スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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211【アンデッドルーム】

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 シローの胸板に、ぽっかりと丸い穴が開いていた。レッド・オルガが義手の砲身から放った魔法攻撃の跡だ。

 その一撃は背後の壁をいくつも貫き、威力のほどを知らしめている。仕込み武器にしては上等な破壊力だ。危うくクレマンも破壊光線に巻き込まれるところだった。

 だが正面からその光線を受け止めたシローの胸には、直径三十センチほどの大穴が開いている。穴からは焦げた煙が上がり、肋骨や背骨が焼け落ち、背後に立つクレマンの驚愕した顔が覗いていた。

『ボーンリジェネレーション!』

 シローが修復魔法を唱えると、胸の穴はみるみる縮まり塞がっていく。傷はすぐに完全に閉じた。

 尻餅をついていたレッド・オルガが、ゆらりと立ち上がる。憎々しげな顔でシローを睨んだ。

「外見だけじゃなく、中身まで化け物か……」

『日頃の鍛錬があるからな。常人以上の努力を積んでいるんでね』

 クレマンは思う。――努力でどうにかなるレベルではないだろう、と。

『さて、そろそろ俺の訊きたいことを話してもらおうか』

 ゾンビ病ドラッグの件である。

「クソが……」

『話す気になったかい?』

「しかたねぇ――」

 レッド・オルガの中年顔が悔しさに歪む。その途端、片目を覆っていたアイパッチの中央が赤く発光した。

「だが、断る!!」

 赤光に包まれたアイパッチが焼け、真紅のレイザービームが射出される。強烈な炎系の魔力がほとばしった。

『っ!?』

 炎の光線が白式尉の仮面を貫く。額のど真ん中を撃ち抜き、後頭部を突き破って背後へと飛び抜けた。

「危ねえ!!」

 クレマンが慌てて身をそらす。紙一重で再び魔法攻撃を回避する。

「どうだ!?」

 シローの頭部を貫いたレッド・オルガの不意打ち。しかしシローは額に丸い穴を開けながらも立っていた。能面の穴から焦げた煙が上がるが、まるで効いていない。

『だから火力が低すぎるってばよ。もっと消し炭になるほどの火力を用意しろ』

 言いながらシローが拳を振りかぶる。その拳がレッド・オルガの顔面めがけて走った。

『ふっ!!』

「ひぃ!!」

 だがパンチが着弾する刹那、レッド・オルガが怒鳴る。

「参った!!」

 シローの拳はオルガの眼前で止まった。止まった拳の圧だけで中年男の皺を伸ばすように空気が揺らぎ、海賊帽が飛び、肩まである髪が揺れる。

 拳を引いたシローが低く言った。

『さあ、洗いざらい吐いてもらうぜ、オッサンよ』

「し、仕方あるまい……」

 うなだれたレッド・オルガは、観念したように同意した。盗賊ギルドのアジトでの戦闘はこうして終わった。

 直後、ギルドの一人が叫ぶ。

「よーし、まずは怪我人の治療だ! 怪我してない奴は後片付けだ、さっさとかかれ!」

 シローが大暴れした後片付けが始まる。怪我人の手当て、破壊された家具の整理、壁や扉の修復。盗賊ギルド内は改装工事のような慌ただしさに包まれ、外から大工などの業者も入ってきた。

 そんな中、シローとクレマンの二人はレッド・オルガに導かれ、盗賊ギルドの地下二階へと向かう。

 地下は岩造りの堅牢な造りだが、薄暗く湿気がこもっている。時折、壁をムカデが這っていた。

『うわっ、ムカデだ……!』

 シローの後ろを歩くクレマンがつぶやく。

「シロー殿、ムカデがお嫌いですか?」

『こ、昆虫全般が好きではない……』

「そうなのですか、お可愛いことで」

『好きじゃないだけで、苦手なわけじゃないからな。勘違いすんなよな!!』

「ムカデは、美味しいですのに」

『マジ、食べるの!!??』

「薬にもなります」

『なるか! こんなもので人が健康になるわけがない!!』

「そう言われましても……」

 やがて目的地にたどり着く。地下二階、盗賊ギルドの最奥――幹部クラスしか入れないエリアだ。

 廊下の突き当たりには分厚い鋼鉄の扉。その名もアンデッドルーム。ゾンビ病ドラッグが製造される工場であり、研究室でもある。そしてそこは、一体のアンデッドが住まう場所でもあった。扉の隙間から、死肉が腐ったかのような臭気が漂っている。

「なんて悪臭……」

『えっ、そう?』

 クレマンは口と鼻に布を当てて堪えるが、シローは何も感じていない。嗅覚がないからだ。

 レッド・オルガも口元を覆いながら言う。

「臭いに関しては勘弁してくれ……」

「は、はい……」

『あー、俺は大丈夫だから』

 シローの返答を聞きつつ、レッド・オルガは扉に掛けられた錠前を外し、振り返って告げた。

「中にいる人物を見ても驚かないでやってくれ。彼女も、人間だったんだ……」

『彼女?』

 鉄扉が開かれ、奥へ進む。奥に進むほど臭気は強まり、クレマンの顔がさらに歪む。

 やがて木製の扉が現れ、レッド・オルガが静かにノックした。

「マミヤ夫人、起きているかい。レッド・オルガだ。今日は客人を連れてきた」

『マミヤ夫人?』

 室内から女性の声が響く。

『どうぞ、お入りになってください……』

 ――テレパシーだ。シローやマリアのように声帯を失ったアンデッドが使う、精神での言語。

 間違いない。この奥にはアンデッドが潜んでいる。

 扉が開かれると、熱気と共に悪臭の空気が雪崩れ出てくる。クレマンがさらに顔をしかめた。

「んん……」

 広い室内。ベッド、机、本棚、研究道具。そしてベッドには痩せた女性の影。頭から灰色のローブを被り、フードに顔を隠している。

『いらっしゃいませ。間宮総子と申します』

 アンデッドであろうその女性は、日本人の名を名乗った。


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