俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
504 / 611
【第十八章】クラウド編。

18-1【据え物斬り】

しおりを挟む
日は頂点に登り、そろそろ昼時であった。

場所はソドムタウンの塀の外である。

丸太で建造された塀の直ぐ横に、木材置き場がある。その木材置き場に積まれた丸太の上に、若い女性が一人腰かけていた。

顔は黒いマスクで鼻と口を隠し、頭には赤茶いろの頭巾を被っているが、しなやかな身体は露出が多い服を来ている。

胸元が見えるセクシーな革鎧からは臍も覗いていた。

そして、タイトスカートから太股が露になりヒールの高いロングブーツを履いている。腰のベルトにはダガーが何本か下げられていた。

年の頃は二十歳ぐらいだろうか──。

彼女の名前は女盗賊の天秤である。アマデウスが率いるパーティーの専属シーフであった。

天秤は横に積まれた丸太の上に腰かけながら、しなやかな足を組んで頬杖をついていた。その前に背を向けてプレートメイルの男が立っている。

身長は180センチ後半だろうか──。

男は角刈りなのに後ろ髪だけを伸ばしてポニーテールを束ねていた。年の頃は二十代後半から三十歳ぐらいに伺える。

腰にはロングソード、背中にはカイトシールドを背負っていた。重戦士なのだろう。

彼の名前はアキレウス──。

彼もまたアマデウスのパーティーメンバーだ。

そして、天秤とアキレウスの前に、剣を構えて立っている青年が居た。いや、少年かも知れない。

白銀のプレートメイルを身に纏い、ロングソードよりも少し大振りなバスタードソードを両手で確りと構えている。彼の周りには、四本の丸太が建てられていた。

直径にして50センチぐらいで、高さは170センチぐらいの丸太が四本建ててあるのだ。丸太は大きく太いが、大人が蹴飛ばせば、倒れるやも知れないサイズである。

その四本の丸太の中央に立つのは、天秤やアキレウスと同じアマデウスのパーティーメンバーのクラウドだった。

金髪に整った美形──。気品ある素振り──。だが、今は、鋭い眼光で丸太を睨んでいる。両手で握られたバスタードソードをオードソックスな中段に構えて、静かに気合いを練っていた。クラウドの周りだけ温度が一度高くなっている。

「丸太を相手に、何をするの?」

天秤が質問すると、背を向けたままアキレウスが答える。

「据え物斬りさ」

「据え物斬り?」

アキレウスが振り返ると天秤に説明する。

「試し斬りを模した稽古のようなものさ」

天秤は不思議そうに問う。

「何故にそんなことをするの?」

アキレウスは呆れた素振りで答える。

「自分の力量が、どのぐらいまで上達したかを見るためさ」

「そんなものは、もの言わぬ物を切るより、冒険に出て魔物を切ればいいじゃあないの」

更に呆れたアキレウスが溜め息を吐いた後に答える。

「これは、稽古だよ。だから据え物斬りなんだ」

「稽古? わけが分からないわ……」

盗賊には戦士の稽古が理解出来ないのだろうか。殺さずに戦闘力を計るのが、盗賊の彼女に理解できないのだろう。

「まあ、だまって見ていろ、天秤」

「分かったわ……」

納得したのかしていないのか分からないが、それっきり天秤は黙り込む。すると、気を集中させていたクラウドが動いた。

「ふうっ!!」

唸るような声だった。その声と共にバスタードソードを振り上げる。

上段の構えだ。

そこから大きな一歩で前に踏み出す。その一歩は2メートルの長い踏み込みだった。

「ざんっ!!」

そして縦に真っ直ぐな一振りで、一本目の丸太を両断する。

その一振りは太さ50センチの丸太を一撃で両断しただけでなく、地面まで切り裂いていた。バスタードソードの刀身が地面にまでめり込んでいるのだ。

だが、丸太は両断されても倒れなかった。

「はっ!!」

そしてクラウドが掛け声と共に地面からバスタードソードを真っ直ぐに引き抜いた。

更に素早い剣撃が二つ走る。

袈裟斬りの後に逆袈裟斬り。

両断された丸太の上部と中部を斜めに切り裂くと、六等分された丸太がガランと音を立てて崩れ落ちた。

「ふうっ!!」

崩れる丸太を前にクラウドが振り返る。今度の構えはバッティングフォームのような姿勢だった。

そこから前方の丸太を目指して滑るように移動して行く。

しかし、その足取りは不思議だった。両足首だけが左右に動いて滑るように真横へと移動して行くのだ。上半身がぶれていない。

そして二本目の丸太を間合いに捉えたクラウドが横一文字にバスタードソードを振るった。

高さは上段。例えるならば、首の位置。

スコンっと丸太の上部が斬り落とされた。

更に続く三打の横降り。

三の字に輝いた閃光が次々と丸太を切り裂いて行く。しかもクラウドは地面に降下する最中の丸太を、突きで串刺しにして捕らえたのだ。

クラウドの持つバスタードソードの刀身には三つの丸太が串団子のように刺さっている。

刹那──。

「渇っ!!」

クラウドが気合いの声を上げると串刺しの丸太が破裂して粉砕された。

辺りに木片が舞う。

それを見ていたアキレウスが顎を撫でながら言う。

「おお、気合いだけで丸太を弾いたか」

更にクラウドが三本目の丸太に向かって跳んだ。そしてバスタードソードを振るうのだが、その軌道は下段掬い切りだった。ゴルフのスイングのように振られたバスタードソードが地面を抉りながら丸太に迫る。

「ぎぃぁ!!」

地中を切り裂きながら進んだバスタードソードが丸太の足元から昇って頂点まで斬り進んだ。

真っ二つだ。

更に二度目の下段掬い斬り。

しかし、今度の一振りは丸太を切り裂かなかった。

代わりに真っ二つになった丸太の半分だけを宙に打ち上げたのだ。

「あら、失敗?」

そう天秤が口走ると、打ち上げられた丸太の片割れが、もう片方の丸太の頭に乗ったのだ。まるで左右の丸太が肩車をして重なっているようだった。

高い──。

その二本の半身丸太が重なる高さは3メートルを遥かに越えている。

「ふっ!」

越えているが、その高さまでクラウドが垂直ジャンプで跳んでいたのだ。そこから、バスタードソードを上段に構えての兜割りだった。

一刀両断とはこれのことだろう。重なり合う二本の半身丸太を一太刀で四等分に切り裂いたのだ。

そして、クラウドは自然体を取るとバスタードソードを鞘に納めた。

「あら、一本残ってるわよ?」

天秤の言う通りだ。建てられた丸太は計四本である。まだ一本残っている。

「…………」

「んん……?」

クラウドが何も答えないので天秤は首を傾げていた。するとアキレウスが代わりに答える。

「何を言ってるんだ、天秤。あの丸太は最初に斬ったじゃあないか」

「最初に??」

天秤は意味が分からず首を傾げるばかりだった。

「見えてなかったのか」

言うとアキレウスは足元に落ちていた小石を爪先で踏みつけると、その小石がスピンして地面から浮き上がった。

その浮き上がった小石をアキレウスが蹴飛ばして四本目の丸太に命中させる。

すると丸太が崩れ落ちたのだ。

それは賽の目状態の細切れだった。数にして無数のサイコロが地面にバラバラと転がった。

「い、いつの間に……」

「だから、一番最初にだよ。居合切りの乱撃抜刀で微塵切りだ」

天秤には見えてなかった。気も付かなかった。クラウドを嘗めていたからだ。

驚く天秤。

天秤はクラウドがアマデウスのパーティーに加わったころから知っている。ピヨっ子のころからだ。何度か一緒に冒険もやった。だが、最近は別行動が多かったからだ。

なので、短時間の間にクラウドがここまで急成長しているのに気がつかなかったのだ。

「やるわね……」

アキレウスがのうのうとした表情で述べた。

「やっと決心がついたらしいぜ」

「決心?」

「アマデウスの命令通りに、アスランってガキを殺すらしい」

「彼に出来るのかしら?」

「さあな」

実力的にも、覚悟的にも疑問である。

すると空を見上げたクラウドが口を開いた。

「今日、ゴモラタウンからアスラン君が戻ると情報が入ったから、決闘を申し込むつもりだよ」

そう言うクラウドの表情は硬かった。まだ、迷いが伺える。

「本当に勝てるのかしら?」

「さあね~」

天秤とアキレウスの二人は首を振っていた。

クラウドは鞘に収まった剣柄に手を添えると深く腰を落とす。抜刀の構えだ。

「アスラン君が帰るまでのギリギリまで、腕を磨くよ」

「勉強熱心だね~」

アキレウスが呆れているとクラウドが呟いた。

「斬り戻し!」

すると斬り刻まれていたはずの丸太たちが瞬時に元の形に戻って行く。四本が四本接着して、斬り刻まれる前の状態に復元したのだ。

それはまるでVTRの巻き戻しを見ているような光景だった。

「なに、今の!!」

天秤が目を丸くして驚いていた。

クラウドが言う。

「斬り戻し──。マジックアイテムの効果さ」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...