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三章 溶けた氷の水

スパイスの香り

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「じゅるり~♪」
「もうちょっと待っててな」

 尻尾をぶんぶん振り回しながら、鍋の中にある茶色のものを食べようとしているシオを抱えると、ソファーに連れていき優しく撫でた。

「食欲旺盛なのはいいことだけど、火を使っているときは危険だから、離れていような。」
「ワンワン」
「よしよし。いい子だ。」

 シオは熱さに強い種族だが、前世の経験のせいなのか火には近づかせないようにしている。シオにとっては、生きづらいと感じるかもしれないが、これだけは許してほしい。

 俺は、シオをソファーに置いておくと、鍋の中身を確認しに行った。


 
「よし、程よく混ざっている。」

 鍋にあるカレーの味を確認すると、ルーがよく混ざっていて、丁度いい辛さだった。

「シオ~ カレー出来たよ~」

 白色の皿にご飯をよそいながらそう言うと、シオは待っていたように全速力で俺のところまで走ってきた。

 ………少し食べただろ

 さっきは気づかなかったが、シオの鼻には茶色いシミのようなものがついていた。

 そんなことを考えながらカレーをよそると、未だに湯気が出ている皿をシオの近くに置いた。
 
 …………涎の量がヤバいぞ

 シオの前にカレーライスを置くと、シオの口からは滝のように涎が流れた。
 俺は、そんなシオの様子に思わず笑うとシオは“もう食べていいの?゛と言いたそうな顔で、俺の顔色を確認した。

「俺の顔色なんて確認しなくていいから、冷めない内に早く食べようぜ。」

 俺がそう言うと、尻尾を振りながらシオはカレーを凄い勢いで食べ始めた。……子供でも狼だからか、山盛りだったカレーは、もう無くなりそうだった。

「おかわりはいるか?」

 一応、シオにカレーのお代わりが必要かと聞くと、カレー跡のついた顔で、「ワンワン」と吠えてきた。
 
 俺は、シオのカレー跡をティッシュで拭き取ると、舐めた跡がある真っ白の皿にカレーを乗せるため、キッチンへと足を進めた。
  


 …………結論から言おう……シオが食べすぎた。

 シオは、まだ余裕そうな顔をしているが、既に八皿もカレーを食べている。カレーを作った張本人である俺は、シオがカレーを美味しそうに食べてくれることはうれしいが、限度というものを知って欲しい。
 
 ………正直、九皿目を拒否しなければカレーがなくなっていた可能性がある。 

 シオのカレーは、かなりの量が乗っていて、一皿で三人分位の量がある。単純計算をすると、三皿×八人で二十四人分のカレーをシオが食べたことになる。

 俺はカレーを甘く見ていたなと、心から思うのだった。








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