スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
241 / 261

233【二丁斧のアイアンバッファロー】

しおりを挟む
 蹌踉めきながら立ち上がった黒騎士バッシューラは、左腕に装着されたカイトシールドを外すと、折れ曲がった肘を正常な方向に無理やり戻した。それから、低レベルのヒール魔法で傷を回復させる。

 だが、骨折した傷は完全には癒えていない様子。痛みが残る左腕を庇いながら、立ち上がった足も震えている。やっとのことで立っているようだった。

 一方、ボーラで前足の自由を奪われていた黒馬は、転倒したまま藻掻いている。しかし、その動きも次第に弱まり、やがて力尽きたのか動かなくなった。すると、黒い霧となって馬体が消え去る。召喚魔法の効果が切れたのだろう。

 怪我を負い、愛馬を失ったバッシューラがシローを睨みつけていた。奥歯で苦虫を噛み砕いたような顔である。

 そのバッシューラに、シローがポララップを向ける。そして発砲。再び闘技場に発砲音が響き渡る。

 長方形の器具から発射されたスリングボーラが、黒騎士の上半身に巻き付いた。

「ぐはっ!」

 目にも止まらぬ速さで発射されたボーラが、バッシューラの上半身に巻き付き、力強く締め上げる。凄まじい締め付けだ。完全に両腕の自由を奪っている。

「硬い!?」

 それもそのはず。ボーラに使用されているワイヤーはステンレス鋼線だ。人間の力で引きちぎれるような代物ではない。

『諦めろ――』

 さらにもう一発のスリングボーラが放たれ、バッシューラの下半身に巻き付いた。膝のあたりを絡め取られた黒騎士は立っていられず、無様にも地面に倒れ込む。

「おのれ、おのれ……!」

 シローは銃弾を撃ち尽くしたポララップをアイテムボックスに放り込み、倒れているバッシューラの元へと歩み寄った。そして、しゃがみ込んで黒騎士の顔を覗き込む。

『もう動けまい。俺の勝ちでいいよな?』

 しかし、バッシューラは諦めない。降参の言葉を選ばなかった。

「抜かせ。まだ私は戦える!!」

 諦めの悪い発言だった。手足を拘束され、完全に動けない状態で放つ言葉ではない。

『へぇ~――』

 シローが立ち上がる。そして拳を顔の高さまで引き上げ、バッシューラを見下ろした。その眼差しは冷たく光っている。

 狙っている。振り上げられた拳が、倒れた黒騎士の頭を狙っていた。

『ならば、とどめを刺すぜ!』

 言うやいなや、シローの拳が振り下ろされた。急降下する鉄拳がバッシューラの頭を押し潰すように叩きつけられる。

 ガシャーンッと、派手な破壊音が響いた。

 ――瓦割り下段正拳落とし。

 派手な音と共に、バッシューラが被っていたブラックヘルムが押し潰された。その一撃でヘルムが陥没し、黒騎士は白目を剥いて意識を失う。

 勝負ありだ。

『ふう~。楽しかったぜ、黒騎士様よ!』

 凛と立ち上がる髑髏の魔人。その姿を、静まり返った観客たちが固唾を呑んで見つめていた。

「やれやれだな――」

 闘技場の壁際で、二人の戦いを見守っていた三人が語り出す。

「さて、次は誰が彼に挑むのかね?」

 言ったのはチャンピオンのシリヌ・カールだった。スキンヘッドの頭が日差しを反射して輝いている。

「なら、俺が――」

 チャンピオンの言葉に押されるように、髭面の大男が一歩前に出た。

 彼の名はアイアンバッファロー。総合最強部門ランキング三位の強者である。

 身長約2メートル、体重は200キロ近い。髪は肩まで伸びているが、頭頂部は落ち武者のように禿げている。体型は相撲取りのようなちゃんこ型。鎖帷子の上から鱗鎧を纏い、両手には二丁の戦斧――ゆえに、彼は「二丁斧のアイアンバッファロー」と呼ばれていた。

 一見パワー型のファイターに見えるが、体格に似合わず体術に長けている。フットワークは軽量ボクサーのように滑らかで、バク転すら容易くこなす俊敏さを持つのだ。

 この巨体からは想像もできないほどに素早く動ける。それゆえに、彼は総合最強部門の第三位に君臨している。

 もちろんパワーも桁外れだ。その力を維持するために、普段は農家の牛を相手に相撲を取っているという。まさに怪力と技巧を兼ね備えたファイターだった。

 両手に二丁の戦斧を握り締めたアイアンバッファローが前へと進み出る。既に、気絶した黒騎士はタンカーで運び出されていた。

『今度はあんたが相手をしてくれるのかい?』

「俺の名はアイアンバッファロー。総合最強部門、第三位なり!」

『我が名はソロー・シカウ。ピエドゥラ村の商人なり!』

 二人が名乗り合うと同時に、アイアンバッファローが仕掛けてきた。太い片腕を振り上げ、戦斧を一閃させる。

「喰らえ、黒旋風!!」

 まだ間合いに入っていない距離で振るわれた戦斧が、突風を巻き起こした。旋風が渦を巻き、やがてハリケーンと化す。

「竜巻地獄だ!!」

 渦巻く強風が迫る。しかし、シローは腰を落として身構えた。拳を振り被り、迫る竜巻の風体を狙う。

『洒落臭い!』

 強い踏み込み。強靭な脚力で地を蹴る。その力は下半身から上半身へと連動し、背骨を伝い、右肩へ。さらに腰の捻りによる遠心力が加わり、力は右腕を抜けて拳へと集約された。

 放たれる正拳突き。

 パンッ、と音が鳴る。

 瞬間、渦巻く竜巻が音を立てて爆ぜた。突風が爆散し、観客席にまで風圧が届いて髪を揺らす。

 それを見て、目を丸くしたアイアンバッファローが感嘆の声を漏らした。

「おお、なんて素晴らしい突き技だ!」

 その表情には、強者と相まみえた喜びが浮かんでいた。髭に隠れた口元が微笑んでいる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...