお茶を飲み終わり、私はぼおっとしながら窓の外を見つめていた。

「アンジェちゃんは見つかったかしら…」

 ぽそりと呟き、ため息をつく。
 コンコンと誰かが扉を叩く。キュリーかな?

「どうぞ」
「お嬢様、アリス様がお戻りになりました」
「そう、通してちょうだい」

 しばらくして、にゃあんと可愛らしい猫の声と共にアリスがやってきた。アリスの顔をみて、私は驚いて目を見張る。

「どうしたの、アリスさん。目が腫れているわ」

 そんなにお別れがさみしいの?と言おうとしたが、言うのをやめた。アリスの顔があまりに清々しいものだったから。
 アリスは私の様子をみて、にっこりと笑った。

「大丈夫ですよ、エミリー様。リリーじゃなくなっちゃったけど、いいんです。お家に返してあげなきゃ」
「…そう、貴女が大丈夫ならそれでいいのよ」

 そういい、アリスが抱き抱える猫を見つめる。ふわふわとした白い毛に青い瞳がなんとも綺麗な猫だった。

「抱いてもいいかしら?」
「もちろんです!」

 猫を膝の上に乗せ、撫でてあげる。ゴロゴロと喉を鳴らす姿が愛らしく、自然と頬が綻んだ。近くでキュリーが羨ましそうに私たちをみていたため、キュリーにも触らせてあげることにした。
 3人でしばらく猫を愛でていると、にゃあにゃあという猫の声と共にアルが帰ってきた。

「あれ、そちらの猫は…」

 少しだけ薄汚れたアルと共に来た猫は、アンジェと少し汚れているが同じ白い毛並みと短い手足をした猫だが、瞳の色が黄色い猫だった。そしてその猫は首輪をつけている。

「アル、その猫ちゃんには首輪がついているのね」
「はい、ラルク様の家の近くを散策したところこの猫を発見致しました。首輪にもAのマークがついていたので、アンジェのAかと思いまして」

 ちらっとアルが私の膝の上に眠る猫を見る。この子を連れてくることになった理由をアルに説明する。

「そうでしたか、何にせよラルク様がお帰りになるまでは確認はできませんね」
「そうねえ、アリスさんうちも両親は遅くなると思いますし、いつまでも居てくれて構いませんからね。猫ちゃんたちと遊んでいましょう」
「はい!エミリー様、ありがとうございます!」

 膝の上に乗る猫をみて、暗い顔をしていたアリスだったが、私が話しかけると少しだけ明るい顔をして微笑んだ。

「そうだわ、アリスさん。ずっと貴女に言いたいことがあったのだわ」
「な、なんでしょうか…」
「貴女、わたくしのことエミリー様なんて呼ぶのはやめてちょうだい」

 そう言われたアリスは、訳が分からなそうに首を傾げた。そんなアリスをみて、私はくすりと笑う。

「アリスさん、わたくしたちは同じ爵位の人間なのよ?それなのに貴女がわたくしのこと様付けで呼ぶのはおかしいのではなくて?」
「で、ではなんとお呼びしたらいいのでしょうか…」
「うーん、そうね。わたくしの愛称で、エミーと呼んでも構わないわ。そこはアリスさんにお任せするわね」
「…じゃあエミーさん、とお呼びしてもいいですか??」

 エミーと呼ばれて、なんだかくすぐったいような気持ちになる。自分で呼んでいいと言ったくせに、よく考えると私は両親以外にその愛称で呼ばれたことはなかったのだ。急に眉をしかめた私をみたアリスが目の前であわあわとしている。

「ふふ、お友達に愛称を呼ばれたのは初めてだから、なんだかくすぐったく感じたのよ」

 私がくすくす笑うと、それをみたアリスもにっこりと笑った。アルもそんな私たちの様子をみて、頬をほころばせる。
 なんて穏やかな休日なのだろう、と私は思っていた。




__________________


「あ、アンジェ!!」

 夕方になり、ついにラルクが帰ってきた。
 普通、この日は夜遅くまで会場に残るのが基本だ。よっぽど心配だったのだろう。

「ラルク様、会を途中で抜けてらしたのね」
「仕方ないだろう、アンジェが心配だったし、それに父上がいるのだから俺なんかはいなくたって構わないだろう」

 ジートフォルテ伯爵の嘆く姿が目に浮かぶ。ラルクは私の婚約者ではあるが、顔は整っているためハチャメチャにモテるのだ。おまけに剣術の腕は騎士団の団長お墨付きで、将来国の騎士団への入団のスカウトがくるほどである。今頃令嬢たちがジートフォルテ伯爵にラルクの居場所を聞いているのではないだろうか。

「アンジェは見つかったのか」
「ええ、それが」
「なんだ、見つからなかったのか?」
「いえ、見つかりましたわ。2匹ほど」

 私がそういうと、アルとアリスがそれぞれ猫を抱えラルクの前へ現れた。ラルクは2匹の猫をみて、一瞬驚き次の瞬間にはにんまりと微笑んだ。

「アンジェ~!!!」

 ラルクは、アンジェ、もといアルに飛びついた。


 アンジェは、やはりAの首輪をもつ猫だった。


 私はといえば、実際にラルアル状態の二人を目をガン開きし、見つめる。眼福。至高のひとときであった。アンジェに頬をすり寄せているが、私の腐女子フィルターを通せばなんてことない。アルの胸にすり寄るラルクの完成だ。この光景を忘れる訳にはいかない。私の頭が忘れるなと警報を鳴らしている。
 
 しばらく、アルにすり寄ったラルクはアンジェを抱き、ふとアリスの胸に収まる猫を見つめた。

「その子は、アリス…さんの猫か?」

 ラルクは一応アルと私の手前気を使ったのか、アリスをさん付けしている。ラルクも成長しているのだな、と何となくじーんとしてしまった。

「ええ、そうなのです。この子は…リリーと言いますのよ」

 嬉しそうにリリーを抱えたアリスをラルクが家まで送るということで、二人は帰って行った。

 ………。

「しまった!!!!!」

 突然大きな声をだした私を、アルがびっくりした様子で見つめてくる。
 しまった、しまったぞ、私。
 生ラルアルをみたことで私は何もかもどうでもよくなっていた。アリスとラルクを二人で帰らせてしまった。あんなにラルクエンドだけは阻止したかったのに、なんてことだ。

 けど、この場合どうなるのだろうか。

 本来のシナリオ通りならば、アリスがアンジェを見つけたことでラルクの好感度があがる。だが今回アンジェを見つけたのはアルだ。だったらアルの好感度があがったことになるのだろうか。それではラルクエンドを目指すのも難しいだろう。だが、私はアリスとラルクを二人きりにしてしまった。
 
 実はこのシナリオ、もう一つ好感度をあげるポイントがある。

 猫を探し出したアリスをラルクが家に送り届ける、ここで好感度をあげることができてしまうのだ。
 それを私はしてしまった。なんてことだ。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「いいえ!なんでもないのよ!おほほ!」

 くそー!やらかした!私はといえば、もう笑うことしかできなかった。ふんぞり返って笑う私の手を、きゅっとアルが握る。その温かさにふと我に返った。

「…あ、アル?」
「お嬢様、今日はご一緒できず申し訳ありませんでした。せっかくの休日でしたのに、おひとりにしてしまいましたね」
「そんな、いいのよ。アルのせいではないし、それに私一人でも平気だわ」

 それは本心から出た言葉だった。元々私は一人でいることを苦に思うタイプではない。私が微笑んだのをみてアルは安心したのか、アルも微笑む。

「…お嬢様、一つわがままを言ってもいいでしょうか?」

 きゅっとアルの手に力が入る。私はいつもと違うアルの様子にドキッとして、少しだけ俯く。アルの目を上手くみることができなかった。

「ど、どうしたの。わがままなんて珍しいじゃない…。いつも頑張ってるし、そうね、ご褒美なんかも必要かもしれないわよね、いいわよ、なんでも言ってちょうだい」

 緊張でボロボロと口から言葉が出てくる。なにか喋っていないと胸がはちきれそうだった。

「はい、ありがとうございますお嬢様、私に…」

 ど、どんなわがままが飛び出してくるのかしら。


「私にも…お嬢様の愛称を呼ぶ許可をください」


「……はぇ?」
「ですから、お嬢様の愛称を呼ぶ許可をください」

 真剣な瞳で私を見るから何かと思えば、飛び出してきたわがままはあまりに可愛らしいもので、私は素っ頓狂な声を出してしまった。アルってば、アリスに愛称呼びを許したから、やきもちやいたのね。

「ふふ、ふふふ。そんなことでいいの?」
「そんなことではありません。私にとって最も大事なことです」
「ふふふ、もうそんなのわがままでも何でもないわよ。今までだった呼んだって構わなかったのに」
「でしたらたくさん呼ばせていただきますからね、エミー様」

 アルが私のことを愛称で呼ぶ。アリスに呼ばれた時よりも、もどかしくってくすぐったかったが、不思議と何度でもその名前を呼んで欲しいと私は感じていた。

「ふふふ、もどかしいわ。でもいっぱい呼んでちょうだい」
「エミー様、エミー様…エミー様」
「今じゃないわ!あははもうやだわ、アルったらおかしな人ね!」

 しばらくの間私の名前をアルが呼ぶたび、笑い転げていたら次の日お腹が筋肉痛になっていた。どんだけ私の筋肉はないのだろう。
 それは私にとって本当に楽しく、充実した休日だった。





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