俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

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【第十三章】魔王城攻略編

13-8【エルフ族との決着】

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木の上の家々から明かりが漏れ出る時間帯。

高い木々の上から見下ろす景色ってものも不思議である。

夜だがエルフたちも、まだ眠るには早い時間なのだろう。

エルフたちの住居からは柔らかい明かりが漏れ出ていた。

そんな時間帯の広場で俺と社長エルフが向かい合っている。

昼間は破極道山やアンドレアと戦った広場である。

月明かりが強くて周囲が明るく見えた。

ああ、俺には夜目スキルがあるんだったっけ。

良く見えるのは、そのせいかな？

上を見上げれば社長エルフの家のベランダから、牛乳ビンの底のような丸眼鏡を掛けた凶子が俺たちを見下ろしていた。

観客は、それだけだ。

社長エルフが上着を脱いで上半身裸になった。

服を投げ捨てる。

昼間のように受け取りに来る若い衆は居ない。

それにしても凄い筋肉だな。

逆三角形だよ。

首も太い。

手足も太い。

なのに腰は細い。

口髭と頭が剥げているせいで社長の年齢は六十歳以上に見えるが、肉体は鍛え上げられた分だけ若々しい。

とにかく、年齢と肉体がアンバランスだ。

これは、当分死にそうにないな。

「アスラン……。感謝する」

「気にすんな、ケジメだ」

社長エルフがゆっくりと踊りだした。

拳法の演武だ。

カンフー映画で観たことがある。

演武を披露しながら社長エルフが言った。

「この勝負をもって、我々の進む道を決めたいと思う……」

「脳筋ってヤツは、これだから回りくどい。もっと気楽に行こうぜ」

俺は羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。

皮鎧を着こんでいるが、構わんだろう。

社長エルフは素手で勝敗を望んでいるのだから、俺も素手で相手をしてやる。

ここでレベルが上がれば、素手系のスキルを取得できることだろうさ。

それも悪くない。

破極道山にアンドレアを倒しているから、社長を倒せばおそらくレベルアップだろうさ。

「よし！」

俺は気合いを入れた後に構えを築いた。

両拳を顔の前に、背を丸め、ジリジリと前に出る。

ボクシングのインファイタースタイル。

これしか知らない。

だからこれでいい。

問題無い。

社長エルフは演武を続けていたが、隙が無い。

あの演武が構えなのだろう。

もう、戦う準備が出来ているのだろうさ。

踊りながら社長エルフが言った。

「そう言えば、まだ名乗ってなかったのぉ。ワシは入り口の村の族長の凶十郎」

「俺はソドムタウンのソロ冒険者アスラン」

「では、私から挑んだのだから、私から攻めようか！」

刹那！！

社長エルフが前に出る。

躍りの流れから距離を詰めて来た。

俺に多きな背中を向けたまま前進後退して来る。

「はいーーーー！！」

そこからの裏拳！！

振り返りからのバックブロー攻撃だ。

長いな。

やはり長身だけあってリーチも長い。

しかし、その分だけ振りも大きい。

俺はしゃがんで裏拳を躱す。

俺の頭上を社長エルフの剛腕が過ぎた。

だが、続いて中段廻し蹴りが飛んで来た。

連携の連続攻撃。

裏拳が躱されるのが前提でのコンビネーション攻撃だろう。

このミドルキックは躱せない。

しかし、ガードをするより俺は前に出た。

深く社長エルフの懐に入り込む。

その俺に蹴り足の太股が当たった。

だが、軽い。

蹴りの先端は遠心力で威力満点だが、内側になればなるほど破壊力は落ちるものだ。

俺は脇腹で社長エルフの蹴り足を受け止めると、その太い足を片腕で抱え込んだ。

「取った！」

「ふっ！？」

更に立っている社長エルフの片足に俺の片足を絡める。

大外刈りだ。

「そりゃ！」

「くっ！！」

俺と社長エルフの体が倒れ込んだ。

グランドに持ち込む。

俺が上だ。

俺は直ぐに社長エルフの腹の上に股がった。

マウントポジションをゲットだぜ。

「社長さんよ、勝負ありだぜ！！」

俺は拳を振りかぶりながら微笑んだ。

絶対的に有理なポジション。

格闘技界では難攻不落の体勢だ。

もう逃げれないだろうし、防御も難しい。

あとはボコボコに殴られて終わりだろう。

「これで俺の勝ちだ！」

「軽いな」

「んん？」

社長エルフは俺を抱えたまま、当たり前のように立ち上がった。

ブリッチから背筋だけで俺を持ち上げて立ち上がる。

「おいおい、なんつーパワーだ！！」

俺は駅弁状態で巨漢に持ち上げられていた。

いゃ～ん、これってば一気に不利なポジションじゃあねえ！？

「私はあまりこういう投げ技は使わんのだがな」

「ひぃ！！」

「わっしょい！！」

投げられた！！

速い！！

社長エルフが後方にブリッチするように俺を投げる。

投げるが放さない。

フロントスープレックスだ。

俺は頭から地面に叩きつけられた。

あんっ、首が引っ込む！！

視界が一瞬暗くなったわん……。

重い……。

ああ、乗られている。

今度は俺が社長エルフにマウントポジションを取られているぞ。

「勝負有でいいかな？」

拳を振り上げている社長エルフの髭が、勝ち誇ったように曲がった。

「あまいぞ、凶十郎さんよ！」

俺は寝そべり腹の上に乗られた状態で高く腕を振り上げた。

そこから肘鉄を社長エルフの股間に打ち込んでやる。

「それっ！」

「がぁっ！！！」

ゴーーーンっと釣り鐘を鳴らしたような音が響く。

金的だ。

それにしてもスゲーサイズのタマタマを有しているな！！

ビッグサイズ過ぎてビックリだぜ！！

エルフって皆デカイのかな？

股間を押さえた社長エルフの隙をついて俺は、ニョロニョロと蛇のように這って股の間から脱出した。

そして、俺は跳ね起きると、膝まついている社長エルフの頭部を狙ってキックを放つ。

だが、社長エルフも膝をついた状態から前蹴りを放った。

俺のミドルキックが社長エルフの頭を横殴ったが、社長エルフの前蹴りも俺の顎を蹴り上げる。

「うっ！」

「くっ！」

相討ち。

両者共に当たりが弱い。

ダウンこそしない。

「あ～、痛いわ～」

俺が顎を撫でてる間に社長エルフが立ち上がった。

「ふうっ！！」

そして、縦拳を前に打ち突き出しながら社長エルフが突進して来た。

棒拳だ。

俺は半身を横に翻し棒拳を躱す。

更に社長エルフの旋風脚。

それも俺は蹴り足をくぐって躱した。

そこから俺のジャブ。

俺の舜拳が社長エルフの眉間をズキュンっと叩いた。

おそらく社長エルフの視界には一瞬の火花が散ったことだろう。

その一瞬の間に俺は更なる攻撃を連打した。

右フックで頬を殴り、左アッパーで顎をカチ上げ、右ストレートで鼻を潰した。

綺麗な三連コンボだ。

背を反らした社長エルフの鼻から鮮血が舞う。

「にぃぃいい、ぁっあああ！！」

だが、社長エルフの反撃。

社長エルフは瞳から涙を流し、鼻と口からは血飛沫を散らしながら攻撃を放ってきた。

「喝ッ！」

「にゃに！」

まさかここで反撃が来るとは思わなかった。

社長エルフの上段飛び膝蹴りが俺の顎を蹴り上げる。

あっ、月が見えた。

俺、夜空を見上げてるわ。

星も綺麗だ。

モロに膝蹴りを食らったんだな……。

「ぬぷっ！！！」

次に腹への衝撃で俺は背を丸める。

社長エルフの中段鍵拳が俺のボディーにめり込んでいた。

「うらぁぁああああ！！！」

社長エルフはそのまま剛腕を力強く振り切った。

スイングされた腕力に俺の体が真横に飛んだ。

そして、転がった。

ムクリ！！

でも、俺は直ぐに立ち上がる。

立ち姿に脱力を加えて余裕を演じる俺は平然とした口調で語った。

「いいね、おっさん！気合いが入ってるな！！」

「ハァハァ……。我々一族の命運が掛かってるのだ。気合いだって入るだろうさ！！」

「だよね、分かる分かる」

俺は言いながら首を左右に振ってほぐした。

だいぶ攻撃を食らったが、蓄積されたダメージは少ない。

俺ってこんなにタフネスだったっけな？

いや、今まで繰り広げてきた冒険の数々が俺を鍛え上げてくれたのだろう。

運命に感謝である。

「よし！」

俺は両手で自分の顔を挟むように叩いて気合を入れ直す。

そろそろ真面目に本気を出そうかな。

社長エルフは親指で片鼻を押さえると手鼻をかんだ。

片方の鼻の穴から血の混ざった汁を床に散らす。

社長エルフは息が荒くなっていた。

俺は荒れてない。

体力の差かな？

それとも歳の差かな？

いや、実力全体の差だろう。

この社長エルフは強い。

強いがミケランジェロほどではない。

だから負ける相手じゃあないな。

社長エルフが優しく俺を睨みながら言う。

「祖父から習った我が拳法。ここまで受け止めてくれる相手は初めてだ……」

社長エルフがズボンを脱いで黄色いパンツ一丁になる。

「相撲取り、プロレス、拳法。それらはお前の曾祖父さんから習ったのか？」

俺も皮鎧を外して服を脱ぎ出した。

「私は祖父から習った。拳法を──」

「異世界転生者か……。それって多くいるの？」

俺は上着を脱ぎ終わるとズボンも脱ぐ。

「噂では勇者も魔王も異世界転生者だったと語られていたが、二人とも亡くなられている。もう分からん」

「他には居ないのか？」

俺はパンツも抜いだ。

全裸になる。

「さあな……」

「そうか。じゃあそろそろ休憩は終わりでいいか？」

「心使い感謝する！！」

社長エルフも俺に合わせてパンツを脱いだ。

互いに全裸だ。

「老体を気づかっただけだよ」

「ならば、我の最大最強の奥義で最後を飾ろうではないか！！」

全裸の二人が恥ずかしげも無く向かい合う。

そしてそれぞれが構えた。

「それは嬉しい歓迎だな」

「行くぞ、我が必殺のアックスボンバー！！」

それは拳法ちゃうよね！！

プロレス技だよね！！

「うりゃぁあああ！！」

右腕を振り上げ肘を曲げた変形のラリアット。

その状態で全裸の社長エルフが突進するように走って来た。

更に社長エルフがスキルを発動させる。

「発動、舜速ダッシュ！！」

うわっ、走る速さがアップしたぞ。

すげー速い！！

しゃあねえな……。

全裸の俺も最大最強奥義で対抗するか……。

「ふぅ！！」

それはVの字型の目突き！！

猛ダッシュで突っ込んで来た社長エルフの両目を俺の人差し指と中指が綺麗に突いた。

どんぴしゃりだ。

「ぎぃぁああああ！！！！」

全裸の社長エルフはダッシュの勢いのまま転倒すると、両目を両手で押さえながら転げ回る。

全裸の俺は転げ回る全裸社長エルフの背後を取ると、太い首に腕を回した。

背後から太い首を締め上げる。

チョークスリーパーだ。

「うぷっぷぷっぷぷぷ………ぅぅ」

全裸の社長エルフが顔を真っ赤にさせて両手をバタつかせた。

呼吸がままならず苦しいのだろう。

両目も真っ赤だ。

剥げ頭に凄い数の血管が浮き上がる。

「ぅぅ…………」

やがて直ぐに全裸社長エルフの巨漢から力が抜け落ちた。

──落ちた。

【おめでとうございます。レベル36になりました！】

これぞ本当の勝負有りだな。

よし、レベルアップだ。

これで、エルフどもも我が手の内だぜ！！

勝者、全裸のアスラン。

全裸社長エルフを撃破。

ベランダから一戦を観戦していた凶子が最後に呆れた口調で呟いた。

「なんで、二人とも全裸になったの……？」

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