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第1章
誘拐された!?
しおりを挟む夢を見た。子どもの頃の夢を。
小さい頃の私は、よく熱を出した。
そんな時、母はいつもお粥を作ってくれた。
初日は塩で味付けしただけのもの。
少し回復してきたら、卵入りのものを作ってくれた。
いつも忙しそうにしている母が、私だけのために時間を作ってくれることが嬉しかった。
お粥は、優しくて温かい味がした。
そういえば一人暮らしをしてから、まともに話してなかったな。
元気にしているだろうか。
心配をかけたくなくて、いつの間にか母からの電話を無視するようになっていた。
声を聞いたら泣いてしまうかもしれないし、
私の声から疲労を感じ取られたら嫌だなとか考えて、見栄を張り続けた。
次、電話がかかってきたら出てみようかな。
なんとなく、次は笑って話せる気がする。
そういえば、なんで子どもの頃の夢なんて見ているんだろう。
寂しさからだろうか。
あぁ、それにしてもいい匂いがする。懐かしい匂いだな。
食欲に負けて目を開いた。
あれ、起きたと思ったけどまだ夢の中かもしれない。
うちの天井はこんなんじゃなかったはず。見覚えもない。
・・・・・・夢の中で食欲は満たせないな。
もう一度、目を閉じてみた。
しばらくは寝付けないかもしれないけど、いつものことだ。
そのうち落ちているだろう。
気長に苦しい夜を・・・・・・
と思ったけど、夢の中だからだろうか。
胃も頭も痛くないし、気持ちは落ち着いている。
こんな穏やかな気持ちはいつぶりだろうか。
不思議に思っていると、不意にコトッと音がした。
すぐ近くに人がいる気配がする。
額がスッと軽くなって、あれっと思ったときには冷たいものが乗せられていた。
ん???
もしかして私、看病されてる?
夢にしてはやけに感触がリアルだ。
でも現実は家にいたはずだから、誘拐でもされない限り別の場所に移動しているのはおかしい。
それに、誘拐される理由が思いつかない。
私って、夢遊病だったかな?
人の気配が離れてから、うっすらと目を開けて様子を見てみた。
やっぱり知らない場所だ。
寝返りを打ったフリで、人の気配がしていた方向を確認する。
サイドテーブルに小さな木の桶が置いてあった。
あれ、誰もいない?
薄く開けた目だけで必死に周囲を見回した。
すると足元の方角に、誰かいるのがわかった。
青年?が椅子に腰掛けて、本を読んでいるようだった。
どうしよう。
これ、起きたらどうなるやつだろう。
善意で看病してくれていると信じたいけど、知らない部屋だからな。
どうやって、どんな目的で私をここに連れてきたかが謎すぎる。
警戒しない方が無理な案件だ。
私の額に乗せたものが落ちたことに気づいたらしい。
青年は本を閉じて、こちらにやって来た。
近い。近すぎる。バレたらどうしよう。
隠し事は得意じゃないのに。
心臓がバクバク音を立てている。
冷や汗をかいているかもしれない。
薄く開けていた目を慌てて閉じた。
近くで見られたら、バレるかもしれないからね。
静かに、動揺を押し隠して危機が離れることを待った。
小さな水音がして、落ちたタオルが桶に入れられたことを知る。
さぁ、横になった私の額に改めて乗せるのは難しいでしょ。
早く立ち去って。お願い。
そんな私の願いも虚しく、彼の気配が離れない。
あぁ、神様。
私、今まで真面目に生きてきたと思うんですよ。なのにこの仕打ちはなんなのでしょうか。
おそらく数分。
しかしその数分が、とても長く感じた。
えっ!
・・・あ、しまった。
ビクッとしちゃった。これは絶対バレた。
頰にかかった髪を後ろに流されたところまでは我慢できた。びっくりしたけど。
まさかその後、その手が額に来るとは思わなくて・・・。
それでも僅かの可能性にかけて目は閉じている。
どうか、どうか神様。
「もしかして、起きてたりする?」
ああぁぁぁっ。
そうですよね。
やっぱり、バレますよね。
仕方なく、恐る恐る目を開けた。
すると、心配そうにこちらを覗く青年の顔がどアップで見えた。
「うわあぁ!」
ゴンッッ!!!
「「痛ッたぁ!」」
思わず起き上がろうとして、私の頭は彼の顔面に。そして彼の歯が私の頭に・・・。
「歯が、歯が折れる・・・。」
「ごめんなさい!・・・大丈夫ですか?」
まだ眉を寄せた青年は、口を押さえながらコクコクと頷いた。
「それだけ叫べたら、もう安心だね。」
柔らかに微笑まれて、申し訳なさが倍増。
誰だよ、こんな虫も殺せなさそうな優男を誘拐犯とか言った奴・・・。
自分か・・・。
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