鳥居の下で

犬山田朗

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紗季へ

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正人が退院して家に帰ってきた。
母親は紗季に連絡しろとうるさい。あれから会ってないので寂しそうだ。正人まで失って、孤独に過ごしていると思っている。
「あぁ、紗季んちに帰ってるんだろ。また呼ぶよ。」
「あんた、本当に私の息子なの?すぐ連絡しなさい。」
「わかったって。」
部屋に入って、珍しく他人のことを考えた。もちろん紗季の事だ。
「途中から不思議だった。居てほしいと思いだしたのに。いなくなると寂しいもんだな。」
途切れ途切れに独り言が出る。
「そもそも勝手に自動的に巻き込まれて、あげく死んで、助けられた。」
「これって、俺、損しかしてなくないか?」
「でも…楽しい思い出もらったっていうのは本当になったな。」
「あいつの方が人間っぽかったな。いや、あれはもう人間だったろ。俺の方が幽霊だった。」
「じゃじゃーん!愛しの紗季ちゃんよ。生き返ってまいりました。」
正人は人生で一番驚いて、人生で一番うれしかった。
「ほら、見てよ軽くなった。」
「生き返ったの意味よ。」
「第一声がそれ?」
「おかえり。」
「ただいま。」
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