スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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210【海賊風のボス】

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 蹴破られた扉の下敷きになった男は気絶していた。その倒れた扉の上を、シローは堂々たる姿勢で踏み越え、ギルドマスタールームに足を踏み入れる。その足元で、扉越しに踏まれたチンピラが呻いていた。

『ギルドマスターは、居るかい?』

「俺だ……」

 応えたのはアイパッチを嵌めた、柄の悪い中年男。マホガニーの机に腰掛け、豪奢な椅子にふんぞり返っている。

 海賊帽に赤い船長コート、左手は鉤爪。どこからどう見てもパイレーツの装いだ。

 盗賊ギルドのマスター、レッド・オルガ。サン・モンの裏社会を仕切る大物悪党である。ちなみに船乗りの経験はないが、海に憧れた男で、陸のパイレーツを自称している。陸パイレーツなのだ。

「てめぇ、何を上等かましてやがる!!」

 部屋に残っていたチンピラがシローの肩をつかんで引いた。しかし、肩を引かれるその瞬間、シローは体をさばく。

 引かれる力をそらすように、身をわずかに屈めながら斜め下へ重心を移す。すると、その動きに釣られチンピラの姿勢も膝から崩れた。まるで背後から膝カックンされたかのようだった。

「ええ??」

 合気道の技――柔の技である。

『ふっ!!』

 ガゴーーンッ、と鈍い音が鳴った。

 その瞬間、チンピラはシローの掌底アッパーを顎に受けた。音の正体は、上顎と下顎がぶつかった衝撃音だ。

 膝が崩れた不安定な姿勢のまま、視覚外の下から突き上げられる掌底アッパーに、チンピラの視界は激しく上下に揺れた。

 気がつくとチンピラは自分で跳び上がっていた。そして真上に向けられた顔面を天井にぶつける。

 三メートル近い高さの天井に、掌底一撃で顔面をぶつけたのだ。その衝撃で天板が割れる。

 天井から落ちてきたチンピラは、膝から崩れて前のめりに倒れ込む。白目をむき、完全に気絶していた。

 これで、邪魔者は一人もいない。

 マホガニーの机でふんぞり返っていたレッド・オルガが太い声で言った。

「奇怪な仮面、エキゾチックな着物、長身の商人。てめぇが最近アサガント商会に出入りしている異国の商人だな。となると噂どおり、中身は骸骨か?」

 シローは白式尉の能面をずらし、髑髏を晒して自己紹介した。

『よくご存じで。名前はシロー・シカウだ。今後とも顔見知りおきを、盗賊のボスさんよ』

 二人は大物の貫禄を漂わせていた。荒っぽい場面に慣れている者同士の余裕が流れている。

 ただ一人、シローの後ろに控えているクレマンだけが冷や汗を流していた。まだまだ若さを思い知らされる。

「――……」

 クレマンは思う。シローは異常だ。強さも桁違いだ。

 三階のギルドマスタールームに至るまで、一階と二階で三十人近いチンピラを一人で倒してきた。それも一方的に。チンピラたちが束になっても敵わない戦力差だった。

 戦場経験豊富なクレマンの目から見ても、シローは常軌を逸している。味方で良かったとさえ思うほどだ。

 しかしレッド・オルガも凶悪な噂には事欠かない。

 若き日には傭兵だったが、戦場で片手片脚を失い兵士を退いた。その後、複数の盗賊ギルドを暴力で束ね、サン・モンの裏社会を統一したという。知恵と武力を併せ持つ大悪党だ。

「それで、シカウ殿。今日は何の用だ?」

『ゾンビ病ドラッグについて訊きたい』

「それについて、盗賊ギルドのマスターである俺がゲロするとでも思ったのかい?」

『まさか。そんなに早く吐くなら、アジトに正面から堂々と殴り込みなんてしねぇよ』

「面倒くさがりには早い質問方法――だっ!!」

 言葉の最後に、レッド・オルガがマホガニーの机を蹴飛ばした。重厚な机が、まるでキャスターでも付いた台のように滑ってシローへ迫る。もちろんキャスターなど無い。レッド・オルガの脚力だけで机が飛んだのだ。

『チェストォォオオオ!!!』

 シローの空手チョップがマホガニーの机を粉砕した。強固な素材の机が真っ二つに割れ、両脇をすり抜けて壁に激突した。ギルドマスタールームが派手に揺れる。

「ホォォオオオ!!!」

 机に続きレッド・オルガが飛びかかる。両膝を曲げ、爪先を揃えた姿勢。その左足は脛から先がない、棒のような義足だった。

 その義足で飛び蹴りを放つ。

「チェィイイイ!!!」

 左から右へ振り抜かれる飛び蹴り。棒の義足がシローの顔面を狙う。シローはわずかに頭を引いて寸前で躱した。

 すると、空振りした義足が刀の鞘のように抜けて飛ぶ。その下から両刃の刀が煌めいた。仕込み刀だ。

「ヌゥォオオオ!!!」

 シローの眼前に着地したレッド・オルガは片脚で立ち、刃物の左足で連撃を繰り出す。多彩で幻惑的な足技。あらゆる角度から複雑に襲いかかる。

『テコンドーの足技に似ているな』

 複雑な蹴りの連打を躱しながら、シローは冷静に観察する。そして足技の隙を突き、強烈な下段回し蹴りを放った。ローキックがレッド・オルガの右太腿を折り砕かんばかりの勢いで打ち据える。

「にぃぃいい……!!」

 痛みに耐え、右脚を押さえながらレッド・オルガが後ろに倒れた。しかしシローは追撃しない。

『本気を出せよ、オッサン。まだ玩具を隠してるんだろ?』

「くそだらぁ~が……」

 尻餅をついたままレッド・オルガが左の義手に手を伸ばす。そして鉤爪の義手を外した。

「これでも喰らえ、化け物が!!」

 外した義手は空洞だった。まるで大砲の砲身だ。

 シローが背後のクレマンに言う。

『避けろ、クレマン』

「えっ?」

 レッド・オルガが砲身に気合を込める。左腕の内部で破壊エネルギーが収束する。

「ハイパードロンパー!!」

 義手の砲身から破壊光線が発射された。眩い波動砲。おそらく義手に仕込まれたマジックアイテムが放つ魔法攻撃だ。

 しかしシローは回避しない。破壊砲を真正面から受けた。胸を貫かれている。

「うわぁぁああ!?」

 シローの体を貫いた破壊光線は、背後のクレマンを紙一重でかすめ、さらに壁を何枚も突き抜けて飛び去った。

「シロー殿!!??」

 シローは胸に大きな穴を開けたまま、なお立ち尽くしている。その状態で話た。

『思ったより上等な破壊力だな。だがシレンヌより火力は低いじゃねぇか』

 脊髄を失っても、不思議と立ち続けるシロー。気絶もない。やはり頭蓋骨だけが弱点のようだ。それが分かっただけでも攻撃を受けた意味があったってものである。

「ば、化け物か……」

 尻餅をついたまま、レッド・オルガは呆然とつぶやいた。戦意が、すでに薄れている。

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