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第4章
新しい住居
しおりを挟む辺境の町は思っていたより賑やかで、温かい人が多かった。ラムさんの家族も、笑顔で私を迎えてくれた。どうやら先に、私が来ると手紙を出してくれていたようだ。
辺境に着いたのは夕暮れ前。その日はラムさんの家にお邪魔になって、翌日に小屋へ案内してもらうことになった。
「シュリーさん、これとっても美味しいです!」
「ありがとう。口にあってよかったわ。」
「坊主は本当に美味そうに食べるよな!」
久しぶりにこんな人数で食事をした。現代にいた頃から考えても、2人以上で食べるのはいつぶりだろうか。なんだか、現世にいる家族を思い出してしまう。
そういえば、現代での私の扱いはどうなっているのだろう。死んだことになっているのかな?それとも行方不明?まぁ戻る気がない時点で、家族に申し訳ないことをしてるのに変わりはない。
パンをシチューにつけながら食べる。少し硬めのパンなので、そうしないと顎が疲れてきてしまう。
日本でもジェイドが作るものにしても、柔らかいパンが多かった。本場フランスで作られたハードパンくらいには硬い。そのままでも食べれるけど、慣れてない者には少ししんどいものがある。シチューは抜群に美味しいんだけどね。
食べ終わると食器を片付けて、体を拭くようにお湯を作った。宿泊料金の代わりに家事を申し出たのだが、ラムさんのパートナーであるシュリーさんはそれくらいしかさせてくれなかった。長旅で疲れてるんだから、まずは休まなきゃダメよ!と。本当に、どこまでいい人たちなんだ。
ラムさんの息子、カイ君だってとても優しい子だった。すぐに懐いてくれて、シュリーさんがご飯を作っている間に家を案内してくれたりした。
「ねぇ、アリー!明日は僕も一緒に小屋へ行くからね!案内してあげる!」
「うん、ありがとう。」
私はアリーと名乗っている。ラムさんに出会った時、アカリだとすぐに居場所がバレてしまうかもと気づいた時には"ア"の発音をしていた。だからアリーと言って誤魔化したのだ。
「明日もたくさん動くだろうからな。今日は早めに休んで、明日に備えておけよ。」
「はい。」
「カイ、お前もだぞ。」
「はぁい。」
客室らしい部屋を1日借りることになった私は、部屋で体を拭いた。もう女だとバレてもいいかもしれないが、いい人を騙していた罪悪感もあって言い出せずにいる。
お湯は外に流して、桶はドア付近に立てかけておく。室内に入ると、ラムさんはシュリーさんと晩酌をしていた。邪魔したくなくて、そぉっと部屋に戻る。
ジェイドは元気にしてるかな。心配はかけてるだろうけど、ご飯はちゃんと食べていてくれるといい。ここに来てからの習慣、ご飯後のティータイムは1人でも続けようかな。ジェイドもそうしてると考えたら、少しは近くにいれる気がするし。
部屋の窓を開けて夜空を見た。日本では見られないような満天の星空は今日も綺麗だ。
自分から離れたのに、隣にいない人を思って寂しくなった。
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