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噂3
しおりを挟むリアに来ると宣言してやってきたこの場所。
別に言わなくてもよかったんだけど、僕が召喚に行って浮気したなんて思われたら困るから。リアは勘違いしたりしないだろうけど、万が一にでも悲しませるようなことがあってはいけない。
まぁ、彼女は特に気にしてない様子だったけど。信用されているとはいえ、心配されないのも少し癪だなんて口にはしなかった。
店外は少し古びていて、これといった特徴はない。
「いらっしゃい。あら、お客さんは初顔だね。」
例の店にはすんなりと通してもらえた。
気前の良さそうな、女主人だろうか。俺のことはバレていないようだ。
変装しているとはいえ、僕の目をかいくぐって噂を流すような奴が相手だ。もしかしたらと身構えていた。さすがに噂を流した相手の婚約者が来たら、あちらも警戒するだろう。
「誰かお目当ての子でもいるかい?なければこちらで空いてる子を連れてくるけど。」
「最近入った子がいるって聞いたけど。」
「あぁ、あの子ね。最近あの子目当てで来る子が増えてるんだ。今も接客中だよ。時間ほど待ってもらえたら連れてこれるけどどうする?」
「じゃあ、待ってる間の1時間は他の子をつけてもらえるだろうか?」
「もちろん。別料金払ってもらえたらこちらはいくらでも。ちょっと待ってな。」
案内してもらった部屋で待っていると、数分で女がやってきた。厚化粧ではっきりとはわからないが、おそらく年は上だろう。
「あら、色男が珍しいこと。お兄さんならこんなところ来なくても選び放題だろうに。」
「まぁ、不自由はしてないね。」
リアがいれば十分だからな。
「正直な人。ここには何か他の用事があって来はったんやろう?お兄さんになら、うちが知ってること教えてあげてもええよ?」
艶やかな雰囲気を纏ったその女は、勘もいいようだ。きっとここの情報にも聡いだろう。
「どうして?」
「私が素直に教える気になったかって?こういう商売してるからこそ、自分の身を守る術を知っとかなあかんのよ。お兄さん、只者じゃない雰囲気しとるから。」
「情報屋にでもなれるんじゃない?」
「そんなええもんちゃうわ。でも、そうね。ここに集まる情報で私が知らんことはないと思うわ。お兄さん、運ええな。」
初めて、リア以外に気の合う女性に出会ったかもしれない。
・・・浮気では決してないから。情報収集に使えると思っただけだ。
「じゃあ、言葉に甘えて本題を話す。最近入った女性について教えてほしい。」
「エミちゃんのこと?」
「そうだ。彼女についてどれくらい知ってる?」
「そうねぇ、基本的にここの女の子はこの屋敷で生活してるんやけど、彼女だけは通いなんよ。昼間は何してるか、本当のところは誰も知らへん。ただ所作が貴族そのものやから、どこぞの没落しかけの貴族やろうと思ってる。」
「そうか。俺は辺境伯の娘だと聞いたのだが・・・。」
「あぁ、そんな噂もあったね。でも私は違うと思ってる。」
「それはなぜだ?」
「自分の名前で春を売る奴がどこにいるんよ。しかもプライドの高いお貴族様でしょう?没落しかけいうたって、そんなことせんと思うわ。」
うん、正しい判断だな。
「でも、そう思ってない人もいると。」
「そうね。本当に辺境伯の娘さんやと思って来てるアホな連中もいるみたいね。あとは、違うとわかってて言いふらしとるもんもいてる。」
「例えば?」
「女将さんは彼女の事情を本人から聞いてると思う。でも、女将さんからその噂を聞いたことはない。知ってて流してるのは・・・そうやわ。常連の侯爵さんが言うてるの聞いたことある。侯爵ともあろう人が、娘さんに会ったことないわけないやろうし。」
「侯爵の名前は?」
「すんまへん。ここは客もあだ名で呼ぶ方式なんよ。彼が侯爵っていうのは、偶然聞いただけなんよ。」
「特徴は?」
「中肉中背で、あの体格は騎士ではないやろうね。髪は少し長めで薄紫色。左目の下にほくろがあったわ。」
サパレル侯爵か・・・。彼とは話したことはないけれど、王宮で何度か見かけたことがある。確か、貿易省で働いていた。
姿を変えずにこんなところに来るなんて、頭が足りないんじゃないだろうか。
まぁ、そのお陰で掴めたのだけど。
「思い当たる人がいてはるようね。」
「あぁ、お陰様で。ちなみに、その女も客に春を売ってるのか?」
「そうみたいよ。」
やっぱり・・・今来ていてよかった。きっと次は“エミリアが春を売っている”と噂を流すつもりだったのだろう。
「他に知りたいことは?」
「彼女は誰かに紹介されてここにきたのか?」
「えぇっと、確か男装した人に連れられてたね。」
「なんで男装だと?」
「女将さんがその人を案内してるところをちらっと見たんやけど、綺麗な手してるし歩き方はやけに上品やし。着てる洋装がチグハグに見えたんよ。」
チラッと、と言いながら結構な観察眼だ。
「この子も売られて来たんや、思っとったんやけど。私が思ってるより深い事情があったみたいやね。こうしてここに色男が来るくらいやし。」
トントン。
「そろそろ交代の時間です。延長されます?」
見習いだろうか。先ほどの女性とは違う若い女性の声がした。
「いや、予定通りでいい。連れて来てくれ。」
「かしこまりました。呼んでまいります。」
女性が立ち去った気配と同時に、目の前の女が立ち上がった。
「ほんなら、私とのお喋りもお終いやね。次は本当の姿で会えるの楽しみにしてますわ。」
そう言って部屋を出て行った。
言わなくても、彼女には僕の正体がバレているんじゃないだろうか。本当に恐ろしい人だ。
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