スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
71 / 261

66【怪しいウェイトレス】

しおりを挟む
 床に寝そべり酔い潰れている騎獣たちの脈を測るバンディが言った。

「こいつら、酔い潰れているだけだな……。しかし、なんでだ?」

 バンディはナイフで刺していたリンゴを引っこ抜くと、こちらに投げてきた。それをエペロングがキャッチする。そして、リンゴの匂いを嗅いだ。

「本当だ……。リンゴから酒の匂いがプンプンするぜ」

 俺もエペロングの手にあるリンゴの匂いを嗅いだが、何も臭わない。鼻がないから何も分からないのだ。

 大きな胸の前で腕組みをするマージが言った。

「それじゃあ、どちらにしろ騎獣は無事なのじゃな?」

「ああ、問題ない」

「よし、では出発は予定通りじゃ。朝食を済ませたら出発しようぞ」

「それは無理だな」

「何故じゃ、バンディ?」

 バンディは溜め息を吐いてから言う。

「騎獣は酔い潰れるほどに酒入りリンゴを食べさせられたんだぞ。立ち上がれない奴が、人を乗せて走れるわけがなかろうて……」

『騎獣も二日酔いとかになるのか?』

 俺の疑問にティルールが考え込みながら答えた。

「大量に酒を飲んだら人間同様に二日酔いになるんじゃないの。知らないけどさ」

「たしかにのぉ~……。それでは、どうするのじゃ、リーダー殿?」

 マージの問いにエペロングが答える。

「仕方ないので、もう一泊の足止めかな。このままでは旅立てないからな。騎獣の酔いが覚めるのを待つしかないだろう」

「やはり、そうなるのか……」

 それはそうなるだろう。しかし、俺は他人事のように言う。

『それじゃあ、チルチル。食事を済ませたら我々は先に旅立とうか』

「はい!」

「「「「「ええ~~!!!」」」」」

 俺とチルチルが当たり前の会話をしていると、なぜか暁の面々が驚いていた。信じられないものでも見るかのような眼差しで俺を見ている。

「なんでですか、シロー殿!?」

 エペロングが無精ひげを生やした顔を俺の仮面に近付けて訊いてきた。それに対して俺は無慈悲に答える。

『俺たちにはバイクがあるから問題ない。予定通りに旅立つぞ』

「なんで!!??」

『なんでって、なんでだよ?』

 俺のバイクは無事だ。現実世界に置いてあるから無事だったのだ。だから旅立てる。何も問題はない。

 ティルールが赤毛を掻き毟りながら抗議してきた。

「あんた、普通さ、仲間が足止めくらってるんだから、一緒に待つのが道理じゃないの!?」

『いやいや、知らんがな。お前たちと一緒に旅立ったのは、向かう方向が一緒だったからだ。なんでお前たちのトラブルまで俺が考慮せなならんのだ?』

「うわ~……、薄情……」

「シロー殿が、そのような軽薄な人物だったとは……」

「最低じゃのぉ……」

「これだからアンデッドは……」

「鬼畜だな……」

『何故か、酷い言いようだな……』

「シロー様、可哀想……」

『おお、チルチルは俺の味方をしてくれるか!』

「当然です。シロー様こそ正義ですから!」

 チルチルの盲目的な信頼が心地良い。味方がいるって心強いな。

『よし、チルチル。まずは食事を済ませようか』

「はい!」

『あれ……?』

「どうしました、シロー様?」

『酒場の女将さんも、一緒に来なかったっけ?』

「あれれ、いなくなってますね?」

 確かプレートルが納屋の異変を知らせに来たとき、酒場の女将さんも様子を見に一緒に飛び出してきたと思ったんだが。

「ただ騎獣が酔っているだけと知って、先に帰ったのでしょうか」

『まあ、俺たちも酒場に戻ろうか』

「はい」

 しかし、俺とチルチルが二人で酒場に戻ったが、酒場には誰もいなかった。呼んでも返答がないので、カウンターの奥の厨房を覗き込んだが、誰もいない。

『誰もいないな……』

「いませんね……」

『まあ、座って待ってみるか』

「はい、シロー様」

 俺とチルチルがテーブル席で誰か来ないかと待っていると、裏口からウェイトレスの娘さんが駆け込んできた。

「ああ、お客様、お待たせスました」

 昨日から何度か顔を合わせているピンク髪の娘である。彼女の口調には少し訛りが伺えた。酒場の女将さんは訛っていなかったから、この娘はこの辺の生まれではないのだろう。

『ウェイトレスさん、済まないが、この子にパンとスープを頼む』

「あらら、お一人分でよろしいのでスか?」

『ああ、俺は食べないから』

「は、はい……」

 ウェイトレスの娘さんは、ちらちらとこちらを振り返りながらカウンターの奥に消えていく。

 俺の顔に何かついているのだろうか――。あ、仮面を被ってるや。いや、それとは違うものを気にしている様子だった。しかし、それが何かは分からない。

 しばらくするとウェイトレスの娘さんがパンとスープをテーブルに運んできた。

「お待たせスました、朝食セットでス~」

 なんの変哲もないパンとスープのセット。しかしチルチルは、眼前に置かれた食事を見て睨んでいた。そして、ウェイトレスがカウンターの奥に引っ込むと、俺に小声で言った。

「シ、シロー様……」

『なんだ、チルチル?』

「このスープ……酒臭いです……」

『なんだと!』

 俺は椅子から立ち上がると、ウェイトレスが消えた厨房を睨みつけた。あの娘が騎獣に酒を盛った犯人なのかと疑う。

『チルチル、食事は食べずに待ってろ!』

「食べるわけありません……」

『このことを暁の奴らに知らせに行ってくれ。それから安全なところで待機だ』

「シロー様は!?」

『ウェイトレスに話を聞いてくる』

「畏まりました!」

 返答したチルチルが店を飛び出し、暁の冒険団がいるはずの納屋を目指す。俺は忍び足でカウンターの奥に向かう。

 そして、再び厨房を覗き込んだ。すると、ウェイトレスの後ろ姿が目に入る。

「うふふふふ……」

 ピンク色のポニーテールを揺らすウェイトレスは怪しく笑っていた。さらには、こちらに背を向けて包丁を砥石で研いでいる。シャキーンシャキーンと殺伐とした音が聞こえてきた。

 そして、なにやら、呟いている。

「白馬の王子様は、わたスのものなんだから――」

『なんか、目が行ってるな……。あの娘、ヤバそうだ……』


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...