深海

都築稔

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サッカーボール②

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私がサッカー部に入る原因となった男の子。

こんな入り出しをすると彼のことを好きだったと勘違いされるかもしれないけどそうじゃない。

小学6年生の頃、私と彼は学級委員長だった。先生から頼まれてしたことだった。私は事前に知らされていたけど、彼は知らされずに、ほとんど無理矢理させられることになった。

『虐めをなくしたい』それを願った私と先生が彼を学級委員にした。結局、その野望が完璧に果たされることはなかったけど。秘密裏に、ことを大きくしたくないとも願った私のせいで改革と呼べるようなことはできなかったから仕方ない。

話を戻すと、私と彼が学級委員をしていた頃。ある授業参観で、落語の発表会があった。そこで学級委員は司会を務めることになっていた。

彼は司会を面倒くさがった。私はちょっとした負い目を感じていたこともあり、彼より台詞量が多かった。

そして迎えた参観日当日。私は参観日に参加することができなかった。熱を出したのだ。

小学生の頃、私はよく熱を出した。

結局、彼は1人で司会をすることになった。

「ごめんね。」

「何が?」

「結局、司会全部任せちゃった。」

「体調が悪かったんだから仕方ないよ。」

彼が優しくて、余計に申し訳なくなった。

「代わりに何かできることない?」

「いいよ、気にしなくて。」

「気にするよ。」

当時の私は、負ける・借りを作る・弱みを見せることが嫌いだった。申し訳なさが大きくなっていたこともある。

「わかった。じゃあ、人数が足りなくてミニゲームもできなくて困ってるんだ。」

「ミニゲーム?」

「そう、サッカーの。いつも3~4人しか集まらなくて。試合できる人数がいないんだよね。」

その頃の私はサッカーがあまり好きじゃなかったから、自分の言葉に後悔したが反故にするわけにもいかない。彼の要求通り、友だち数人を連れて放課後のサッカーに参加した。

「本当にきてくれたんだ。」

来ない選択肢があったなら来なかったし、罪悪感がなければ頼みを聞いてもいない。

でもミニゲームが始まると、過去に授業でした時よりも自分の動きが良くなっていて、楽しむことができた。一緒にプレイした男の子たちも上手いと喜んでくれて調子に乗った。

その日から、放課後にサッカーを一緒にするようになった。女の子の友だちがいなくても通った。男の子たちもやる気があると色々と教えてくれるようになった。

どんどんサッカーが好きになり、中学の部活はサッカー部にと自然に考えるようになった。

借り入部で違う部活を体験にしに行った時、彼は「サッカー部に一緒に入るのかと思っていた」と言ってくれた。女がサッカー部にいないことはわかっている。だから違う部に行くことを考えていたのに、彼のその言葉で、「私でも行っていいんだ」と嬉しくなり、少なくとも彼は歓迎してくれると思ってサッカー部に入った。

実際、サッカー部に入ったら放課後にサッカーをお教えてくれた男の子は喜んでくれた。

入った時は、これでよかったと、楽しい未来が待っていると本気で思っていた。

転機は、先輩の引退試合だった。
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