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妖精の王 シシー
しおりを挟む「ルカ~、遊ぼウ?」
「見テ見テ~!」
「こっち来テ~!」
「うるさい。」
キャアキャアと甲高い声で群がられ、気を引く為に髪や服を引っ張られる。地味に痛い。お前らに用はないんだよ。
「族長は?」
「族長に会いたいノ?案内してあげル~!」
「僕がしてあげル~!」
「私も行ク~!」
誰でもいいから。なんなら、ついてこなくていいから。
手に乗るサイズ、背中に羽根、とんがった耳。それが妖精の特徴だ。奴等が人を気にいる基準はあまりなく、変わったものや珍しいものを好む。
王宮の裏手の森には空間の歪みがあって、そこに上手く入れたら妖精の住処に辿り着ける。
歪みといっても見ただけではわからない。僕は小さい頃に妖精を追いかけて、辿り着いてしまったことがある。
「あ~ら、ルカじゃない。何々?やっと、私の番になる決心ができた?」
手のひらサイズの妖精には例外がいる。5歳くらいの子どもの大きさの妖精がいるのだ。そいつらが、代々族長になる。羽根は遠目から見えなかったりするので、エルフの子どもと間違えられたりするのだ。
前に会った時は背丈がほとんど一緒だった。そして、その頃から何かと僕をここに留まらせようとする。
「そんな決心は一生できないから安心しろ。」
「残念。」
族長の妖精、シシーが大袈裟に肩をすくめた。
「聞きたいことがある。」
「んー、じゃあ私の家に行きましょうか。あなたたちはついて来ちゃダメよ?」
「はぁ~い。」
シシーの家には何度か行ったことがある。連行されたことがある、という方が正しいかもしれないが。
「ルカ、手を出して。」
当たり前だが、シシーの家はシシーのサイズで作られている。
彼女は僕の手の甲をスルスルッとなぞった。するとどういう術式なのか、彼女と同じサイズになる。
「よし、これで大丈夫ね。お茶を淹れるわ。適当に座っていて。」
妖精の家は人間のものより神秘的なものが多い。見た目はナチュラルで人間の家財より劣って見えるが、実はそうでもない。キッチン用具なんかはほとんど同じなんじゃないかと思う。
「甘いのがよかったら蜂蜜をどうぞ。」
シシーは紅茶を淹れるのが上手い。この辺りに咲いている花で作った紅茶やハーブティーをよく淹れてくれる。
「それで?どんなことが聞きたいの?」
「早く帰りたいから単刀直入に聞こう。シシーは、例えば異世界・・・違う世界から来た者に会ったことはないか?」
シシーは子どもみたいな見た目に似合わない、大人びた仕草で少し考えこんだ。逆にそれが可愛く見えているのが、本人にもルカもわかっていない。
「ふむ・・・転移者には会ったことがないな。」
「そうか・・・この文字に見覚えは?」
リアの日記を転写した紙をシシーに見せる。
「あぁ!知ってる。確か、"ニホンゴ"って言うんだよ。」
「"ニホンゴ"・・・?」
聞いたこともない名前だ。おそらく、ニホンという国の言葉なのだろうが・・・そんな国はこの世界にない。
「さっき、転移者に会ったことはないと言ってなかったか?」
「転移者には会ってないよ。私があったのは転生者。」
転生・・・リアが大人びて見える時があるのは、転生して前世の記憶があったからか。
「その者に会えたりはしないか?」
「ルカもよく知っている人物だろうけど、もうこの世にはいない。」
「誰だ?」
「ブランティアだよ。ルカのお婆さん。」
お婆様が転生者?!そんな話、聞いたことがないぞ。文字だって見たことがない。なのに・・・こんな身近にいたのか。
ブランティア・ロ・カルシャイア。
僕のお婆様はマカライア公爵家の次女に生まれた。少しお転婆で好奇心の強い方だったと聞いている。僕ら兄弟が3歳の頃に亡くなった。だから、記憶はほとんどない。
「お婆様とシシーは知り合いなのか?」
「えぇ、幼い頃からの友だちよ。ブランについてきたから、ここに居るんだもの。元々は別に住処を持ってたのよ?」
初耳だぞ。え、知らなかったの?みたいな顔をするな。
「ちょっと待ってね。ブランが残した書物があるの。」
シシーはそう言うと、自身の書斎に入っていった。そして数分後、本を数冊抱えて戻ってきた。
「これよ。」
バサバサッ、
人が読みたいって言ってる大事な本なのに、なんでそんな扱いが雑なんだよ。
「シシーはニホンゴを読めるのか?」
「えぇ。ブランと秘密のやりとりをするためにね。私たちしかわからない字でやりとりするなんて面白いでしょ?」
なるほど、お婆様はそういうところが妖精に好かれていたんだな。転生前の記憶を提供できるから、珍しがられたんだ。
「これを読んでみてもらえないか?」
先程見せた紙を、もう一度見せる。
「いいわよ。えーっと、」
***
今日はルカ様と早く別れて部屋に戻ってきた。
彼にはきっと、私が隠し事していることなんてわかってるんだろう。でも、怖くて本当のことは言えない。
もうすぐ、ヒロインがこの学園にやって来る。
ゲームが始まってしまう。
私がシナリオ通りにライト様を好きになったらどうしよう。
私が悪役令嬢になるために、ルカ様の攻略ルートが開いたらどうしよう。
ゲームの強制力が怖い。
そんな力、存在してるのだろうか。
わからないけど、ただただ恐怖が募っていく。
ルカ様に嫌われたくない。離れたくない。
でも私が悪役令嬢になれば、彼が私を好いていてくれても2人とも幸せにはなれないわ。
今世でルカ様に出会えたことが、1番の幸せ。
ヒロインなんて来なければいいのに。
***
ヒロイン?ゲーム?シナリオ??
どういうことだ。何の話だ。悪役令嬢ってなんだよ。
混乱する僕に、シシーが楽しそうに続ける。
「これ、ブランが言ってた物語のことかしら?あれ、すっごく病みつきになるのよね。あ~、もっと新作を読みたかったのにブランがいないから、もう読めないわ。残念すぎる~。」
「お婆様が言ってた物語?」
「ほら、これだよ。」
シシーは先程持ってきた本の一冊を指さした。
「『ラブトリップ~運命の恋、始めます~』??」
「それ、面白いんだよ!ルカも出てくるよ!」
僕が出てくる?どういうことだ。
「あっ、そうそう!ルカはニホンゴが読めないんだったね。ブランが私の為に教本も作ってくれたから、これと照らし合わせながら読むといいよ。」
そう言って渡されたのは、また別の本。パラパラとめくると、アルファベット順に文字がわかりやすく記載され、いくつか単語も載っていた。
「なんでお婆様はニホンゴで本を書いていたんだ?」
「世界の流れを変えないため。ゲームをちゃんと始めるためって言ってたよ。自分が何かしたらゲームが始まらないかもしれないから、自然の流れに任せるんだって。」
クソッ・・・お婆様がいたら直接話が聞けたのに。
・・・・・・いや待て。お婆様はゲームを始めたい。でもリアはゲームが始まるのを恐れている。なのに、お婆様に話を聞いたら嘘を教えられてゲームが始まる方向に流れてしまうかもしれない。・・・うん、お婆様が亡くなっていてよかったと思うことにしよう。
「ありがとう、シシー。これらを借りていってもいいかな?」
「いいよ!あっ、そうだ!これも持っていってよ!」
シシーがポケットから取り出したのは、透明の真珠。"妖精の涙"だ。
「この本読んだら、感想教えて欲しいな!誰とも共有できないのは寂しくて。」
「わかった。」
遠隔で妖精と話せる道具にもなるってことか。便利なものをもらったな。有効活用させてもらおう。
「よし、じゃあ帰る。」
「え~~!!!帰っちゃうの?もうちょっといなよ!」
「嫌だよ。前回ここに2日泊まっただけで、神隠しに合ったと探されていたんだぞ。大事にしたくないんだ。隠れて調査してるんだから。」
「ちょっとくらい、いいじゃぁ~ん!!」
シシーが僕の服を掴んで抵抗する。声の大きさは耳を塞ぎたくなるほどだと言えばわかるだろう。
「い・や・だ!こことあっちでは時間の流れる速度が違うんだから、無茶言わないでくれ。」
これ以上、彼女の機嫌を損ねてお婆様の本を回収されても困る。
素早くシシーを引き剥がし、道中『帰らないデ!』『遊ぼうヨ!』と群がる妖精たちを振り払い、逃げるように住処を出た。
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