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第1章

幼馴染の姉弟〜ジェイドsaid〜

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今日はいつもより早くに目が覚めた。
どれくらいかというと、まだ空に暗さが残るくらいに起きたかな。
・・・別に楽しみだからじゃないよ。ほら、昼間にいない分の畑仕事を終わらせておかないといけないからね。


さて、収穫できそうなのは・・・レタスかな。昨日採れたトマトを使ってシーザーサラダでも作るか。
クルトンがあった気がするから、それも入れよう。

ついつい、鼻歌を歌ってしまう。
あっという間に仕事は終わってしまった。
でも、まだアカリが起きる時間ではない。

思ったより早く片付いちゃったな。
そうだ!掃除もしてしまおう。まだ時間あるし。
掃除して、シャワーを浴びたら丁度いい時間なんじゃないか?

お風呂掃除に床掃除、窓拭き、玄関を掃いて・・・おっと、トイレも掃除しなくちゃ。

掃除をしていても、頭の中で1人ファッションショーをしているアカリしか浮かんでいない。ただ悲しいことに、女性の服に疎くてレパートリーは少ない。今登場した、薄黄色の小花柄ワンピースの登場はもう3度目だ。何度見ても可愛いからいいけどさ。

シャワーを浴びて軽く支度を整えたら、朝食の準備にとりかかる。
アカリの好みはベーコンはカリカリめで、卵は少し固めの半熟だったよな。そして、サラダは仕上げに黒胡椒をかけて少しピリッとさせる。
うん、今日も上出来。そろそろ起こしに行くか。


アカリの部屋は2階。
使っていない部屋を好きに選んでもらった。


コンコン。
・・・・・・うん、起きてないな。

「お邪魔しまーす。」

やっぱり。
ベッドにはすやすやと眠るアカリがいた。

「アカリ、アカリ!起きて。」

近くです声をかけても起きる様子がない。

「うーん。アカリ、アカリ!朝だよ?起きれそうかい?」

軽く肩を叩いてみた。
お?あ、起きた。よかった。

「おはようございます、ジェイドさん。」

「おはよう。ごめんね、起こしちゃって。」

「いえいえ。ありがとうございます。支度したら、直ぐ降りますね。」

「急がなくて大丈夫だよ。ゆっくり支度したらいいよ。」

そうしてキッチンまで戻り、トーストを焼き始める。カラトリーはもうセッティング済みだ。

マグカップを2つ用意して、お湯を沸かす。
すると、ほらアカリがそろそろ来る頃だと思ったんだ。

「カフェオレとミルクティー。今日はどっちにする?」

「カフェオレがいいです。」

「了解。ちょっと待ってね。」

アカリはブラックが飲めない。だから使う豆はカフェオレに合うものを選ぶ。

ガリガリガリ・・・ガリガリガリ・・・・・・。

豆を挽く時に香る、この匂いが好きだ。
僕のコーヒーを飲む人にも、この匂いから味わってほしいと思っている。
挽いている間の、この静かな時間を楽しんでくれる相手にしかコーヒーは入れない。

温めたミルクをそっと注いで、砂糖を入れる。
アカリの分の角砂糖は1つ。僕はなしで。

「お待たせ。」

いただきます。

「ん~!!今日も美味しいですね!」

「そうだね。」

その嬉しそうな笑顔が、僕に幸せをくれる。

ありがとう。ここに来てくれて。
心の中で呟くのは、これで何回目だろうか。

「今日は街へ行かないか?」

「街、ですか?」

「あぁ、そうだ。村だとそろわない物もあるからな。少し遠出しようと思う。」

突然の提案に少しポカンとした顔をしている。
到着して、服を買えると聞いたら喜んでくれるだろうか。

「楽しそうですね。わかりました、行きましょう。」

よかった、一緒に来てもらえて。1人でも行くつもりだったけど、僕のセンスでは不安だからね。








アカリは初めて馬車に乗ったらしい。
なんでも、前に住んでいた世界では"でんき"というものが流れていて、それが大きな箱を動かすそうだ。"がそりん"というものを燃やしても箱が動くそうだが、原理がよくわからない。

「うわぁ、さすが。人がいっぱい居ますね。」

僕にとっては慣れた光景でも、彼女にとってはどれも新鮮に映るのだろう。僕も君が育った世界を見てみたいけど、それは叶わないのだろうな。

少し前まで、僕はこの街に住んでいた。
友だちも、馴染みの店も、実はここの方が多かったりする。
まぁ、アカリに紹介するのは追々で。

「アカリ、降りるよ。」

先に降りて、手を差し出す。
降りる時の段差で転けて、嫌な思い出を作りたくない。馬車に慣れてないなら余計に。

あ、照れた。
赤くなった顔が可愛い。
なんとなく察していたけど、こういうことに慣れてないことを実感して改めて嬉しくなる。
いや、過去は気にしないけど。気にしないでいたいけど、そもそも他人に興味のない自分がこれだけ興味を持っているんだ。正直、嫉妬しないとは言えない。

「おいで、こっち。」

もう少しこの時間を堪能したくて、彼女の様子に気付かないフリをした。手を繋いだまま祈る。

どうか、この下心に気付かないままでいて。
いつか、ちゃんと話すから。


「ここだよ。僕の知り合いの店なんだ。」

気持ちが漏れ出す前に空気を変えた。

「ブティック・・・ですか?」

「そうだよ。」

このまま入ったら、わかりやすく揶揄われるだろうしね。

カランコロン。

「いらっしゃいませ・・・て、なんだジェイドか。」

彼は僕が幼い頃からの友だちだ。所謂、幼馴染。
琥珀色の髪に黒みがかった青の瞳を持つ。
一見地味な色味かもしれないが、姉弟そろって色気を振り撒くような美形。彼ら目当てにやって来る客もいるらしい。

「お邪魔するよ。」

「珍しいな。連れがいるのか。」

「あぁ、今日はこの子の服を買いに来た。何着か見積もってもらえるかな?」

そりゃあ、驚くだろうね。特に幼い頃の僕を知るノアは。

2人が自己紹介をしているのを横に見ながら、初めてここに来た時を思い出した。

懐かしさに浸りかけたところを、現実に戻される。

「ジェイドさん、用事って私の服を買うことだったんですね。」

「まぁね。僕が前に着ていた服を貸しているけど、いつまでもそれじゃ不便でしょ?サイズが合ってないみたいだし。」

それらしいことを言っているけど、1番は喜んでもらいたいんだよね。その次に、他の色々な服を着た彼女を見てみたいってところ。

ノアが店の奥に入っていった。きっと、ビオレットを呼びにいったんだろう。彼女のセンスは確かだ。それに、細やかな気遣いができるところを羨ましく思っている。

「お待たせ~。あら、可愛い子じゃない。」

・・・高めのテンションが、たまに嫌になるのはナイショだ。

「ビオレット、久しぶりだね。」

「お久しぶり。ジェイドが女の子を連れてきたって聞いたから、私の出番かと思って。」

「そうだね。彼女の相談に乗ってもらえると嬉しいよ。」

視線で「変なことは言わないでくれ」と釘を刺しておく。ビオレットはその視線をするりと避けた。

アカリがビオレットを見て目を輝かせている。
やめてくれ。お願いだから彼女を参考になんてしないでくれよ?

誰にも気付かれないほど小さな溜め息をついた。
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