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出会っちゃった
しおりを挟む妖精学の授業が少し早く終わった時のこと。
剣術の授業を受けているルカ様を、剣舞場近くのベンチで待っていた。
「あのぅ・・・」
背後から声をかけられ、思わず振り向いた。
え、アメリア嬢じゃない!なんで私に声をかけてきたの?そりゃあ、いつも注意しているマリアンヌ様より声をかけやすいのかもしれないけど!私だって元?悪役令嬢よ!
思わず強張った顔を瞬時に柔らかくする。何度も遭遇しているとはいえ、きちんと顔を合わせるのも話すのも初めてだ。嫌そうな顔は失礼よね。
「どうかされたのですか?」
私が微笑んで答えたからだろうか。花が綻んだように笑い、近寄ってきた。
いいや、来ないでよ。
「あの、ええっと、そう!ここで待っていたら、殿下に会えるでしょうか?」
ライト様のことね。今年は御三方とも一緒に剣術の授業を受けているから待っていたら会える。でも、リアン様も殿下だしルカ様も殿下よ?
「・・・御三方とも、剣術の授業中ですので終わればここを通るのではないでしょうか。」
少し嫌味を込めて話す。でもきっと、このくらいの嫌味はきっと通じないんだろうな。そもそも、ご自分もそう思ったからここに来たんだろうに。
「本当ですか?よかった。」
うん、よかったね。さぁ、これで私への用は済んだでしょう?
ベンチは他にもある。他に座ってくれ!ってオーラをビンビンに出したつもりだが、彼女には効かず・・・。許可も出してないのに隣に腰掛けた。
あぁあぁ。こういうところよ?私は伯爵家。男爵家より上の爵位。許可もなく隣に腰掛けてはいけません。上下関係がない学園といえ、平民同士だろうと「お隣いいですか?」くらいは聞くでしょうよ。日本人だけかしら?
私がイライラしているのに全く気づいていない様子。
「私、エミリア様とお話ししてみたくって!」
もう、本当にやめてよ。私はあなたを避けていたの。というか、そう思ってるなら礼儀を尽くそう?仲良くなりたい相手を不快にさせるって、どんな才能よ。
「あら・・・そうでしたの。」
うふふ・・・と隠した口元は、ピクピクしてます。
「私、いつもマリアンヌ様に虐められてるじゃないですか?」
あれは虐められているのではないわ。というか、あれだけ色々されたり言われているのに、マリアンヌ様はよく我慢なさっていると思う。
「リアン様の婚約者であるカエラ様にも意地悪されますし・・・」
そりゃあ、カエラだって・・・私だって、婚約者を取られたくないもの。まだ興味を持たれていない今のうちに、しっかり自分の立場をわかってほしいと思うのも当然。
「エミリア様だけなのです!王子様方の婚約者で私を悪く言わないのは!」
それは、あなたに関わりたくないからよ!断罪されてバッドエンドなんて・・・ずっと避けてきたことが現実になるかもしれないもの。他の人はいいとか思ってないけど、私が1番可能性が高いのよ?表立って行動なんてできないわ!
私の気持ちに気づかず、彼女はどんどん1人で話を進めてしまう。
「王子様方の婚約者に意地悪されたら、怖くって誰も私に声をかけられないじゃないですか?私、お陰でお友だちが1人もいないんです!」
それは・・・多分、意地悪されてなくてもいないと思うわ。いや、もしかしたら男性は近寄ってきたかもしれないけど。
ペラペラと1人で話を続ける彼女に相槌も打てず、どうしたものかと困ってしまった。
「リア!!」
少し離れたところから、焦った声が私を呼んだ。
「ハイッ!!」
それに答えたのは、なぜか隣に座っていたアメリア嬢だった。
それはもう元気よく、片手をあげて立ち上がっている。
それに対し、ルカ様はビクッとされたけど完全フル無視。リアン様は一瞬停止した後にケラケラと笑い出し、ライト様は困り顔。
「・・・何をしていた?」
サッと私を腕の中に収めると、アメリア嬢から少し距離をとって睨んだ。
「え?・・・・・・あ!ごめんなさい!私・・・亡くなった母からリアって呼ばれていて・・・懐かしくって思わず・・・。」
間違えた恥ずかしさからか、少し頬を赤くして頬を撫でる彼女。
ルカ様の目は死んでいる。俺は今、何を見せられてるんだって顔をしている。
「俺は何をしていたのかと聞いたんだ。お前の話なんか心底どうでもいい。」
「もう、その言い方は酷いですよ!傷ついちゃいますよ!」
ぷくっと頬を膨らまして抗議するアメリア嬢に、ルカ様の顔はどんどん死んでいく。
ちょっとリアン様、笑ってないで助けて下さいよ。
「お前は、人の言葉が理解できないのだな。家畜か?」
「なんでそんな言い方するんですか?・・・私は、エミリア様とお話ししたかっただけです。」
頭を垂れてしゅんとしてみせる彼女。ルカ様の堪忍袋が切れてしまった。
私は即座にルカ様のお顔をこちらに向ける。状況がわかっていない人から見たら、ルカ様が彼女を虐めているように見えるかもしれない。
至近距離で私の顔を見る羽目になったルカ様は、少しずつ顔が赤くなっていく。
私から何か行動を起こした時は、反応がウブだ。
「な、なに?他の女と話して悪かった・・・嫉妬した?」
あぁぁ、現在のルカ様のお顔はゲームと同じ具体。ゲームシナリオ稼働中なんだから、私が推してたルカ様まんまの顔なのは当たり前なんだけど!・・・顔が良すぎる。そんなツンがデレた時みたいな顔しないでください。大好物です。
「・・・お、お腹空いてませんか?」
「空いてる。今、空いた。」
そんな都合の良い・・・。ルカ様らしいなぁ。
「おい、バカップル。急に2人の世界に浸るな。」
「痛い、小突くなリアン。」
「お話の途中で放置しないでください!」
あぁ、もう。私はあなたを助けたというのに。
ルカ様の頭の中はもう、私と早く2人でご飯食べたいしかなくなったのでアメリア嬢の方を一切見ない。私をぎゅうぎゅうと抱きしめていて、少し苦しいくらい。
「はぁ・・・、アメリア嬢だったか?諦めろ。お前はエミリア嬢と仲良くなれないよ。」
「リアン様!どうしてそんな意地悪言うのですか?」
「意地悪じゃねぇ!現実を教えてやってんだ!ルカに嫌われてる時点で仲良くなれるわけないだろ。」
「じゃあ、ルカ様と仲良くなればエミリア様とも仲良くなれるんですか?」
「その可能性は1ミリもないからやめておけ。」
「だからなんでそんな意地悪なんですか?!」
あー、リアン様もイライラし始めちゃった。
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