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147【甲冑騎士の来訪】
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朝日が遠くの山々から静かに顔を覗かせた時間帯。まだピエドゥラ村は眠りの中にある。だが、シローの店の中では、今日も一番乗りで目覚める者がいた。
その名はチルチル。白い髪と猫のような耳を持つ獣人の少女である。毎朝、彼女が誰よりも早く目を覚まし、朝食の支度に取りかかるのが日課となっていた。
シローは昨晩から現実世界に戻っており、早朝までは戻らない。ブランはというと、朝が極端に弱く、決まって遅れて起きてくる。ニャーゴに至っては、朝ご飯の匂いが漂ってくるまでベッドから出ようとすらしない。そして、食事が済むと再び布団に潜り込む――まさに猫そのものである。
「ふぅ~~~ん……」
大きく伸びをしたチルチルは、まだぼんやりとした表情で窓を開ける。ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。裏庭に目をやると、テントの前でストレッチをしているティルールの姿が目に入る。いつもと変わらぬ光景に、チルチルはほっとしたように微笑んだ。
「おはようございます、ティルールさん!」
二階の窓から声をかけると、焚き火の前にいたティルールが顔を上げた。赤毛の短髪に日焼けした肌、清々しい笑みを浮かべてウィンクを返してくれる。
「ああ、おはよう~、チルチルちゃん」
その声も姿も、まさに爽快。身体を鍛えた体育会系の女性らしい、凛々しさと親しみやすさを兼ね備えていた。
火口石で焚き火の火を起こし始めたティルールに軽く手を振ると、チルチルは階段を降りて一階へと向かう。
まずは、外の井戸から水を汲む。冷たい水が桶を満たすと、彼女はそれを抱えて厨房へ戻り、手慣れた動作で鍋に移して竈門にかけた。次に薪をくべ、シローが現代から持ち込んだ小さなライターを取り出す。百円ライターである。
「ライターって、本当に便利です。魔法が使えない者でも簡単に火が起こせるなんて、画期的ですわね……」
小さな炎が薪に燃え移るのを見届けながら、自然と笑みがこぼれる。異世界ではまだ珍しいこの道具も、チルチルにとっては日常の一部になりつつある。
続けて米櫃から二合の米を計量し、水に浸す。最近では、白米の朝食がすっかり定着していた。ご飯、目玉焼き、味噌汁。それに漬け物があれば、完璧な和朝食の完成である。チルチルもブランも、すっかりこのスタイルに慣れ親しんでいた。もちろん、全てはシローの影響だ。
ちなみに、ニャーゴには専用の食事が用意されている。カリカリと缶詰を混ぜたキャットフード。人間の食事は味が濃すぎるらしく、こちらのほうが口に合うようだ。グルメな猫である。だから棚には常に缶詰のストックが欠かされていない。
「ふ~んふ~んふ~ん――」
チルチルは鼻歌まじりで裏庭へ出ると、鶏小屋を覗き込んだ。これは最近、隣家のシスコから譲り受けた雌雄一対の鶏の住処であり、大工のゴリーユが作ってくれた立派な小屋である。
「うわ~、今日は三個も卵を産んでいるわ~」
満面の笑みでチルチルは卵を一つ一つ手に取って回収する。温もりの残る卵を両手に抱えながら、足取りも軽く台所へ戻る。
「今日は、ブランさんの分は二つね。あの子、食べ盛りだからきっと喜びますわ~」
そのとき、ちょうど階段を降りてくるブランの姿が見えた。眠たげな顔でニャーゴを抱きしめながら、ゆっくりと、だがふらつく足取りで降りてくる。
「ブランさん、顔を洗ってきてくださいませ。そろそろシロー様もお戻りになりますからね」
「はいだすぅ……」
眠気に抗えず返事もあやふやなブランは、ニャーゴをテーブルに下ろすと、歯ブラシとマグカップを手に外の井戸へとふらふらと向かっていった。その歩みは、まるで酔っ払いのように千鳥足だ。
そして――突然、けたたましい悲鳴が上がった。
「きゃ!!」
「ぅ!?!?」
チルチルは慌てて外へ飛び出した。裏庭を駆け抜け、店の前へ回り込む。そこで彼女が目にしたのは――地面に倒れているブランと、その前に立つ異様な存在だった。
赤いマントを風に靡かせるフルプレートの甲冑を纏った騎士。その姿は凛然としており、まるで戦場からそのまま現れたかのような威圧感を放っていた。
その騎士は女性だとすぐにわかる。胸部のプレートはお椀のように丸く盛り上がり、腰はきゅっと引き締まり、広がった骨盤から伸びる脚はまっすぐで長い。脚部のブーツには高いヒールが付き、背丈をさらに引き立てている。
まるでパリコレのモデルが甲冑を着て現れたかのような、美しくも異質な存在。そして、そのヘルムの隙間から覗くのは――ひとつしかない瞳。しかも、ピンク色に輝く単眼だった。
「ま、魔物ッ!?」
チルチルがそう叫んだ刹那。倒れていたはずのブランが跳ね起きた。その跳躍は軽々としたもので、空中で回転しながら着地すると、獣のように背を丸めて低く構える。
「不意打ちとは、卑怯だすッ!」
牙を剥き、唸り声を上げるブラン。その瞳は眠気を完全に追い払い、戦士のものへと変わっていた。
その名はチルチル。白い髪と猫のような耳を持つ獣人の少女である。毎朝、彼女が誰よりも早く目を覚まし、朝食の支度に取りかかるのが日課となっていた。
シローは昨晩から現実世界に戻っており、早朝までは戻らない。ブランはというと、朝が極端に弱く、決まって遅れて起きてくる。ニャーゴに至っては、朝ご飯の匂いが漂ってくるまでベッドから出ようとすらしない。そして、食事が済むと再び布団に潜り込む――まさに猫そのものである。
「ふぅ~~~ん……」
大きく伸びをしたチルチルは、まだぼんやりとした表情で窓を開ける。ひんやりとした朝の空気が頬を撫でた。裏庭に目をやると、テントの前でストレッチをしているティルールの姿が目に入る。いつもと変わらぬ光景に、チルチルはほっとしたように微笑んだ。
「おはようございます、ティルールさん!」
二階の窓から声をかけると、焚き火の前にいたティルールが顔を上げた。赤毛の短髪に日焼けした肌、清々しい笑みを浮かべてウィンクを返してくれる。
「ああ、おはよう~、チルチルちゃん」
その声も姿も、まさに爽快。身体を鍛えた体育会系の女性らしい、凛々しさと親しみやすさを兼ね備えていた。
火口石で焚き火の火を起こし始めたティルールに軽く手を振ると、チルチルは階段を降りて一階へと向かう。
まずは、外の井戸から水を汲む。冷たい水が桶を満たすと、彼女はそれを抱えて厨房へ戻り、手慣れた動作で鍋に移して竈門にかけた。次に薪をくべ、シローが現代から持ち込んだ小さなライターを取り出す。百円ライターである。
「ライターって、本当に便利です。魔法が使えない者でも簡単に火が起こせるなんて、画期的ですわね……」
小さな炎が薪に燃え移るのを見届けながら、自然と笑みがこぼれる。異世界ではまだ珍しいこの道具も、チルチルにとっては日常の一部になりつつある。
続けて米櫃から二合の米を計量し、水に浸す。最近では、白米の朝食がすっかり定着していた。ご飯、目玉焼き、味噌汁。それに漬け物があれば、完璧な和朝食の完成である。チルチルもブランも、すっかりこのスタイルに慣れ親しんでいた。もちろん、全てはシローの影響だ。
ちなみに、ニャーゴには専用の食事が用意されている。カリカリと缶詰を混ぜたキャットフード。人間の食事は味が濃すぎるらしく、こちらのほうが口に合うようだ。グルメな猫である。だから棚には常に缶詰のストックが欠かされていない。
「ふ~んふ~んふ~ん――」
チルチルは鼻歌まじりで裏庭へ出ると、鶏小屋を覗き込んだ。これは最近、隣家のシスコから譲り受けた雌雄一対の鶏の住処であり、大工のゴリーユが作ってくれた立派な小屋である。
「うわ~、今日は三個も卵を産んでいるわ~」
満面の笑みでチルチルは卵を一つ一つ手に取って回収する。温もりの残る卵を両手に抱えながら、足取りも軽く台所へ戻る。
「今日は、ブランさんの分は二つね。あの子、食べ盛りだからきっと喜びますわ~」
そのとき、ちょうど階段を降りてくるブランの姿が見えた。眠たげな顔でニャーゴを抱きしめながら、ゆっくりと、だがふらつく足取りで降りてくる。
「ブランさん、顔を洗ってきてくださいませ。そろそろシロー様もお戻りになりますからね」
「はいだすぅ……」
眠気に抗えず返事もあやふやなブランは、ニャーゴをテーブルに下ろすと、歯ブラシとマグカップを手に外の井戸へとふらふらと向かっていった。その歩みは、まるで酔っ払いのように千鳥足だ。
そして――突然、けたたましい悲鳴が上がった。
「きゃ!!」
「ぅ!?!?」
チルチルは慌てて外へ飛び出した。裏庭を駆け抜け、店の前へ回り込む。そこで彼女が目にしたのは――地面に倒れているブランと、その前に立つ異様な存在だった。
赤いマントを風に靡かせるフルプレートの甲冑を纏った騎士。その姿は凛然としており、まるで戦場からそのまま現れたかのような威圧感を放っていた。
その騎士は女性だとすぐにわかる。胸部のプレートはお椀のように丸く盛り上がり、腰はきゅっと引き締まり、広がった骨盤から伸びる脚はまっすぐで長い。脚部のブーツには高いヒールが付き、背丈をさらに引き立てている。
まるでパリコレのモデルが甲冑を着て現れたかのような、美しくも異質な存在。そして、そのヘルムの隙間から覗くのは――ひとつしかない瞳。しかも、ピンク色に輝く単眼だった。
「ま、魔物ッ!?」
チルチルがそう叫んだ刹那。倒れていたはずのブランが跳ね起きた。その跳躍は軽々としたもので、空中で回転しながら着地すると、獣のように背を丸めて低く構える。
「不意打ちとは、卑怯だすッ!」
牙を剥き、唸り声を上げるブラン。その瞳は眠気を完全に追い払い、戦士のものへと変わっていた。
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