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227【戦慄のデビュー戦】
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兄ルイス・ドド・ブルボンボン国王と弟フィリップル・アンドレア将軍の二人が馬車を飛ばしてアルル円形闘技場に到着したのは、朝食後しばらくしてからだった。まだ午前中の時間帯である。試合は始まっていない。
ルーヴルット城の近衛隊二十人を引き連れた国王陛下がコロシアムに到着すると、玉座が用意されたテラス席に通された。
近衛隊の半分はテラス席に入り、残りは廊下で護衛に就く。さすが国王、警備には隙がない。
「どれどれ、どのような奴だ――」
そこは闘技場全体を見渡せる二階の特等席。王や外国からのお客などの要人が観戦するために作られた、鉄壁の守りが施されたテラス席である。
国王陛下と将軍がテラス席に到着してコロシアム中央を覗き込むと、異国の服と奇怪な仮面を身につけた大柄の男が闘技場の中央に胡座をかいて鎮座していた。
ルイス陛下が弟のフィリップル将軍に問う。
「あれが件のシロー・シカウか?」
フィリップル将軍は、澄まし顔で答えた。
「はい、陛下――」
戦士のように体格の良いルイス国王から見ても、シロー・シカウの体躯はさらに大きく映った。しかも大きいだけではない。身体全体が筋肉で膨らんでいるように見える。商人とは思えない体型であった。
だが、シローの肉体は骨しかない。見えないオーラが衣服を盛り上げ、筋肉のように錯覚させているのだ。洋服の下がスケルトンだとは誰も思うまい。
「拡声魔法を用意しろ」
「はっ!」
ルイス陛下が大臣に指示すると、闘技場の魔術師が一人テラス席に入り魔法を唱える。すると、薄く輝くメガホンが現れた。それを国王陛下に手渡す。
拡声魔法のアイテムだ。
同時に一階に控えていた係員が別のメガホンで声を張る。
「静粛に、静粛に!!」
魔法のメガホンを通した声が闘技場全体に響き渡った。
「我らが国王、ルイス・ドド・ブルボンボン国王陛下がご観覧です。皆の者、敬礼!!」
係員の声を聞いた観客たちは片膝をつき、胸に手を当てて深く頭を下げる。これがフランスル王国の敬礼である。
国王はメガホンを口に当て、庶民たちに語った。
「皆の者、今宵はコロシアムの試合を楽しんでいってもらいたい」
その言葉に観客席が少しざわめく。
「それよりもだ――」
ルイス国王の視線がコロシアム中央のシローに落ちた。
「そこの乱入者。国王を前に無礼ではないか。何故に礼を正さぬ?」
その言葉を聞き、シローが立ち上がる。テラス席を見上げ、能面を外し、ウェアの上半身を脱ぎ捨てて骸骨の身体を晒した。
観客たちは一斉にどよめく。まさかのスケルトン登場に驚愕している。
シローは係員に手で合図した。自分にも拡声魔法をよこせという意志だ。
「構わん、語り合おうぞ――」
国王の許可を得て、係員がシローにも拡声魔法のメガホンを手渡す。シローが二階テラス席に向かって述べた。
『礼儀が遅れ失礼しました。ルイス国王陛下――』
髑髏のシローも遅れながら礼儀を正して辞儀した。
ルイス国王が返す。
「シロー・シカウ。貴公の話はフィリップル将軍から聞いている。なんでもフラン・モンターニュに大使館を開きたいとか」
『はい』
「そのような人物が、何故に今宵はコロシアムを占拠する?」
シローは髑髏の奥で揺れる熱い瞳をテラス席に向けて堂々と述べた。
『国王陛下――私は商人である前に闘士。その闘士がコロシアムの存在を知ってしまったのです。そうなれば我慢できない。ゆえに戦慄のデビューを飾りたいと企みました!』
素直――。
「なるほど。ならば、その戦慄のデビューを、このルイスが歓迎しようぞ!!」
その言葉に会場の民衆が歓声を上げ、ドッと重低音で揺れる。
歓声の中、客席のソフィアが呟いた。
「馬鹿なの……」
呆れるソフィアにチルチルが微笑んで返す。
「男って、そんなものですよ」
チルチルはまるで大人の女性のように優しく微笑んだ。それがソフィアには十代の少女には見えなかった。戦闘メイドは戸惑ってしまう。
「おい、係員――」
テラス席で国王が係員に命じる。
「今日試合のために準備している選手を全員会場に入場させろ」
「そ、そんな急に!」
「いいからやれ。国王命令だ!」
「か、畏まりました!」
係員は慌てて下の階へ走っていった。
やがて国王の指示通り、本日試合予定だった選手たちが全員闘技場に出てきた。総勢四十人。当然ながらランカーもチャンピオンも含まれている。
さらに、ヴォワザン村の酒場で出会ったポニーテールの男の姿もあった。どうやら彼も闘士らしい。
観客席の歓声がどよめきへと変わる。
国王が宣言した。
「シロー殿。好きな選手を選んで構わぬ。貴公のデビュー戦の相手を選べ!」
シローは闘士たちを見回し、各自の実力を計った。目付けである。
そして、ある男で目が止まる。つるつるのスキンヘッドだ。この四十人の中で一番か二番に強い男だと気の質から窺えた。
シローはスキンヘッドの男を指さして告げる。
『国王陛下。あのスキンヘッドの男をデビューの相手に選びたい』
その宣言に観客席が再び沸き上がる。
何故なら、シローが指名した相手はアルル円形闘技場・総合最強部門のチャンピオンだったからだ。それは、この中で一番強い選手である。
シリヌ・カールであった――。
ルーヴルット城の近衛隊二十人を引き連れた国王陛下がコロシアムに到着すると、玉座が用意されたテラス席に通された。
近衛隊の半分はテラス席に入り、残りは廊下で護衛に就く。さすが国王、警備には隙がない。
「どれどれ、どのような奴だ――」
そこは闘技場全体を見渡せる二階の特等席。王や外国からのお客などの要人が観戦するために作られた、鉄壁の守りが施されたテラス席である。
国王陛下と将軍がテラス席に到着してコロシアム中央を覗き込むと、異国の服と奇怪な仮面を身につけた大柄の男が闘技場の中央に胡座をかいて鎮座していた。
ルイス陛下が弟のフィリップル将軍に問う。
「あれが件のシロー・シカウか?」
フィリップル将軍は、澄まし顔で答えた。
「はい、陛下――」
戦士のように体格の良いルイス国王から見ても、シロー・シカウの体躯はさらに大きく映った。しかも大きいだけではない。身体全体が筋肉で膨らんでいるように見える。商人とは思えない体型であった。
だが、シローの肉体は骨しかない。見えないオーラが衣服を盛り上げ、筋肉のように錯覚させているのだ。洋服の下がスケルトンだとは誰も思うまい。
「拡声魔法を用意しろ」
「はっ!」
ルイス陛下が大臣に指示すると、闘技場の魔術師が一人テラス席に入り魔法を唱える。すると、薄く輝くメガホンが現れた。それを国王陛下に手渡す。
拡声魔法のアイテムだ。
同時に一階に控えていた係員が別のメガホンで声を張る。
「静粛に、静粛に!!」
魔法のメガホンを通した声が闘技場全体に響き渡った。
「我らが国王、ルイス・ドド・ブルボンボン国王陛下がご観覧です。皆の者、敬礼!!」
係員の声を聞いた観客たちは片膝をつき、胸に手を当てて深く頭を下げる。これがフランスル王国の敬礼である。
国王はメガホンを口に当て、庶民たちに語った。
「皆の者、今宵はコロシアムの試合を楽しんでいってもらいたい」
その言葉に観客席が少しざわめく。
「それよりもだ――」
ルイス国王の視線がコロシアム中央のシローに落ちた。
「そこの乱入者。国王を前に無礼ではないか。何故に礼を正さぬ?」
その言葉を聞き、シローが立ち上がる。テラス席を見上げ、能面を外し、ウェアの上半身を脱ぎ捨てて骸骨の身体を晒した。
観客たちは一斉にどよめく。まさかのスケルトン登場に驚愕している。
シローは係員に手で合図した。自分にも拡声魔法をよこせという意志だ。
「構わん、語り合おうぞ――」
国王の許可を得て、係員がシローにも拡声魔法のメガホンを手渡す。シローが二階テラス席に向かって述べた。
『礼儀が遅れ失礼しました。ルイス国王陛下――』
髑髏のシローも遅れながら礼儀を正して辞儀した。
ルイス国王が返す。
「シロー・シカウ。貴公の話はフィリップル将軍から聞いている。なんでもフラン・モンターニュに大使館を開きたいとか」
『はい』
「そのような人物が、何故に今宵はコロシアムを占拠する?」
シローは髑髏の奥で揺れる熱い瞳をテラス席に向けて堂々と述べた。
『国王陛下――私は商人である前に闘士。その闘士がコロシアムの存在を知ってしまったのです。そうなれば我慢できない。ゆえに戦慄のデビューを飾りたいと企みました!』
素直――。
「なるほど。ならば、その戦慄のデビューを、このルイスが歓迎しようぞ!!」
その言葉に会場の民衆が歓声を上げ、ドッと重低音で揺れる。
歓声の中、客席のソフィアが呟いた。
「馬鹿なの……」
呆れるソフィアにチルチルが微笑んで返す。
「男って、そんなものですよ」
チルチルはまるで大人の女性のように優しく微笑んだ。それがソフィアには十代の少女には見えなかった。戦闘メイドは戸惑ってしまう。
「おい、係員――」
テラス席で国王が係員に命じる。
「今日試合のために準備している選手を全員会場に入場させろ」
「そ、そんな急に!」
「いいからやれ。国王命令だ!」
「か、畏まりました!」
係員は慌てて下の階へ走っていった。
やがて国王の指示通り、本日試合予定だった選手たちが全員闘技場に出てきた。総勢四十人。当然ながらランカーもチャンピオンも含まれている。
さらに、ヴォワザン村の酒場で出会ったポニーテールの男の姿もあった。どうやら彼も闘士らしい。
観客席の歓声がどよめきへと変わる。
国王が宣言した。
「シロー殿。好きな選手を選んで構わぬ。貴公のデビュー戦の相手を選べ!」
シローは闘士たちを見回し、各自の実力を計った。目付けである。
そして、ある男で目が止まる。つるつるのスキンヘッドだ。この四十人の中で一番か二番に強い男だと気の質から窺えた。
シローはスキンヘッドの男を指さして告げる。
『国王陛下。あのスキンヘッドの男をデビューの相手に選びたい』
その宣言に観客席が再び沸き上がる。
何故なら、シローが指名した相手はアルル円形闘技場・総合最強部門のチャンピオンだったからだ。それは、この中で一番強い選手である。
シリヌ・カールであった――。
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