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第3章
アカリの過去5
しおりを挟む家に帰って急いで準備を終えた私が会社についた頃、果穂はまだ会社に来ていなかった。私が家を出る時、ある程度準備が終わっていたからもう来ていると思ったのに。まぁ、私も急いだからな。そのうち来るだろう。
そう思っていたが、始業時間になっても果穂は会社に来なかった。
昨日、遅くまで飲んだしな。気をつけてはいたけど体調が悪くなったんだろうか。でもそれなら、連絡くらいしてくれてもよくない?
『果穂、どうしたの?』
『もう始業時間過ぎちゃったよ。朝礼始まるけど、何してるの?』
メッセージを送っても既読がつかない。
二度寝しちゃった、とか?後で電話してみよっと。
とりあえず、朝礼が始まってしまうのでケータイをポケットに入れた。
「おはようございます。連絡事項から話していきますね。」
いかにも優しそうな顔と声をした部長が連絡事項を告げていく。会社に休みの連絡を入れていたらこの時に告げられるだけど、部長は果穂の話をする様子がない。やっぱり二度寝かな?昨日の話は急ぐことだし、先に私が相談してみよう。
今日も町田は出勤している。というか、私の横にいる。彼女に怪しまれないように部長と話をつけなければいけない。
私は部長に直接渡す書類に、個人的に相談にのってほしいと書いて貼り付けた。それをサッと渡しに行く。書くのに時間をかけたり、通り過ぎる時にメモが町田に見られないようにする為だ。
チラッとメモを見た部長は少し首を傾げて、
「ありがとう。受け取りました。確認しておきます。」
とお決まりの台詞を言った。私が"個人的に"と言ったから、ここで詳細を聞かずにおいてくれたのだろう。
席に戻ると部長から
『お昼はどうですか?早めに片付けないと行けない仕事がありまして。お待たせして申し訳ないのですが。』
とメッセージが届いた。
『ありがとうございます!こちらはそれで大丈夫です。お忙しい中、お手数おかけいたします。』
と返しておいた。
相変わらず、果穂から連絡が来ない。
それから1時間経っても既読さえつかないので、御手洗に席を立ったフリをして電話することにした。しかし、一向に出る気配がない。いつもなら寝てても、電話したら起きるのに。そんなにぐっすり寝ているのだろうか。まぁ、お酒飲んでるしな。いや、もう抜けてるか?
少し不安を抱えつつも、昼間に部長と話をする為に仕事を進めておかなくちゃいけない。席に戻って仕事に集中することにした。
私が席に着いてしばらくした後。もうすぐ昼だって時だった。
プルルルルルルルッ
「はい、経理課の前川です。」
珍しいな。直接、部長のデスクに電話がかかってくるなんて。
「はい、はい・・・・・・え!(小声)・・・はい、わかりましした。はい、すぐ向かいます。」
どうしたんだろう。冷静な部長が動揺しているところなんて初めて見たかもしれない。
慌てて荷物をまとめている。
あぁ、これは昼間に話すのは無理そうだ。
「瑞田さん、ちょっといいですか?」
「え、あ、はい。」
「瑞田さんにも来ていただきたくて。荷物をまとめたら下に降りてもらえますか?」
「わかりました。すぐ向かいます。」
「お願いしますね。」
一瞬、果穂の顔が頭をよぎった。
いやいや、でも私を連れて行くのもおかしいよね。営業だったら担当とかあるかもだけど、経理に先方の担当なんていないし。果穂からの電話だとしても、私を連れていってどうする?て感じじゃん。
「何かあったんですかね?」
心配そうに町田が話しかけてくる。
「どうだろう。経理が呼ばれるなんてあんまりないよね。とりあえず、行ってくるね。」
「はい、行ってらっしゃい。」
エレベーターを降りて1Fまで行くと、部長がタクシーを停めてくれていた。
「すいません。お待たせしました。」
「いや、そんなに待ってないですよ。それでは行きましょうか。時間がないので車内で話をさせてもらいます。」
そう言うと私を先に車内に入れ、後に部長も続いた。もう既に行き先は告げてあったのか、タクシーはすぐに出発した。
「瑞田さん、あなたは三村さんと仲が良かったですよね?」
「はい、それがどうかしましたか?・・・果穂に、何かあったんですか?」
部長は少し迷う素振りを見せた後、悲しそうな顔をした。
「落ち着いて聞いてくださいね。三村さんが自宅で何者かに襲われて、救急搬送されたそうです。意識不明の重体だそうです。」
え、嘘・・・。
「部長、私、今朝まで三村の家にいました。私が別れた時点では元気だったんです!」
部長は何も言わずに私の話を聞いてくれる。
「今日、相談したかったのは三村のことでして。本当は三村と2人でお伺いしようとしてたんです。」
「お2人で、私に何を?」
「会社の金を横領した私の同期に女がいたという噂は知っていますか?」
「はい、それがどうかしましたか?」
「それが、昨日の昼に彼と同じ部の者から三村を疑う声を聞きまして。」
「三村さんが・・・?」
「でも、違うんです!その人は町田から話を聞いたと言っていました。町田が彼と三村が会っているところを見たと。でも見たと言ってるその日、三村はコンサートに行っていて、見てください。昨日、写真も撮ったんです。」
私はケータイで昨日撮った写真を見せた。
「クリスマス、ですか。」
「はい。そんな日のことをお互い間違えないと思いますし、三村が映っているDVDもあるんです。」
「瑞田さんは町田さんが嘘をついていると言いたいのですね?」
「・・・そうです。」
私は町田が怪しいと思った点を、全て部長に話した。フレンチレストランしかない階に、彼氏がいないと言っている町田が店に入ったところを見たと証言している点や果穂はアクセサリーをつけておらず(アクセサリー買うならオタクグッズを買うようなやつだし)、町田の薬指にリングがあったこと。
「確かに、少しおかしな話ですね。」
部長は少し考え込んで、話を続けた。
「では、瑞田さんは町田さんが三村さんを襲ったとお考えですか?」
「いえ。三村に会う直前まで町田といましたが、タクシーで彼女を見送ってから三村と連絡をとりました。」
「彼女が、途中で戻った可能性は?」
「それは・・・・・・町田が、三村の家を知っていたなら可能かもしれません・・・。」
「部長は、私の言葉を信じてくださるのですか?」
「私はあなたの今までを見てきましたが、こんな時に嘘をつく方だとは思っていませんよ。その話が真実かはわかりませんが、それは今から調べればいい話です。」
優しく、ニッコリと私に笑ってみせる部長が頼もしかった。
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