スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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226【愉快なテロリスト】

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 フランスル王国首都パリオンのルーヴルット城、王室食堂の間。長いテーブルには、朝から豪勢な食事が並んでいた。

 朝食とは思えない煉瓦のように分厚いステーキ、山盛りのサラダ。熱々のスープは高級な皿に盛られ、葡萄や林檎などのフルーツも山のように盛り付けられている。さらに朝から高価なワインまで供されていた。

 それら高級料理が長テーブルの上を隙間なく埋めている。

 しかし席に着いているのは中年男性二人だけ。召使いたちは部屋の隅に控え、食事風景を見守っていた。

 上座で朝食を取るのは巨漢の男。清楚で凛々しい服を着ていなければ山賊と見間違えるほどの豪傑に見える。

 身長は180センチを優に超え、白髪の長髪。筋肉で引き締まった体つき。装いは貴族だが、顔つきは極道めいている。だがその雰囲気には豪放さと紳士らしさが同居し、何よりも威厳に満ちていた。

 彼こそがフランスル王国の国王、ルイス・ドド・ブルボンボン十三世である。

 その向かい、数メートル先の下座で朝食を取るのは片目の軍人。サン・モンの町を統括する将軍、フィリップル・アンドレア公爵だった。

 二人は実の兄弟である。決して仲が良いわけではないが、互いに尊敬し合っていた。そして変わらないのは、二人ともフランスル王国を心から愛しているという点だった。ほとんど盲信に近いほどに。

 分厚いステーキをフォークとナイフで切り分けながら、ルイス国王が弟の将軍に問いかける。

「なあ、フィリップル将軍。お前がL字武器の弾丸を手に入れたと聞いたが、本当か?」

 フィリップル将軍は銀のスプーンで熱々のスープを啜り、静かに答えた。

「さすがは国王陛下。お耳が早い――」

「で、真なのか?」

「真です――」

「どこで手に入れた?」

「異国から来た商人からです」

「それが件の大使か?」

「はい――」

「確か、太陽の国とか聞いた覚えが……」

「その通り。太陽の国の商人です」

「ならば、これから好きなだけL字武器の弾丸が買えるのだな?」

「それが、なかなか難しいようで……」

「なぜだ?」

「L字武器の弾丸は太陽の国でも貴重品で、簡単には手に入らぬとのことです」

「そんなもの関係ない。金ならいくらでも積め!」

「しかし弾丸の価格は、一発で大金貨一枚相当です」

「高いな……。それでは一般兵には支給できぬぞ」

「ですので、L字武器の使用はこれまで通り王族だけの特権となりましょう」

「残念だ。これでイタリカナ王国との戦争を一気に進められると思ったのにのう」

「人生とは、困難に困難が続くものですな、陛下」

 兄弟はここ数年、互いを「兄」「弟」と呼ぶことはなかった。それぞれの地位ゆえ、敬称で呼び合うのが常である。

「まあ、その太陽の国の商人を私にも紹介せよ。私の分の弾丸も購入したい」

「いずれ必ず、国王陛下にはお会い願います。何にせよ彼は、戦の勝敗を握るキーマンですからな」

「楽しみだわい」

 二人は力強く微笑み合った。

 そのとき近衛兵の報告役が食堂に入って来た。国王は一瞥すると、「構わぬ、報告せよ」と告げる。

「報告いたします。本日ご観覧予定だった闘技場の件でございますが、大臣より中止の提案がございます!」

「何故だ?」

「現在、闘技場に不審者が侵入し、会場を占拠しているとのこと――」

「闘技場の占拠とな?」

「さようで!」

「なかなか豪胆なテロリストだな。目的は?」

「それが……」

 報告役は言い淀んだ。

「何が言いたい。申せ」

 近衛兵は、国王の言葉を訂正するように口を開く。

「テロリストは、グループではなく一人です……」

「一人でコロシアムを占拠しているのか?」

「はい……」

「警備兵は何をしている?」

「全員、返り討ちに遭いました……」

 ルイス国王はフォークをステーキに突き立て、豪快に笑った。

「面白い。テロリストではないな。愉快犯だ。わっはっはっは!」

 弟の将軍もナプキンで口を拭いながら含み笑いをもらした。

「それで、その男はどんな輩だ?」

「老人の仮面にフードを被り、異国の派手な洋服を纏った巨漢。飛びかかる警備兵を素手で撃退したと報告を受けております」

 その報告を聞いたフィリップル将軍は、はっとした。シローの外見と一致するからだ。そして豪快に笑い出した。

「わははは! あの豪傑め、相変わらず遠慮がない。笑わせてくれる!」

「なんだフィリップル。件の男を知っているのか?」

 将軍は笑いをこらえつつ答えた。

「そやつが、件の太陽の国の商人です」

「なんと!?」

「名はシロー・シカウ。商人でありながら、かつて太陽の国で素手の戦士のチャンピオンだったとか」

「何、闘士だったのか!」

「はい――」

 フィリップル将軍は笑いを堪えるのに必死だった。その姿を見て国王も笑いをこらえきれない。

 やがてルイス国王は首元の白ナプキンを外し、テーブルに投げ置いて席を立つ。

「馬車を用意せよ。これから闘技場に向かう。私が到着するまで、決してテロリストには手を出すな!」

 その言葉を聞いた執事が一礼し、手配のため姿を消した。

「どうする、弟よ。お前も来るか?」

 国王は久しぶりに弟と呼んだ。

「当然ですよ、兄さん!」

 将軍もまた兄と呼んだ。

 二人は無邪気に笑った。

 兄弟が互いを兄弟として呼び合うのは久しぶりだった。国王と将軍という役割を背負ってきた二人だが、この事件が再び血縁の絆を呼び覚ました。二人は胸を躍らせながら闘技場へ向かう。

 子供のころに、一緒にピクニックにでも出かけていたころの気持ちで――。


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