スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
153 / 261

148【甲冑騎士の再戦】

しおりを挟む
「シュッ!」

 唐突なダッシュジャブ。問答無用で放たれたブランの左ジャブが甲冑騎士の顔面を狙う。

 それは、眩い疾風の攻撃――。

 しかし、甲冑騎士は、重々しいフルプレートを物ともせずに軽やかなバックステップでブランの左ジャブを回避してみせた。ブランの鋭いジャブが甲冑騎士の眼前で空振る。

「躱す、だすか!?」

 さらに甲冑騎士の反撃。右ストレートがブランの顎先を狙うが、彼女も巧みなウェービングでストレートパンチを回避してみせる。唸るガントレットの拳がブランの耳元を過ぎた。

「危ない……だす」

 そして、一旦間合いを取り直す。

「こいつは……昨日の戦士だすか?」

 昨日の昼間、暁の冒険団にタンカーで運ばれていたフラン・モンターニュのモンスター。

 しかし、身に纏っている甲冑が異なる。昨日は普通の全身鎧だった。だが、今着ているのは女性用の全身鎧である。胸当てにバストが象られていた。

 さらには、甲冑が放つオーラが増大している。感じ取れる魔力が数倍に増えていた。ゆえに、強敵感が増幅している。確実にモンスターとしてのレベルを上げているように伺えた。

「強くなっているだす……」

 背筋を伸ばして凛と構えるブランは、単眼の甲冑騎士を睨み付けた。両拳の高さは腰の位置。正中線を守った中段の構えである。

 片や甲冑騎士は、凛々しく立ち尽くすままである。直立不動で立ち尽くして、豪華な赤いマントを風になびかせていた。

 殺気が無い。殺意が感じられない。しかし、ピンク色の単眼からは、強い威圧感が押してくる。

 それは、ブランの背後で見守るチルチルに向けられていた。甲冑騎士は、ブランよりもチルチルを警戒している様子だった。

「よそ見が、すぎるだす!」

 再び攻め立てるブランが前に出た。ワンステップからの左ジャブの連打で甲冑騎士の翻弄を誘う。

 まずはロングのフリッカージャブで入ったブランは、間合いを一歩縮めると、そこから巧みなジャブを連打する。そのジャブは多彩な軌道――同じラインを過ぎるジャブは一発もなかった。

 しかし、どれもヒットは敵わなかった。

 だが、数々のジャブはすべて囮である。五発のジャブを瞬時に空振った後に、本命の右ローキックを放った。

 ガァーーーンっと、派手な金属音が響いた。

 それは、ブランの右ローキックを甲冑騎士が左腕に装着したカイトシールドで受け止めた激音であった。

「ガードが下がっただす!」

 下段の蹴りを防ぐためにシールドの位置が下がったのを見逃さなかったブランが、続いて左足で甲冑騎士の上段を狙う。

 身体を捻ると後ろ上段廻し蹴りで、カイトシールドの上を超えながら甲冑騎士の頭部を蹴り狙ったのだ。

「もらっただす!」

 しかし、甲冑騎士は大きな体を沈めると中腰の高さでブランに突っ込んで行った。肩からブランに体当たりをかます。回避と攻撃を一体化させた戦法だった。

「きゃ!」

 全体重を活かした当て身――ショルダータックル。その体当たりにブランの細身が飛ばされた。後ろで見ていたチルチルの側まで飛んでくる。

「むむむむ!!」

 すぐさまに体勢を整え直すブランが片膝立ちで身構える。その表情は、悔しさで歪んでいた。

 昨日までは、自分のほうが強かったのに、たったの一日で実力が逆転しているのだ。それが納得いかなかったのである。

「ぬぅ~~……」

 堂々と立ち尽くす甲冑騎士。その姿を見ながらブランが立ち上がる。

 完全に自分の実力が、このモンスターに追い付いていないと悟れた。なぜなら甲冑騎士は、まだ腰の鞘から剣すら抜いていないからである。

 それは、余裕……。

 ブランは「これは、勝てない――」そう自覚していた。野生の感が知らせているのだ。

 チラリと後方のチルチルを見るブラン。彼女の脳裏に浮かんでいる作戦は、逃走。いかにチルチルを連れて速やかに逃げ出すかを考えていた。

 最悪は、チルチルを見捨てて逃げ出したかったが、シローとのファミリア契約が、それを許さなかった。以前の彼女ならば、赤の他人を見捨ててでも自分だけは生き残ろうと考えただろう。

 しかし、今はそうもいかない。ファミリア契約が、ブランの足りていない人間らしい感情を補っていた。

「逃げ切れるか……」

 ブランの額から焦りの汗が流れ落ちた。確率的には、逃げ切れる可能性は、かなり低いと思っていた。

 この鎧のモンスターは、当初空から飛来して来た。飛んできたのだ。そうなると、飛べる者から逃げ切るのは、難しいだろう。そのぐらいはブランにも考えられる。

 建物内に逃げ込むか……。

 それで、長時間も凌げるのか?

 森に逃げ込むか……。

 そこまで走って行けるのか?

 なにより、チルチル先輩がお荷物だ……。

 しかし、捨て置けない。

「まずい、だす……」

 その刹那だった。甲冑騎士の頭を矢が狙う。

 しかし、不意打ちのように飛翔してきた矢を甲冑騎士は、カイトシールドで防いで見せる。

 弓矢で奇襲を仕掛けたのはアーチャーのティルールだった。

「今よ、バンディ!」

「!!」 

 ティルールの掛け声に合わせて双剣のバンディが上から降ってきた。二階の窓から飛び降りてきたようだ。

「うりゃぁあ!!」

 一撃目は、右手の兜割りだった。高所からの勢いを乗せて振るわれたショートソードを甲冑騎士は、カイトシールドで受け止めた。ガンっと音が響く。

 だが、バンディの二撃目が地面スレスレから甲冑騎士の足首を狙う。

 しかし、甲冑騎士は、片足を上げると下段斬りを躱して、その足で振るわれたショートソードを踏んでしまう。バンディの左手を封じたのだ。

 さらには振り上げたカイトシールドを手刀のように縦に振るってバンディに反撃を仕掛けてきた。

「あぶねぇ!」

 回避に専念するバンディ。

 ガンっと縦振りの盾先が地面に突き刺さった。バンディは踏まれていたショートソードを手放して逃げていく。

 そこにティルールが弓矢で援護射撃を入れた。しかし、その矢もカイトシールドで難なく防がれる。

「この野郎、まだ生きとったんかい!」

「しかも、前より強くなっているぞよ」

「しつこい化け物ぞな」

 建物の陰から現れる暁の面々。朝なのに全員がフル装備だった。

 背中の大太刀を鞘から抜いたエペロングが、余裕ありげに微笑みながら言った。

「また、返り討ちにしてやるぜ、鎧のモンスターさんよ!」

 そして、暁の冒険団が武器を構えると、甲冑騎士も鞘からロングソードを抜いた。その刀身が魔力で妖しく輝いている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

処理中です...