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24・アンドレア、カンドレア、チンドレア
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「ホブホブホブっ!!」
「ふごっホブ!!」
二匹のホブゴブリンが前に走って来た。二匹は大きな木槌を構えている。
その表情は鬼だ。だが、ゴブリンたちと異なり小鬼ではない。まさに鬼の形相である
それらの外見からホブゴブリンと言うよりもオーガその者に伺えた。
そして体格も太くて、まさに鬼の成りである。
腕も脚も太い。胸も腹も巨大。そして全てが大きく見える。身長は180センチ近くで体重は100キロは越えているだろう。
右と左のワンショルダーの服を纏っているところから巨漢の悪役プロレスラーが凶器を振るって大暴れしているように伺えた。
「ヒィィイイ!!」
「こっち来たゴブっ!!」
俺の前にひざまついていたゴブリンたちが左右に逃げ出した。モーゼの十戒のように道を開ける。
しかし、俺の鮮血を受けたハートジャックと四匹のゴブリンたちは逃げ出さない。それぞれが武器を構えてホブゴブリンたちが迫り来るのを待ち構えていた。
おそらく俺への忠義心がそうさせるのであろう。
自分で言うのもなんだが俺の鮮血の力は本当に凄いんだな~っと思った。
「お前らは逃げないんだな」
ホブゴブリンを睨み付けたままハートジャックが答えた。
「当然でありま~す! ここでエリク様を残して逃げていたら、いつ忠義を誓えば良いのですか~!?」
更にゴブロンが言う。
「あっしらはもうエリク様の配下なんですよ。例え相手が巨漢のホブゴブリンでも引けやしやせんがな!!」
角刈り、アフロ、モヒカンが声を揃える。
「「「同感です!!」」」
こいつらの忠義を見ていると、俺も少しは魔王らしくなってきたのだと思う。なんか、照れくさいな。
機嫌が良くなった俺は配下のモンスターたちに命ずる。
「ふむ、勇ましいね~。ならば今回はお前らが好きなように戦って良いぞ。ただし、あいつらを殺すなよ!」
「了解!!」
返事を返したハートジャックがスレンダーなボディーをしならせながらダッシュした。鉈を振りかぶり一番に飛び掛かる。
そのスピードは速い。明らかに初めて森の中で出遭った時よりスピードがアップしていた。
「行くよ~、ホブゴブリ~ン!!」
「ふがっホブ!!」
走り迫るハートジャックにホブゴブリンの一匹が木槌を振るった。
右から左に振るわれる木槌の強打。何とも力強い。その横振りをハートジャックは蜥蜴のように四つん這いになって回避する。地面スレスレまで下げた頭の上を木槌が猛スピードで過ぎて行く。
その低い姿勢から今度はハートジャックが高く跳躍した。ハートジャックは木槌を振り切ったホブゴブリンの頭よりも高く跳躍している。
「食らえ~!!」
攻撃の合間を縫って急接近するハートジャックが鉈でホブゴブリンの顔面を切りつけた。
「ホブゴブっ!!」
ハートジャックの一振りはホブゴブリンの顔面に斜めの切り傷を刻んだ。その一太刀に鮮血が散る。
しかし浅い。
「浅かったかな~?」
顔を切られたホブゴブリンは片手で傷を押さえながら後ろによろめいた。後退する。
「痛いホブ……」
「カンドレアっ、大丈夫ホブか!?」
もう一匹のホブゴブリンが気遣った刹那であった。そのホブゴブリンにゴブロンがダガーを振りかざして飛び掛かる。
「クソがホブ!!」
ホブゴブリンは飛び迫るゴブロンを打ち落とそうと大木槌を振るう。その横振りの大木槌をゴブロンは空中で体を捻って回避した。
その回避術は可憐でアクロバティックっつだった。ゴブリンがなせるような体術ではないだろう。
それを見て俺が顎を撫でながら感想を述べる。
「ほほう、空中に居ながらも体を捻って攻撃を回避するか。やるな」
そして、空中で攻撃を躱したゴブロンはホブゴブリンの巨漢を飛び越え背後に着地した。それを追ってホブゴブリンが振り返りながら大木槌を頭の上に振りかぶる。
「ふごぉぉおおお!!」
だが、大木槌を振り下ろすよりも先に角刈りゴブリンに背中をダガーで切付けられた。数の優位が物を言う。
「ギャッ!!」っとホブゴブリンが叫んだ。
角刈りゴブリンが言う。
「そっちは二匹だぞ。こっちは五匹だぜ。我らを忘れるな!」
「ホブコブっ!!」
「ホブゴブ~!!」
ホブゴブリンの二匹が走って引いた。羽根飾りのゴブリンの元に戻る。
「アンドレア姉さん、回復してくれホブ!!」
「分かったゴブよ!!」
羽根飾りのゴブリンの手が緑色に輝いてホブゴブリンたちの傷を癒しだした。顔の切り傷と背中の刺し傷が同時に回復魔法で治療されて行く。
その様子を見たアフロゴブリンが追撃を仕掛けようとする。
「回復魔法なんてさせるか!!」
「まて、お前たち!」
「「「「えっ?」」」」
突然俺がゴブリンたちを止める。
静止の指示にハートジャックとゴブリンたちが振り返って俺を見た。
「相手は三匹だ。こっちも数を合わせよう」
「えっ、そうするのでやんすか?」
「アフロ、モヒカン、お前らは下がれ。ハートジャックとゴブロン、それに角刈りだけで戦え」
アフロとモヒカンが俺の言葉を聞いてブウたれた。
「なんで俺らだけ戦っちゃあダメなんすか!?」
「そうですよ、不公平ですよ!!」
「お前らはヘアースタイルが格好よすぎるから我慢しろ。ナイスなヘアースタイルなのだから、我慢ぐらい出来るよな!」
「「へいっ!!」」
二匹のゴブリンは親指を立てながら陽気に返答した。ヘアースタイルを誉められると上機嫌で俺の元に退いてくる。
そのころにはホブゴブリンの治療は終わっていた。鬼の形相で再びホブゴブリンたちが前に出て来る。
待ち構えるは三匹の配下だ。
ハートジャックを中心に右にゴブロンで左に角刈りが立っていた。
こいつらも待っていたようだ。
ゴブロンが静かに言った。
「こいつら姉妹は以前はゴブリンの族長ぶってたでやんすが、どうってことないでやんす!」
ハートジャックが言う。
「我々が強くなっているんだよ~。エリク様の鮮血でね~」
角刈りゴブリンが言う。
「ほんの少し前なら俺らがホブゴブリンと戦うなんてあり得ない夢だったのに、今じゃあホブゴブリンと五分だぜ」
ゴブロンが言う。
「五分どころじゃあないでやんす。五分以上でやんすよ。もしかしたらあっし一匹でホブゴブリン二匹を倒せるんじゃあないでやんすかね?」
三匹の会話を後ろで聞いていた俺が煽るように提案した。
「なら、ゴブロン。お前一匹でホブゴブリン二匹を倒して見せろ。出来るんだ~ろ~」
ゴブロンが首だけで振り返り俺に問う。
「そんな贅沢して良いんでやんすか!?」
「2対1でも良いならな」
すると気を使った角刈りが踵を返してこちらに戻ってきた。
「俺は構わないですよ~。ゴブロンがホブゴブリンを倒せるなら、俺にも倒せるって証ですからね~」
そう言いながら前線から角刈りが降りた。
すると角刈りゴブリンを見送ったハートジャックが言う。
「じゃあ私はゴブリンシャーマンを相手しちゃいますよ~」
ゴブロンがコボルト娘の腰を叩きながら言う。
「任せるでやんすよ、コボルトのお姉ちゃん!」
それに対してハートジャックが親指を立ててニッコリと笑ってみせる。
「じゃあ、始めましょうか~!」
どうやらマッチメイキングが確定したようだ。
ロン毛ゴブリンのゴブロンvsホブゴブリンのカンドレアとチンドレア組。
そして、コボルト狩人のハートジャックvsゴブリンシャーマンのアンドレアのようだ。
始まりのゴングはないが、俺らの心の中で戦いのゴングが鳴り響いた。戦闘開始だ。
そして、早々にハートジャックが瞬速のダッシュを試みる。その速さは疾風のようだった。やはり速い。一瞬でホブゴブリン二匹の間を走り抜けてゴブリンシャーマンの眼前に迫った。
「速いっゴブ!!!」
「トロ~イ~」
ゴブリンシャーマンが叫んだ刹那にはハートジャックの鉈が縦に降られていた。振り下ろされたハートジャックの鉈がピタリとアンドレアの額の前で止まる。寸止めであった。
「ぐぬぬ……」
回避も出来なかった。防御すら出来なかった。何も反応すら出来なかったのだ。もしも鉈が寸止めされていなかったら頭が真っ二つだっただろう。ただ冷や汗だけがアンドレアの額から流れ落ちる。
「チェックメイトですよ~!」
「ゴブゴブコブっ!?!?」
圧倒的である。完璧な敗北。勝負とすら呼べない結果だった。その事実にアンドレアは悔しさで表情を醜くも歪めていた。
ハートジャックがアンドレアに澄ました声色で言う。
「私の勝ちでいいよね~?」
「ぬぐぐぐぐぅ……ゴブ」
開幕一番の王手に、対戦相手サイドの三匹が顔を青ざめていた。鬼の顔が情けなく歪む。
それだけハートジャックの動きは速くて迅速だったのだ。眉間に鉈を振り下ろされたアンドレアが歯軋りをしていた。
それからハートジャックが鉈を引いて鞘に戻した。
「さあ、こっちは終わったけれど、そっちは続きを始めてくれたまえ~、ゴブロン君よ~」
「かたじけないでやんす、ハートジャックさん!!」
ゴブロンはダガーを持った手をグルグルと回しながら自身に気合いを入れていた。
ゴブロンはヤル気だ。まだホブゴブリンたちと戦うつもりらしい。楽しげに微笑んでいる。
その笑顔を見てホブゴブリンたちの額に青筋が複数浮かび上がる。怒りがついに頂点に達したようだ。顔が赤鬼のように沸騰していた。
格下のゴブリン風情に煽られて我慢がならないようである。
「ホーブーゴーブー!!」
唐突にカンドレアが大木槌を振り下ろした。頭上から迫る大木槌をゴブロンはヒョコリと横に飛んで回避する。
更に今度はチンドレアが大木槌を振り下ろす。
「ホブっ!!!」
「よっと~」
それもゴブロンは身軽に回避した。その動きは呑気にスキップするような動きであった。
スピードだけなら確実にゴブロンが勝っている証拠だろう。余裕で躱している。
「大振り過ぎて当たらないすよ~。そんな遅い攻撃じゃあトロいトロい~」
「ホブゴブっ!!」
「ホブホブっ!!」
その後も二匹のホブゴブリンが力任せに大木槌を振るった。
上下左右からメチャクチャに振るう。しかしゴブロンにはかすりもしなかった。楽しげに木槌の乱打をスキップだけで避けている。
口角を吊り上げる俺は背後に並ぶアフロとモヒカンに言ってやった。
「あれが俺の鮮血を飲んだ魔物の実力だ。おそらく同じだけお前らもパワーアップしているだろうさ。その辺のヘッポコモンスターじゃあ、もうお前らに勝てないぞ」
アフロが訊いてきた。
「人間の冒険者にも勝てるでしょうかね?」
「勝てるだろうさ。並みの冒険者じゃあ、もうレベルが違うってばよ」
「「マジっすか!」」
「たぶんね~」
アフロとモヒカンの表情には感激と驚きが入り交じっていた。とにかく嬉しそうである。
「ただし、俺の許可無しに人間を殺すのは禁止な。食うなんてもっての他だ」
「そ、そうなんすか……」
二匹は少しガッカリしている。おそらく人間をイビリ殺したかったのかも知れない。それがゴブリンの習性なのだろう。
「俺だって元は人間なんだよ。その辺は気を使え」
「「へいっ、エリク様!!」」
アフロとモヒカンが頭を下げた瞬間にゴブロンがホブゴブリンたちを飛び蹴りでぶっ倒した。
飛び後ろ回し蹴りで顔面を蹴り飛ばして、更にそのまま飛んで、もう一匹のホブゴブリンの顔面に飛び膝蹴りを打ち込む。
二匹のホブゴブリンは白目を剥きながらダウンした。手持ちのダガーを使わずに蹴り技だけでホブゴブリン二匹を気絶させたのだ。
スチャリと空中から着地したゴブロンが親指を立てて勝利を宣言する。
「イエーーイ、勝ったでやんす!!」
しかし決めポーズが少しダサい。その辺のセンスはゴブリンのままなのだろう。
俺は沈黙するゴブリンシャーマンに言ってやった。
「これで、完全決着だろう。ゴブリンのリーダーさんよ」
俺がゴブリンシャーマンに問うと、絶望に両膝を落としたアンドレアが降伏を述べる。
「ま、参った……。わっちらの負けでありんす……」
俺が述べた通り完全決着である。
これでゴブリンを支配したぜ。
「ふごっホブ!!」
二匹のホブゴブリンが前に走って来た。二匹は大きな木槌を構えている。
その表情は鬼だ。だが、ゴブリンたちと異なり小鬼ではない。まさに鬼の形相である
それらの外見からホブゴブリンと言うよりもオーガその者に伺えた。
そして体格も太くて、まさに鬼の成りである。
腕も脚も太い。胸も腹も巨大。そして全てが大きく見える。身長は180センチ近くで体重は100キロは越えているだろう。
右と左のワンショルダーの服を纏っているところから巨漢の悪役プロレスラーが凶器を振るって大暴れしているように伺えた。
「ヒィィイイ!!」
「こっち来たゴブっ!!」
俺の前にひざまついていたゴブリンたちが左右に逃げ出した。モーゼの十戒のように道を開ける。
しかし、俺の鮮血を受けたハートジャックと四匹のゴブリンたちは逃げ出さない。それぞれが武器を構えてホブゴブリンたちが迫り来るのを待ち構えていた。
おそらく俺への忠義心がそうさせるのであろう。
自分で言うのもなんだが俺の鮮血の力は本当に凄いんだな~っと思った。
「お前らは逃げないんだな」
ホブゴブリンを睨み付けたままハートジャックが答えた。
「当然でありま~す! ここでエリク様を残して逃げていたら、いつ忠義を誓えば良いのですか~!?」
更にゴブロンが言う。
「あっしらはもうエリク様の配下なんですよ。例え相手が巨漢のホブゴブリンでも引けやしやせんがな!!」
角刈り、アフロ、モヒカンが声を揃える。
「「「同感です!!」」」
こいつらの忠義を見ていると、俺も少しは魔王らしくなってきたのだと思う。なんか、照れくさいな。
機嫌が良くなった俺は配下のモンスターたちに命ずる。
「ふむ、勇ましいね~。ならば今回はお前らが好きなように戦って良いぞ。ただし、あいつらを殺すなよ!」
「了解!!」
返事を返したハートジャックがスレンダーなボディーをしならせながらダッシュした。鉈を振りかぶり一番に飛び掛かる。
そのスピードは速い。明らかに初めて森の中で出遭った時よりスピードがアップしていた。
「行くよ~、ホブゴブリ~ン!!」
「ふがっホブ!!」
走り迫るハートジャックにホブゴブリンの一匹が木槌を振るった。
右から左に振るわれる木槌の強打。何とも力強い。その横振りをハートジャックは蜥蜴のように四つん這いになって回避する。地面スレスレまで下げた頭の上を木槌が猛スピードで過ぎて行く。
その低い姿勢から今度はハートジャックが高く跳躍した。ハートジャックは木槌を振り切ったホブゴブリンの頭よりも高く跳躍している。
「食らえ~!!」
攻撃の合間を縫って急接近するハートジャックが鉈でホブゴブリンの顔面を切りつけた。
「ホブゴブっ!!」
ハートジャックの一振りはホブゴブリンの顔面に斜めの切り傷を刻んだ。その一太刀に鮮血が散る。
しかし浅い。
「浅かったかな~?」
顔を切られたホブゴブリンは片手で傷を押さえながら後ろによろめいた。後退する。
「痛いホブ……」
「カンドレアっ、大丈夫ホブか!?」
もう一匹のホブゴブリンが気遣った刹那であった。そのホブゴブリンにゴブロンがダガーを振りかざして飛び掛かる。
「クソがホブ!!」
ホブゴブリンは飛び迫るゴブロンを打ち落とそうと大木槌を振るう。その横振りの大木槌をゴブロンは空中で体を捻って回避した。
その回避術は可憐でアクロバティックっつだった。ゴブリンがなせるような体術ではないだろう。
それを見て俺が顎を撫でながら感想を述べる。
「ほほう、空中に居ながらも体を捻って攻撃を回避するか。やるな」
そして、空中で攻撃を躱したゴブロンはホブゴブリンの巨漢を飛び越え背後に着地した。それを追ってホブゴブリンが振り返りながら大木槌を頭の上に振りかぶる。
「ふごぉぉおおお!!」
だが、大木槌を振り下ろすよりも先に角刈りゴブリンに背中をダガーで切付けられた。数の優位が物を言う。
「ギャッ!!」っとホブゴブリンが叫んだ。
角刈りゴブリンが言う。
「そっちは二匹だぞ。こっちは五匹だぜ。我らを忘れるな!」
「ホブコブっ!!」
「ホブゴブ~!!」
ホブゴブリンの二匹が走って引いた。羽根飾りのゴブリンの元に戻る。
「アンドレア姉さん、回復してくれホブ!!」
「分かったゴブよ!!」
羽根飾りのゴブリンの手が緑色に輝いてホブゴブリンたちの傷を癒しだした。顔の切り傷と背中の刺し傷が同時に回復魔法で治療されて行く。
その様子を見たアフロゴブリンが追撃を仕掛けようとする。
「回復魔法なんてさせるか!!」
「まて、お前たち!」
「「「「えっ?」」」」
突然俺がゴブリンたちを止める。
静止の指示にハートジャックとゴブリンたちが振り返って俺を見た。
「相手は三匹だ。こっちも数を合わせよう」
「えっ、そうするのでやんすか?」
「アフロ、モヒカン、お前らは下がれ。ハートジャックとゴブロン、それに角刈りだけで戦え」
アフロとモヒカンが俺の言葉を聞いてブウたれた。
「なんで俺らだけ戦っちゃあダメなんすか!?」
「そうですよ、不公平ですよ!!」
「お前らはヘアースタイルが格好よすぎるから我慢しろ。ナイスなヘアースタイルなのだから、我慢ぐらい出来るよな!」
「「へいっ!!」」
二匹のゴブリンは親指を立てながら陽気に返答した。ヘアースタイルを誉められると上機嫌で俺の元に退いてくる。
そのころにはホブゴブリンの治療は終わっていた。鬼の形相で再びホブゴブリンたちが前に出て来る。
待ち構えるは三匹の配下だ。
ハートジャックを中心に右にゴブロンで左に角刈りが立っていた。
こいつらも待っていたようだ。
ゴブロンが静かに言った。
「こいつら姉妹は以前はゴブリンの族長ぶってたでやんすが、どうってことないでやんす!」
ハートジャックが言う。
「我々が強くなっているんだよ~。エリク様の鮮血でね~」
角刈りゴブリンが言う。
「ほんの少し前なら俺らがホブゴブリンと戦うなんてあり得ない夢だったのに、今じゃあホブゴブリンと五分だぜ」
ゴブロンが言う。
「五分どころじゃあないでやんす。五分以上でやんすよ。もしかしたらあっし一匹でホブゴブリン二匹を倒せるんじゃあないでやんすかね?」
三匹の会話を後ろで聞いていた俺が煽るように提案した。
「なら、ゴブロン。お前一匹でホブゴブリン二匹を倒して見せろ。出来るんだ~ろ~」
ゴブロンが首だけで振り返り俺に問う。
「そんな贅沢して良いんでやんすか!?」
「2対1でも良いならな」
すると気を使った角刈りが踵を返してこちらに戻ってきた。
「俺は構わないですよ~。ゴブロンがホブゴブリンを倒せるなら、俺にも倒せるって証ですからね~」
そう言いながら前線から角刈りが降りた。
すると角刈りゴブリンを見送ったハートジャックが言う。
「じゃあ私はゴブリンシャーマンを相手しちゃいますよ~」
ゴブロンがコボルト娘の腰を叩きながら言う。
「任せるでやんすよ、コボルトのお姉ちゃん!」
それに対してハートジャックが親指を立ててニッコリと笑ってみせる。
「じゃあ、始めましょうか~!」
どうやらマッチメイキングが確定したようだ。
ロン毛ゴブリンのゴブロンvsホブゴブリンのカンドレアとチンドレア組。
そして、コボルト狩人のハートジャックvsゴブリンシャーマンのアンドレアのようだ。
始まりのゴングはないが、俺らの心の中で戦いのゴングが鳴り響いた。戦闘開始だ。
そして、早々にハートジャックが瞬速のダッシュを試みる。その速さは疾風のようだった。やはり速い。一瞬でホブゴブリン二匹の間を走り抜けてゴブリンシャーマンの眼前に迫った。
「速いっゴブ!!!」
「トロ~イ~」
ゴブリンシャーマンが叫んだ刹那にはハートジャックの鉈が縦に降られていた。振り下ろされたハートジャックの鉈がピタリとアンドレアの額の前で止まる。寸止めであった。
「ぐぬぬ……」
回避も出来なかった。防御すら出来なかった。何も反応すら出来なかったのだ。もしも鉈が寸止めされていなかったら頭が真っ二つだっただろう。ただ冷や汗だけがアンドレアの額から流れ落ちる。
「チェックメイトですよ~!」
「ゴブゴブコブっ!?!?」
圧倒的である。完璧な敗北。勝負とすら呼べない結果だった。その事実にアンドレアは悔しさで表情を醜くも歪めていた。
ハートジャックがアンドレアに澄ました声色で言う。
「私の勝ちでいいよね~?」
「ぬぐぐぐぐぅ……ゴブ」
開幕一番の王手に、対戦相手サイドの三匹が顔を青ざめていた。鬼の顔が情けなく歪む。
それだけハートジャックの動きは速くて迅速だったのだ。眉間に鉈を振り下ろされたアンドレアが歯軋りをしていた。
それからハートジャックが鉈を引いて鞘に戻した。
「さあ、こっちは終わったけれど、そっちは続きを始めてくれたまえ~、ゴブロン君よ~」
「かたじけないでやんす、ハートジャックさん!!」
ゴブロンはダガーを持った手をグルグルと回しながら自身に気合いを入れていた。
ゴブロンはヤル気だ。まだホブゴブリンたちと戦うつもりらしい。楽しげに微笑んでいる。
その笑顔を見てホブゴブリンたちの額に青筋が複数浮かび上がる。怒りがついに頂点に達したようだ。顔が赤鬼のように沸騰していた。
格下のゴブリン風情に煽られて我慢がならないようである。
「ホーブーゴーブー!!」
唐突にカンドレアが大木槌を振り下ろした。頭上から迫る大木槌をゴブロンはヒョコリと横に飛んで回避する。
更に今度はチンドレアが大木槌を振り下ろす。
「ホブっ!!!」
「よっと~」
それもゴブロンは身軽に回避した。その動きは呑気にスキップするような動きであった。
スピードだけなら確実にゴブロンが勝っている証拠だろう。余裕で躱している。
「大振り過ぎて当たらないすよ~。そんな遅い攻撃じゃあトロいトロい~」
「ホブゴブっ!!」
「ホブホブっ!!」
その後も二匹のホブゴブリンが力任せに大木槌を振るった。
上下左右からメチャクチャに振るう。しかしゴブロンにはかすりもしなかった。楽しげに木槌の乱打をスキップだけで避けている。
口角を吊り上げる俺は背後に並ぶアフロとモヒカンに言ってやった。
「あれが俺の鮮血を飲んだ魔物の実力だ。おそらく同じだけお前らもパワーアップしているだろうさ。その辺のヘッポコモンスターじゃあ、もうお前らに勝てないぞ」
アフロが訊いてきた。
「人間の冒険者にも勝てるでしょうかね?」
「勝てるだろうさ。並みの冒険者じゃあ、もうレベルが違うってばよ」
「「マジっすか!」」
「たぶんね~」
アフロとモヒカンの表情には感激と驚きが入り交じっていた。とにかく嬉しそうである。
「ただし、俺の許可無しに人間を殺すのは禁止な。食うなんてもっての他だ」
「そ、そうなんすか……」
二匹は少しガッカリしている。おそらく人間をイビリ殺したかったのかも知れない。それがゴブリンの習性なのだろう。
「俺だって元は人間なんだよ。その辺は気を使え」
「「へいっ、エリク様!!」」
アフロとモヒカンが頭を下げた瞬間にゴブロンがホブゴブリンたちを飛び蹴りでぶっ倒した。
飛び後ろ回し蹴りで顔面を蹴り飛ばして、更にそのまま飛んで、もう一匹のホブゴブリンの顔面に飛び膝蹴りを打ち込む。
二匹のホブゴブリンは白目を剥きながらダウンした。手持ちのダガーを使わずに蹴り技だけでホブゴブリン二匹を気絶させたのだ。
スチャリと空中から着地したゴブロンが親指を立てて勝利を宣言する。
「イエーーイ、勝ったでやんす!!」
しかし決めポーズが少しダサい。その辺のセンスはゴブリンのままなのだろう。
俺は沈黙するゴブリンシャーマンに言ってやった。
「これで、完全決着だろう。ゴブリンのリーダーさんよ」
俺がゴブリンシャーマンに問うと、絶望に両膝を落としたアンドレアが降伏を述べる。
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実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
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人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
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