箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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20・ゴブリンと遭遇

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 ブッシュの陰に潜んていた俺は腰を浮かせて立ち上がる。まだ森の奥にはゴブリンの姿は見えない。だが、ハートジャックの報告で大体の位置は知れていた。

 俺はゴブリンたちが居ると思われる方向を睨み付けながら側に居るキルルに指示を出す。

「よし、キルル。行くぞ!」

『えっ、僕もですか!?』

「仕方ないだろ。お前は俺から離れられないんだからさ。ついてくるしかないだろ」

 そう、キルルは俺の体に取り憑いているから15メートルほどしか離れられないのだ。
 俺が移動したのならば強引に引っ張られてしまう。

 だから俺がトイレやお風呂に入る際には扉の前で待機してもらわなければならない。
 俺的にはトイレもお風呂もキルルが望むならば一緒に入っても構わないのだけれどもね。
 彼女には、お風呂で背中を流してもらい、トイレではお尻を拭いてもらいたいものだ。美少女に下の世話をしてもらえるなんて極楽の一言でしか表現できない環境だろう。

 まあ、その辺は乙女の意見を優先するならば拒否されると思う。それは仕方ないよね。
 セクハラで魔王が訴えられたら世も末だからな。

 ハートジャックが笑顔で囁いた。

「お二方は仲が良いのですね~。本当にラブラブカップルですね~!」

「てれるな~」

『僕たちはカップルじゃあありませんよ!!』

 キルルが赤面しながら否定した。
 俺はキルルの霊体の肩をポンポンっと叩きながら言ってやる。

「キルル、そんなに照れなくてもいいんだぞ。カップルだって認めちゃいなよ。俺は構わないぜ」

 キルルが冷めた真顔で述べた。

『すみません、魔王様……。僕は暴力的な男性はちょっと……』

 ガーーーン!!

「駄目か、暴力的な魔王は男性として失格ですか!?」

『ごめんなさい……』

「フラれちゃったよ……。ぐすん」

『本当にごめんなさい……。あと、露出狂も、ちょっと……』

「恋愛沙汰に全裸は関係ないだろ!」

 俺が怒鳴るとキルルは申し訳なさそうにお辞儀で謝罪する。
 それにしても連続で二回もフラれたわん……。すげ~情けねえ……。

「ショックだわ~! 相手がゴーストでもフラれるとショックだわ~!!」

「エリク様、声が大きいですよ~……」

 ハートジャックが俺とキルルのやり取りに割り込んで来たときである。
 森の奥からゴブリンの怒鳴り声が飛んで来た。

「誰か居るゴブか!?」

「何者ゴブ!?」

 俺たち三名の声が揃う。

「『「あっ、バレた……」』」

 それにしてもゴブリンたちの語尾にゴブが付いている。なんともゴブリンらしい語尾であった。もうテンプレだね。

 そして、怒鳴り声と共にこちらに向かってゴブリンたちが走り迫ってくる音がガサガサと聞こえて来る。

 立ち上がっていた俺は揺れる草木の方向を睨み付けた。キルルは俺の背中に隠れる。

「よ~し、ゴブリンとご対面だぜ!」

 するとハートジャックが鉈を構えて俺と並んだ。

「奇襲は失敗ですね。ならば加戦しますよ~、エリク様~!」

 唐突に俺はハートジャックの横っ腹を貫手で突いた。

「うらっ!」

「ゲブっ!?」

 ズブリと指先が腹にめり込むとハートジャックのしなやかな体が苦痛に揺れる。

「 何をするんですか~、エリク様~!?」

 怒ったハートジャックがプリプリと吠えていたが俺は冷たい口調で言ってやった。

「だから余計だって行ってるだろ。それよりお前は安全な場所で見ていやがれ」

「ですが~!?」

 納得しないハートジャックは引かないで吠え続けた。キャンキャンと小五月蝿い。

「分かんねえ雌犬だな!!」

 俺は眉間に威嚇的な深い皺を寄せながらハートジャックを睨み付けた。額が接触しそうな距離まで顔面を近付ける。
 そして、更に脅すように唸りながら言った。

「いいから引っ込んでろって言ってるだろ。またぶっ殺すぞ!!」

 俺がゴブリンと遊ぶんだから、オモチャを取るなと言いたいのだ。そのぐらいは魔王の配下として悟ってもらいたいな。

「でぇ、でえすが~……」

「いいから引っ込んでろ、ハートジャック!!」

 俺の眼光から殺意が放たれた。
 すると表情を青ざめたハートジャックが喉を鳴らして唾を飲み込む。犬の喉がゴクリと鳴った。

 ハートジャックは数時間前に上顎を砕かれて殺されたことを思い出していたのだろう。
 あの時は俺もハートジャックが雌っ子だとは知らなかったから遠慮無く思いっきり殴ってしまったのだ。女の子だと分かっていたら、あそこまで強烈に顔面を殴りはしなかったのにさ。

「わ、分かりました~、エリク様~……」

 視線を逃げるように外したハートジャックは一歩下がると頭を下げた。そして、そのまま高く跳躍して木の上に姿を隠す。

 俺が見上げると、ハートジャックは忍びのように木の枝の陰に潜んでいた。

 あいつ、あんなに身軽だったっけ?
 あれじゃあ狩人と言うより忍者そのものだな。くの一なのか。それとも忍犬なのか?

 魔王の生き血の効果なのだろうが、本人がそれに気が付いているかは不明だった。

「よし!」

 ハートジャックを見送った俺が振り返った刹那である。森の奥から数本の矢が飛んできた。風切音が猛スピードで迫ってくる。

『きゃっ!!』

 キルルが悲鳴を上げながら木の陰に隠れる。その木にも飛んできた矢が刺さった。

「普通の矢なんか当たらない幽霊なのにビビりだな、キルルはさ」

『それでも怖いんですよ。 僕はか弱い乙女なんですからね!』

 そう言い訳をキルルが言った瞬間であった。俺の頭に矢が刺さる。後頭部にズブリとだ。

「うほっ!」

『魔王さまーーー!!』

「落ち着けキルル、平気だからさ」

 矢が刺さっても死にはしないけれど痛くないわけではない。何よりちょっぴりビックリしたぞ。

 俺が頭に刺さった矢を引き抜くとゴブリンたちがゴブゴブと藪の中から姿を表す。

 ゴブリンの数は五匹だ。

「ギギギキィ!!」

「これがゴブリンか」

 ゴブリンの身長は150センチから160センチ程度の小人型だった。
 ボロボロの服を着込んだ体型は、頭が大きく手足が細い。胸板は薄く腹が出ている四頭身だ。
 肌の色は深緑で、怒りに歪んだ表情は醜い小鬼を連想させる。忌々しくもおぞましい形相だ。
 頭はほとんど剥げていて、疎らな髪の毛がおぞましくも雑に生えていた。
 尖った鼻と尖った耳が小悪魔的である。
 総合するに醜いモンスターその物だった。

 失礼な口調で俺がゴブリンの第一印象を口に出した。

「見てくれは、まるで妖怪だな」

 そう、おぞましい。
 ゴブリンはコボルトよりも怪奇に伺えた。そしてゴブリンの一匹が忌々しい口調で叫んだ。

「人間ゴブか!?」

 他のゴブリンが続く。

「なんでこんなところに人間が居るゴブか!?」

「女の子も居るゴブよ!!」

「ふひょー、捕まえて食っちまおうぜぇゴブ!!」

 なんだ、こいつらは人食いなのか?
 まあ、モンスターなんだもの、そう言うこともあるよね。

 俺は体から引き抜いた矢を藪の中に投げ捨てると悍ましいゴブリンたちに警告した。

「良く聞けゴブリンども。俺は魔王エリク様だ。今日からお前らの支配者になる人物だ。よ~く覚えておけ!」

 俺の警告を聞いたゴブリンたちがキョトンとしながら俺を見ていた。呆然としている。

 そして、仲間内で囁きだした。

「おい、この人間は頭が可笑しいゴブ……」

「たぶん暑さのあまりに脳味噌が茹で上がったんじゃないゴブか?」

「でも、久々の人間だから、贅沢言わずにご馳走になろうゴブ……」

「そ、そうゴブな……」

「とにかく食ってしまおうゴブ」

 ゴブリンたちはコソコソと話したのちに俺のほうを同時に見た。そして哀れな生き物を見るような眼差しで俺を凝視する。

 なんだかゴブリンたちの態度に苛つきを感じた俺は憤怒を言葉に変えて怒鳴りつけていた。

「おい、こら、舐めてるだろ、ゴブリンども。ぶっ殺すぞ!!」

「ギィぃイイイイ!!!」

 我に戻ったゴブリンたちが威嚇的に声を荒立てる。持っていた弓を捨てて腰や背中から武器を抜く。弓矢よりも接近戦の武器を選んだのだ。

 手持ちの武器はダガーやショートソードだった。ハンドアックスのゴブリンも居る。

「やる気満々に戻ってくれたようだな!!」

 俺は左手の中に右拳を叩きつけると大きくミット音を鳴らす。革のグローブで野球のボールを受け止めたかのような乾いた音が響いた。

「殺すゴブ! 殺すゴブ! 殺すゴブ!!」

「食うゴブ! 食うゴブ! 食うゴブ!!」

「小五月蝿いな~」

 俺は指間接をポキポキと鳴らしながらゴブリンたちに言ってやった。

「俺を殺すのは構わないが、お前らが負けたら俺の配下になってもらうぞ。魔王軍の配下にな!!」

「何故に訳が分からないことを言ってやがるゴブ!!」

「皆、一斉に飛び掛かるゴブ!!」

「「「「おーゴブ!!!」」」」

 俺に向かって走り出したゴブリンが同時に飛び掛かってきた。五匹の同時攻撃だ。

 体が小さい分だけコボルトたちより動きは速いようだな。跳躍も小柄なのに高い。

 だが、人間の戦士よりは戦闘力が低いだろう。何せ体が小さ過ぎる。腕も細いし脚も細い。故にパワーは低そうだ。フィジカルに問題ありである。

「「「「「キェェエエエイイ!!」」」」」

 ダガー、逆手に持ったダガー、ショートソード、ハンドアックス。それぞれの武器が俺の体に突き立てられた。

 そして命中。

 俺は回避も防御もなしでゴブリンたちの攻撃すべてを全身で受け止めた。ドツドツっと音を鳴らして五本の刃物が俺の体に突き刺さる。

『きゃっ!!』

 キルルが悲鳴を上げた。

「キャハハハハ!!!」

「こいつ、避けもしないゴブ!」

「無抵抗な野郎を殺すのは楽しいゴブね~!」

 自分たちの手に伝わる刃物の衝撃にゴブリンたちが大声で笑っていた。肉を貫いた感触から命を取ったと確信しているところだろう。

 しかし、その次の瞬間、俺も微笑みながら拳を振るう。その口元からは僅かに血が漏れ出ていた。

「オラっ!!」

「ゴブっ!?」

 たまたま俺の前に居たダガー持ちのゴブリンを俺は拳で殴り付けた。
 上から下に拳を振り下ろしてゴブリンの脳天を打ち殴ったのだ。チョッピングライトって奴である。

 殴られたゴブリンは頭をへこませながら地面に顔面を強打する。その一撃で地面に鮮血が花開いた。
 頭がスイカのようにパッカリと砕けて割れたのだ。

「「「「ひいっ!!」」」」

 俺の強烈な反撃を目の当たりにしたゴブリンたちが俺の周りから逃げるように跳ね退いた。

「逃げ足が速いな」

「ゴブゴブ……」

 ゴブリンたちが俺の周りから逃げると、血塗れの俺の体が露になる。刺された傷口から鮮血が流れ落ちていた。

 だが、俺は倒れない。それどころかニヤリと微笑んだ。

「痛いじゃあねえか、ゴブリンどもが!」

「ゴブ~……???」

 ゴブリンたちが呆然と俺の傷口を凝視していた。今頃は何故に死なないと疑問に混乱しているのだろう。

 五箇所も同時に刃物で切りつけたのだ、死なないほうが不思議なはずだ。

 そんな中で俺の傷が塞がり出血が止まる。更には傷口が消えてなくなった。

 ゴブリンの一匹が震えた声で述べる。

「ば、化け物ゴブ……」

「チッチッチッ!」

 俺は自分の口元で人差し指を左右に振るった。そして、力強く言う。

「化け物じゃあねえよ。俺様は魔王だ!!」

 するとハートジャックが木の上から陽気な声を飛ばしてきた。

「よっ、魔王エリク様~。 格好いい~!!」

 あいつは狩人でも忍者でもないな、ただの太鼓持ちだな。ヨイショがお上手である。



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