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【第十二章】大地母神ガイア編

12-33【サイクロプスと対決】

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ドスの聴いた低い声色だった。

一つ目の巨人が威嚇的な声で言う。

「さあ、互いに自己紹介も済んだことだし、心置きなく戦おうではないか!」

サイクロプスのミケランジェロは、再びスレッジハンマーを振り回すと上段に構えた。

あー、やっぱりやり合うのね……。

こいつは戦いたいのね……。

てか、この体格差だよ、楽勝だろうさ……。

調子良いよね~、こっちが小さいからってさ~。

もうさ、自分が負けるなんて思ってもいないよね。

絶対に勝つ気だよね。

負けるなんて考えてもいないよね。

ならば……。

ならばだ──。

歯向かってやろうじゃあねえか!!

人間の意地を見せたるわい!!

俺は双剣を握りしめた両腕を左右に大きく開いて胸を張る。

少しでも構えを大きく見せた。

そして、一つ目を見上げる両眼から闘志を放つ。

「おお、表情が変わったな。心が決まったか!?」

「おうよ、来やがれ!!」

「小人よ! 容赦せんぞ!!」

「巨人ごときが調子に乗るなよ!!」

サイクロプスが頭の上で構えていたスレッジハンマーを振り下ろした。

「ふうっ!!」

力強い!!

唸る風圧と共に鉄の塊が、俺の脳天目掛けて急降下して来る。

自分よりも小さな相手なのに手加減のない本気の一撃だった。

「速い!!」

しかし、躱せないスピードじゃあないぞ!!

「たっ!!」

俺は掛け声に合わせて横に飛んだ。

すると俺の居た場所にスレッジハンマーが突き刺さる。

それと同時に激しく地が跳ねた。

全力全開の一撃だろう。

ハンマーの先によって大地が抉れてめり込んでいた。

「うららららだっ!!」

一方、横に飛んだ俺は、直ぐ様に走っていた。

緩い弧を描いて疾走する俺は、サイクロプスの右横から駆け迫る。

回避直後からの攻撃。

この戦いは全力だ。

余裕は見せられない。

最初っからクライマックスだぜ。

なので!!

「ダッシュクラッシャー!!」

3メートルダッシュからの攻撃スキルである。

スキルの加速に乗った俺が弾丸のようにサイクロプスの左側から攻め行った。

「でぇぁぁあああ!!」

俺はダッシュに合わせてジャンプをしていた。

黄金の双剣を真っ直ぐに突き立てサイクロプスの脇腹を狙って突っ込んで行く。

取れるか!?

「速いな、しかし!!」

サイクロプスが反応した。

空振ったスレッジハンマーを引いて、木の柄の部分で俺の突進を防いだ。

完璧に防御される。

「うはっ!!」

双剣がスレッジハンマーの柄を跨ぎ、俺の顔面が柄に激突する。

「なかなかやるではないか、人間!!」

「のわぁ!!」

俺が柄に顔面をぶつけている直後、サイクロプスがスレッジハンマーを風車のように回転させた。

俺はその回転に体ごと巻き込まれてグルグルと回される。

まるで洗濯機に巻き込まれたような感じであった。

目が回るぞ。

しかし──。

「舐めんなっ!!」

俺は回転の中でスレッジハンマーを蹴飛ばして風圧から逃れた。

地に落ち転がる。

「ひでー、目が回ったぞ」

今、何処に落ちたか把握できていない。

敵がどの方向に居るかも分からない。

サイクロプスはどこだ!?

「あっ、蹴り……」

俺に向かって巨大な足の甲が迫っていた。

それがゆっくりに見える。

これが噂に聞いた走馬灯タイムだな。

迫る足の甲からして、サイクロプスのローキックだよね。

本当は凄い勢いで迫ってるんだよね。

でも、ゆっくりに見えているのは何故!?

躱せるの!?

俺は木っ端微塵に粉砕した鳥を思い出した。

刹那──。

全身に激しい衝撃が走って視界を揺らした。

目眩が脳内でグチャグチャに交差する。

俺はサイクロプスのローキックを上半身で食らっていた。

やっぱ、躱せないか……。

蹴りの衝撃が重いわ~……。

景色が白く染まる中で、俺は後方に飛んでいた。

蹴り飛ばされているのだ。

次に目に入ったのは、迫り来る岩の壁。

飛んだ先に岩の壁があるんだな。

激突はしたくないぞ。

俺は膝を丸めて回転すると、脚から岩の壁に着地した。

全身のバネを使って勢いを殺す。

あら、意外だ。

耐えられたぞ。

咄嗟に受け身が成功してますがな。

「よっと」

俺は岩壁から落ちて地を転がった。

そして直ぐに立つ。

「ほほう、耐えたか。見事なり」

サイクロプスは10メートルほど先で、スレッジハンマーを肩に担いで寛ぐように立っていた。

俺は全身のダメージを確認する。

腕、良し。

足、良し。

頭、まあまあ良し。

脳が衝撃でグラグラするが問題無い。

肋が痛むが折れていないだろう。

肺が少し苦しいが、直ぐに回復するだろうさ。

ヒールを掛けるほどでもないな。

それにしても──。

意外だわ~。

サイクロプスのローキックを直撃したけど耐えられている。

「俺、戦えているのか?」

巨人と五分五分で戦えるのか?

思ったよりも戦力に開きはないぞ。

これは戦えるのか?

戦えるな。

うん、行けるわ。

「よっと……」

俺は両手を高く上げて、双剣を確りと握った。

それから両腕を振り下ろした。

「ふうっ!!」

ブンっと黄金剣が風を唸らせる。

よし、気合いが入ったぞ。

足が前に出る。

俺はサイクロプスに向かって歩んでいた。

その表情には威嚇の他に自信もみなぎっている。

今まで冒険してきた数々の経験が俺の力となっていのだ。

数々の経験が、数々のスキルが──。

それが自信となって漲っているのだ。

「負けない!」

その一言を聞いたサイクロプスの口角が微笑みに吊り上がる。

「嬉しいぞ、人間。普通の人間ならば、先程のローキックで粉砕しているはずだ!」

「そんだけ俺が普通の人間じゃあないってことだよ!!」

「感謝! 戦えることに感謝だ!!」

「それは俺に感謝しろってんだ!!」

俺は走り出していた。

すると迎え撃つサイクロプスが体を翻す。

背中!?

いや、スピンしてからのバックブロー!!

サイクロプスがクルリとスピンしてからバックブローでスレッジハンマーを振るって来た。

下段で繰り出される鉄の塊は、俺の高さだと丁度良い。

俺の突進にタイミングもドンピシャリだ。

俺だけがタイミングを外されていた。

「うおおお!?」

やっぱりこのサイクロプスは戦い馴れているぞ!!

「とやぁっ!!」

ジャンプ!!

俺の足元をスレッジハンマーが過ぎて行く。

着地!!

ゴロンっと転がってから立ち上がる。

そして、振り返る。

あっ、またローキックだ!!

ジャーーーンプ!!

俺はローキックをジャンプで躱しながら空中で回転した。

回転しながら双剣を振るってサイクロプスの足を切り付ける。

「切った!」

浅いか!?

掠り傷レベルだ。

着地!!

そしてまたゴロンと転がってから立ち上がる。

あれっ!?

サイクロプスは!?

上!?

俺は巨漢の影に居た。

「やべっ!?」

俺は横に跳ね飛ぶ。

すると俺が居た場所にスレッジハンマーが振り下ろされた。

大地が跳ねるように揺れる。

回避で転がっている俺にまで衝撃が伝わって来た。

更に追撃が来る。

今度はサイクロプスの後ろ水面蹴りが放たれた。

丸太を横振りされたような蹴り脚が地面を滑りながら迫る。

また飛ぶしか回避の道はないだろう。

俺は垂直に飛んだ。

俺の足元をサイクロプスの水面蹴りが過ぎて行く。

直後だ。

空中に居る俺にスレッジハンマーが振られた。

回転する体からのコンボかよ。

あら、これは躱せないぞ……。

空中だと回避が出来ないものね……。

なら、ガード!!

双剣を十字に合わせてスレッジハンマーを受け止めた。

衝撃!

「重いっ!!」

「軽いなっ!!」

打たれた。

まるで野球のボールのように打たれたわ。

「りいゃ!!」

サイクロプスがジャストミートした俺を振り切る。

「ぐはぁっ!!」

衝撃が白く輝くと、俺は飛んでいた。

遠くにサイクロプスが見える。

サイクロプスは野球のバッターを連想させるホームでスレッジハンマーを振り切っていた。

俺はサイクロプスよりも高く飛んでいるのだ。

それに遠くに飛ばされている。

あー、両腕が痛いわ~。

ジンジンと痺れてるぞ。

なんか今日は、飛んで跳ねて飛ばされて、そんなんばっかりだな。

それよりも着地できるかな?

おお、出来た!!

さすがは落下ダメージ軽減スキルマスタリーだわ~。

今日はこのスキルにだいぶ助けられているぞ。

「ぬぬぬぅ!!」

今度はサイクロプスが走って来た。

巨漢なのに静かに走って来るぞ。

綺麗な忍者走りだわ。

静かなホームだが、サイクロプスは血気に叫んだ。

「良いぞ、人間!! 私が叩いても木っ端微塵にならない人間なんぞ久々だ!!」

「人間人間って、五月蝿いぞ! 俺はアスランだ!!」

俺はゴールドショートソードを異次元宝物庫に仕舞うと、ゴールドロングソード一本で構えた。

今度は一刀流だ。

「アスランか! 良かろう人間! そう呼んでやるぞ!!」

「じゃあ俺もミケランジェロって呼んでやるよ!!」

「生意気だから断る!!」

「断るんかい!?」

「ふうっ!!」

俺の眼前でミケランジェロがスレッジハンマーを高く振り上げた。

ミケランジェロには間合いだが、俺には遠すぎる。

リーチ差も凄いのだ。

常に先手先手と先を行かれる。

「砕け散れ、アスラン!!」

「そうは行くか!!」

スレッジハンマーを振り下ろそうとしたミケランジェロに、俺は手の中の物を投げ付けた。

投擲されるのは赤く煌めく小さな宝石だ。

「ぬっ!?」

その煌めきがスレッジハンマーにぶつかると爆発する。

その爆発はファイアーボールの爆風よりも大きい。

ミケランジェロの上半身を爆炎が包む。

「ぬあっ!!??」

ミケランジェロは、眼前で炸裂した爆発に視界と意表を奪われる。

「目眩ましか!?」

ミケランジェロが上半身を包んだ爆炎の煙を片手で払った。

「良しっ!!」

そのころには、俺がミケランジェロの背後に回り込んでいたのだ。

「バックを取ったぜ!!」

「なにっ!?」

ミケランジェロが振り返ろうとした瞬間である。

俺はミケランジェロの右足首に黄金剣を振るった。

「そりゃ、ウェポンスマッシュ!!」

一文字に振られたスキル技がミケランジェロの足首を後ろから切り裂いた。

「ぬぁああ!?」

よろめく巨漢は足を切られても退避する。

前に転がって俺との距離を作った。

好機!!

しかし俺は追わない。

「貴様っ!!」

転がったミケランジェロが体勢を戻そうとするが、立ち上がれずに片膝を付いていた。

「貴様じゃあねえだろ。アスランだろ。ミケランジェロさんよ~」

「おのれ、アスラン!!」

俺が切ったのはミケランジェロの足首だ。

足首は足首でも致命傷の部位だ。

足首の後ろ側である。

「巨人とて、アキレス腱を切られたら立てないよな~」

アキレス腱とはギリシャ神話の英雄アキレスの弱点。

現代でも、格闘家、体操選手、様々なアスリートであろうと、アキレス腱が切れたら終わりである。

アキレス腱が切れたら戦えるどころか立ち上がれもしない。

人体で最大の弱点の一つである。

「へへぇ~んだ」

俺は余裕をかまして黄金剣を担いで立っていた。

黄金剣で凝った肩をトントンっと叩いて余裕を表現する。

「やりおるな、アスラン……」

アキレス腱を切られたミケランジェロは、それでも立ち上がった。

片足で無理矢理立っている。

「片足の自由を奪ったぐらいで勝ったつもりか、アスラン?」

「まだやるかい、ミケランジェロさんよ?」

「体格差からして、片足のハンデぐらい丁度良かろうて!」

「勇ましいね~」

まだ戦いは続くようだ。

ならば、とことんやってやろうじゃあねえか!!


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