スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
157 / 261

152【シローの対策】

しおりを挟む
 朝日が遠くの山を越えて顔を見せる時間帯。ピエドゥラ村に構えられたシローの店の前では、フラン・モンターニュから連れてこられた甲冑騎士と人間たちとの戦いが続いていた。

 否。もう、戦っているのは人間たちではない。宇宙人であるクァールのニャーゴ。それに、スケルトンのシローと甲冑騎士の戦いは、見る人によっては鳥獣戯画の戦いに映るだろう。

 猫、骸骨、鎧騎士――。それだけ奇怪な戦いである。

「マージ、大丈夫ぞな。今、ヒールを掛けるぞい」

「す、すまぬ。プレートル……」

 庭の隅に避難した暁の冒険団は、プレートルのヒールで全回復している。今は座り込んでシローの戦いを見守っていた。

「どちらが、強いと思う?」

 スカーフェイスを革手袋で撫でながら観戦していたバンディが問うと、暁の冒険団のリーダーであるエペロングが、座り込んだままの姿勢で答えた。

「当然ながら、シローの旦那のほうが強いだろうさ。お前も知っているだろ、旦那の強さを――」

 妥当な判断である。

 しかし、ファーストインパクトで一太刀入れたのは、甲冑騎士だった。

 水面蹴りで両足を掬われ、宙を回転しながらも繰り出したロングソードの一振りが、シローの被る天狗の仮面を斬りつけたのは事実。本体に傷はつけなかったが、天狗の高い鼻を切断したのだ。その功績は大きい。

 その光景が観覧していた者たちには、強く印象に残っていたのだ。もしかしたら、剣技だけなら甲冑騎士のほうが上なのではないか、と疑わせた。

『なかなか、やるね~』

 チタン製のメリケンサックを両拳に装着したシローが、鼻の折れた仮面越しに甲冑騎士を睨みつけていた。

 片や、甲冑騎士もロングソードをまっすぐに突き出しながら、凛々しく構えて見せる。堂々たる姿勢の構えだった。

 間合いだけなら、ロングソードを構えている甲冑騎士のほうが圧倒的に長い。しかし、シローは今までのどの対戦でも武器のリーチを無視して戦ってきている。対長物の対策は完璧なのだろう。

 チラリと一瞬だけ、シローの視線が後方に向けられた。後方で観戦しているチルチルたちに向けられる。

『おい、ニャーゴ』

『なんだニャア、シロー?』

『そのプロテクションドームって魔法で、店全体をカバーできないか?』

 チルチルに抱えられたままの黒猫は、後ろを振り向いてシローの店の大きさを確認した。それから答える。

『短時間なら、できんことはないニャア』

『どのぐらい?』

『余裕を見て、10分間かニャア』

『10分か――。まあ、十分だろう』

 そう呟いたシローが、ニャーゴにお願いする。

『すまんがニャーゴ。10分間でいいから、店全体を守ってくれないか?』

『おやつにチュールをくれるならやるニャア!』

『分かった。今日のおやつはチュール3本だ!』

『やったにゃあ~~~ん!!』

 歓喜の鳴き声を上げた黒猫が、自分たちだけを包んでいた魔法のドーム型防壁を広げて、シローの店ごと包んでしまう。二階建ての建物が完全に防御魔法の庇護範囲に入った。

 それを確認したシローが、甲冑騎士に言った。

『よし、これでOKだぜ!』

 何がOKなのかと暁の面々が首を傾げた刹那、甲冑騎士の単眼が輝き、極太のビーム砲を放つ。

 その極太ビーム砲は、一瞬でシローの全身を包んだだけでなく、プロテクションドームでガードされていたシローの店にも撃ち当たる。

 眩い光が収まると、甲冑騎士の前方には焼け焦げた一本道ができていた。波動砲の火力で地面が焼かれた跡である。

 その焼けた一本道の真ん中に、腕を並べて眼前をガードしているシローの姿があった。

 しかし、全身が焼け焦げている。防御に使った両腕は骨がむき出しになり、腹や足の衣類も焼け落ちていた。それは、墓穴から這い出てきたばかりのスケルトンのようである。

 両腕のガードを下げたシローが言った。

『すげー火力の魔法だな、おい!』

 口調は強がっていたが、その姿はボロボロ。着ていたウェアは焦げ落ち、胸元と腰の部分しか残っていない。フードも焼け落ち、鼻のない仮面だけが残っていた。ほとんど骸骨の成りを晒している。

 だが、ニャーゴのプロテクションドームに守られていた店は無傷である。さすがはニャーゴの防御魔法だと感心した。

 シローは動きの邪魔になりそうな衣類を破き取りながら、甲冑騎士に言う。

『最初に大きな魔法を使ってくれて助かるよ。その魔法がお前の最大火力の魔法なんだろ?』

 シローには分かっていたのだ。それは、教訓からのスキル選択が功を奏した結果だった。

 教訓とは――ニャーゴ戦である。

 ニャーゴとの対決で、魔法に対する対策の重要性を痛感し、シローは新しいスキルとして魔法対策に特化したものを選択していた。

 それが、「魔法探知Lv3」と「魔法防御Lv3」のスキルだった。

 魔法探知Lv3が、甲冑騎士の鎧に秘められた魔法を察知し、魔法防御Lv3が攻撃魔法を耐え抜いて見せたのだ。

 さらに、甲冑騎士の波動砲光線を浴びる刹那、自身に「プロテクションマジックLv3」をかけていた。

 これらが、シローを波動砲光線から守った要因である。

 ちなみにシローがマージに聞いたところ、魔法防御Lv3は中級魔術師並みのセンスらしい。さらに、魔法探知には魔力を感知するだけでなく、多少なりとも魔法抵抗を向上させる効果もあるという。

 そして、プロテクションマジックLv3が間に合ったのも大きかった。

 それらすべてが、極太ビームに耐えきった理由である。

 魔法攻撃だけは、いくら格闘技を極めても対策が難しい――。そう考えたシローは、スキル選択に慎重を期していたのだった。

 マージが述べる。

「あの御仁……。さらに、隙が無くなったわい……」

「アホー、アホー!」

 どのような格闘技でも、基本は防御術にある。

 どのような格闘技でも、最初に習うのは防御からである。

 それは、代わらない。

 どんなに優れた攻撃力を有した選手でも、防御が疎かでは試合に勝てない。防御こそが武の真髄とも言えよう。

 いいや、防御こそが、すべての競技闘争の基本である。

 そして、異世界には魔法攻撃が付き物だ。それから身を守れなければ、いくら格闘技を極めたとしても生き残れない。

 だからシローは、魔法防御スキルを選択したのである。魔法攻撃対策を打ったのだ。

 シローは、この異世界でも最強を目指しているのだ。そのためにも、魔法防御は必須だと考えての行動だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...