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6【獣人化現状】
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半獣半人の娘の年齢は十歳。彼女の名前はチルチルと言うらしい。
彼女のボサボサの白髪のてっぺんには尖った三角形の耳が生えている。獣耳も白い。
彼女は獣人と呼ばれる種族らしいのだが、そもそも獣人という種族名が明確に存在するわけではないらしい。
そもそも彼女は人間の娘だったのだ。
この異世界では、動物と魔物の区別がはっきりとついている。
動物とは、野生に生まれ、野生に生きる存在を指す。人間同様に交配を重ね、種を繋げていくものだ。
一方、魔物は魔力の集合体が空間を歪めることで自然発生する"魔"の形を指すらしい。
この異世界でポピュラーな魔物といえば、ゴブリン、コボルト、オーガ、トロール、アンデッドなどさまざま存在する。上位種にはドラゴンまでいる。
それらは同族間の交配でも生まれてくるが、突如として"無"の空間から発生する場合も珍しくない。そのような自然発生現象は、魔力が淀んだ洞窟やダンジョンなどでよく見られる現象らしい。
そして、獣人となると少し事情が異なる。普通に生まれてきた人間の子供が、ある日突然、獣人へと変わってしまう現象――それを「獣人化」と呼ぶ。
今まで普通に過ごしてきた子供が、唐突に獣の耳や尻尾を生やすことがあるのだ。
この現象について、「呪い」や「祟り」だと語る者もいるが、いずれにしても忌み子として嫌われるのが普通である。
獣人化した子供たちは、良くて追放や幽閉、悪ければ処刑される運命にある。
このチルチルという少女も、獣人化する前は大店の令嬢だったが、家を追放され、放浪していたところを人攫いに捕まったらしい。
彼女には狼の耳が生えている。それに牙や鋭い爪まで生えていた。まさに半獣半人といった姿である。
さらには、彼女はアルビノらしい。
アルビノとはメラニンの色素が欠落して産まれてきた者を指すらしく、産まれついて髪の毛の色などが白かったりする遺伝子の病気だ。原因は突然変異だとされているが、詳しいことは俺もよく知らない。
だから彼女は突然変異の中の突然変異なのだろう。
彼女曰く、世の中にはもっと獣化が進んだ獣人も少なくないらしい。頭部全体が獣化していたり、体型が人間とはかけ離れた形をしている者もいるという。さらには、獣そのものの姿をしているが人語を話す獣人も存在するらしい。
この世界では、獣人化は不幸な突然変異として扱われているようだった。
だが、獣人化も悪いことばかりではない。身体能力の強化や、元になった獣の特殊能力を得ることも少なくないのだ。
例えば、犬系の獣人化をした者は嗅覚が人間の何倍も優れている。ゴリラのような獣人化をした者は、人間の数倍の腕力を持つこともある。象のように獣人化した者は、巨人のように体躯が大きいらしいのだ。
事実、チルチルも獣人化してから嗅覚が異常なほど敏感になったという。犬系の特徴を発揮しているのだ。
だからこそ、悪人の手から生き延びた獣人たちは、傭兵や冒険者として生きることが多いらしい。自分の能力を活かせる道が、それしかないのだろう。
「なるほどね。獣人って可愛いと思うけど、思ったよりも大変な人生を歩んでいるんだな……」
俺の言葉を聞いて、チルチルは俯いてしまう。白い前髪で視線を隠してしまった。
俺は俯いている彼女の前に座り込み、胡座をかいた。目線を子供に合わせる。
『それで、キミはこれからどうするんだ? 悪党から助けてやったんだから、もうキミは自由だぞ』
「………」
俺の言葉を聞いても、彼女は俯いたまま答えない。沈んだままだ。
それもそうだろう。わずか十歳の少女が、これからどう生きるのかと問われても、答えられるはずがない。
しかも、訊いてきているのが骸骨の男なのだから、まともに答えられるわけがないだろう。
俺だって十歳のころは、いじめられた末に空手の鍛錬に打ち込むことしか考えていなかった。どう生きるかなんて、考えもしなかった。
だからといって、こんな人気のない草原の真ん中に彼女を放置するわけにもいかない。そこまで俺もクズではない。どこかの人里まで、彼女を連れていってやるべきだろう。
『俺でも良ければ、人里まで付き添ってやるよ。護衛くらいならできるからさ』
「うん……」
俺の提案を聞いて、彼女は小さく頷いた。
そんな彼女を見て、俺は微笑んだつもりだったが、骸骨の顔ではどのように映ったかはわからない。たぶん、無表情にしか見えなかっただろう。
俺は片手を彼女に差し出しながら言った。
『手を繋いで歩こうか?』
「う、うん……」
彼女は小さく頷くと、俺の骨手を取った。そして、二人並んで歩き出す。
チルチル曰く、西へ数十キロ進んだところに町があるらしい。もともと、彼女が売られる予定だった町だという。
『まあ、とりあえず人里を目指すか……』
「手が、冷たい……」
『ごめんよ、だって骨だから……』
「うんうん、でも温かい……」
こうして俺たちは二人で町を目指した。草原を進む。
彼女のボサボサの白髪のてっぺんには尖った三角形の耳が生えている。獣耳も白い。
彼女は獣人と呼ばれる種族らしいのだが、そもそも獣人という種族名が明確に存在するわけではないらしい。
そもそも彼女は人間の娘だったのだ。
この異世界では、動物と魔物の区別がはっきりとついている。
動物とは、野生に生まれ、野生に生きる存在を指す。人間同様に交配を重ね、種を繋げていくものだ。
一方、魔物は魔力の集合体が空間を歪めることで自然発生する"魔"の形を指すらしい。
この異世界でポピュラーな魔物といえば、ゴブリン、コボルト、オーガ、トロール、アンデッドなどさまざま存在する。上位種にはドラゴンまでいる。
それらは同族間の交配でも生まれてくるが、突如として"無"の空間から発生する場合も珍しくない。そのような自然発生現象は、魔力が淀んだ洞窟やダンジョンなどでよく見られる現象らしい。
そして、獣人となると少し事情が異なる。普通に生まれてきた人間の子供が、ある日突然、獣人へと変わってしまう現象――それを「獣人化」と呼ぶ。
今まで普通に過ごしてきた子供が、唐突に獣の耳や尻尾を生やすことがあるのだ。
この現象について、「呪い」や「祟り」だと語る者もいるが、いずれにしても忌み子として嫌われるのが普通である。
獣人化した子供たちは、良くて追放や幽閉、悪ければ処刑される運命にある。
このチルチルという少女も、獣人化する前は大店の令嬢だったが、家を追放され、放浪していたところを人攫いに捕まったらしい。
彼女には狼の耳が生えている。それに牙や鋭い爪まで生えていた。まさに半獣半人といった姿である。
さらには、彼女はアルビノらしい。
アルビノとはメラニンの色素が欠落して産まれてきた者を指すらしく、産まれついて髪の毛の色などが白かったりする遺伝子の病気だ。原因は突然変異だとされているが、詳しいことは俺もよく知らない。
だから彼女は突然変異の中の突然変異なのだろう。
彼女曰く、世の中にはもっと獣化が進んだ獣人も少なくないらしい。頭部全体が獣化していたり、体型が人間とはかけ離れた形をしている者もいるという。さらには、獣そのものの姿をしているが人語を話す獣人も存在するらしい。
この世界では、獣人化は不幸な突然変異として扱われているようだった。
だが、獣人化も悪いことばかりではない。身体能力の強化や、元になった獣の特殊能力を得ることも少なくないのだ。
例えば、犬系の獣人化をした者は嗅覚が人間の何倍も優れている。ゴリラのような獣人化をした者は、人間の数倍の腕力を持つこともある。象のように獣人化した者は、巨人のように体躯が大きいらしいのだ。
事実、チルチルも獣人化してから嗅覚が異常なほど敏感になったという。犬系の特徴を発揮しているのだ。
だからこそ、悪人の手から生き延びた獣人たちは、傭兵や冒険者として生きることが多いらしい。自分の能力を活かせる道が、それしかないのだろう。
「なるほどね。獣人って可愛いと思うけど、思ったよりも大変な人生を歩んでいるんだな……」
俺の言葉を聞いて、チルチルは俯いてしまう。白い前髪で視線を隠してしまった。
俺は俯いている彼女の前に座り込み、胡座をかいた。目線を子供に合わせる。
『それで、キミはこれからどうするんだ? 悪党から助けてやったんだから、もうキミは自由だぞ』
「………」
俺の言葉を聞いても、彼女は俯いたまま答えない。沈んだままだ。
それもそうだろう。わずか十歳の少女が、これからどう生きるのかと問われても、答えられるはずがない。
しかも、訊いてきているのが骸骨の男なのだから、まともに答えられるわけがないだろう。
俺だって十歳のころは、いじめられた末に空手の鍛錬に打ち込むことしか考えていなかった。どう生きるかなんて、考えもしなかった。
だからといって、こんな人気のない草原の真ん中に彼女を放置するわけにもいかない。そこまで俺もクズではない。どこかの人里まで、彼女を連れていってやるべきだろう。
『俺でも良ければ、人里まで付き添ってやるよ。護衛くらいならできるからさ』
「うん……」
俺の提案を聞いて、彼女は小さく頷いた。
そんな彼女を見て、俺は微笑んだつもりだったが、骸骨の顔ではどのように映ったかはわからない。たぶん、無表情にしか見えなかっただろう。
俺は片手を彼女に差し出しながら言った。
『手を繋いで歩こうか?』
「う、うん……」
彼女は小さく頷くと、俺の骨手を取った。そして、二人並んで歩き出す。
チルチル曰く、西へ数十キロ進んだところに町があるらしい。もともと、彼女が売られる予定だった町だという。
『まあ、とりあえず人里を目指すか……』
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『ごめんよ、だって骨だから……』
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