漆黒の騎士と紅蓮の皇帝

太白

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皇帝サイドⅤ

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「ねぇ、〼〼〼、貴方は心が優しいから、人より傷つきやすいかもしれないわ。でもね、〼〼〼。そんな貴方だからこそ、人の痛みがよく分かるというものよ。貴方は変わらないでいて、どうか変わらないで。もとより人は簡単に変わらないけれど。月日や季節は変わっても、人は変わらない」
「お母さん、僕、これからどうしたらいいのかな? 僕はお母さんみたいに賢くないし、お父さんのように強くもないよ」
「そんなこと言わないの、〼〼〼。でも、そうね……これから、もし貴方の側に悲しんで、涙を流しているような人がいれば、そっと手を差し伸べてあげなさい。〼〼〼、貴方ならきっとできるはず」
「そんなすごいこと、僕にできるかな」
「大丈夫よ。〼〼〼。貴方ならきっとできるわ。そう、貴方ならきっと。この世の中には貴方を必要としている人がきっといる。だから……そんな悲しい顔をしないで、〼〼〼、お母さん、天国で貴方のことを見守っているから。あぁ……ごめんね、お母さん、〼〼〼の顔がもうよく見えないわ。ごめんね、〼〼〼、これは貴方が望むような未来ではなかった。でも縁と縁とが導くでしょう。また逢えるわ。〼〼〼、〼〼、〼、……」

「お母さん……今までありがとう。僕、頑張るよ。僕はバカだから、まだよくわからないけど、それでも、僕は……だから待っていてね。お母さん」


 我は皇帝。紅蓮の皇帝。皇帝たるもの一時の感情に流されるようでは務まらぬ。我のことはなんと言おうが構わん。阿呆だの、馬鹿だのとも。そんなこと勝手に言わせておけばよい。だが、我が候補生の愚弄は許さぬ。断じて許さぬ。我の心に燃え盛るは紅蓮の炎。せっかくの夜会を台無しにした者を処してもよいのだが……我は殺生は好まぬ。

「候補生、我に着いてこい」
「え、どこへ行かれるのですか、陛下」
「いいから、我に着いてこい、我の書斎へ行くぞ」

 そう言って、我と候補生は我の書斎へと向かう。いつになく、早足で。我に颯爽と着いてくる候補生。我の後ろを着いてくるので、度々目をやると、歩き方も先程よりは様になっているではないか。だがしかし、我の目は欺けぬ。少女の瞳は濡れている。

 書斎に辿り着く。本来なら騎士候補生なんぞを書斎に連れ込むなどもってのほかだ。

「陛下、御乱心ですか。どうなされたというのです」等と、ヨーデルに言われそうだな。だがそんなことを考えている場合ではない。

「陛下、申し訳ございません……陛下の御御足を引っ張るようなことは、したくはなかったのですが。ですが、あそこまで言われると……」
「うむ。其方はよく頑張った。さすが我が騎士候補生だな。我としても鼻が高いぞ」

 そう言って、我は少女の身体を抱き締める。少女は一瞬戸惑ったものの、すぐに我の胸で声を上げて泣き出した。
 ぽんぽん、とゆっくりとしたテンポで背中を叩く。
 可哀想に……其方は少しも悪くはない。実に立派に候補生としての務めを果たした。そんなことを考えながら、我は少女の頭を撫でてやる。やはり大きくなったな。これが育ち盛りというものか。

 それからどれほどの時間が経っただろう。候補生はひとしきり泣いた後、我に返り、パッと我から身体を離した。

「も、申し訳ございません、陛下! 私としたことが、どう償えば……」
「構わん。其方はよく耐えた。あそこで泣き出されたら、さすがの我でも収まりがつかなかったからな」

「其方は葉巻は吸うか。なんなら分けてやるぞ?」
「はっ、ありがたいお言葉ですが、陛下、私はこれでも候補生の端くれですから……」
「うむ。そうであったな、すまない。このような類いの嗜好品は、「百害あって一利なし」だからな。やらないのであればやらない方がよい。我も無理には勧めんよ。では紅茶などはどうだ? 珈琲もあるが、今の時間に飲むと我、眠れなくなるからな」

 先ほどまで大粒の涙が流れていた瞳が、パッと変わる。此奴、笑顔が可愛らしいな。

「陛下も、可愛らしいところがあるのですね」
「まあな。我も皇帝であるが、ひとりの人間であることに変わりはない。怒ることもあれば泣くこともある」
「陛下も泣くのですか」
「貴様、我を今までどういう人間だと思っていたのだ。我にも喜怒哀楽の感情ぐらいは、備わっておる。ただ普段はあまりそういったものを見せぬだけだ」

 お互いソファーに腰かけ、入れたての紅茶を啜る。
 うむ、今夜の紅茶は美味しいな。砂糖の加減も丁度良い。
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