スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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56【新天地】

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 俺とチルチルは、しばらくパリオンに在留することにした。俺も首都の町並みを見て回りたいのだ。人々の暮らしを観光がてら学んでみたいのである。

 まずは人の暮らしが分からなければ、何が売れるかは理解できないだろう。そのための勉強である。

 住む場所はマリマリが用意してくれた。以前、チルチルが一人で住んでいた町外れの家である。その離れを自由に使って良いとのことだ。

 建物は平屋の小さな家で、寝室が二つ、台所が一つの間取りである。トイレは無いし風呂も無い。

 そもそも風呂とは金持ちの贅沢らしい。一般人は、濡れタオルで体を拭くか、水場で水浴び程度らしいのだ。しかも、三日に一度程度の頻度。なかなか不衛生である。

 何よりも不衛生だと思われるのは、トイレ事情のほうであった。

 フランスル王国と呼ばれるこの国は、現実世界で言うところのフランス国に似た国である。名前も似てるが文化も似ている。むしろ模倣した感が強い。このフランスル王国は、中世のフランス国そっくりなのだ。

 だから、トイレが無い。各家にトイレがほとんどないのである。中世のフランスとは、そのような国だったらしい。

 貴族や金持ちの家には水洗トイレがあるらしいのだが、一般家庭に関しては、汚物を窓から路上に捨てているのが現状なのである。

 故に町の路上は汚物にまみれており、悪臭も絶えない。蝿なども多く飛び交っている。

 幸い俺は鼻がないから悪臭は感じないので気にならないのだが、獣人であるチルチルは、これが堪えられないと言っていた。鼻が利きすぎるのも問題があるようだ。

 確かに町を歩くと路上にモザイクを掛けないと放送できないような物が複数転がっている。それでも人々は普通に暮らしているのだから恐ろしい。現代では有り得ない光景だろう。

 だからチルチルは、町を見て回りたいと言う俺の言葉を聞くと表情を歪めてしまう。付いてくるのが嫌らしい。

 かと言って、チルチルを一人で家には残しておけない。また人攫いに攫われたら大変だからだ。

 暁の連中が暇な時は、御飯を奢る代わりにチルチルを守ってもらいながら留守番を頼むが、そうでない時は、仕方がないので彼女にも付いてきてもらう。

 俺が観光と評して町を見て回る間、チルチルは俯いてほとんど顔を上げない。

 おそらく臭いに耐えているだけではないのだろう。見られたくないのだ。自分の今の姿を……。

 この町は彼女の生まれ育った故郷である。大店だった実家のせいもあり、彼女の顔は広い。そのような彼女が、今は獣人の姿でメイドとして働いている。それがいたたまれないのだろう。

 この異世界では、獣人は差別の対象である。大店の令嬢が、その差別対象に落ちたのだから辛いのだと思う。知人に、顔すら合わせたくないのは分からんでもない。

 俺も子供のころは苛められていた。それが嫌で体を鍛えた。空手を学んだ。そして、強くなった。格闘技のチャンピオンまで上り詰めた。普通の人々が相手であれば、拳銃でも持ってない限り、遅れを取ることはないだろう。

 それでも、小学生時代の苛めっ子たちと顔を合わせるのは辛い。

 今では俺のほうが圧倒的に強いのは理解できているが、何故か彼らとは顔を合わせたくもないのだ。

 たぶん、チルチルも同じような気持ちなのだと思う。かつての友達にすら顔を合わせたくないのだろう。

 それから数日が過ぎた。俺は一ヶ月の目標である金塊30グラムの目標も達成できた。レベルも7まで上がった。残ったゼニルもそこそこある。

 コメルス商会との話し合いで、一ヶ月に降ろす荷の量も決まった。

 電卓が五個。鉛筆が百本。消しゴムが五十個。ボールペンが百本。塩が十袋。胡椒が二十瓶を降ろすことになった。

 鉛筆と消しゴムが大銅貨七枚(70ゼニル)を、百五十個で10500ゼニル。
 ボールペンが小銀貨七枚(700ゼニル)を、百本で70000ゼニル。
 電卓が大銀貨七枚(7000ゼニル)を、五個で35000ゼニル。
 塩500グラムが小銀貨三十七枚(3700ゼニル)を、十袋で37000ゼニル。
 胡椒15グラム一瓶が小銀貨十五枚(1500ゼニル)を、二十瓶で30000ゼニル。

 合計で182500ゼニルになる。

 しかも、これと同じ契約をモン・サンの町のアサガンド商店とも結んだのだ。これで182500ゼニル×2=365000ゼニルである。

 これだけで大金貨二枚分を越える。金塊量にすると30グラムを越えるのだ。しかも、65000ゼニルも余る。だからこちらの世界でも貯えられるわけだ。

 これでしばらくは金塊30グラムの成績達成に悩まされることはないだろう。残った時間を自由に使える。

 ――と、思っていたが、一つ問題が出来た。

 それは、俺自身が入荷のためにパリオンとモン・サンの町を行き来しないとならないという交通と運搬の問題だった。

 これが案外と大変なのだ。何せパリオンからモン・サンまでの片道は、騎獣で五日間もかかるからだ。往復だと十日間もかかってしまう。

 月の三分の一を費やすのはさすがにキツイ。これを打開しなくてはならないのだ。

 そこで俺は閃いた。

 二つの町を行き来するならば、二つの町の真ん中に住めば良いのではないだろうか?

 そこで思い出したのは、旅の道中で見たフラン・モンターニュである。あのプリンのような岩山であった。

 フラン・モンターニュの袂には小さな村があると聞いていた。そこに住もうと考えたのだ。

 パリオンに進んでも2.5日。モン・サンに進んでも2.5日。どっちに進んでも2.5日の中間なのだ。

 マリマリもピノーさんも、往復で五日の道のりならば、店から使いの人員を送り出しても構わないと言ってくれた。これで俺自身が移動しなくても済むようになった。

 この案にはチルチルも賛成してくれた。パリオンで暮らすよりは良いらしい。それに、田舎のほうが空気が綺麗で新鮮らしいのだ。汚物が少ないからだろう。

 さらにはマリマリがフラン・モンターニュの麓にあるピエドゥラ村の当主に紹介状を出してくれると言ってくれた。なんでも祖父の時代からの付き合いがあるらしい。

 ピエドゥラ村の当主ヴァンピール男爵の返答では、快く迎え入れてくれるとのことである。しかも、住む家すら用意してくれるとの歓迎ぶりであった。

 こうして俺とチルチルの二人は、ピエドゥラ村に旅立つことにした。

 新天地を求めて――。

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